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第6話・金貸くんの逆襲。借主くんピンチに陥りそうになる。

「では、宣誓をしてください」

裁判官女史は、金貸くんと借主くんを同時に宣誓をさせるのだったが、金貸くんは、またまたまたバカなことを言ってしまう。

「我々は、スポーツマンシップにのっとって、正々堂々と戦う・・・」

ここで裁判官女史は、キッと眼光人を射る感じの眼差しで、金貸くんの宣誓を遮るのだった。

「そうではありません。違うでしょう。ふざけないでください。ここは法廷です」

金貸くんを威圧する声で、注意する裁判官女史である。

そしたら金貸くんは、オドオドしながらも「も・・も・・・元へ・・・せ・・せん・・・宣誓-良心に従って真実を述べ、何事も隠さず偽りを述べないことを、誓いま・・ま・・す・・・から・・・」

裁判官女史は、「から」は必要ありません。と、忠告してから虚偽の証言をした場合は「過料」の制裁を受けることが有ることを、告知する。

(注・この宣誓の個所は著者の創作であり、実際の少額訴訟の本人尋問及び証人尋問では「宣誓」は、省略される場合もあることを、ご理解ください。)


その横で、借主くんが口許を塞いで笑を堪えているのだった。もっとも、訴訟当事者以外の者が虚偽の証言をした場合には、偽証罪が成立するのである。

何はともあれ、金貸くんからの当事者尋問がスタートした。


「では、借主さんが家賃の支払いや生活費の他に、買い物などに必要だからと、あなたが相談を受けて、10万円を貸した言う経緯があった訳ですね」

いたって、簡潔な尋問をしている最中の裁判官女史であった。

「でも、あれだ!借主が金を貸してくれって言って来た時に、オ・・オイ・・・も・・元へ・・・ボ・・・ボク・・・ボクは、嫌だって言ったのさ・・・」

本当に女子に対しては、敬語の使い方が下手クソな、金貸くんであった。

「でも、最終的には借主さんに、お金を貸した訳ですよね。なぜ、貸したのですか」

裁判官女史の尋問事項が佳境に入る。裁判官の心証を左右する最も重要な部分だ。

「う~ぅっと、それはだ!一緒に借主と居酒屋で酒を飲んでいて『お前はケッチくさい奴だな・・・』とか、何とか言われて『何!オイラがケチだとぉ!よし分った。今からキャバクラで奢ってやる!!』と、オイ・・・じゃなくって、ボクのプライドが傷ついた気になってだ・・・それでだ、キャバクラに・・・」

どうでも良いことを、長々と話す金貸くんの証言を遮って、裁判官女史は次の証言を金貸くんに促すのだった。

「簡潔に、お金を貸した内容だけを話してください」

金銭の交付経緯の事実だけを聞きたい、裁判官女史であるのだが、どうも一言多く言わねば気が済まない金貸くんなのである。

「だから・・・キャバクラに良い女がいて・・・そして・・・」

「ですから、キャバクラはもう良いのです。要は、それからお金を貸したのですか」

「そうだよ。オ・・・ボクは本当は気前が良いから、よし貸してやると言って、キャバクラに行った次の日に銀行に行って100万円を下ろしてから、10万円を借主に貸したのさ」

「100万円?でも、あなたの提出している証拠によると10万円しか引き出されていませんよね」

「いや、それわだなあ~。実は、100万円を下ろしたつもりでだなあ、泣く泣く残金の12万2000円と、34円から10万円を引き出しているって訳さ・・・」

「そんな、『つもり』なんて、必要ありません」

毅然と職務を追行する裁判官女史だったが、こんなややこしい金貸くんが相手では、職業裁判官としてのキャリアに、屈辱を覚え始めているのだった。


「だってさあ・・・キャバクラで楽しかったんだもん。お金も使ったけど、アイリちゃんがLINEのID教えてくれてさ・・・」

どうも、裁判官女史をお友達と勘違いしている、金貸くんなのである。

「ですから、キャバクラの話しはもう良いですから。借主さんは、あなたから10万円を受け取った際に、そのお金を貰ったとは言わないで、借りると言ったのですね」

ここが大切なのである。貰った。借りた。の事実が証拠としての機能が大きく別れるのだ。

「そうさぁ。借主の奴は今度、必ず金が入ったら返すって、言ったんだもん」

「金が入ったらって、具体的には、どんなことを借主さんは指して、言ったのですか」

この「金が入ったら」と言う意味の中には、俗に言う『出世払い』の意味を含むと、裁判官女史は判断したからだった。


出世払いとは、つまり、将来的に出世(成功)した時に返済すると言う「約束付き」の債務を言い、金銭借用証書に「出世払いの催促なし」と書いた借用書なら、『出世証文』と言う。

そして、出世しなかったなら支払う必要がないと言う意味としたならば『停止条件』であるから、その金銭の返済は出世(成功)の時まで猶予される。又、出世しないことが『確定』した時に弁済期が到来すると言う意味ならば、『不確定期限』である。

過去の判例においても、後者の『不確定期限(意味のわからない人は、「不確定」と「期限」を辞書で調べよう)』との、意味と解したものが多い。

もっとも民法上は、その具体的事情に即して、当事者の意思を判断して決定(解決)するのが妥当であるとしているが(ねぇ。1つお利口になったでしょう。この読者は・・・笑)。


「うっ~とっおっとと、確かあの時は今度、給料が入ったら返すとか言ってたが、給料が入ると、今度のボーナスで返すと、必ずいつも借主は言うのさ」

金貸くんは、裁判官女史の質疑に対して、他人事の様に言うのだった。自分の事なのに・・・

「はい。分りました。では借主さんの方は、反対尋問はありますか」

借主くんは、首を振り「ありません」と言う。

漸くと、金貸くんの本人尋問が終了して、書記官女史は笑を含みつつも、金貸くんの横柄な態度に呆れ返っているのだった。


「では、借主さんの尋問をしますから、証言席に座ってください」

至って、冷静に審理を進行している裁判官女史は、その実は金貸くんに対する本人尋問で、胸中はへとへと状態なのだった。

「あなたは原告の、金貸くんからお金を借りた事は認めてますが、幾ら借りたかは覚えていないとの事ですね」

借主くんの本人尋問がスタートする。

「はい。ボクは5万円位だったと記憶しています・・・」

「『位』とは、何故、その様な曖昧な記憶をしているのですか」

「はい。確かにお金を金貸くんから借りた記憶はあるのですが、その後で、また金貸くんに無理やりとキャバクラに連れて行かれて、お酒を飲んでしまっていたので・・・」

「い・・いっ・・異議有り!うっ・・嘘だ!お前は何を言ってやがる!あの時はキャバクラじゃなくって、アスハちゃんのいるガールズバー・・・」

突然に、が鳴り声を上げる金貸くんに対して「静かにしなさい!異議はできません」

金貸くんを静粛にするよう促す、裁判官女史だったが、要はキャバクラだろうがガールズバーと称する店でも、女性のホステスが接客するスナックでも、そんな事は問題ではなかった。


民亊裁判は刑事裁判と違い、主尋問の最中は「異議有り!」などと言って、口出しは出来ない決まりがある。証言中の本人に尋ねたい事があれば、反対尋問で聞きなさいと言うシステムなのである。

もっとも、現実の刑事裁判でも「異議有り!」っていう、筋書のあるドラマのようなシーンは、そうはないのだが・・・・

「だ・・・だっ・・・て、アスハちゃ~んが・・・」

裁判官女史の威圧的な言葉に少々、弱々しく呟く金貸くんなのだった。

「では、5万円くらいというのはなぜ覚えているのですか?」

「はい。確かあの時は、お金を受け取ってからキャバク・・・じゃなくって、ガールズパーだったかに金貸くんから飲みに行こう行こうと、しつこく誘われたので、お金を数えないまま急いで自分の財布に入れてしまったので・・・」

どうやら借主くんは、『錯誤(注・解説参照)』により、金貸くんが主張す「10万円」ではなく、自分が借りたのは「5万円」だから、残りの5万円は無効(知らない)だと、言いたいらしい。

金貸くんはメラメラと、借主くんを睨み憑けているのだった。

「うっ・・嘘だ!オ・・・オレはしつこくなんか誘って無いぞ!お前が喜んでついて・・・」

何かと吠える金貸くんに、裁判官女史は再び眼光鋭くこう言うのだった。

「静かにしなさい!今度、騒ぐと退廷させますからねぇ〆」

「だって・・・アスハちゃんに会いに行こうって・・・借主の奴が言ったんだもん・・・」

力なくぼそぼそと、金貸くんは呟くのだった。

それを見て、書記官女史は苦虫を噛むような思いで、含み笑いを堪えているのだった。


 つづく

 第6話予告

 借主くんは本人尋問でピンチに立たされるが、このピンチをかいく潜り金貸くんの逆襲を避けることができるのだろうか・・・

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