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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
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ビオルダの疑問

私は知らぬ間に二時間ほど寝ていたが、周りの声で目を覚ました。


「しかし本当に今までどこにいたんだろうなぁ」

「お。起きた」

「おわっ、このドラゴン噛んでくるぞ!?」


私は寝ぼけながら辺りを見回した。


「はれ?ネイカ…?レイ??」

「レイ?」


ずっと私を抱え込んでいたベッツィは固まった肩をほぐしながら渋い顔をした。


「やっぱりお前レイとはずっと繋がってたんだな。…あいつ、シラ切り通しやがって」

「へ?」


ベッツィは大きなタオルケットを巻きつけられた私を離した。


「ここは俺たちが泊まってる部屋だ。安心しろよ」

「あ…」


私はベッツィに会ったことを思い出した。

部屋にいる四人の青年たちをおどおどと見回す。


「こいつらは大丈夫だ。ルーナ国を出てから妙に気があっちまってさ。つるむなんてガラじゃないんだけど何やかんやで一緒にいるんだ」


青年たちは一斉に身を乗り出した。


「フィズ、俺だよ俺!前に声かけたこともあるんだぜ?覚えてない?」

「フィズが居なくなったって聞いて俺たちがっかりしてたんだぜ?」

「もう戻って来られるのか?」

「いや戻ってくるも何もフィズは元々セスハ騎士団じゃないだろうに」


私は目を白黒させた。

ベッツィは咳払いをすると青年たちをどかした。


「ほら、びっくりしてるだろ?どけどけ。もうすぐビオルダさんが帰ってくるから席を外せ」

「何だよベッツィ、俺たちがいるとまずいことでもするのか?」


青年たちがにやにやと冷やかしたがベッツィはにやりと笑った。


「それビオルダさんの前で同じセリフ言ってみやがれ」

「げげっ」


青年たちはわざとらしく身震いすると笑いながら出て行った。

ベッツィは二人になると赤髪をかいた。


「…悪いな、あいつらあれでも本気でお前のこと心配してたからさ。ちゃんと目が覚めるまでここにいるってきかなくて」

「随分仲が良さそうだったね」

「おうよ。…お前のおかげだけどな」

「え?」


ベッツィは立ち上がるとうろうろと歩いた。


「今までセスハ騎士団はずっと変な圧力がかかってて息苦しい感じだったんだ。それこそヒューロッド卿やリヤ・カリド様に目をつけられたらたまったもんじゃないからな」


嫌な名前を聞いて私は顔をしかめた。


「それをお前がこの旅でめちゃめちゃに仕出かしただろ?あれからなんか雰囲気がかなり変わってさ…」


ベッツィが嬉々として話す騎士団のことを聞いていると、何だか不思議な気持ちになった。

少し前まで自分がそこにいたという感覚は遠いのに、騎士団の内情はよく分かる。

私が大人しく聞いていると我に返ったベッツィは気まずそうに頬をかいた。


「悪い、俺の話ばっかり」

「え、全然いいよ」


ベッツィは私の前にしゃがみ込んだ。


「なぁ、フィズ」

「ん?」

「その髪は本当に切っちまってるのか?」

「あ…えと、うん」


ベッツィは短い私の髪に手を伸ばした。


「勿体無いな。こんなに綺麗な髪なのに。長ければすっげぇ似合いそ…」


ベッツィは私と目が合うと咳払いをして言いかけた言葉を誤魔化した。


「あ、と。とにかく、お前は誰なんだ?」

「え…」

「どうして従者に…男になんて化けてたんだ?」

「え…。えっ…と」


どう答えるべきか迷っていると扉が荒々しくノックされた。


「ベッツィ、俺だ」

「ビオルダさん。どうぞ」


ビオルダさんは扉を開くと私を見てにやりと笑った。


「よぅ、生きてたか」

「ビオルダさん…」


ビオルダさんはずかずか中に入るとどさりと腰を下ろした。


「戻ってきたと聞いて驚いたぞ。魔物の傷は清めてもらったのか?」

「あ、は、はい。まぁ…」

「そうか、それは良かった。ベッツィなんか散々心配してよぉ!!わはは!!」


ビオルダさんは豪快に笑うとしばらくご機嫌で私がいなくなってからの話をした。

だがその途中でふと真顔になった。


「…それにしてもフィズ、お前戻ってこない方がよかったかもしれんぞ」

「え?」

「この旅はな、なんかおかしい」


ベッツィは声を潜めたビオルダさんに呆れて言った。


「またその話ですか?」

「お前は黙ってろ、このトリ頭」

「うぐっ…」


ビオルダさんは唸りながら腕を組んだ。


「俺たちはオルフェ王子と姫君を護衛する為に遣わされた。それなのに蓋を開ければあまりにも役割が御飾りすぎる」

「ですから、それはベルモンティアから回ることになったせいですってば。当初の予定通り反対側から行けばこんなに暇なことはなかったんですよ」


ベッツィが反論するもビオルダさんは不納得な顔のままだ。


「大体騎士団の遠征といえばテントを持参し、食料を抑え、厳しい修行を兼ねるのが通例だ。それなのにこの旅は毎回わざわざ俺たちの泊まり先まで用意されている。いくら小隊とはいえこれは不自然だ」

「それは…」

「それに、リヤ・カリド様がいればわざわざ団長まで来る必要はなかったと思わないか?」


ベッツィは分からないと肩をすくめた。

その顔は待遇を良くしてもらっているのに何の不満があるのかとありありと言っている。

私はビオルダさんが何を言いたいのか考えていた。


「…確かにおかしいですね」


二人は揃って私を見た。


「オルフェ王子ならミントリオで姫たちを解散すると決めた時点で騎士団を先に国に帰しそうな気がします」


この先活躍の場もなさそうなのに、無駄に騎士団を残す意味はあるのだろうか。


「何かそう出来ない理由でもあるんでしょうか?」


ビオルダさんは感心して言った。


「このトリ頭どもよりフィズの方がよっぽど頭の使い方を知ってるな」


ベッツィは無言で口を尖らせたがビオルダさんは気にせず続けた。


「俺もフィズと同じことを思った。…もしかして、俺たちは何か別の目的で集められたんじゃないのかってな」

「別の目的…」

「実はそのことについて団長に問い詰めてみたんだが、あの堅物め一向に口を割ろうとしねぇ」


ベッツィは面倒そうに足を投げ出した。


「そりゃそうさ。だって別の目的も何も俺たちは護衛以外役割なんてないんだから」


ビオルダさんはじろりとベッツィを睨んだが難しい顔はやめた。


「まぁ、杞憂ならそれに越したことはない。ただルーナで一度離れたならフィズはわざわざ戻ってこなくても良かったんじゃねえかって話だ」

「いいじゃないすか。なぁフィズ!」


私は反応に困った。

騎士団に帰るつもりでここにいるわけではない。


「ごめんベッツィ。私、城に…オルフェ王子の元に戻らないといけなくて」

「オルフェ王子の??なんで??」


私は俯き黙り込んでしまった。

ふと浮かんだのは苦しそうなネイカの顔。


あいつらは私のことを何故か黒魔女だと知って襲ってきた。

もしかしたらネイカの魔力のことも知っているのかもしれない。

やっぱり早く王子に会わないと。

私は顔を上げた。


「ビオルダさん。お願いがあります」

「ん?」

「私一人じゃどうにもならなくて…。力を貸してもらえませんか?」


ビオルダさんは必死な私を黙って見つめた。

隣からはベッツィが身を乗り出す。


「おいこらフィズ、困ってるなら俺だって力を貸すって言ったぞ!?」

「ベッツィ…」

「ただし、ちゃんとわけを話してもらうからな」


ビオルダさんもぼりぼりと首をかいたが頷いてくれた。


ビオルダさんとベッツィ。

この二人なら…私のことを話してもきっと大丈夫。

何より今一人で城に戻ってレイか王子の元まで行くことなんて不可能だ。

私は勝手な判断で正体を明かすことを心の中で王子に謝りながら、慎重に話し始めた。

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