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~2~ワールドエンド

今回は書ききりたいなぁ

ドアを叩く音が聞こえると僕は返事をすると領主である執務室の机から銀色の仮面を取りだす。


「領主様」


「ミーシャか珍しいね」


僕とミーシャは金銭的にだけつながっている関係で彼女は、この領地の財政ほぼ全てを握っていると言って良い。


僕の顔を知ってるのは元傭兵団の団長であるクロフォードと、その右腕であるニナぐらいである。


「今月の収支報告にまいりました」


「そうか、どうだった?」


彼女は富を作るのが好きで僕は、そういうことに無頓着で利害が一致したから今まで一緒にやっているのだけども別に横領をしたりとかは一切なく、ただ集めるという一点にのみ執着しているように思える。


「はい、おおむね良好に行っています」


「それは良かった」


そのときだけは彼女は、ほとんど長い髪で隠れた奥から笑顔を見せてくれる。


(せっかく可愛いのにな勿体ない)


「何か?」


僕が、じっとミーシャの顔を見ていることを怪訝そうな顔で見てくるが、せっかくの笑顔が消えてしまっているのを残念に思う。


「何でもないよ、ありがとうミーシャのお陰で街が潤っているんだって思ってね」


「私は、そのようなことに感心はありませんが領主様が嬉しいなら何よりかと」


そのままクロフォードと入れ違いになるように彼女は出ていく。


「領主様」


「今日はやけに誰かが部屋に来る日だなぁ、どうしたんだいクロフォード」


「先ほど手紙が届きましたが蜜蝋で封印がしてあったために火急の知らせかと思い届けにまいりました」


「ん?何か急ぎの用事や予定なんて無かったと思うけど」


手紙の封を開けると中には他の貴族、それも王に近しい貴族のものと思われる紋章が刻まれた手紙が入っている。


「魔法がかかってるのかい?いやに厳重だね」


魔法の形状から見ると僕以外の誰かが触れると強制的に何かの術式が発動して手紙は破棄されてしまうのだろう。


「鑑定いたしましょうか?」


「いや、大丈夫だろう」


僕は剣も魔法も使いこなすほど使えるとは誰もが思っていないので少し心配そうにクロフォードは僕を見ている。


「ふむふむ、フェン・ジャスティという方とお見合いをしないかだって」


「お断りしますので?」


「どうしようかなぁ」


僕も25歳にもなると各地から、この街と関わりを持ちたい諸侯貴族達からの、こういった申し出を多少受けるようになったんだけど、その度に断っていた。


それにも理由があって僕のことを知っている人間に会うことを避けるために普段、外に出る際、それも貴族達と出会うような場合は先の魔王との大戦で顔に大火傷を負ったために仮面をつけていると言っていたのだ。


世界でも僕のことを知っている者は居るだろうが顔までは知らないだろうけど腐っても元勇者であるのだから隠し続けるべきだと思っている。


元の世界のようにイントラ整備されてるわけでも無いし写真技術があるわけもなく肖像画ぐらいなのだから。


「どう思う?」


「領主様も25歳という歳ゆえに結婚をしても良いとは思いますが」


「まぁ、そうだろうね」


これも街が他よりも随分前に復興を果たし今では商業都市として財政などの面でも賑わっているから仕方ないのかもしれないけれど厄介なことである。


「手紙の差出人を見る限りでは断る理由もないし一度会ってみるか」


「珍しいですな、てっきり断るかと」


「差出人が差出人だしな断るにも理由がない」


「では、そのようにお伝えしてきます」


どうやら従者が持ってきて外で返事を待っていると言っていたが、そこまでするほどの用なのかと驚いてしまった。


しばらくしてクロフォードが戻って来ると一週間後に、この館まで、わざわざ来てくれると言う。


「急すぎないかい?」


「私も、そう伝えたのですが了承をすると、それを告げて大急ぎで帰って行きました」


「やれやれ」


僕は机に積まれた大量の書類と見合いというプレッシャーに溜息をもらしてしまう。


(他にもっと楽な道はあったはずだけどねぇ)


何処かで静かに暮らしながら、のんびり余生を過ごすことも出来たはずなんだけど、どうしても出来なかった。

この世界で生きていくと決めてからは何かしなければと思いつきで領主になり苦労はしてきたが、ここまで来れた。


□ □ □


「ちょっと出かけてくるよ」


銀色の仮面を壁から取り顔に着け漆黒のローブを深くかぶるとクロフォードに告げる。


割と早く仕事が終わると昼から街をブラブラと散歩をする。

クロフォードに心配されて護衛をつけるよう毎回言われるが元は魔王を倒した勇者なので、そんなことをする必要がないのだ。


それに街には探索の結界が張られており何かあれば分かるようになっている。


しばらく歩き街外れまで来ると娼館が見えてくる。

娼館とは女性を買うために建てられた建物で建てる際は、かなりの白い眼で屋敷のメイドに見られたものだ。

でも娯楽も必要だと押し通して、この街に一軒だけ僕が許しを出して建てられている。


「おや、これは珍しい」


「やあエルダーさん」


「やめてくださいよ貴方に、そんなことを言われてもゾッとしませんよ」


エルダーと呼ばれた中年の男性は僕の対応に冷や汗を垂らしている。

この建物を建てた理由は、この街の娯楽と、もう一つ理由がある。


「エミリアは居るかい?」


「おーいエミリア、この男性が君をご指名だぞ」


普段、聞きなれない女性の名だからか他の客が、こちらに注目するがエミリアと呼ばれた女性は娼婦ではない。

王国が各領地に潜入させている密偵である。


僕を連れて奥の部屋に消えていくと、そこにはいつもの娼館があった。


「おい、お前は何をしている」


「あら領主様、何ってナニですけど?」


「はぁ」


「ふふふ」


体の線がしっかりと出るような中が見れそうな薄い生地で近づいて顔を覗かせる。

こんな風に俺をからかうのが好きらしい。


「それよりも聞きたいことがあって来たんだが」


「あら、それって」


「あぁ、そのことだ」


娼館という場所は情報が集まるところだったしエミリアが密偵ということを暴いてからは王国に不利益がないことを条件に情報をくれているし、この領地での自由を許している。


「それにしても、どうして私が密偵だとバレたのか未だに不思議だわ」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


彼女の話によるとフェンという女性はグラナダ王国と関わりがある遠い国の姫君で何故か会ったこともないはずの僕と見合いをしたいと言ってきたらしい。


「グラナダと関係があると言っても、ほとんど知られてないのよギザって国は」


「そんな国があったのだな全然聞いたことがなかったが」


僕は魔王を討伐するために強くなるために諸国を渡り歩き仲間を集めながら旅をしていたけど、その国のことは知らない。


「あまり知られてないわね魔王が居た国から最も遠く険しい山々に囲まれた山中にある小国だが先の大戦では精鋭を、こちらの国に送ってくれていたのよ」


「そうなのか」


前へ前へ突き進んでいたからグラナダ王都に一度も戻ったことがなかった為、そんな者達の存在も知らなかったのも当然だったのかもしれない。


「ちょっと変わった文化や魔法を使う人達みたいよ」


「それは会ってみたいものだな」


「それにしても、いつも仮面をつけてるのね」


「火傷が酷いものでね酷い顔を君は見たいのかい?」


「フフフ見せてくれるのかしら?」


僕の仮面を細く長い指で撫でながらエミリアは続ける。


「見てもつまらないだろう」


「あら残念」


彼女の手を押し退けると大した情報も得られらなかったが、たまの息抜きにはなり屋敷へと帰る頃には夕刻に近づいたらしく辺りは薄暗くなっていた。


薄暗い道を歩いていると家の屋根から木の影から複数の気配を感じる。


(うーん何だろうな狙われる理由はあるようでないと思うが)


この気配の消し方は素人じゃないしプロの暗殺者か、その手の類だなとワクワクしながら街を歩く。


「おーい後をつけてきてるのは分かってるけど誰だ?」


返事はない名乗り出るつもりはなさそうだ。


(まぁ良いか)


僕は気配を消すと静かに薄暗い空間に溶け込む。

すると後をつけてきた気配が慌ただしくなってきた。


「ふむ、只者じゃないと思ってたけど」


「なっ」


相手が振り向こうとした瞬間、首元に手刀を当て気絶させると次の標的へと目指すと次々と気絶させていく。


「ふむ完了と、それにしてもレイナが気付かないわけがないんだけどな」


何かを察すれば獣のごとく現れる彼女の気配がまるでないのだ。


「6人か、それにしても見たことがない感じだな」


肌は褐色をしていて、この国の者ではないと分かる。


「僕も人のことは言えないか」


日本人だからなと肌や目の色が全く違うのは僕も同じかと自分の手のひらを見つめると1人を選んで起こしてやる。


「ぐふっ」


「お前たちは何者だ何の目的があって僕に近づいた」


「・・・」


この手の類には何を聞いても口を開かないのは嫌というほど知っていたから諦めて放置して屋敷に帰ったんだが先ほどの行動は少し軽率だったのかもしれない。


食事が終わって1人で部屋に入ると蝋燭の火に照らされた僕の影がユラユラと動く。


「やれやれ歌いたいのか?」


ユラユラと嬉しそうに揺れているところを見ると出たがっているらしい。


「出ておいで」


影から黒いゴシック調の服を着た少女が姿を見せると僕を見て微笑んでいる。

この少女の名はワールドエンド、魔王が飼っていた闇の精霊で喋ることは出来ないが、その代わりに口から歌うように音を奏でるのだった。


彼女の歌声は物寂しく穏やかで暗いが僕は結構気に入っている。

歌声を聴くたびに心が落ち着く。


「今日も良い歌声だったよ」


僕が頭を撫でてやると嬉しそうに影へと戻っていく。


「さて面倒なこと考えるのやめて寝よっと」


火を消して目を瞑ると夢を見た。

とても嬉しく優しいけれど、とてもとても切ない夢を。



ここまで読んでいただけたら幸いです

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