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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
106/277

謎のミントリオ王

オルフェ王子は城に続々と辿り着いた使者たちを丁重に出迎えていた。

これらは全て姫を迎えに来た者たちだ。

国柄や各国の事情も異なるせいか、こちらを労わる言葉がけをする者もいれば不機嫌さを隠しもしない者もいた。

王子はそつなく、ただし下に見られぬ程度に対応をし続けた。


「オルフェ王子」


一息ついたのを見計らってレイが声をかけた。


「お疲れ様です。今のでほぼ出迎えは終了です。ただ…」

「パッセロからの使者を見ていないな」


王子は疲れた顔も見せずに歩き出した。

レイもすぐ後に続いた。


「パッセロからは返信すら届いておりません。これはオルフェ様からの連絡が届いていない可能性があります」

「お前もそう思うか」


イザベラ姫を迎えに来れない事情があるのなら、その旨の知らせくらい届くはずだ。

このままパッセロの使者が現れなければ結局こちらからイザベラ姫を送り届けることになる。

王子は低く笑った。


「随分作為的だな。よほど俺にパッセロに行かせたいらしい」

「…笑い事ではありません」


レイはきつく拳を握った。

王子はホールに入ると足を止めた。

その視線の先には貴族騎士のソランがいた。

ソランは王子に気付くと不敵な笑みを浮かべ外套を翻し去った。


「…五人の動きが変わったな」

「はい」

「お前以外にどうも裏であの中の誰かを糸引く者が見え隠れするな」

「…」


ソランの去った先を見据えていると、反対側から足音がした。


「オルフェ王子。こんな所でどうされましたか?使者殿は全て迎え入れましたかな」


気さくに声をかけてきたのはミントリオ王だった。

王子はすぐにいつもの笑みを浮かべた。


「おかげさまで滞りなく済みました。ただパッセロの使者がどうやら遅れているようです」

「パッセロ…か」


ミントリオ王の顔つきがやや変わった。

レイは敏感に反応すると王子から半歩下がった。

何があっても対応できる位置だ。

だがミントリオ王はにこやかな笑顔になると両手を広げた。


「何にしても少し休憩を挟んではいかがかな?私の自慢の碧の間でお茶でもしないか」

「いえ、私は…」


王子は断ろうとしたがミントリオ王は意味深な目で見下ろしてきた。


「ちょうどオルフェ王子と二人で話があったところだ」

「…」


世話になっている身でこう言われては仕方がない。

王子はレイをその場に残しミントリオ王の話し相手を務めることになった。

通された碧の間は自慢というだけあり何とも印象的な部屋だった。

中に入って一番先に視界を奪われるのは、迫力のある滝と透明な水に絶妙に映った空が描かれた絵画だ。

ミントリオ王はお茶の用意が整い、扉が固く閉ざされるのをさりげなく確認するとすぐに話し始めた。


「我が国の居心地はいかがですかな」

「思った以上に楽しませて頂いてます。姫たちも飛行船に大変喜んでいましたよ」

「好評ならよかった」


ミントリオ王は注意深くオルフェ王子を観察しながら少し声のトーンを下げた。


「オルフェ王子。前に私がした忠告を覚えているか」

「忠告、ですか」

「側室に気をつけろというやつだ」

「…」


王子は一瞬フリンナ姫たちのしでかした事が頭をよぎったが、ミントリオ王は全く予想外のことを言い出した。


「王子は黒魔女というものをご存知ですか?」

「…」

「南ではあまり知られていないかもしれないが、北国には遥か昔より黒魔女に纏わる言い伝えや話がいくつも残っている。それは殆どが忌まわしい話ばかりだ」


ミントリオ王は無表情になったオルフェ王子を見つめた。


「その中のひとつには黒魔女が姫君に姿を変え、王宮に潜り込み、やがて覇権を手にしたというものさえある」

「…」

「黒魔女の共通した特徴は長く艶めく黒髪だという。…聡いオルフェ王子なら、私の言いたいことが分かるだろう?」


王子は微動だにせずにミントリオ王を見つめた。


「まさかその特徴だけで私の側室を黒魔女だと疑われているのですか?」


問い返すとミントリオ王は不敵に口角をつり上げた。


「動じないどころか至極冷静だな、王子。もしやと思ったが君は知った上で側室として扱っているのかな」

「ミントリオ王が仰るのがイザベラ姫のことだとすれば、ご心配いただいていることは杞憂に過ぎません」

「イザベラ姫は黒魔女ではないと?」

「逆に何故そのように確信を持って黒魔女だと?」


二人の間に静かに火花が散った。

ミントリオ王は背もたれにもたれかかった。


「君が何も知らずに黒魔女に騙されているというのならば、我々が手を貸し救おうと思った」

「…」

「だが君が知っていながら黒魔女を囲っているのなら話は別だ」


ミントリオ王が右手を上げて合図をすると壁が開き中から武装した二人の男が出きた。

王は悠々と足を組むと王子を冷たく見据えた。


「オルフェ王子。黒魔女は危険な存在だ」

「…」

「彼女はどうやら君の信頼を得ているようだが、腹の底では君を欺き冷たい刃を隠し持っている」


武装した男二人はじりじりと距離を詰めてくる。

王子は仕方なく立ち上がると剣を抜いた。


「オルフェ王子、無駄な抵抗はやめなさい。君に手荒なことはしたくない」

「お言葉だが、こちらからすれば根拠のない言いがかりをつけられているようなものです」

「根拠ね…。根拠はあるさ」

「なに…」


聞き返す前に護衛の一人が王子に刃を向けた。

王子は少し困った顔になった。


「今俺に刃物を突きつけるのは自殺行為だぞ」

「む…?」

「すぐそばに気の短い守護神がいるからな」


言うそばから荒々しく扉をけ破る音が炸裂した。

そして同時に部屋に風が舞った。


「オルフェ様!!」


鋭い金属音が連続で響き、一瞬で男たちから武器をはたき落としたレイが王子の前に立った。


「これは…」


現れた少年従者の神業のような剣さばきに、ミントリオ王は唖然とした。

レイは怒りに燃える瞳でミントリオ王を睨みつけた。


「ミントリオ王。これは何の冗談ですか」


王は立ち上がると丸腰にも関わらずレイの前に出た。

レイは流石に剣を下げはしたがそのまま王を睨み続けている。


「下がりなさい。今はオルフェ王子と話の途中だ」

「相手に剣先を向けながら話をするのがミントリオ流ですか?」

「ただの従者の君に意見される覚えはない」


レイは一歩も引く気が無かったが、オルフェ王子はそれを抑えると自ら前に出た。


「ミントリオ王。何故急にこのような強硬手段を?」

「…」

「私は貴方をまだあまり知らない。ただ、貴方の気質からこんな力任せなやり方は普段ではなさらないと思うのだが」


ミントリオ王は真っ直ぐなオルフェ王子の瞳を見つめた。

それから低い声で言った。


「…オルフェ王子。黒魔女をどこに隠した」

「イザベラ姫を?」

「そうだ」


オルフェ王子は訝しげな顔になった。

ミントリオ王は苦いため息をひとつ落とした。


「今朝方、勝手ながら黒魔女を捉えるために密に臣下を向かわせた」


王子は目を見張ると横目でレイを見たが、レイはすぐに首を横に振った。


「だがしかし黒魔女は魔力を駆使しまんまと逃げおおせたらしい。城中を走らせたが、まるで蒸発してしまったかのように姿を消した」


ミントリオ王は鋭い眼差しになった。


「この国で危険な黒魔女を野放しにすることは出来ない。…王子、貴方が黒魔女を匿っているのか?」

「ミントリオ王…」


王子は逆に身を乗り出した。


「それは本当なのか。イザベラ姫が今行方不明者だと?」

「そうだ」


王子はすぐに扉に向かおうとしたが武装した男たちが進路を阻んだ。


「…どいてくれ。イザベラ姫を探しに行く」

「オルフェ王子」

「あれは危険ではない。それは俺が一番よく分かっている」

「いや、分かっていない」


ミントリオ王は腕を組むと重々しく言った。


「王子は随分黒魔女に騙されているようだ。仕方がない、あの魔女の正体をお教えしよう」

「それはイザベラ姫を見つけてからにしてくれ」

「そうはいかないさ。君に今すぐ会って欲しい人がいる。その人に会えば君の考えも変わるはずだ」


オルフェ王子は焦燥を抑えると振り返った。

口調は穏やかだがミントリオ王に引く気は微塵もない。

それにここまで言うには本当にそれなりの理由があるのだろう。

王子は僅かに考えた末にレイに視線を送った。

ずっと王子を見ていたレイはそれだけで言いたいことを全て理解するとひとつ頷いた。


「…分かりました。貴方のお話に付き合いましょう」


オルフェ王子が言うとミントリオ王はゆっくりと立ち上がった。


「来なさい」


それだけを言うと碧の間を先に出て行った。

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