九十話 心構え
皆様、メ、メリークリスマス……(遅い)。あ、明けましておめでとうございます(小声)。
はい。クリスマスを過ぎて、お正月も過ぎてしまいました。ダメダメな木崎 咲です。
今年もこんな感じで細々と頑張りますので、よろしくお願いします。
「イヒ、イヒヒヒヒ。あぁ、ああああ。想定外想定外。イヒ。私の知らない魔力が存在するなど!キヒヒヒ。あぁ、これを解析すれば私の作品がより完成に近づく!」
青白い光によって照らされた部屋で男の笑い声が響く。
彼の眼前には複数の魔道具を組み合わせて作った物が、ある映像を、まるで本当にそこにあるかの様に写し出している。
「それにあの影!魔力を纏っていますが、私の目は誤魔化せません!あれは魔法ではなぁい!本当に影が動いている!影が物理的衝撃を伴っている!存在事態が意味不明!一体何をどうすれば影が実体を持って動くなどという怪現象が起こせるのか!今の私では全くわからない!あぁ、たまらん!未知、未知、未知!キヒヒヒ」
彼が視ているのはとある存在が見ているものをそのまま映し出した物。その存在が見ているものを映し出しているので見ている本人の動きが見えないのが難点だが、精度はかなり高い。
現在そのとある存在が一方的に攻撃を受けている。
「ふむ。やはり治癒中の隙をどうにかしなければ話になりませんねぇ。対策を立てられればこの程度。せいぜいが戦局をひっくり返す一度きりの爆弾と言ったところですか。本物には程遠い」
『マイスター。肉体の損傷率が22%、障壁の損傷率が58%に達しました。撤退の指示を』
部屋に少女の声が響く。機械的で感情の薄い声だ。
それは現在映像を写している欠陥品の声だった。
「そのまま戦闘を続けなさい。その他の攻撃などどうでもいい。データベースに存在しないそこの二人の魔力を受け解析し続けなさい」
映像に興奮していた男はその声を聴いた途端に笑みを消し、先程と同一人物とは思えない程冷めた声で命令する。その瞳も路傍の石でも見ているかのような、興味の欠片もないと言いたげなものだった。
『このままでは生命活動に異常が残る可能性があります。マイスター。撤退の指示を』
「実験の記録はリアルタイムでこちらに送られている。バックアップはあるのです。何度も経験しているでしょう?その肉体が壊れたのなら次の肉体を使えばいい。記録は受け継ぐのですから何も問題はないでしょうに」
『ですが……』
「いいから、実験を続けなさい」
『……yes。マイスター』
その一言を最後に少女の声が消える。機械的で感情の薄い声だったが、聞く人が聞けば辛く悲しげな声だと感じただろう。
彼女は感情表現が乏しいだけで、感情はあるのだから。
けれど、それは彼にとっては煩わしいことでしかなかった。
感情を消した個体も作った。けれどその尽くが感情を持っている旧型にさえ劣った性能しか発揮しなかった。だから、感情を残している。
方向性を決められるのならばそうするのだが、いくら天才と言われる自身でも感情そのものを操作する程の技術は持ち合わせていない。自身にできないのならばこの世界にその技術はないのだろう。感情は残すか消すかの二択だ。
二択ならばより性能が良い方を選ぶのは当然とも言える。それに目標である本物は感情を持っていた。だから、彼は感情を残すことを選んだ。
「あの影も調べたいところですが、今重要なのは未知の魔力の方。これはきっと、完成に近づくピースのはず」
彼は映像から視線を外して背後へと振り返る。
彼の背後には無数の培養槽が、青白い光を放っていた。
中に浮かんでいるのはどれも同じ人の形をしている。顔の作りから身長などの身体的特徴までもがそっくりだ。
「あぁ。私の作品が、もうすぐ、もう少しで完成する。イヒ、イヒヒヒヒヒ」
彼は培養槽の一つに手を当てて笑う。
培養槽の周りは、彼の服も含めて全て赤黒い色で染まっていた。
☆☆☆☆☆
ミカ達と天使の戦闘は一方的な展開を見せていた。もはや天使の隙を伺う必要など無いほどに。
アキラの炎を纏った剣が、ラナの短剣が、ククルの魔法が、順序良く放たれる。
これ等の攻撃には間に間隔があるのだが、その全ての隙を大してダメージを与えることの出来ないミカが繋げ役として埋めることで間断の無い、治癒・修復の時間を与えない連携を実現していた。
その様はもはや戦闘ではなく作業と言っても差し支えない。
「も、もう止めてあげた方が……」
「逆だ。何かをされると不味いから徹底的に潰すんだよ」
あまりの光景にアクリアが悲痛な声を出して止めに入ろうとするが、それをクロークが制止する。
天使の見た目も相まって、アクリアには大人がたった一人の子供を集団で虐待しているようにしか見えなかった。
「でも、これは、あまりにも……」
見ていて気分の良いものではない。
「あぁ。こんなものは戦闘ではない。悪いが止めさせてもらう」
フェルディナもアクリアと同じ気持ちで、不快感を隠そうともせず歩み出しクロークに止められる。
「あいつは俺達を殺そうとした。なら、殺される理由には十分だろう?」
「戦闘ならば私も文句は言わない。だがこれは強者が弱者をいたぶっているだけだ。私達は魔族じゃない。殺されそうになったからといって虐殺をしていい理由には―――っ!?」
それでも無理やり進もうとしたフェルディナだったが、咄嗟に飛び退き剣を構える。彼女の視線の先にはクロークがその拳を振りきった姿勢で立っていた。
「……何の真似だ?」
「俺は姉さんにここを任されてる。行かせるわけにゃぁいかねぇのさ」
「……お前はあれが、あの光景は正しいものだと思っているのか?」
「あぁ」
即答だった。
迷うそぶりも、言い淀む様子も一切なく当たり前の事の様に。
フェルディナの瞳に殺意がこもる。一方的な虐殺を見て彼女は自身の兄と父のことを思い出していた。
一方的な蹂躙によって殺された家族の事を。
「なら、お前も弱者を虐げる魔族と同類だ」
「……俺とお前じゃ見えてるもんが違うみてぇだな?俺が見てんのは弱者が出来うる手段で強者を倒そうと足掻いてる姿なんだが」
「あれらのどこが弱者だ。ミカ、アキラ、幻魔。ラナが強いのは知らなかったが、全員が私より強い」
「それが判るんならあの羽が生えた奴の強さもわかるんじゃねぇの?」
「私では相手にならないだろうな。だが、あそこまで強者が揃っていれば苦戦などあり得ない。何せあの幻魔までもが協力している。現に、相手は一切の抵抗も出来ていない」
「……あいつがいるなら何とでもなる。心配するだけ無駄だ。そんな考えは早々に捨てた方がいい。強者に付いてた奴からの忠告だ」
「……家族が殺された時点でそんなもの捨てている」
二人は互いに剣呑な雰囲気で睨み合う。
何時ぶつかってもおかしくない状況にアクリアが一人慌てていた。そんな状況ではないと判っていたのだが、つい彼女は何時も喧嘩の仲裁をしてくれているアキラかラナのいる方、つまり戦闘組へと視線を向ける。
「あ」
目を向けた事を少し後悔した。
彼女の視線に写ったのは今まさにアキラが少女の首を跳ねとばす瞬間だったのだ。
確かに敵対してきた存在。かなりの強者だと思った存在の最後は実に呆気なかった。
一方的になぶられての死。それが何故だが無性に悲しかった。
◇◇◇◇◇
天使を撃破したミカ達四人はそれぞれが疲れた様子を見せつつ天使の回りに自然と集まる。
「……え?」
「……」
警戒しながら近づいていたククルは天使が良く見える位置まで来ると驚いた様子で立ち止まり、ラナは天使が何も反応せず死んでいることを確認してからようやく緊張を解きその場で立ち止まった。
「……」
「……」
止めを刺したアキラと常に連結役として近くで動き回っていたミカは互いに一度目配せをし、それぞれが別の方向に向かう。
ミカは胴体から少し離れたところに落ちていた天使の頭を一度鞘に入ったままの剣で軽く叩いて安全を確認し、自身の服を汚さないよう頭部を鷲掴みするようにして拾う。ミカの方が近かったのでミカが拾いに向かったが、アキラの方が近ければ彼が拾ったことだろう。
そのアキラは天使に直接触れないように魔法で造り出した氷の剣を手に持ち、天使の体を軽く叩くようにして罠の類いが無いかを確認している。
「どう?」
ミカはアキラに近づきながら問いかける。声音は軽いものだが片手に少女のような頭を持ったまま平然としている為、その姿からは一種の狂気を感じられる。
そんな異常を前にしているにも関わらず、アキラもまた平然と返す。
「問題ねぇな。……自爆とか警戒して、端から見るとバカ見てぇだな」
「ゲームのしすぎでしょ。まぁ、何も疑わない僕もサブカルにドップリなんだけど」
と、そんなやり取りをしている間に待機していた他のメンバーも戦闘が終わったと確信し集まってくる。
一番に来たのはフェルディナだ。
彼女は一度ミカが持っている天使の頭を見て辛そうな表情を浮かべる。
(そういえば、あのときの死体って首斬られてたっけ?)
彼女と初めてあった町で元従者だったダナルに見せつけられた家族の死に体を思い出したのだろう、とミカは予測する。
それならば人間っぽい存在の生首を持っている人型の存在というのは見ていて不快になるのは当たり前だ。ミカはそう思い胴体の近くに生首を置く。
「貴方達は自分が何をしていたのか、わかっているのか?」
すると、怒りを圧し殺したような声でフェルディナがミカ達にそんな事を尋ねてきた。
「何をした、って……」
「攻撃してきた奴を排除した。それだけだろ?」
ミカとアキラは何がおかしいのだろう?と互いに顔を見合せ、そう答える。
その回答にフェルディナは蔑むような視線を向けてきた。その視線を受けてミカは一つ思い浮かんだ。
「あ、死体をつついてること?でも、何か仕掛けられてたら危険じゃないですか」
「本当にわからないのか?」
ミカの回答にフェルディナの視線がより冷たくなる。苛立ちによるものか、殺気まで漏れ出していた。
その殺気に反応してアキラが愛刀の柄頭に手を添える。
「弱者をいたぶって、楽しかったか?」
「「は?」」
彼女の言葉はミカ達にとっては全くの予想外で、検討外れなものだった。
彼女は何を見ていたのだろう?
二人は全く同じ事を思っていた。
「これだけの強者が集まっていながらたった一人を囲んでいたぶる。魔族と同等のやり方だ。私達がやっていい事ではない」
「バカかお前?殺し合いにやって良いも悪いもあるか。明確に敵対してるなら殺す。どんな手だろうが使って殺す」
「ふざけるな。私たちは獣じゃない。善悪を常に選別して行動するべきだ。私達は獣と違って考える頭がある。それは何のためだと思っている」
彼女の回答にアキラはため息を吐いて天使の調査に戻る。相手にするだけ無駄だ、と判断したようだ。
その態度にフェルディナがキレたのか、自身の得物に手を伸ばす。
直後に彼女とアキラの間にミカが割り込んだ。
フェルディナは邪魔をしてきたミカへと視線を向け―――
「……っ」
怯んだ。
彼女の目の前でミカが自身に視線を向けていた。その視線はまるで機械を思わせる程に冷たく冷めている。
「……なるほど。貴女を戦場に出さなかったご家族の判断は正しかったみたいですね」
「……どういう意味だ?」
「フェルディナさん。貴女が家族に戦わせてもらえなかった理由ですよ。それ」
「何だと?」
「まぁ、自分じゃ分かりにくいですよね。要するに、甘いんですよ。フェルディナさんは」
「ほう?……つまりこういう事か?お前は『相手が人間だから』と私がお前を斬れないような『甘い』人間だと思っていると?」
「ちょっと違うんですが、まぁ離れてる訳でもないですね。それに、貴女は人間である私を斬れない『甘い』人間だと思っているのは事実ですし」
「なら、お前を斬れると証明してやる。構えろ」
彼女はそう言って剣を抜き、ミカへと突きつける。自分は本気だと証明するように。
実際、彼女は本気で言っている。本気でミカを斬る気でいる。
「ちょっと、今はこんなことをしている場合じゃないでしょ?」
その事に近くまで来たアクリアが慌てて止めに入る。集まってきた他のメンバーもフェルディナの動きを注視していた。
「どうして構える必要が?」
「何?」
そんな剣呑な雰囲気の中でミカは周りをあえて無視し、フェルディナへと笑みを浮かべて問い返した。
これにはフェルディナだけでなく、他のメンバーもミカが何をしたいのか分からずに首を傾げる。
ミカはへらへらと笑い、フェルディナを迎え入れるように両腕を広げた。
「……何の真似だ?」
「ん?人を斬れるって証明するんですよね?どうぞ。斬ってくださいな」
「は?」
ミカの言葉にフェルディナが間の抜けた声をあげた。何を言っているのかわからなかったのだろう。周りに集まってきた面々もミカの言葉を飲み込めずに首を傾げていた。
そんな中アキラがすくっと立ち上がりいつでも刀を抜けるよう柄頭に手を置く。そんなアキラにミカは軽く蹴りを入れた。気にするな、という意味を込めて。
正確に理解したアキラは結局気にしたままではあるが再び天使の調査に戻る。
その一連の流れの後、フェルディナが再起動した。
「……無抵抗の相手を斬れるか」
「それが『甘い』と言っているんですよ。斬ると決めたんですよね?なら何故相手が構えるのを待つんですか?」
「無抵抗の相手を斬るなど、騎士道どころか人道にも劣るからだ」
「その人道にも劣る行為がまかり通るのが戦場です。不意打ち、騙し討ち、食料に毒。それらが扱われるのが戦場です」
ミカの言葉にその惨状を想像したのかフェルディナが顔をしかめる。ミカの背後でアキラが小さく鼻で笑っていたのに気づいた様子はない。
「貴女は戦場が、名乗りあっての決闘の場とでも思っていたんですか?そこまでは思っていなくとも誇りある戦いだと、そう思っていたでしょう?だから、貴女の家族は貴女を戦場に向かわせなかった」
「そ、そんな事はない。私は理解していた。ちゃんと、戦場がどういうものかを……私は……」
彼女は否定の言葉を口にするが、その声はしりすぼみに小さくなり、最後の方など消え入りそうな程に小さな声になっていた。
否定しきれなかった。言葉には出せたが、心がミカの言葉に納得してしまった。否定の言葉は中身の無いものだった。
彼の言葉が正しかった。
戦場で活躍するのは夢のある話だった。本で語られる騎士はどれも戦場で活躍するものが多い。
だから、戦場には花があると思っていなかったか?憧れている人がいるのだから、それは魅力的で綺麗なものだと思っていなかったか?
彼の言葉を聞いて、彼女は理解する。
(そうか。私が、子供だったから……役に立てないと置いていかれたのか)
現実を見ていない少女だったから、だから自分は戦場に立てなかった。
家族の支えになれなかった。
「要するに―――」
やめて、聞きたくない。
彼女は耳を塞ごうとしたが、それよりもミカが言葉を紡ぐ方が早かった。
「―――貴女は家族に大切にされていたんですよ。愛されてたんでしょう。夢を壊さないために貴女の家族は貴女を戦場に連れていかなかったんです」
素っ気なく、まともに感情すら込めていないであろう適当な声音で彼は言う。
内容は彼女の予想とは違い優しいものだった。
アキラが鼻で笑っていた理由
アキラ「いや、俺達実際の戦場知らねぇから。それに言い負かされてる騎士とか騎士(笑)じゃん」




