表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
一章 異世界
3/111

二話

残酷な描写があります。苦手な方はバックをお願いします。

ちゃんと表現できているか自信はないですが。

 彼女、リリィ・クラウンは、状況を理解できないでいた。


 現在の状況だけでなく、この場になぜいるのかも。





 今日も彼女は、部屋から出してもらえず、本を読んで過ごすと思っていた。


「外は安全ではございません。貴女様は、魔王の娘なのですから。もしもがあったら」と。


 何度外に出てみたいと頼んでも同じように断られてきた。


 だが、この日は違った。



 コンコンと部屋のドアがノックされ、


「リリィ様、ガウディ様がお呼びです」


「わかった。すぐ()く」



 することの無かったリリィはすぐに準備をする。といっても壁に掛けてある己の武器にして、魔法の発動媒体である鞭を取るだけだったが。


 これもまた、部屋から出るときは必ず持っていけと何度も繰り返し言われたことだ。



 彼女は部屋にある姿見で自分の姿を確認する。


 159cmの身長に腰辺りまである暗い紫色の髪。顔は小さく、瞳の色は明るい紫色。耳は先端が尖っている。


 衣装は、膝辺りまである背中がむき出しな漆黒のドレス。肩甲骨の下辺りに黒い小さな羽がある。


 靴は膝下まであるブーツ。


 ドレスとブーツの間には外に出ていないがゆえの病的なまでに白い素肌が覗いている。


 服装に乱れがないかを確認したリリィは上機嫌で廊下を歩く。


 ガウディは魔王の配下の中でも古参の魔族だが、彼女にとっては、外の、特に人間や魔物との戦闘について話してくれる気の良いおじさんだ。



 だから彼女は気づかなかった。


 いや、気づいてはいたが、違う意味でとっていた。


 部屋をノックしたガウディの部下が笑っていたことを、自分が上機嫌だから笑っていた、と。





「え?」

 ここから、彼女は解らなくなった。


 彼女はガウディの部屋の扉を開けたはずなのに、気づけば、平原に立っていた。


 後ろを見ても少ししたところに森があるだけ。


 前方からは大きな音がこちらに向かってきている。


 わけが解らず呆然としていた。




「なぜ姫様が!?」


 魔王の配下の者達も、突然現れたリリィを見て混乱していた。



 彼らは、諜報部隊という情報収集などを行う者達の一員であり、リーダーはヒスラ族のコクロウと言う魔族。


 諜報部隊は、戦闘力は高くないが、隠れての行動や、暗殺などを得意としている。

 諜報能力の高く、魔王を慕っている者であれば種族は関係ない。


 魔族、獣人、少ないがエルフまでこの部隊にはいる。

 魔王城内部での不審な行動も、彼らが監視・報告をしている。



 コクロウはここにはおらず現在は、魔族が敗北した場合の逃げ場の候補となっている異世界の調査に出ている。極秘の情報のため本人と魔王以外は「人間の国への潜入調査に出ている」と偽情報を聞かされている。



 現在この隊はリーダーと同じヒスラ族で見た目が二足歩行のトカゲ男がリーダー代理を務めている。


 そんな彼らがここにいるのは、人間が少数で魔王城に向けて進んでいるという情報を得て、その目的・戦力などを調べるためである。



 そう、前方から聞こえてくる音は、馬に乗っている人間達がこちらに向かってくる音である。


 当然、目の前に現れたリリィはすでに人間達に見つかっている。




 彼ら人間は魔族と敵対している。つまり、




「現れた、インプだ!」


 と、人間達が武器を手にリリィへと向かっていく。


 リリィはまだ呆然として立っているだけ。



 戦闘を行う予定の無かった諜報部隊は、動きやすい最低限の装備しかしていない。それでも、魔王の娘であるリリィを助けるため、何の指示もなく全員がリリィ救出のために動き出す。



「姫様、こちらへ!」

「な、なに?」



 リーダー代理はリリィを連れ森へ逃走、他の者は足止めのため、ある者は人間達と戦闘を開始し、ある者は簡単な罠を作りながら逃走する。


 人間達が見えなくなってすぐ、罠を作っていた者達は意識すればすぐに見つけられるような罠を意図的に、通った場所と違う場所へいくつか設置する。




 足止めを行っていた者達もリーダーと合流するため散開し、撤退する。





 足止めを行っていた者達も合流した頃、木の密度も下がり、遠目に外の平原が見えた。


 逃げ切れる!

 諜報部隊の者達がそう安堵し、








「どこ行こうってんだ?」








 すぐ前の茂みから三人組が出てきた。


 真ん中の男は片手剣に盾を、その右側には全身鎧でおおわれている者、反対側の男は杖を持ちローブを着ている。



 彼らに気づけなかった。


 リーダー代理の決断は早く、背後の部下に手で合図をだし、


「何者だ?」

「俺たーーーーー」


 三人組に人間の言葉で問い、彼らが口を開いた瞬間に全員が散る。



 答えようとした真ん中の男は口を開けたまま固まり、左右の男は、真ん中の男の肩にそれぞれ手を置き、笑いを堪えるように震えていた。



「殺す!」


「.......あはは。まぁまぁ、もう逃げられないんだし、安全に確実に行こう。」


「おまえ、今奴らじゃなく俺を笑ったよな!?」



 真ん中の男は笑いを堪えられなかったローブの男を怒鳴る。



「もう奴らの拠点はないからな」


 と、鎧の男は一人、魔族を笑っていた。










「遅かったな」



 魔族の者達は目を疑った。


 目の前には30才後半くらいの男、その周りには一回り若い男達10数名。いずれも同じような鎧を着ており、目の前の男だけ上質な鎧を着ている。


 彼らの背後には山のように重ねられた魔族。拠点に居た、彼らの仲間50。どれも死んでいる。



(あり得ない。たったこれだけの時間、人数に殲滅されただと?)



 人間の死体も転がっているがたった数人程度。魔族の方の被害とは比べ物にならない。


 確かに目の前の男は強い、がその程度。偵察に出ていたメンバーのリーダー代理以外の5人全員でかかれば恐らく勝てる。リーダー代理を入れれば三人で十分。戦闘を苦手としているメンバーで、だ。


 この拠点には当然、戦闘を得意としている者も居た。


 偵察にかけた時間はおよそ一刻程しか経過していない。


 こんなことは最初から拠点の場所、戦力が解っていても不可能だ。


 まるで、拠点にした()()に最初から罠があったかのような・・・・



(・・・まさか)



「さぁ、皆殺しだ。もちろん、その魔王の娘(・・・・)もな」



 外に出たことの無かったリリィの情報まで持っている。つまり、


(裏切り者がいる)



 この情報とリリィは必ずもって帰らなければならない。しかし、戦力差は絶望的。わずか3分でリーダー代理とリリィ以外は殺された。いや、この戦力差で3分も持たせることができた。が、リーダー代理も既に満身創痍。片腕を無くし、立っているのがやっとの状態だ。



 彼は、リリィを逃がす方法が見つけられない。が、時間を稼ぐことも難しい。彼は、


()()()、すまない」



 少しでもリリィが逃げられる確立を上げるため、相手の足をねらい特攻する。



「じゃあな、姫さんもすぐに送ってやる」



 相手のリーダーは冷静に彼の攻撃を防ぎ、



「だめ、やめて」



 そのまま彼の心臓を、


「・・・いや」



 貫いた。



「イヤァァァァァ!!」



 彼女の悲鳴が合図だったかのように、目の前が光だす。



「ぐっ!」



 光が収まり、そこには、竜と戦っていたトカゲ男?が、



「ここは?・・・ぐっ!腕が折れているな」



 トカゲ男?は周りを見回し、険しい表情をうかべ、消える。



「ガァァァァッ!?」


「ぐあっ!?ああああ!!」


 次々と人間の体の一部が消え、血を吹き出し倒れる。



「ちぃ!」


 男が舌打ちをし構え、



「何があった?」



 気がつけば、リーダー代理の前にトカゲ男?が現れている。


 そして、人間は半数近くが倒されている。



「コクロウ様、申し訳、ありません。魔族に、裏切り、者が、いる、ようです。姫様を、お願いします」



 代理は状況の説明ではなく、大切な情報を伝え、倒れる。


 トカゲ男?改め、コクロウはしばし目を閉じ、

「姫様、しばしお待ちください。ただいまより対象の殲滅を

 開始いたします」



 コクロウは事務的にリリィへと言う。その顔は完全な無表情。



「・・・頼むっ」



 リリィは、ポロポロと目を背け泣いていた。


 知り合いが、仲間が、友達が、殺されていくのを見ていられなかった。彼女は、高魔力で高威力の魔法を使える秀才だ。しかし、彼女は初めて見た戦闘に怯え、恐怖に震えることしか出来なかった。そんな自分が情けなく、悔しかった。



(妾のせいで彼らは逃げることが出来なかった。何が天才だ。ただ、高い魔力、強い魔法を持っているだけではないか。今の妾は邪魔者。妾のせいで彼らが死んでいる。妾は・・・城から出るべきでは・・・違う、出てはならない。これからも・・・ずっと)



 彼女はこの戦闘が終わるまで自分を攻め続けていた。

















 人間達とコクロウの戦闘は一方的だった。


「ギャァァァァ!!」


「く、くるな!ぐぁぁ!」


「くそっ!陣形を崩すな!よく見ろ!!攻撃はあたる!」



 コクロウはいっさい止まらずに人間達を蹂躙し続ける。


 人間達はコクロウの動きが見えない。彼らには黒い影しか目で追えない。


 リーダーはかろうじて見えており何とか反撃をするが容易く避けられる。


 先読みして何とか一撃を与え隊を叱咤するが、その攻撃はコクロウの黒い鱗に傷1つつけることもできていない。



 ヒスラ族の鱗は性格、戦闘スタイルや鍛え方によって色が変わる。攻撃的な赤、硬い青、リーダー代理の様に隠れることが得意なものは緑色、が多い。もちろん例外はあるので緑が戦闘で必ずしも弱いとは限らない。


 では、黒はどうかと言うと、これらの例に当てはまらない。


 黒はヒスラ族の上位存在のようなものの1つで、普通のヒスラ族では相手にならない程全体的な能力が高い。


 コクロウは黒鱗を持っているなかでは弱い部類に入るが、それでも、ただの鉄の剣ではよほど優れた技量を持っていない限り傷つける事はできない。



 とうとう人間はリーダーの男ただ一人になっていた。



「くそっ!化物(ばけもん)が!」



 男もすでに満身創痍、利き腕は剣と共に落ちている。


 コクロウはそんな男に近づき、


「グッ!ガァァァァ!!」


 ブチブチ!と、無言で首を引きちぎる。



 コクロウは生首を適当に捨て、リリィへと手を差し出す。



「・・・よい、一人で立てる」



 顔色は悪く、明らかに無理をしているが、コクロウは静かに立っているだけ。


 1分程した頃、ようやくコクロウは口を開いて、


「姫様。これ以上はさすがに危険です。そろそろ」


「・・・うむ。もう、大丈夫だ」



 そう言ってリリィは立ち上がるが、顔色はまだ悪い。


 それを見てコクロウは


「失礼いたします」


 と、リリィの背中と膝の裏側を片腕で器用に持ち抱き上げる。



「・・・何をする」


 口調は不機嫌そうだが、顔色は少し良くなり、少し笑っている。



 コクロウは何も言わず、魔都を目指して歩きだす。












「もう歩ける」


 それなりの距離を歩き、それまで黙って抱えられていたリリィが言った。リリィの顔色は良くなっており、それを見たコクロウは彼女を降ろそうとし、



「また会ったな」



「!!」


 真後ろから声。



 コクロウはとっさに、リリィを前方へ投げる。直後、


 背後から、リリィを抱いていた腕を切り落とされる。


 周りは平原、隠れることができる場所はない。なのに、完全な不意打ち。



「グッ!バカな、何処に隠れていた?」


「秘匿系のマジックアイテムだ。お前達は俺達の真横を通ってたんだぜ?」



 まぁ、あと2、3回しか使えないけどな。と、片手剣の男が笑いながら言う。その手には小さい石を持っている。光っていなければただの石にしか見えない。



「『また』とは、どういう意味だ?」


「あぁ、そっちのインプにだよ。なぁ?魔族の姫さん」



 リリィは森で彼らと会っているのを忘れていた。思い出しても短い時間しか見ていなかった上、簡単に通ることができていたので大したことはない者達だと思っていた。


 しかし、彼は、コクロウの、黒鱗を持っているコクロウの腕を切り落とした。


 見た目や性格とは違い、かなりの腕を持っている。



 同じ判断をしたコクロウは片手剣の男に近づき、


「コクロウ!!」


 リリィの警告より早く、右へと飛ぶ。



 彼がいた場所に炎の槍が刺さる。


 炎はすぐに消え、刺さっていた点以外は一切燃え広がっていない。



「へたくそ」


「ちょ!リーダーが俺達(・・)とか言うから警戒されてたんだよ!」


「あぁ!?なんだ?俺のせいだと?」


「こっちに気づかれないように挑発するとか言ってたくせに、へたくそ」



 何もなかった片手剣の男の右後ろからローブの青年が現れる。


 彼の持っていた石は、だんだんと光を失い、その場で砕けたが、それに気づいていない様子で、


「いいぜ、決闘だ!叩きのめしてやる!」


「はっ!やってみなよ、灰にしてやる!」


 と、喧嘩を続けている。


 リリィはそれを見て、もう一人が居ないことに気付き、コクロウに警告をしようとーーーーーー


「ガハッ!?」


「はぁ~。何をしている、あのままだとこいつに殺され・・・はせんだろうが傷は負っていたぞ?」



 コクロウの背後から音もなく現れた鎧の男が、そのままコクロウの背中に刃を立てる。刃は背中から心臓を通り左胸から飛び出していた。誰が見ても致命傷だ。



「コクロウ!!」



 刃を抜かれ、倒れたコクロウにリリィは近づき血を止めようと必死に傷を押さえる。



「ほれ、仕事しろ。リーダー」


「おい!俺がダメ人間見たいに言うな!」



 あれ?リーダーだよな、俺?と言いながら、片手剣の男はコクロウとリリィに近づき、剣を振り上げ、



「じゃあな、恨むなら、自分の生まれを恨め」



 コクロウはよくリリィの面倒を見ていた。リリィにとって彼は、第2の父親のようなものだった。諜報部隊のメンバーも彼と一緒によくしてくれていた。友達になった者もいた。



(これからも皆が傷付くのを見るくらいなら・・・)



 そう思ったリリィはもう助からないとわかっていながらも、コクロウを庇おうと前に出て相手を睨む。



 視界にいたのは知らない女のような青年だった。



「え?」



「は?」



 片手剣の男も突然現れた青年に驚き、開いた口がふさがらないといった感じだ。しかし、下ろされている剣は止まらない。



「ほえ?」



  間抜けな声をあげた青年は何がおきたかわからないといった表情をして、



「ーーーーーっ!?」



 剣の横腹に掌底を叩き込み剣をそらす。


 片手剣の男は、すぐに距離をとる。


 突然現れた青年はリリィ、三人組の順に見て、周りを見回したあと、リリィに背を向け、



「え~っと、あまり気分が悪くなるようなもの、見せないでもらえますか?」



 気の抜けるような声で三人組に言った。


 リリィにはその背中がなぜだかとても大きく見えた。


ありがとうございました。

過去話がだいぶ長くなってしまいました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ