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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
魔物と黒魔女
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コールの話

町は響き渡る緊急警報に浮き足立っていた。

さっきまであんなに空を飾っていた気球や飛行船は次々と姿を消し、代わりに闇をまとった不吉な鳥が空を舞う。

店は次々と閉まり、通りは慌てふためく人で溢れかえった。


「空を見ろ!!黒いフキナガ鳥は魔物の群れの先導者だ!!」

「魔物が町に来るぞ!!」


人々の叫びが混乱をさらに煽る。

町の警備兵が声を上げて誘導するも走り出した人たちの勢いは止まらなかった。


「このままじゃ危ないわ」


私と町のど真ん中にいたコールは危険を察知すると我慢できずに通りに飛び出し叫んだ。


「落ち着いて!!落ち着いて警備兵の支持に従ってください!!周りに流されるまま走ると危険です!!あっ…!!」

「どけ!!邪魔だ!!」


コールは思い切りぶつかられたが何とか踏ん張り声を上げた。


「落ち着いてください!!混乱を招いては危険です!!」


私は何度も弾かれるコールを見ていられずに自分も通りに突っ込んだ。


「コール!!そんな所で叫んでたら危ないよ!!」

「分かってるけど、このままじゃ怪我人が出るわ!!」

「でも…!!」


言い合っていると、私はコールの肩越しに泣きながらふらふら歩く小さな男の子がいることに気が付いた。

そのすぐ後ろから大袋を抱えた男たちが血相を変えてこっちへ走ってきている。


「あ…危ない!!」


私はコールの横をすり抜け男の子に手を伸ばした。

男の子を抱きしめた瞬間その男たちに巻き込まれ思い切り体当たりを食らう。


「うわっ!!」


私は堪えきれず男の子を抱えたまま地面に転がった。

何人もの足が私に当たり蹴躓き、顔を上げることすら出来ない。


「何やってるのよ!?」


コールが庇うように立ち私の腕を引いた。


「あ…子ども!?」


男の子に気付いたコールは目を丸くして私とその子を交互に見た。

男の子の母親らしき人がすぐに気付いてこっちに飛んで来た。


「すみません!!ちょっと目を離した隙にはぐれてしまって!!」

「い、いえ。踏み潰されなくて良かったです」


母親は何度もお礼を言いながら離れて行った。

私はその親子がいなくなると我慢できずにその場にしゃがみ込んだ。


「い…たたた」


何が痛いって、背中だ背中。

頼むからここだけはそっとしといて欲しい。


「ここは危ないわ。こっちへ」


コールは私を引っ張り起こすと通りから外れた。


「うっ…」

「どこか怪我したの?」

「ううん。ちょっと今背中に軽い火傷を負ってたからそこが痛むというか…」

「火傷!?」


私は力なく笑った。


「結構、イザベラ姫やるのも楽じゃなかったんだから」


コールは何かを感じ取ったのか顔色を変えた。


「もしかして誰かにされたの?あ、さっきの何とか姫が確かそんなこと言ってなかった!?」

「うん、まぁね。ごめん、ここまでそれなりに頑張ってこの体傷つけないように気をつけてきたつもりなんだけど…」


コールは心底驚くとまじまじと私を見た。


「貴女、本当に私を殺そうとした黒魔女なの?何だかさっきから全然そう見えないんだけど…」

「だから、何か誤解してるってば。私だってどうしてこの姿になったのか全く分からないんだもん」


鏡のように二人揃って首を傾げているとまた周りが一層騒がしくなった。

混乱は酷くなるばかりだ。

コールは私の手を掴んだ。


「やっぱり先に城に戻りましょう!!ここに居ても何もできないわ!!」

「え、でも!!」

「話は走りながらちゃんと聞くから!!」

「そんな無茶な!!」

「文句言わない!!ほら、話しながら走って!!」

「えぇ!?」


コールは本当に城に向けて走り出した。

その足の速いことといったらない。

私は引きずられながら今までのことをかなりざっくり話す羽目になった。


城に向かうにはいくつもの階段を登ることになる。

私を引っ張りながら走っていたコールは流石に息が苦しくなると足を止めた。

二人揃ってぜぃぜぃと大きく喘ぎながら座り込む。


「は、はぁ、はぁ。じゃあ、貴女は本物の黒魔女だけど、誰かに仕組まれて私になってしまったってことなの?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁ。そ、そうだとおもうぅ…」


私は肩で息をしながら流れる汗を拭った。


「ぎ、逆に、どうしてコールは、私が…黒魔女が、貴女を殺そうとしているなんて発想に、な、なったのか、知りたい、ですけど!?」


コールは一度乱れた髪をさらりと解くとまたきっちり結び直した。

黒髪のイザベラを見慣れすぎていて、柔らかな栗色の髪が流れるイザベラの姿は逆に新鮮に見える。


「…名前」

「え?」

「名前、なんて言ったっけ」

「あ、ミリだけど…」

「ミリ…」


コールは私の前にしゃがみ込んだ。


「もう半年くらい前になるのかな。私、オルフェ王子の側室としてスアリザにちゃんと行ったのよ」

「…」

「でも王宮に入る手前で神官の姿をした者達に呼び止められたの」

「神官?」

「そう。何でもスアリザの王宮に入る前には必要な儀があるからまずは教会に足を運ぶように、とか何とか言われちゃってさ」


やっと息がちゃんと出来るようになってきた私は話を聞きながら眉を寄せた。


「なんか、凄く胡散臭い気がするけど…」

「やっぱり?でもほら、パッセロとスアリザって遠いじゃない?だからこっちではそういう仕来りがあるのかなぁって…」


コールはその時のことを思い出すと暗い顔になった。


「相手の身なりも凄く立派だったしね。長旅を無事終えたばかりでほっとしていただけに油断したのかな」

「で、その怪しげな神官について行っちゃったの?」

「そう。パッセロから一緒に来てくれた護衛も、侍女も丸ごとね」


コールは瞳に仄かな怒りをにじませた。


「正直今でも何が起こったのか分からないけど、教会に入った瞬間私たちは誰かに襲いかかられたわ」

「襲われた…?」

「いきなり護衛が斬り殺されたの」


私は息を飲んだ。


「私も急に後ろから押さえ込まれたんだけど、その時どこからか男の声が叫んだのよ。黒魔女の儀式に必要なのはイザベラ姫の血だ!!ってね」

「…」


コールは悔しそうにバンドをしている右手首をさすった。


「私、その場で手首を切られたわ」


私は聞きながら血の気が引いた。


「…ど、どうやって逃げたの?」

「用済みになった私たちはまとめて教会の一室に押し込められたわ。たぶん夜を待って何処かで処分するつもりだったんじゃないかしら」

「…」

「でも護衛の中で一人だけまだ息がある人がいて…。その人は私に僅かに意識がある事に気付くとそこから命がけで連れ出してくれたのよ」


あまりにも壮絶な話に私は言葉もなかった。

コールは力を抜くと少しだけ笑みを浮かべた。


「その時死にかけていた私をたまたま拾って助けてくれたのが、偶然スアリザに来ていたハルク…エスブル王の甥なんだけど、その人だったの」

「護衛の人は…?」

「残念ながら、私を託した後にすぐ亡くなったそうよ」


コールは沈痛な瞳を一度閉じると、気合を入れ直してから開いた。

体をほぐし、城を指差す。


「さぁ、行きましょう」

「コール…」


私はコールに合わせて早足で歩いた。


「じゃあ、コールはそのハルクって人に連れられてこのミントリオに?」

「そうよ。今でこそここまではっきり思い出せたけど、拾われて二ヶ月は記憶も曖昧だしうなされるし血が足りなくて体は動かないしで散々だったんだから」


まだ半年。

時折見せる悲しい顔が心の傷が癒えきっていないことの証だろう。

それでも前を向こうとするコールからは芯の強さが伺えた。


「三ヶ月目だったかな。私の記憶がはっきりしてくるとエスブル様は事の真相を探るために一度スアリザに調査を出してくれたのよ」

「調査…」

「そしたらびっくり。イザベラ姫は行方不明で騒がれるどころか、無事オルフェ王子の一番の側室になってるっていうじゃない。しかもその姫は怪しげな黒魔術を使う黒姫とかいう噂でもちきりだし」


私は天を仰ぎたくなった。

なるほど。

これは確かに私がイザベラ姫を殺してその地位を乗っ取ったようにしか見えない。

コールは階段を上りながらちらりと隣の私を見た。


「エスブル様は、私が回復したらすぐにでもスアリザに乗り込むと言ってくれたわ。…でも」

「でも…?」

「私は…スアリザには帰りたくなくて、エスブル様を止めたの」

「へ?」

「だって、私…」


コールは真っ赤になると俯いた。

私はさっきの出来事を思い出しピンときた。


「もしかして、ミントリオ王と…」

「きゃーー!!」


コールはばしばしと私の腕を叩いた。


「も、もう!!さっきは勢いで花嫁とか言っちゃったけど、まだ正式に決まってないから!!」

「い、痛い!!痛いっす!!」

「あ、ごめん!!」


コールは慌てて手を引っ込め、こほんと咳払いした。


「ま、まぁ、とにかく。そんなこんなでどうしようかと話し合っているうちにスアリザのオルフェ王子が側室を連れて北上してるって情報が入ったから、エスブル様は待つことにしたってわけよ」


私はやっとミントリオで感じ続けていた不可解な視線の意味を理解した。

同時に何だかがっくりと疲れに襲われた。


「…コール」

「なに?」

「この誤解、貴女から皆に解いてくれない?もう追いかけられるのはこりごりで」

「でもまだミリの話を鵜呑みには出来ないわ」

「私って、そんな危険人物に見える?大体ね、貴女にこんな事いうのはあれだけど私王族とか貴族とかって基本あんまり好きじゃなくて、出来る事なら一生関わりたくないくらいよ」


コールは目を丸くした。


「そうなの?」

「うん」

「え、だって…」


立ち止まっていると階段の先から悲鳴が聞こえてきた。

それも一人二人じゃない。

コールは顔つきを変えるとすぐに反応した。


「行くわよ!!」

「え!?あ、は、はい!?」


私は走り出したコールの後を慌てて追いかけた。

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