森へ
「馬に乗れない!?」
「う、うん。相乗りでなんとかレベル」
見習い兵の服に着替えた私たちは城の出口に向かいながら大声で話していた。
「全く、しょうがないなぁ!!じゃあ正門の前で待ってて!!馬車借りてくる!!」
「あ、コール!!」
コールは私とネイカから離れて行ってしまった。
私たちは言われた通り正門までたどり着くとそこでコールを待った。
「はぁ、はぁ。もう…ほんと走りっぱなしで足痛い…」
「私が寝てる間に何してたのよ、ミリ」
「うぅ、結構色々大変だったんだから」
私は今の状況をかいつまんで話した。
その途中でふとネイカの杖が目に入る。
「そ、そうだ!!馬じゃなくてもウツボ…いや、エアラで森までひとっ飛び出来るんじゃない!?」
ネイカは心底嫌そうな顔になった。
「そんなことしてみなさいよ。魔物認定されてエアラごと私たちが衛兵に総攻撃されて殺されるわよ」
「う…そ、そうかなぁ…」
「ミリは世間の認識が甘すぎるのよ。あのイザベラ姫だって綺麗事言ってたけど結局は…」
話していると後ろから地響きが近づいて来た。
驚いて振り返ると猛烈な勢いで馬車が到着した。
「お待たせぇえ!!行くわよ!!」
「こ、コール!?」
コールは御者台に勇ましく立ちながら二匹の馬の手綱を引いた。
「早く中に乗って!!」
「は、は、はい!!」
私たちはコールの剣幕に押されて当てて馬車の中へ入った。
「しっかり掴まっててよ!?飛ばすわよ!!」
コールは容赦なく馬に鞭を振るうと全速力で走らせた。
馬車の中の揺れは尋常じゃない。
「はわわわわわ!!いった!!いたあ!!」
「な、なんて無茶なのあの人!!」
私とネイカは座席にうつ伏せるとただひたすら体にかかる負担に耐えた。
距離はそう遠くない。
が、路面がなくなり草はらに入っても馬車の勢いは衰えなかった。
コールは一心不乱に森の入り口を目指して馬を走らせた。
「エスブル様…!!」
近衛兵が見えてくるとコールはやっと馬足を緩めた。
ある程度近づくと御者台から飛び降りる。
「ミリ!!ネイカちゃん!!着いたわよ!!」
馬車の入り口を開けるとそこにはボロボロになった私たちが転がっていた。
「大丈夫?」
「だ、だいじょぶく、ない…」
「しっかり。ほら!」
うぇ…。
は、吐きそう。
それにしても本当タフだなこのイザベラ姫。
私はひぃひぃ言いながら馬車を降りた。
「お、オルフェ、王子は?」
「いないわ。エスブル様も!!」
私はやっと顔を上げると辺りを見まわした。
「え…と、あの泉の真ん中にあるのが教会、だよね?あそこじゃないの?」
「うん…そうなんだけど様子が変なの。あそこに誰もいないわ」
「じゃあ王子たちはどこへ行ったの??」
「分からないわ」
言い合っているとネイカが泉の前でトンと杖を立てた。
「ネイカ?」
「し…。静かにして」
ネイカの周りでゆらりと空気が揺れる。
すると泉からシャボン玉ほどの水の玉が飛び出してきた。
それはゆらゆら揺れながらネイカの手に乗った。
コールは驚きに目を見張ったが余計なことは言わずに黙っていた。
「…この水が王子を見ているわ」
ネイカが言うと、応えるように水晶のようなその水にぼんやりと人が映った。
「あ…オルフェ王子!!レイも!!」
そこに映った王子はエスブル王と共に数十人の近衛兵、五人の貴族騎士、それからレイと結界師を連れて森の中へと消えて行った。
「森に入ったんだ。でもどうして…」
「分からないけど、それにしてもエスブル様自ら森に入るなんて…!!」
コールは腰に下げた剣を握った。
「…私、行くわ。何だか嫌な予感がするのよ」
「で、でも魔物だらけの森だよ!?」
「エスブル様たちの跡を追えば殆どの魔物は駆除されてるはずだから平気よ」
私はざわざわと音を立てる森を見上げた。
コールは腕が立つし、ネイカはいざとなればウツボがある。
うん、問題は私だな。
でもさっさと王子と合流すれば何とかなるかな。
レイもいるし。
「分かった。私も行く」
「ミリ…無理しなくていいのよ」
「コール一人で森になんて行かせられないよ」
「でも…」
ネイカは水のボールを地面に落とすと口元を押さえた。
「…ネイカ?」
「うん、何だろう…。ここの水凄く嫌な感じがする」
ネイカは森の先を見つめた。
「あっちからも同じものを感じるわ」
「ネイカはここで待ってる?」
「冗談言わないでよ。行くわ」
私たちは頷き合うと王子たちが消えた森の入り口へと足を踏み入れた。