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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
魔物と黒魔女
116/277

緊急事態

町を片っ端から調べていたミントリオ王、エスブルは突然鳴り響いた緊急警報に顔をしかめた。


「なんだ?」


不穏な音は祭りに浮かれていた人々に不安を与え、衛兵たちは緊張に身を硬くした。

エスブルはすぐにコール捜索を一時中断すると城へ戻った。


「エスブル様!!」

「エスブル様、戻られましたか!!」


王を目にした役人たちは血相を変えてすぐに飛んできた。

口々に喚く臣下たちに、エスブルは早足で歩きながら叫んだ。


「落ち着け!!一人ずつ報告しろ!!一体何があった!?」

「グルドラ教会の結界が何者かに破壊されました!!」

「何!?」

「セドの森からは魔物が入り込み飛行船も既に一隻襲われております!!」

「飛行船が…!?」


ミントリオの首都デクールから北部には大きく広がった森と山脈がある。

大陸の北部を分断するこの山脈はとにかく魔物が多い。

ミントリオは先に魔物避けの結界を張るための教会が作られ、そしてその教会に守られる形で城が建ち、町が広がっている。

その後も結界の強化には常に力を入れ、特に空の安全は絶対確保出来るように進化させてきたはずだった。

エスブルはすぐに鋭い目付きになると別の臣下に向き直った。


「北の大鷲団はどうした!?」

「既に森に入り教会と森を結んでいた結界の調査と修復作業に取りかかっています!」

「近衛兵の半数を教会に向かわせろ!!ここで食い止めなければ魔物が町に雪崩れ込むのを阻止できないぞ!!」

「はっ!!」


ミントリオ王はその他にも矢継ぎ早に指示を飛ばした。


「こんなことは今までなかったはずだ。いったい何故…」

「エスブル様!!」

「ハルク!!戻ったか!!」


ハルクは息を切らせながら走ってきた。


「エスブル様、突然の事態に町が混乱しております!!祭りで人が集まりすぎていてこのままでは警備兵だけでパニックを抑えきれません!!

今すぐにでも近衛兵を町へ向かわせてください!!」

「いや、ヘルドラ公爵家とスウァダ公爵家に私兵を集めさせろ。それから地方の領主にもだ!!」

「ですがどれほど急がせても時間がかかります!!」


ミントリオ王は低く唸った。

結界を立て直すことが最優先なのは明白だが、町が混乱に落ちるのもかなり危険だ。

目まぐるしく頭を回転させていると、意外な者が現れた。


「正式な要請があるならば我々も力をお貸ししよう」

「オルフェ王子!?」

「オルフェ王子!!」


そこにいたのは最上階に閉じ込めておいたはずのオルフェ王子と、探し続けていた藍色の髪をした少年従者だった。

ハルクはレイを目にすると腰の剣を引き抜いた。


「貴様がコールを連れ去った犯人だな!?コールをどこへやった!?」


レイは微塵も怯むことなくいきり立つハルクを見上げた。


「町の適当な宿に放り込んだ」

「何!?」

「大人しくオルフェ様を解放すればすぐに返すつもりだったからな」


コールを攫った後もレイはオルフェ王子を探し続けていた。

めぼしい場所は警備が厳しく立ち入れなったが、緊急事態に陥り隙が出来た瞬間すぐに侵入し王子の元まで辿り着いたのだ。

エスブル王は今にも斬りかかりそうなハルクを抑え、レイを鋭く睨んだ。


「コールは、無事なんだな?」

「大人しくそこにいればな。それよりも今は別のことが問題だろう?」

「…」


エスブルは忌々しげに舌打ちをしたが、オルフェ王子はレイを諌めると後ろへ下げた。


「うちの者がすまない。これはどうも手段を選ばないところがある」

「オルフェ王子!!躾がなってないぞ!!」

「仕方がない。この者は俺の支配下にないからな」


レイは物言いたげにしたが王子はそれを制し話を戻した。


「それよりもミントリオ王、結界が失われたと伺った。我がスアリザもミントリオと同じく魔物の地を開拓し建国された経緯ゆえ、騎士団も魔物に対応した訓練を受けている。それなりに力になれると思うが」


ミントリオ王はすぐに頭を切り変えてきた。


「せっかくの申し出だが、他所の国に介入させるほど切羽詰まった問題でもない。ここは静観いただこう」

「今ミントリオには側室の姫君とその従者も多数おります。私には皆を守る義務があり、セスハ騎士団はその意の元連れてきている」

「…。国は関係なく貴方個人の責で采配を振るとでも?」

「初めから世話になる恩は私個人で返すと伝えていたつもりですが」

「しかし…」

「ここまで森一つ越える時くらいしか活躍の場がなくて騎士団員もたるんでいたところだ。出陣を命じても不満を唱えるどころか喜び勇んで彼らは従うでしょう」


ハルクはまだ収めた剣の柄に手を添えながらエスブル王を伺った。

後先考えずに易々と差し伸ばされた手を取る王など論外だ。

だが状況より見栄を選び、国民の窮地を救えない王はもっと必要ない。

判断の難しいところだが、彼の最も信頼するこの一癖も二癖もあるミントリオ王は不敵な笑みを浮かべた。


「オルフェ王子」

「はい」

「貴方とはまだまだ腹を割って飲み明かさなければならない事があるようだ」

「…」

「町が落ち着けば延長して俺に付き合ってもらうぞ。勿論美女も沢山つける」


オルフェ王子は苦笑した。


「あまりのんびりしている暇はないのですが」

「なに、今から迅速に魔物を片付ければ問題はない。友として、手伝ってくれるのだろう?」


エスブル王の豪胆な要請にオルフェ王子は快く頷いた。

レイとハルクはそれを見届けると剣の柄からそれぞれ手を離した。


それから二人は簡単な話し合いを済ませるとすぐに動き始めた。

オルフェ王子は五人の貴族騎士とセスハ騎士団長、それから結界師をまとめるグランド公爵を呼び寄せミントリオに協力することを宣言した。


表面上反対する者はおらず、城に集められたセスハ騎士団は町を守るために一斉に動き始めた。




ーーーーーーーーー




ネイカはいつ目を覚ましてもミリがいないことを不審に思っていた。

だいぶ楽になった体を起こし、いつもの医者が部屋を訪れると率直に聞いた。


「ねぇ、イザベラ姫は今どこにいるの?」


医者は困った顔になった。


「私には分かりかねます。恐らく町に出て祭りを楽しんでいらっしゃると思うのですが」

「そっか。今日はもう祭りの日なんだ」


あのミリがウキウキ祭りに参加したがるとは思えない。

仮に何らかの都合で強制的に参加させられていたとしても隙を見てさっさと戻ってきそうなものだ。


「先生、私はまだ治療が必要な体ですか?」

「山場はとうにこえているが」

「外に出ても大丈夫ですか?」

「いやいや、いくら祭りに参加したくとも無茶をしちゃいかん」

「でも…」

「それに今町は祭りどころじゃなさそうだしな。大人しく寝ていなさい」

「祭りどころじゃない?どうして?」

「分からんが、さっきから緊急警報がずっと鳴りっぱなしで城の中もざわついてる」

「え…」


姿の見えないミリ。

何か起きているらしい外。

ネイカは何だか嫌な予感に落ち着かなくなった。


「変なことに首を突っ込んでなければいいけど…」


たっぷり寝続けていたおかげで横になっても眠れない。

ネイカは一人になると我慢できずにベッドをそっと抜け出した。

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