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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
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人質と人質

まんまと黒魔女に逃げられたコールは激怒していた。

邪魔をしに入ったのが自分より小さな少年だということも腹立たしかった。


「少年、剣を下ろしそこを退きなさい!!」


レイは喚く女がミリそっくりなことに気付くと目を見張った。

これはどういうことかと思ったが、そう考えるまでもなく答えは出た。


「お前が本物か…」


驚きはしたが、それ以上に色々と納得するものもあった。


「ミントリオ王が執拗に黒魔女を探してるのはお前の為か」

「え…」


レイはコールに突きつけていた剣を下ろし鞘に収めた。

コールは丸腰になったレイの横をすかさず通り抜けようとしたが、その視界が急に反転した。


「え…!?」

「動くな」


気がつけば、どうやったのかコールは膝をつかされ完全に背後をレイにとられていた。

しかも首元には鈍く光る短剣が突きつけられている。


「コールさん!?」

「コール!!」


青年たちはまさかの光景に悲鳴を上げた。

コールの強さはよく知っている。

それだけに一瞬でこんな少年にやられるなんて信じられなかった。

レイは容赦なくコールを押さえる手に力を入れると静かに言った。


「この女は俺が預かる。お前らの王に伝えろ。オルフェ王子を解放し、明日俺たちがミントリオを出るまでは手出しをするなとな」

「なっ…」


コールはレイから逃れようともがいた。


「離せ!!私を人質に取るつもり!?」

「先にオルフェ様を連れて行ったのはそっちだ」

「私は黒魔女を逃すわけにはいかないのよ!!」

「知るかっ。それはそっちの都合だろう」


レイはコールを立たせると短剣を首に押し当てたまま後ろへ下がった。


「サクラ」


サクラはレイに応えると青年たちが追ってこられないように間に入り牽制した。

青年たちはどうすることもできずレイとコールが見えなくなるまで固まっていた。


ミントリオ王がこの知らせを受けたのは、夕日も落ちる時間だった。


「コールが…」


顔色を変えた王に、甥であり腹心の部下であるハルクは青い顔で頷いた。

王は普段の余裕を失いハルクに詰め寄った。


「それはどこのどいつだ!?コールは今どこにいる!?」

「落ち着いてくださいエスブル様」


ハルクはミントリオ王を宥めた。


「攫われたのは稽古場のそばです。その場にいた者の話によればコールを叩き伏せて連れて言ったのはほんの少年だったそうです」

「少年!?」

「はい。藍色の髪を結わえた整った顔立ちの少年だと聞きました」


ミントリオ王の脳裏に碧の間に飛び込んできた少年がすぐに浮かんだ。


「あの小僧か…」

「心当たりがあるのですか?」

「ある。オルフェ王子の従者で確かに少年とは思えぬ冴えた腕の持ち主だった。あれも閉じ込めておくべきだったな…」


ミントリオ王は少し落ち着きを取り戻すと長椅子にどさりと腰掛けた。

ハルクは声を潜めた。


「このことはオルフェ王子には…?」

「話す必要はない。王子にはギリギリまであの部屋に居てもらう。まずはコールを取り戻すのが先だ」


ハルクは眉を寄せた。


「黒魔女はどうします?」

「明日の祭りに乗じて徹底的に探し出す。生かしておけばいつコールの身に災いが降りかかるかも分からんからな」

「王よ…」


ハルクはやや呆れて肩をすくめた。


「コールが大切なのは分かりますがどうか冷静に。貴方が派手に動けば危なくなるのはコール自身ですよ?」

「…」

「明日は祭りで元々町は騒がしい。その中に紛れてコールも黒魔女も探しましょう。貴方も町におりますか?」

「当然だ」


ミントリオ王は拳を握るとハルクに背を向けた。

ハルクは王が部屋を出て行くとため息をこぼした。


「…やれやれ、厄介なことだな。あそこまでエスブル様が心乱れるとは、スアリザでコールを拾ったことすら後悔しそうだ」


苦笑気味に一人つぶやくと窓から登り始めた月を見上げた。




ーーーーーーーー




オルフェ王子はどこへ進んでも一定のエリアから出られないことを確認すると足を止めた。

案内された部屋にあからさまに施錠される事はなかったが、廊下の要所要所にはきっちりと衛兵が配備され、通ることを拒否された。

これでは軟禁されているのとそう変わらない。

外を見れば既に星が輝いている。

王子は窓のそばに寄ると全てが影に落ちた景色を眺めた。


コールの存在は王子に少なからず衝撃を与えていた。

まさかこんな形で本物のイザベラ姫に会うとは夢にも思わなかった。

ミリの所在が不明なことも落ち着かない。

レイに任せたとはいえ、自分が軟禁されたと知れば間違いなくレイはミリを捨ててこっちに来ようとするはずだ。


「ミリ…」


オルフェ王子は当事者のくせに何もできない自分に暗い嘲笑を浮かべた。

己の身の不自由さにはいつもの事ながら辟易する。

諦めて部屋に戻ろうとしたが、少し歩いた先で真っ青な顔をしたファッセがうろうろしているのが見えた。


「こんな所で何をしている?」


王子に全く気付いていなかったファッセは飛び上がるほど驚いた。


「お、オルフェ王子…!!」

「見張りがいただろう?どうやってかいくぐって来た」

「それは…」


ファッセは傍目にもだらだらと汗をかきながら拳を握った。

その様子は何だか尋常ではない。


「ファッセ…?」

「あ、あの…その…」


ファッセは今にも倒れそうな顔で王子を見上げた。

何度も言葉にしようとしては口を閉ざす。


「ここで話しにくいことなら部屋へ来るか?」

「い、いえ!!滅相もございません!!」


ファッセは首を横に振ると絞るように言った。


「オルフェ様…」

「ん?」

「…パッセロへ、行ってはなりません」


ファッセはすがるように王子を見上げた。


「俺は…貴方に…」

「…」


これ以上は言葉に出来ないと顔を歪める。

ファッセは何かに深く苦悩していた。


「ファッセ」


名を呼ばれ、はっと顔を上げると王子の落ち着いた瞳と目が合った。


「それ以上はいい」

「王子…」


薄暗い廊下には人気はない。

それでも王子は周りの気配に注意した。


「俺の為に危険を承知で来たのか」

「…いえ」

「誰に何を言われたかは分からないが、そう悩むことはない。貴君は己の思念に従えばいいさ」


ファッセは王子の物言いに感じるものがあった。


「オルフェ様。オルフェ様は、まさか…」

「ファッセ」


王子はファッセの肩に手を置いた。


「もう戻れ」

「…」


ファッセは悔しげに俯いたが素直に背を向けた。

王子はふと声をかけた。


「ファッセ、ひとつだけ頼まれてくれないか」


王子はファッセが振り返ると少しだけ笑みを浮かべた。


「イザベラ姫のことなんだが」

「イザベラ姫…?」


ファッセは明らかに嫌そうな顔になったが、王子は構わずにその頼みごとを口にした。

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