~3~見合い
林檎とカスタードクリームのパイって何で、こんなに美味しいの
ピンクの髪を肩まで伸ばし軽くカールした髪の毛が彼女が歩くたびに揺れる。
小柄の体型に小さな顔に小さな可愛らしい鼻、そして真っ白で柔らかそうな肌の少女。
街を無表情に歩いているが美少女である彼女は自然と視線を集める。
獣人らしい彼女は耳をピクピクさせながら周囲を警戒しているかのように雑踏の中を歩く。
メイド服を着て腰にはダガーと呼ばれる大柄のナイフを2本、携えている。
そんな彼女の耳が勢いよく動き夕暮れの中で何かの気配を感じると人通りが多い場所から突如消えた。
□ □ □
「旦那様、そろそろご支度を」
「分かっているクロフォード」
いつもは着ることがない貴族が好みそうな服を着るが窮屈だ。
「おっと支度をしている間に、お客様の到着のようです」
「1時間も早いじゃないか」
「貴方様に早くお会いしたかったのではないのでしょうか」
「こんな俺にか?どうだかな」
僕の正体は知らないはずだし持っているのは商業で賑わうアルメドの街ぐらいなものである。
屋敷のメイド達も大忙しで走り回って何やら騒がしい。
「ふむ」
従者と共に顔をヴェールで隠した女性が下りてくるのが分かるが姿を見た感じではスタイルも良く淑やかな淑女である風貌である。
(僕と見合いって何でだろうな)
それにしても、あの従者たちは何か見覚えがある気がするが気にせず階下へと出迎えるために降りていくと、その理由が分かった。
(あのときのか)
昨日、僕をつけまわしていた者達で、どうやら小国の姫君を守るための護衛だったようである。
「本日はお話を受けて下さりありがとうございます」
「フェン・ジャスティ嬢と言ったか私はアルヴァスタ・サーディンだ」
この名前は偽りの名前で魔王が蹂躙した街の領主だったのだが一族共に滅ぼされた子息の名を借り受けている。
「はいフェンとお呼びくださいアルヴァスタ様」
小国ではあるが僕よりも階級が上である姫君は深々と僕に礼を尽くす姿にクロフォードやメイド達、それに彼女の従者達も驚いていたようだった。
ゆっくりと話をしたいと彼女が言うのでティータイムをしながらということで屋敷にある薔薇園で話をすることになった。
(僕の趣味じゃないんだけどクロフォードがどうしてもって言うから)
このようなときのために用意しておいたとばかりに彼は満足しているようだが僕は華麗にスルーして彼女の方を見つめると少し顔をそむけてしまう。
「旦那様、そのように女性を見つめるものでは」
「あぁ、それもそうだな申し訳ないフェン嬢、それにしても会ったこともない私と、どうして見合いなどと」
「えっとですね会ったことがないわけではないのです」
「ふむ私にはフェン嬢の国の名前も貴方の名前も覚えがないのだが」
何やら俯いたまま話をしている彼女は少し震えているように思う。
「私が見た目が怖いか?」
全身、黒ずくめで仮面をつけた僕のことを怖がるのも当然だと。
それを聞いた彼女は小さく首を振る。
「いいえ会うのを待ち遠しく、いざ会うと恥ずかしくて」
「ふむ、そんなものか」
「アルヴァスタ様がアルメドの領主となった7年前になるのですが」
彼女は特別醜い顔だと親に言われて全身を包帯で巻かれて出向いたグラナド城での出来事だったらしい。
「私は、ずっと周りから両親から見目が悪いと醜いと言われて育てられてまして、そんな自分が存在していて良いのかと思っておりました」
「ほぉ」
そのとき兵士をグラナドに派遣していたギザの国に感謝の意味をこめて招待されたそうで。
「そのときも、まだ大陸中が安全というわけではなかったので全身を包帯で巻かれたまま私の噂は誰かに伝わっていたようで他の方々から嘲笑を受けておりました」
「それで私と君が、そのとき出会ったと?」
「えぇ」
そんなことがあったかなと僕は思い出そうとすると、そういえば転びそうな少女を手で支えてやったことを思いだした。
「あの時の少女は、まだ子供だったぞ」
「アルヴァスタ様、もうあれから7年経ちましたんですのよ」
目の前の女性は、ちょっと不機嫌そうに声を出しているように見えた。
「ゴホンッ、す・・・すまない」
そういえば7年も経ったのかと改めて考えると、あっという間の7年だった気がする。
「あのとき嘲笑にさらされていた私に貴方は、こう言ってくれたのです」
周りに何を言われようと気にする必要はないし君は立派な王女様なのだからと。
「確かに、そんなことを言ったような気がするな」
「あのときの周りの方々の視線と言葉は忘れてませんし貴方様がくれた優しい言葉も忘れられずに」
「そんなものかな」
「助けて下さったとき初めて見たときは・・・」
そこで口ごもった彼女は何か言いにくそうに僕の方に顔を向ける。
「ふっ怖かったか」
「はい」
「良いさ慣れている」
「でもっでもっ、その言葉を下さった貴方の仮面の中、瞳はとても優しかったのです」
前に出るように立つと恥ずかしそうに席へと再びつくと俯いてしまう。
「父と母に愛されていないと思っていた私は、あるとき聞いたのです」
「愛されていないのかと?」
「はい、そのときの父の悲しそうな顔、母の涙は未だに忘れることが出来ません」
そう言うとヴェールをまくり上げる彼女は僕は見つめる。
「ふむ美人だ」
「ふぁっ」
そう俺に言われると顔を真っ赤にすると顔を伏せてしまう。
「私は、とても信じられないが貴方が、そんな風に育てられるようには思えないんだが」
褐色の肌に決して太ってはおらず健康的な柔らかそうな女性らしく魅力的であるし顔にいたっては僕が今まで見た女性の中でも一番と言って良いほどの美貌の持ち主であると正直に思った。
「実は子供の頃から他の人と違ったようで父と母が魔王に連れ去られないように守るためについた嘘だったのですが、それによって苦しめてしまったと謝罪をされまして」
以後、普通に包帯をまかずに生活出来たのだが今度は色々な国や貴族達から求婚を求められるようになったのだとか。
「それはそれは苦労だったろう」
「いえ、そんなことは」
仲つつまじく話している姿に執事であるクロフォードやメイド達も安心したようで各自の仕事に戻って来る。
「ところでだが先日、暗殺者と思われる賊につけられてな」
その言葉に後ろに立つ従者達が冷や汗をかいているが、このぐらいイジメても良いだろうと話を続ける。
「まぁ、それは大丈夫だったのですか?」
「これでも領主ですから身を護る術ぐらいは」
どうやら、このフェン嬢とは関わっているようには思えないし嘘をついているようにも見えないから違うのだろう。
「ですが貴方様は聞いた話では、あまり戦うことに慣れてないと」
「そうだな確かに戦うことは得意ではない」
嘘をつけと言った風に見てくる従者達を仮面の下から見ているが実に面白い。
「気を付けてくださいね、えっと・・・いなくなるのは嫌ですから」
「まだ、やり残したことがあるからな死ねないな」
「あの時から私は、ずっと貴方様のことを忘れられずお慕い申しておりました」
突然の告白に驚くが見合いまでしたのだから僕も正直に言わないとなと誠意には誠意を返すべきだろうと人払いをしてもらうように彼女に目線を送ると執務室で話をすることが出来るかと彼女に問うと「はい」と答えてくれた。
部屋に入ると仮面に手をつけ、ゆっくりと外すと彼女は真剣な顔で、こちらを見つめている。
「まあっ」
「というわけだ屋敷の者も一部の者しか知らない」
「酷い火傷のせいで仮面をつけていると聞いておりましたのに」
「本当であっても見合いはしたのか?」
「えぇ、もちろんですわ恋焦がれた殿方なのですから、どんな姿であっても誠心誠意尽くすと心に決めてましたから」
彼女の言葉には嘘はないし、とても綺麗だと素直に僕は思った。
「俺は本当は貴族ではない」
勇者ということは伏せフェン嬢に、これまでのことを話していると彼女は先ほど仮面をとった時のように真剣に話を聞いている。
「元々は平民で縁あって今この地で領地を任されているのだ」
「では貴方様は今は貴族なのでは?」
この言葉に俺は真意をつかれたような気持になった。
貴族ではなかったが今は貴族であるか面白いことを言う人だなと思う。
「私には好きな女性が居るんだ」
「えっ」
そう言った瞬間フェン嬢の顔が少し暗くなった気がする。
「私を守るために、その人は死んでしまったのだがな」
僕が愛していた女性のことを話しているとポロポロと目の前の女性は涙を流している。
「何か気に障ることを言ったか?」
「し・・・死んでしまった女性になんて勝てるわけがないじゃないですか」
必死で、そう訴える彼女は悔しさで涙をこぼしているように見えた。
「だから私は他の人を愛せないんだ」
「絶対・・」
「ん?」
「絶対、振り向かせて見せますから」
そう言った彼女は全て受け入れて満足な顔をしていた。
「本当の名を聞いても?」
「エイジだエイジ・リュウガミネだ」
何故か自然にフェン嬢の前では出た気がする。
そして帰る時刻になって彼女との別れの時間になり彼女は僕の耳元で、こう言った。
「エイジ様のことを決して人には言いませんし愛しておりますから諦めませんから!」
彼女は馬車へと乗り込むと従者達も礼をして帰るが1人だけ残っている。
「サーディン様」
貴方様をつけ狙うように密かに見ていたことを詫びた。
「分かっている大事にしているのだろう、あの姫のことを」
「サーディン様が隠している事があるのは分かっておりますし今回の件、姫には言われなかったことに対しても感謝いたします」
「ふんっあんなことをする必要はないんだがな」
「十分、心得ました」
全てを黙って姫を守るために自分達が勝手にしたことだと言う彼らを僕は許した。
そして彼女の乗る馬車を見送ると屋敷へと足を踏み入れた。
「どうでしたか?フェン姫様は」
「美人の女性を目の前に求婚されれば悪い気はしないな」
「それは何よりでございますな」
全てが嘘でかためられた自分、そしてクロフォード達、傭兵を執事やメイドとして雇っていること、その全てを受け入れてくれた彼女に少し惹かれている自分が居た。
次に会うときは孤児院の子供達にも会わせて下さいねと言って帰った彼女。
優しく強い女性に会った気がする。
ここまで読んで下さりありがとうございます
4話目からは、あまりにも適当に書きすぎてしまい修正するのに少し時間かかりますが読んで頂けたら幸いです