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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
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逃げ出したのに

城からコールを連れ去ったレイは、適当な宿の一室に閉じ込めると自身はすぐにどこかへ行った。

残されたコールは後ろ手に縛り上げられたまま翌日まで放置されていた。


「う…くく。んもう!!取れない!!容赦の欠片もない縛り方して!!」


一晩中奮闘し、柱の角で地道に削り続けた縄はもうすぐ切れそうだ。


「このっ…」


コールは腕が傷つくのも構わずに力を振り絞った。

とうとう縄が根負けしたのは、もう昼過ぎになった頃だった。

ぶつりと音がした途端両手が自由になる。


「や、やったぁ!!やっと切れた!!」


コールはすぐにドアのぶに飛びついたが勿論がっちり鍵はかかっている。


「もう、あの少年!!今度会ったら許さないんだから!!」


せっかく両手が自由になったのに諦めるわけにはいかない。

コールは窓を勢いよく開いた。


「よしっ。国一番のおてんば姫と言われた私を甘く見るんじゃないわよ」


流れ込んできた風につられて目に映ったのは青空の中に沢山浮かぶ気球や飛行船。

町を見下ろせば色とりどりの飾りも見えた。


「うわぁ、そっか今日は祭りだ。いいなぁ。こんな事態じゃなければエスブル様とゆっくりあちこち見て回るのに。…よっと」


コールは窓の外に出ると壁伝いに屋根を移動した。


「ドレスじゃないのが幸いだわ」


一段低い建物の屋根に移るとあとは枝の伸びた木につかまり降りる。


「よいしょ、と。よし。急いでお城に戻らないときっと心配かけてるわよね」


顔を上げると奇異な目で人々が自分を見ていることに気づく。

コールは窓ガラスに映った姿を見て、あちゃあと服をつまんだ。


「そういえば試合中に攫われたんだった」


町中で勇ましい男服に長い髪でいると何だかかなりちぐはぐだ。

コールは髪を束ね直すとフードを被った。


「ま、これでいいか。早く帰ろう。まずはここがどこなのかを知らないとね」


はしゃぐ子どもたちの群れをやり過ごしてから、見つけやすい時計塔を探す。


「えと、高台の方だから…。こっちね」


歩きながら、そういえばこうして一人で出歩くのはもう何年も無かったことに気付く。

昔はよく大人の目をかいくぐって町の子どもたちと広場で鬼ごっこをしたり木登りをして遊んだものだ。

コールは何だかうきうきしてきた。


「はぁ…久々の自由って感じだな。エスブル様もなんだかんだで過保護なんだもん」


足を止めることはなかったが、コールは店を覗き込んだり行き交う人々を見て楽しんだ。


「っとと、だめだめ急がないと。あれ?こっちは裏道に入っちゃうのか。この階段登れば高台の方に出るのかな?」


急に人通りが少なくなったが、コールは構わず階段を登った。

すると下から二人の男がコールを追い抜き目の前で止まった。


「…あの?」


コールが首を傾げていると男の一人が低く言った。


「イザベラ姫だな」


コールは一瞬で硬直した。

それから反射的に剣を抜こうと腰に手をやったがその手は空を掴んだ。


「あ!?し、少年んん!!」


武器など勿論レイに没収されている。

コールは慌てて逃げ出そうとしたがその手を男の一人が掴んだ。


「な、何よあんたたち!!離してよ!!」

「静かに。騒ぐと痛い目にあいますよ」

「あんたたち誰よ!?私に何の用!?」

「旦那様が貴女に用があると言うのでね」

「どこのダンナ!?」

「貴女が昨日大恥をかかせた旦那様です」


コールは記憶を辿ったが全く分からない。

大声で騒ぎながらそんなこと知らないと抵抗したが、男に強制的に黙らされるとそのまま連れていかれてしまった。




ーーーーーーーー




その頃。

ハルクが予想した通り、私はまんまと髪を切り落としワンピースを脱いでいた。

いや、だってこのままじゃやっぱりまずいと思うじゃないか。

カラフルなワンピースの下には、薄手の黒シャツとズボンを履いていたからとりあえず服装にも問題はない。

ただ、これじゃ胸の膨らみだけはどうしても分かる。


「昨日みたいなベストか羽織りものがあればいいんだけど」


路地裏から顔を出すとまだばたばたと私を探して走る人が見えた。

私は空を見上げた。

サクラはこの近くにいるはずだ。

今すぐにでも指笛で呼びたいところだが、さすがにそれは目立ちすぎる。


「一体どこに降りたんだろ…」


レイは私を探しに町まで来てくれているのだろうか。

でも王子が軟禁されているのなら城にいる気もするし…。

しばらくしてからもう一度流れる人を観察する。

今度は私を探してそうな人はいない。


「あ、あれは…」


私はセスハ騎士団の服を見つけるとその中の見覚えのある一人に近付いた。


「あ、あの…」

「あれ!?フィズ!!」


それはベッツィと仲良くなったという青年の一人だった。

青年は驚きながら言った。


「お前、昨日ベッツィと夜戻らなかっただろ!?どこ行ってたんだよ!?なんか城からお前ら探しに宿に誰か来てたぞ!?」

「ごめん、ちょっとわけあって隠れてた」

「ビオルダさんも随分心配してたんだぞ」


ビオルダさん、昨日お城に放ってきちゃったもんな。

すみません。

私は青年だけを引っ張ってくると手を合わせた。


「ごめん、その中に着てるベスト貸してくれないかな!?」

「へ?」


青年は薄着の私に気付くと不思議そうな顔になった。


「別にいいけどさ。何でそんな寒そうな格好を…」


言いながら青年は私の胸の膨らみに気付いた。


「あ、あれ?」

「あ…」


私はしーっと人差し指を唇に当てた。


「な、な、何で!?フィズ、いつから女になったんだ!?」

「ちょっとわけがあって」


青年は脱いだベストを渡しながら眉を寄せた。


「…だからベッツィは昨日お前を離さなかったのか?なんだ、お前らできてんのかよ」

「違う違う。ベッツィも知ったのはほんのちょっと前だから」

「いや、それにしてもびっくりした」


私は借りたベストを体に合うように調節して着た。


「悪いけど、このことは黙っててくれる?騒がれたくなくて」

「おぅ。そりゃそうだよな」

「ありがとう。えーと…」

「ラン・クアンダだよ。そろそろ顔と名前覚えてくれたら嬉しいぞ」

「分かった。ありがと、ラン」

「何だかよく分からんけど、どういたしまして」


ランは明るい笑顔で返してきた。

あっけらかんとしているし、あまり物事は深く考えないタイプのようだ。

私はランが巻き込まれないようにすぐに別れて通りに戻った。


「ベッツィ…大丈夫だったのかな」


どこから手が伸びてくるのかと思うと人が多い方が怖い。

私は自然と人の少ない方へとこそこそ向かった。


「こっちは下りの階段だけか。お城に行くなら反対に行くべき?だよね?」


まずい。

また迷子か?

どこから向かえばいいのか分からずにウロウロしていると、階段下で何やら騒がしい声が聞こえた。


「離しなさいよ!!だから、あんたたちのことなんて知らないって言ってるでしょ!?」

「いい加減に黙らないか!!」

「嫌よ!!」

「この…一発ぶち込め!!」

「なっ…」


私は振り返ると、男が誰かのお腹に拳を入れる瞬間を目撃してしまった。

騒いでいた人がうめき声をあげて崩れ落ちる。

その拍子にかぶっていたフードがはずれ、中から栗色の髪が流れ落ちた。


「あ…!!」


私はその顔を見て大きな声を上げた。

男たちは私に気付くと慌ててうずくまる人を抱えて逃げ出した。


「あ、ま、待って!!」


あの栗色の髪と聞き覚えのある声。

そして一瞬見えた、そのすっかり見慣れた顔は間違いない!!


「イザベラ姫!?」


私は男たちを追って急いで階段を駆け下りた。

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