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~5~心と心

雨が本降りになってきました

「待ってって言ってるだろ」


「何を待つと言うの」


左右の大振りのナイフ、ダガーと言うらしいが暴風のような連撃が止まらない。


(うーん僕のショートソードじゃ耐えれないよなぁコレじゃ)


交互の攻撃に耐えられなくなってきたのか削れていくショートソードを見ながら、ちっとも話を聞いてくれないメイドに少しイラつきを覚えてきた。


(いつも、こうなのかな?レイナ)


「中々やります」


「だから待ってって言ってるでしょ」


一瞬、彼女の動きが止まるとモーションに入る姿が見える。

ぐにゃりと前にのめり込むようになると動く。


(さすがに速いな)


剣で受け流そうと飛び出してきた彼女の前に剣を向ける。


(嘘だろおい)


目の前に居たはずの彼女の姿はなく横に体をくねらせながらナナメ下からの斬撃が来る。


「良い加減にしろ小娘」


「へっ?」


僕は剣を手から放すと横からの斬撃よりも早く彼女の頭をわしづかみにして地面へと叩きつけると衝撃で砂埃が待っている。


「ごっごめん、やりすぎたかな」


「・・・」


顔を地面にめりこませたまま動かないことに焦る。


(しまったぁぁぁぁぁ)


「おい起きろって嘘だろ」


手加減を間違えたのかもしれないと焦って体をゆすると目を覚ました彼女に安心すると思い出したことが一つある。


目を覚ました瞬間に両手に持つダガーを叩き落とした。


「すまん少し話を聞いてくれないか?」


しょぼんとしたように大人しくなる彼女に、どうしてこんな状況になったのかと説明する。


「というわけだけど理解してくれたかい?それにしても君は、いつもこんなに突発的に人に襲いかかったりするの?」


首を横に小刻みに振っている。


「危ないだろう?良く状況も見えてないのに相手が僕でなかったら死んでいたかもしれないよ?」


涙を溜めながら悔しそうに拳を握っている彼女の口が開いた。


「笑っていたから」


「!?どういうことだ」


「貴方が彼らを相手にしているときに笑っていたから嬉しそうに」


嬉しそうに僕が彼らを襲い蹂躙しているようにレイナには見えたらしいが、そうだったのかと顎に手をあてながら悩んでしまう。


「すまない、そんなつもりはなかったんだけど」


「うぅん私が早とちりしただけ」


「でも、本当にすまなかった自分自身で笑っていただなんて思いもしなかったよ」


ありがとうと、しゃがみこむ彼女の手を握り立ち上がらせるとダガーを腰へと挿してやる。


「貴方じゃなかったら私、大変なことになってた」


「今回は僕だったから良いじゃないか」


「貴方は何者なの?」


「僕は冒険者だよブロンズの名前はエイジだ」


「私はレイナ、この街の領主様のところでメイドをしてるの」


そんなことは知っていると思うが彼女達は僕が、こうやって仮面も付けずに街を歩いているなんて知らない。


(卑怯なことをしているのかもしれないな)


そんな風に思いながら、いつもとは違うメイドであるレイナを見つめると恥ずかしそうに顔をそむける。


「あんまり見ないで欲しいの恥ずかしいから」


「ごっごめん」


「また会えますか?」


「僕と?どうかな街には居るから会えるかもしれない」


僕が立ち去ろうとすると服をつかみながら何かを訴える瞳は力強い。


「分かったってば会えるよ僕が暇なとき、ここに居るから会いにおいで」


こくりと一度頷くとレイナの姿が消えた。


(どうやら大人しく屋敷に帰ってくれたみたいだな)


それにしても自分の中に住んでいる狂気が笑うという非常識になったんだろうかと不愉快な気分になる。

前に師匠が言っていた「勇者と魔王は道が違えば勇者が魔王に魔王が勇者になったかもしれないな」と。


その言葉が僕の身に染みる。


□ □ □


屋敷の窓から射しこむ日が僕の顔に当たると目を覚ました。


「おはようございます旦那様、少し遅くはありますが」


扉を開けるとクロフォードが深く辞儀をしながら出迎えてくれる。


「今日は何かあったのか?」


「特に変わらぬ晴天でございますな」


「何やら嬉しそうだが」


「昨晩レイナが私の元に訪れて勘違いして襲ってしまった相手に負けたと」


「ほぅ、自分の団員が負けたのが嬉しいのか?」


「いえ、ですが、その方は良き人だったらしくレイナも反省していましたが彼女を負かすような方が、この街に居るというだけで」


「あぁ」


これでも傭兵団の団長、齢50を過ぎても戦いの血が流れているだろうし、あれだけの者達を率いているのだから楽しくてしょうがないようだ。


「呆れたものだな」


「申し訳ありません」


「良いさ、それでなくては街の安全も守れないというものだ」


「機会があれば、その方と手合せをしてみたいものですな」


「ふっ」


さて今日も仕事かと書類が束になっている執務室へと向かい辟易するほどの書類に目を通し始めると一日が始まった。


僕が集中して毎日の業務に打ち込む頃ノックの音が聞こえる。


「入れ」


ドアが開くとクロフォードが入ってくる。


「旦那様」


「どうしたクロフォード、昼には早いしティータイムならしなくても良い」


手に持ったカップには先ほど彼が入れてくれた紅茶が、まだ残っている。

前に来てくれたフォン嬢が手土産にと持ってきてくれた名産品の紅茶だった。


「フェン様が参られるようです」


「ぶっ」


思い切り紅茶を噴き出すと書類にかかった紅茶を拭き取っているとクロフォードが続ける。


「今回はフェン様と、もう1人、彼女のご友人もいらっしゃるようです」


「ふむ、それにしても早すぎないか?彼女の国は遠いのだろう?」


「こちらの国と友好国なので滞在先は王都かと」


「そういうことか分かった」


「では、そのように」


クロフォードが扉から出ると入れ直してくれた紅茶を口につけるが美味しい。

それにしても何だろうレイナが部屋で息をひそめひっそりしているのが気がかりだ。

クロフォードは何も言わないし自分自身を見えにくくしている彼女には何か思うところがあり僕の部屋に居るしついてくるのだろうが。


(やれやれ見事なまでに部屋と一体化しているな)


ここまで隠れるのが上手いと、よほど上位の者か探索魔法を持つ者でない限り見ることは敵わないだろう。

面白い物を見るように仮面の下から見ていると何か言いたいらしい。


(声をかけるべきか、だが知らないふりをするべきだろうな)


黙々と仕事をこなしながら夕方になるぐらいだろうかギザ国の紋章が入った馬車が門を抜け中庭に停まるのが目に入る。

そういえば、いつ何時に来るかは聞いてなかったなとミーシャを呼んだ。


「旦那様お呼びでしょうか」


「急ですまないがフェン嬢がお見えになったから晩は多少、見栄を張らせてくれないか」


「少なからず国のため領地のためになると考えますので善処いたしましょう」


珍しいな金がかかることが嫌いなはずのミーシャが今日はやけに素直だ。


「おい、良いのか」


「何がですか?」


「いや、ミーシャお前が許してくれるとは思ってもみなかったから」


「領主様は何か思い違いをしていらっしゃるのかもしれませんが貴方様との契約で私は言ったはずです」


そうだった彼女は金銭そのものには興味がない、ただ大きなゲームをしたいと。

この行動はゲームの中の駒で進めるべき事柄なんだろうと納得する。


領地を潤し領民から愛されれば自然と街は大きくなるし得られる物も大きく。

それだけで満足なのだと。


「あぁ助かるよ」


「では私はこれで失礼します」


フェン嬢を出迎えるために普段着のままであったが、領主・・で居るときは、それほど変な格好はクロフォードがさせないだろうと階下に下りるのだが、いつもの従者達の他に着物を着た女性が見られる。


(なっ日本人か)


その着物は白地に桜の柄が描かれた美しいもので、それを着ている女性は日本人というよりもアジア系には見えるかもしれないがフォン嬢に近い気がする。


「ようこそ再び貴方に会えるとは思いませんでしたフェン嬢」


「はい早くお会いしたかったのでご迷惑だったでしょうか?」


「いえ貴方のように美しい方に会いたいと言ってもらえるだけで嬉しいですし本来ならば私が参るのが礼儀でしょうが今は復興の最中で離れるわけにはまいりませんので」


「あらまあ」


両手で頬を抑えながら恥じらっていると隣の女性が軽く咳をする。


「あっごめんなさいカザハナ」


「初めてお会いしますアルヴァスタ様、私はギザの国、大臣の娘であるカザハナと申します」


「初めましてカザハナ殿、こちらにはどうして?」


「いえ、姫が一途に愛している男性が、どのような方かと気になりまして」


「それでどうでしたか?」


「分かりませんね何故、姫が気になっているのか私には」


「私にも分かりませんね」


僕自身が何故、一国の姫が自分を一途に愛しているのかは理解が出来ない。

悪い気はしないのだけれど。


「もうカザハナったらアルヴァスタ様に失礼でしょ」


「すみません姫」


「ここでは何ですし夕食をご用意させましたので孤児院の子供達といつも食べるのですが大丈夫でしょうか?」


「まぁ!楽しみですわ」


従者の方々には屋敷でくつろいでもらい3人で孤児院へと足を運ぶ。


「あーーーー領主様だーーーーーご飯?もうご飯?」


「あぁ中へお入り」


「わーーーーーー綺麗な女の人だーーーー」


「領主様のカノジョーーー?ねーーーーねーーーーー」


「まぁ、可愛らしい子供達ですね」


フェンの周りに集まって異国の女性というか美人の存在で今日はとても華やかである。


「領主様、今日は私が存分に腕を振るいましてございますが何か不備があれば言ってくださいませ」


「いつもすまないなアナスタシア」


「いえ楽しいですから」


アナスタシアは傭兵団に入っていたが別に戦闘が好きな人ではない。

むしろ嫌いなのだ。

それでも彼女は何もせずとも力を持ってしまい魔王が現れた。

必然的に戦いの中に身を置くようになってしまう。


本来は子供が大好きで料理が好きな人であるとクロフォードが教えてくれた。


「領主として子供達に街を守るために強くしようとしているのだ責めるなら私を責めてくれて構わない」


「それでも貴方は、この子達を助けたのですし」


子供達は幼い頃からアナスタシアから指導を受けており同じぐらいの歳頃の子供に比べれば遥かに強い。

そろそろメイド達と共に領地を警備する任を任せようかと思ってるぐらいだ。


「今日のご飯すごーーーーーい豪華なんだよ」


「パンとスープだけじゃなかったんだぜ領主様」


「あぁ、大事なお客様が来てるから私が頼んだのだ」


「「「「「わーーーーーーーーい」」」」」


嬉しそうに食堂へ行くと子供達に囲まれて、いつものように静かに食事を摂っているが見知らぬ客に子供達はソワソワしているのを見かねて僕は口を開く。


「すみませんフェン嬢、子供たちが貴方とお喋りをしたようなので少し許しても」


「えぇ、もちろんですよ」


「中々こちらに私も来れないのですが少々行儀が悪いかと思いまして」


「今日のことは秘密ということで」


「だそうだ」


子供達は笑顔になると一斉に喋りはじめた。


「貴方達、こちらのお嬢様が困っているでしょう!それと口に食べ物を入れたまま喋らない!」


(すまないアナスタシア)


「ねーーーーお姉ちゃんは領主様とチューしたのー?」


「え!?」


「ぶっ」


「「「「「あはは領主様きたなーーーーーい」」」」」


「ふふふ元気な子供達ですね」


「お恥ずかしい限りで」


仮面の下から食べ物を吐き出すなんて体験をしたんだが、これはヤバいと思ったよ。

かなり焦ってしまった。


本当に子どもが好きなお姫様のようで先ほどから質問に答えたり子供達の口についた食べ物を拭いてあげたり楽しそうにしている。

その横では静かにカザハナが食事を食べ進めている。


「カザハナ殿が着ている服は何か特別な物なのか?」


「これは我がカザハナ一族に伝わる特殊な織物です」


「ほう美しいものですね」


彼女と少し話をしてみて分かったことがある今から1000年前に、ここの辺りに先々代の魔王が現れ各地を蹂躙していった。

そのとき現れた少女が世界を救ったという伝承がギザの国には残されていると。


(へぇ僕の他にも迷い込んだ者が居たのだな)


その少女は世界を救ったのちにギザに身を置いたとされ、その血を受け継ぐ者がカザハナという名前を持つのだそうだ。


「それで貴方が名を」


「はい」


これはギザにだけ残る伝承で、それを代々受け継いできたらしい。

確かに1000年も経てば風化して僕が知らなかったのも当然かもしれないな。


「アルヴァスタ様、あの壁にかかっている双剣と槍は」


僕は壁にかかる剣や盾、それに槍を見上げる。

これは僕がかつて率いていたパーティに居た仲間達が使っていた武具である。


カザハナが気になったのは、その中でも双剣と槍だったようだ。


「何と言われても武器だが?」


「アルヴァスタ様は私をからかっているのですか?」


「ふむ、そう言われても」


見た限り俺の仲間達が使っていた遺品ではあるが、そんなことは知らないはずだし、それ以外は何もない。


「あの双剣は入手困難である黒鉄晶で作られているし槍にいたってはブルークリスタル製ですよね」


「そうなのか」


「そうなのかとは何だ知らなかったのですか?普通に手に入る代物ではありませんよ」


「先の大戦でな私を守っていた者達の遺品だ、それだけだ」


「!?」


仮面を見て大火傷をした僕のことを思いだしたのだろうが急に言葉をやめてしまったところを見ると何か後ろめたさを感じてしまう。


「すみません失礼なことを」


「いや良い、この姿でいる私に驚かないのでな」


「そんなことは関係ありません」


そういうとフェンはカザハナに抱きつくと嬉しそうにしている。


「なっ何をなさっているのですか姫君」


「だから貴方のことが大好きなのですよカザハナ、貴方は誰でも平等に接する優しさを持っていますし」


「ひっ姫様なんと有難きお言葉を」


何だかんだで愛されてるのだなと微笑ましく思う。


「ねぇ領主様なんだか今日は嬉しそうだね」


「そりゃ、こんなキレーなお嫁さんが来てるからだろぉ」


「えーーーーーーーーーー」


子供たちの無邪気な言葉に耳まで真っ赤にしたまま俯くフェン嬢を見ていて僕も微笑ましく思う。


「今夜は急に来てしまいまして本当にすみません」


「いや楽しかった」


「本国へ経つ前にと思ったのです」


「帰るのか、そうだ次に会うときには、そちらの特産の香辛料を持ってきてもらいたいのだが」


「香辛料ですか?」


「聞いたところによると、こちらとは違った食文化らしいからな少量ずつで構わん」


「はい、かしこまりました」


「では、また」


「はい」


僕にフェンが近づくと仮面ごしではあったが頬に口づけをする。


「なっ」


「敬愛の印ですわ」


かなりの動揺はあったものの何も無かったように取り繕うと別れの言葉を言い別れて彼女は3日後にギザに出立すると告げて帰っていこうとするときに僕はクロフォードに目くばせをする。


かなり遅い時間になってしまったので数人の護衛をつけることにしたのである。

ニナだけで十分であるとは思うが。


「さて疲れたな」


食堂で見ながら今は居ない仲間達に思いを寄せる。

命をかけて魔王と戦った、あの時を忘れることは出来ないだろう。









フィーネ・・・。



ここまで読んでいただけたら幸いです。


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