プロローグ
あけましておめでとうございます。
初投稿です。
他の小説と並行して書いてるので、亀更新ご了承ください。
なかなか寒い。
巻き上がる砂埃。
橙の電灯に集る蛾は、蝿のようでもあった。
1人の男が奇声を上げる。
その硬そうな胴が、不恰好に翻り、後方に尻餅をつく。
仲間らしき他数人の男が、彼の元へ駆け寄った。
どうやら腰が抜けてしまったようで、男は立ち上がれないまま、
呂律の回らない口を細かく震わせた。
今にも失神しそうな勢いで、彼は痙攣する人差し指を路地の入り口の方へ向ける。
仲間の男たちは、その指さす先を一斉に振り返った。
拍子抜けしてしまうような、細い手足と、骨ばった胴。
安物の装いは、ところどころ擦り切れている。
あまりにも貧弱なその体つきは、まだ成長期前の幼い子供のようにさえ見える。
しかし、その鋭く冷ややかな目つきに、男たちは身を竦ませた。
本能とでも形容しようか、その絶対的な感覚が、全身の神経が、
痛いほどにその空気を感じ取っていた。
意識の奥深く、静かに蒼く燃える、殺意。
少しでも触れたら、傷ついてしまいそうな、諸刃の剣のように、
彼の眼光はちら、と反射した。
指をさしていた男が、何かを大声で口走り、がくりと倒れた。
周りにいた他の男たちは、あまりに無知なのだろうか、少年の方へと正面切って飛びかかる。
しかし、その威勢のいい叫び声は、少年の目の前でひたと止み、
一瞬にして恐怖に裏返る。
男たちは、続け様に地面に背中を打ち付けた。
痛みに呻く声。
少年は、溜息をつき、とどめとでも言うように彼らの脇腹のあたりを
同じように蹴った。
最後の1人が、この世の全てに絶望したような顔で喚く。
「まさか、お前、こんなガキが………!」
少年は、有無を言わさず、男の体を強く蹴飛ばした。
彼は、ポケットに手を突っ込んだまま、路地を1人進んでいく。
「汗臭ぇ…。」
深くため息をついて、小さくぼやいた。
その後ろ姿は、まるで普通の少年と、変わりはなかった。
ただ少し、哀しげだったということ以外は。