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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
108/277

複雑なベッツィ

時間は少し遡り、場所は騎士団員の宿泊するぼろ宿の一室に戻る。

ここで私の話を全て聞き終えたビオルダさんは、とりあえず服はボロボロ、空腹でへろへろな私の為にあれこれと動いてくれていた。


「とにかくこれでも着てろ。そんな薄着じゃ風邪ひくぞ」

「え、でもこれ誰か騎士団員の服じゃ…」

「おう、服の一枚や二枚なくても若者は困らんさ」


かっぱらった服を着るのはやや抵抗あるが、ここは背に腹は変えられん。

ベストがある方が胸の膨らみも誤魔化せるしな。

私は手渡されたやや大きめの服をベルトで調節しながら何とか着こなした。

飾り程度だが一応短剣も腰にさす。

着替え終えるとビオルダさんは簡単な携帯食を開いた。


「時間になれば俺たちにも飯は出るんだが、今はこれでも食べておけ」

「うぅ…痛み入ります」


私は有難く固いビスケットを頂いた。

ゆっくりとそれを咀嚼していると、ばたばたと大きな足音を立ててベッツィが戻ってきた。


「っくあぁ、いててて。あのドラゴンめ。なんつぅ鋭い爪してんだよ」

「ベッツィ、大丈夫?」

「おう、とりあえず空に離してきたぞ」

「私が行った方が良かったんじゃ…」

「これくらい平気だって。お前はあんまり外に顔出さない方がいいんだろ?」


ベッツィは私の前にどかりと座った。


「お、着替えたのか」

「うん」

「…で、どうするよ?」


軽快に聞くベッツィとは対照的に、ビオルダさんはベッドに腰掛けると重々しく腕を組んだ。


「フィズがあのイザベラ姫だったとは、こうして見ても信じ難い」

「はい。自分でもそう思います」

「しかもそのイザベラ姫も本当のお前じゃない、と」

「はい。自分でも意味不明です」


私が真面目に答えるのでビオルダさんは少し笑った。


「それはややこしいな。俺は黒魔女っていうのはあまり知らんがミントリオではそんなに忌み嫌われてるのか?」

「それは…分かりません。ただ私が黒魔女だから捕まえようとしたことは確かです」


ベッツィは足を投げ出した。


「なぁ、フィズ。逃げ出してきたんなら別に無理して城に戻らなくてもいいんじゃないか?」

「え…」

「ここにいれば俺だってビオルダさんだってお前を守ってやれるぞ」

「でも、私がここにいることは王子もレイも知らないから…」

「別にいいんじゃないか?」


私は俯き考えたが、やはり戻らないという選択肢はない。


「…駄目。ちゃんと帰らないと」


私は顔を上げるとビオルダさんに向き直った。


「ビオルダさん。ズー伯爵の名前でなんとか王子にアポ取れませんか?」

「なに?」

「爵位のある貴方なら城の者も取り合ってくれるかもしれません」

「いやしかし…」

「王子が無理ならその従者のレイでもいいです」

「呼び出した所でなんて言う?自慢じゃないが俺は口が上手く回らんぞ」


確かにビオルダさんは嘘をついたり上手く話を運んだりするのは苦手そうだ。


「私も城まで行きます。すぐ近くに身を隠しますので呼び出してさえくれたら後は自分で何とかします」

「まぁ、名前を貸すだけなら構わんが」

「お願いします」


頭を下げるとビオルダさんは両手を振った。


「よせよせ。男が簡単に頭を下げるもんじゃねぇ」

「…えと」

「お、違った。まぁ、とにかくそれくらいならしてやるよ。いつ行く?」

「出来るなら今すぐにでも」


ビオルダさんはにやりと笑うと立ち上がった。


「お前は度胸があるのか無いのか分からん奴だな。だがその行動的なところは気に入ってる」


私も立ち上がった。


「よろしくお願いします」

「あいよ」


ベッツィも慌てて立ち上がった。


「俺も行くよ!!」

「来てくれるの?」

「あ、当たり前だろ!?お前を放っておけるかよ!!」


ビオルダさんはにやにやしたが、ベッツィはぷいとそっぽを向くと先に扉を開けた。


「ほら!!行くんだろ!?」

「う、うん…」


私はベッツィに促されてビオルダさんと外に出た。

明日の祭りに備えて賑わう町を抜け、朝逃げて来た道を逆に辿る。

簡単に戻るとは言ったものの、城が近付いてくると足がすくんだ。

ニヴタンディでのことといい、何だかもうお城恐怖症になりそうだ。

尻込みしているとベッツィが私の肩を掴んだ。


「恐いなら戻るか?」

「え!?あ、いや、大丈夫…」

「無理するなよ」


いや、無理してでも戻らないといけないんだって。

私はパンパンと両足を手で叩いた。


「ごめん、平気。行こう」

「そうか」


ベッツィは少し残念そうな顔をすると手を離した。

城の正門は朝同様開きっぱなしになっていた。

とはいえ、いちいちチェックされなくとも衛兵の目は常に光っている。

騎士団の格好をした私たちはすぐに呼び止められた。


「そこの三人、こちらへ」

「えっ…」


私は身を縮めたが代わりにビオルダさんが前に出た。


「城へは何をしに?」

「見ての通り俺たちはスアリザの騎士だ。ここに滞在しているオルフェ王子に用件があって参った」

「事前に知らせは?」

「送っていない」


衛兵は私たちを突っぱねようとしたが先にビオルダさんが言った。


「俺はスアリザでは少しばかり名の売れた騎士でね。それにこう見えても爵位を頂いている身だ。王子とて無下には出来んはずだが?」

「爵位を…?」


衛兵は胡散臭そうにしたが、ビオルダさんが正式名称を名乗ると渋々頷き通してくれた。

私は胸をなでおろしながら小声で言った。


「ありがとうございます。助かりました」

「あれが俺の精一杯だぞ」

「はい。充分です」


私たちはそのまま正面玄関に向けて歩いた。

中に入ると沢山の人が行き来をしていた。

ビオルダさんはミントリオの役人を見つけると声をかけようとしたが、私はそのすぐそばにロレンツォがいるのを見つけ飛び上がった。


「び、び、び、ビオルダさん!!ちょっと!!」

「なんだ…?」


ビオルダさんを壁際まで引っ張ると私は嫌な汗に肩で息をした。


「あの、私ミントリオ王以外にも見つかりたくない人が何人かいるので、外で待ってていいですか!?」

「外って…」

「すぐそこの中庭辺りにいますから!!」


誰かがそばを通るたびにベッツィの後ろに隠れる私に、ビオルダさんは肩をすくめた。


「分かった。ベッツィと庭で待ってろ」

「すすす、すみません」

「先に言っておくがどれだけ待たされるかは分からんぞ。それに俺が呼び出してるなんて団長かリヤ・カリド様の耳に入ればそっちが来る可能性もある」

「うっ…」


それは困る。

激しく困る。

半分は運だな。

私はビオルダさんにこの場をお願いするとベッツィと外に出た。


ミントリオ城は荒い山を削って建てられたせいか、中庭といっても荒々しい木々を生かした森の小道のような場所になっている。

ただ城の裏側へと続く道になっているだけだが、人目を避けたい私にとっては好都合だ。

私と二人になると、ベッツィは途端に無口になった。

ちらりと見てはすぐにまたふいと顔を逸らす。


私はなんだか気まずくなった。

私の正体を聞いてからもビオルダさんは特に態度を変えなかった。

だから内心ほっとしていたが、ベッツィには思うところがあったのかもしれない。

まぁでも普通はそうだよな。

ずっと騙していたことになるし、何より私は黒魔女だ。

沈黙に居たたまれなくなると、私は消えそうな声で言った。


「…ごめん、ベッツィ」

「ん?」


ベッツィは足を止めると私を振り返った。


「今まで嘘ついてたのに、こんな面倒なことまでしてもらって…」


ベッツィは肩を落とす私に慌てて手を振った。


「い、いや、そんなこと思ってないぞ!?」

「でも…」

「わ、悪い。なんかそんな態度しちまったか!?」


私はきょとんとベッツィを見上げた。

ベッツィはうっと詰まるとまた私に背を向けた。


「うぅ…。くそぉ、可愛い」

「へ?」

「なんでもない!!」


ベッツィは一人ぶつぶつ言いながらまた早足で歩いた。

正直、ベッツィにとって黒魔女とかはどうでも良かった。

女であるならこれで遠慮なくアプローチできると喜んだのに、その矢先に告げられたのがまさかのオルフェ王子の側室だということだ。


「くそぉ、よりによって…。それじゃあ手も足も出せねえじゃねえか!」


うがぁと叫びながら頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

私はベッツィの挙動不審の意味が分からずにただぽかんとそれを見守っていた。

小道のちょうど中間地点あたりで、少し開けてベンチが置いてある場所があった。

よく見れば小道は枝分かれしていて、その先にもちょっとした空間がいくつか設けられているようだ。

視界は効きにくく子どもがかくれんぼするには最適な場所だ。


「ここで待とうか」


ベッツィはベンチを指差した。


「フィズは座って休んでろよ。この先がどうなってるかちょっと見てくる」

「うん」


私が頷くとベッツィは小道の視察に行った。

私は何となくベンチには座らずにさくさくと草を踏みながらその周りを歩いた。

すると、ふと話し声が聞こえた。


「…誰かいる?」


つられたように声のしたほうを覗いてみると、いきなりばちんと人を叩く音と怒声が響いた。


「残ることも出来んとはこの役立たずが!!一体父上はどれほどお前に期待していたと思っている!?」

「も、申し訳ございません…」

「手紙ではお前がオルフェ王子の一番の側室であると書いていたではないか!!そろそろ正妻に決まったのかと思いきや里帰りに出されるだと!?」


私は目の前の光景に呆気にとられた。

そこではかなり身分の高そうな男が姫を叩き怒鳴り散らしている。

しかも、見間違いでなければあの姫は…


「フリンナ姫…?」


殴られた頬に手を添えながら震えていたのは、確かにあのフリンナ姫だった。

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