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第9話・涙の金貸くんは借主くんに決別を宣言するのか。

著者の諸事情により、次話の投稿がおろそかになっていますが、金貸くんと借主くんをどんな風にして法律要件に当てはめるかに悩まされました。金貸くんと借主くんのような友達間の金銭貸借問題についての壁に突き当たることは、誰しもが絶対にないともいえません。

そこで、著者なりに金貸くんの気持ちと借主くんの気持ちを対立させてみたのですが・・・


金貸くんと借主くんの間に険悪な空気が流れる。

じっと、借主くんに眼光を浴びせる金貸くんに対して、その眼光を避けるが如く俯く借主くんなのだった。

パチパチと何度も瞬きする金貸くんと、俯く借主くんの2人の距離は3メータほどである。

その距離から2~3歩、足を借主くんの方へ進める金貸くん。パチパチと何度も瞬きを繰り返しながら、沈黙を決め込む借主くんに歩み寄る。

空かさず、2~3歩後ずさりする借主くんはヤバイと、何かの予兆を感じるのだった。

金貸くんは何度が口をパクパクと動かすように、軽い深呼吸を繰り返すのだった。


「オ・・・」何かを探すようような仕草で少し天を仰ぐように一瞥をくれてから、思い切って借主くんに言葉を投げかける金貸くん。

「オ・・・オ・・・オイラとお前は友達だったよな・・・」

現在進行形とも過去形とも取れる問を、借主くんにぶつける金貸くんだった。

「・・・・」

無言の借主くんだが、俯いた姿勢で上目を使って金貸くんを見ると、金貸くんの形相はスーパーサイヤ人の悟空よりはカッコ良くないが、髪が逆立っているのだった。

「と・も・だ・ち・・・だよ・・・な・・・」

借主くんは、金貸くんの言葉にハッとして顔を上げると、金貸くんの目には閃光を光らせてる薄い水分が溜っていた。

(涙・・・)まさかと、借主くんは金貸くんに対して持っていた概念が崩れさろうとしていた。

借主くんの知っている金貸くんは、能天気なお調子者で女好き。人生そのものが無謀であり、何を言ってもギャグで世間、いや社会さえ舐めきって生きている金貸くんというイメージには、あまりにも涙は似合わない。

「このヤロ~ォ!」と言って、飛び掛かって来られると思っていた借主くんは、何でいつもの様にひょうきんさを交えた、マシンガントークを発射して来ないのか、不可思議だった。

「楽しかったよな・・・バカやってたけどオレたちももう、26歳になっちまった」

意外な金貸くんの言葉に、返す言葉を失ってしまう借主くんだった。

「・・・・」

無言のまま、金貸くんを直視してみると、眼に溜っていた水分が一本の線になって流れて、閃光を強めた。

「ともだちと別れるってことは、女と別れるってことよりも男にとっては辛い場面かもだ。じゃーあな・・・」

金貸くんは踵を返して、裁判所内に設置されている喫煙所に向かうのだった。

「か・・か・・・カネ・・・」

借主くんは、金貸くんの愛称の「カネ」と呟くと、金貸くんの後ろ姿に語り始めた。

「ゴメンよ。オレ自分のことばっか考えていて、そのぉ~カネの・・・」

金貸くんは汚く丸めたハンカチで、眼がしらを右手で軽く押さえた。

「そんなにカネが思い詰めてたってことに、気付かずにいったオレがわ・・・

悪かったって・・・そのぉ~」

カネっと、背後から呟かれた金貸くんは力なく立ち尽くしながら、また目頭を押さえた。その後ろ姿は振るえる身体を(ようや)くと支えているようにも見れるのだが、その実は法廷での緊張の糸が切れているだけだった。

「ちゃんと返すから・・・だ・・・だ・・・だから泣かないでくれないか・・・」

金貸くんの後ろ姿に借主くんは、自分の思いの丈をぶつけた。

金貸くんはギョロっとした眼付きで後ろを振り返り、借主くんを睨んだ。

その金貸くんのギョロっとした眼と、借主くんの視線が定まらない眼とが交差する沈黙が、数秒間流れた。

金貸くんは踵を返すと、借主くんにゆっくりと歩み寄った。

「泣いてるって、誰がだ・・・?」

借主くんはキョトンとした眼で、金貸くんの顔をに一瞥をくれた。金貸くんの眼からは先ほどの、涙にむせぶような眼とは一転して、大きな眼が開いていた。

「だって・・・さっきさぁ・・・」

「バカいうな!こっちの眼を良く見ろ!」

金貸くんは右眼に自分の人差し指を向けた。借主くんは金貸くんの人差し指を注視した。借主くんはハッとした。

金貸くんの右眼の瞼が少し赤みを帯びて、膨らんでいるのだった。

「どうしたのその眼ってか、まぶたは・・・?」

「おーおーっ!どうも先から右眼のコンタクトが瞼の裏にズレて、上手く眼球に付いてくれなくってよ・・・」

金貸くんは右眼だけが0.2の近視であった。ちなみに左目は1.2である。

「あっ?オレ目薬持ってるし・・・」

「貸してくれるのか?」

「もちろん」

借主くんは頷いて、リュクから目薬を取り出した。コンタクトレンズ対応の、眼精疲労の点眼薬である。

金貸くんは法廷での審理中に瞬きするのも忘れて、大きく眼球を突き出すような眼で借主くんを睨みつけていたため、眼の潤いを消失させていただけである。

「そういやーあ、お前っていつも目薬もってるよな。何でだ・・・?」

目薬一つで、怪訝な表情を作る金貸くんである。普通にコンタクト使用者は点眼薬を持っているものだが、こと金貸くんについては例外である。

この金貸くんは病院に行くことも、薬を服用することも一切ない完全な健康体である。

それより何より、注射器の針を見ると怯えてしまい脳が混乱してしまう、極度の病院恐怖症の持ち主なのである。

実は金貸くんは幼稚園生の頃に遡ると、風邪を拗らせて母親に病院に連れて行かれた際に、当時の看護婦から注射されてしまい大声で病院内で泣き(わめ)いてしまって、病院を大変に困らせてしまったお人なのです。

それ以降は病院とはご無沙汰状態なので、金貸くんは今でも病院に勤務するのは「看護師」ではなく白衣の天使である「看護婦」と思い込んでいる、ジェネレーションギャップした頭脳の持ち主なのだった。

賢明なる読者諸氏ならご理解していると思いますが、2002年3月から看護婦の名称が、看護資格を有する男女に関係なく看護師と呼ばれるようになり、現在に至っているのです。


「あんがと・・・」

逆立ってていた髪を掻き毟る仕草で、照れ笑いを作る金貸くん。

「オレは仕事柄パソコンなんかも良く使うので、その対策に持っているだけさ・・・」

金貸くんから目薬を受取りながら、目薬の所持について釈明する借主くん。

「そっか。オイラと違い身体機能がデリケートだかんな、お前って・・・」

「そのぉ~カネ・・・」

「何よ」

「だからそのぉ~・・・」

「どうしたのさ」

「返すよ、ちゃんとさ・・・」

「まあっ、いいって。じゃあーな。アバよ・・・」

借主くんに背を向けてその場を立ち去ろうとする金貸くんに対して、借主くんは言葉を投げかけた。

「ボクらは、ともだちだよ。全てオレの不徳さあ。だからこんな思いをさせてしまって、ゴメンよ・・・」

金貸くんは背を向けたまま、無言で俯いた。


アバよ?借主くんは友達としての別れを告げられたと思ったので、後悔が脳裏をよっぎった

「なあ・・・もう一緒に遊んだりできないのかな・・・」

力なくも、金貸くんに自分の非を認めて謝ってみる借主くんである。金貸くんは両手の(こぶしを握りしめながら、言葉を探しあぐねた。2人の間に再び重苦しい沈黙が交差する。

「何いってやがる。ここは裁判所だそお。オイラは、お前と平和的に解決するためにここに来てるんだ。ヌシもそうしたいと望んていたんだろ。でもな。バカやってらんないじゃん。何時までもよお・・・」

久しぶりにヌシの愛称で呼ばれた借主くんは、真面目なことを言う金貸くんに少し眼を潤ませたが、何時もふざけたイメージしかなかった金貸くんの意外な一面を、垣間見た。

「話がしたかったんだ・・・ヌシとよ。オイラは。そけだけさ」

「バカやってたよな・・・オレたちって・・・」

「埋もれたるんだよ、オイラもお前も。法律ってやつによ・・・」

「埋もれてる・・・?法律に・・・?」

予想外の金貸くんの言葉に、意味が分からない借主くんは金貸くんに持っていたやんちゃ小僧から、大人へと脱皮した、金貸くんの存在を認めた。

「・・・・」

返す言葉が見つからない借主くんである。

「オイラ・・・タバコ吸いに行ってくるわ・・・」

借主くんは、少し寂し気に歩く金貸くんの後ろ姿を見送った。


2人はゆっくりと着席した。金貸くんはタバコで一服して落ち着いているが、一方の借主くん緊張感に包まれて、カチコチ状態だった。判決の言渡しの時刻は押し迫っていた。

書記官女史が2人に一瞥をくれると、金貸くんは書記官女史にウインクした。

それを軽く流す、書記官女史。

「オイラの眼!これこれ・・・見てよ」

右の人差し指で右眼を示して、眼の不調をアピールする金貸くん。

既に書記官女史をお友達と思い込んでいるので、いつも通りに振る舞う金貸くんである。

「自業自得です」

サラリッと、金貸くんの言葉をかわす書記官女史。

裁判官女史が入廷して来ると、法廷は静粛に包まれた。といっても法廷の中は裁判官女史と書記官女史それに合わせて金貸くんと借主くんがいるだけで、法廷の柵の外の傍聴席には誰もいないのだった。

静まり返る法廷の中で、裁判官女史の丹誠を込めた声により第2幕の緞帳どんちょうが上がる。

「それでは判決を言渡します」

金貸くんは大きく息を飲み込んで、止めた。

「主文」

「ちょ・・・ちょっと・・・まってください・・・!」

借主くんは咄嗟に声を発していた。裁判官女史は借主くんの方へ顔を向けた。金貸くんはまだ右眼をパチパチさせて「何だ?どうした?おいおい?」といいたかったが、裁判官女史は金貸くんの方を見なかった。

「どうしました」

借主くんに問い掛ける裁判官女史。その方向に書記官女史と金貸くんが眼を遣る。

「ボ・・・ボク・・・払います。10万円を金貸くんに・・・」

「それはどういうことですか」

「よく考えたら、ボクの勘違いかも知れないし、そ・・・そ・・・れにお金のことで金貸くんとの友情に亀裂を入れたくないので・・・」

「本当にいいんですか。あなたはそれで」

「は・・・はい。も・・・もちろんです」

「書記官、被告の借主さんは自白したと看做みなしますので、記録してください」

訴訟記録に借主くんが、金貸くんの請求を認諾したことを書き綴る、書記官女史。

裁判官女史は金貸くんの方へゆっくりと向き直り、金貸くんの言い分を聞こうとする。しかし、金貸くんはまたもや、裁判官女史にウインクをしてしまうのだった。

再び裁判官女史は、金貸くんのウインクをスルーした。

「原告の金貸くんは、借主さんのいったことに何か反論しておくことはありますか」

金貸くんは借主くんを数秒間直視して、裁判官の方向へゆっくりと言葉を返した。

「そういう奴さ。あいつは。オイラと彼奴(あいつ)は、友達なんだからさ」

金貸くんは爽快な表情を浮かべた。


つづく。

第10話予告

いよいよ最終回。金貸くんが借主くんにいった「埋もれてるんだ・・・法律に」の謎について、金貸くんは借主くんを解き明かすことができるのか?2人の今後の友情は如何に・・・

(9/2の現在、最終話の執筆中です。今しばらくお待ちください・・・著者談)

これからの金貸くんと借主くんをもう少し時間を掛けて描いて行きたいので、最終話までの投稿にまたしてもお時間をいただきまますが、遅筆な著者も夏の暑さにも負けずに褌を締めてかかっています。

拙い文章でお見苦しい点も見受けられると思いますが、後々と加筆・訂正していきたい所存です。

読者諸氏におかれまししては、最終話までお付き合いしていただければ幸いです。

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