トリスタトラップ3
この世界には魔王がいて、危険な魔物がたくさんいる。
我々はその危険から人々を守らなければならないのだ。
入学式。校長のその言葉を珍しく聞いていたとき、俺はこんな感想を思った。
バカバカしい。
俺としてはこの一言に尽きる。
前提として、何故人を魔物から守らなきゃいけないんだよ。
魔物から守る必要なんてないだろ。
人は校長が思うより強いはずだ。
だって、昨日鍬持った農家のおっさんが冒険者の最初の壁とも言われているフォレストウルフをぶっ飛ばしていたんだぜ?
そんな奴を弱いなんて…………誰が思うんだ?
俺は知っている。その後、フォレストウルフを解体して、その肉を焼いて食うことを。
俺は知っている。農民の中には魔物を飼うような奴がいることを。
だから、必ず人を守る必要なんてないはずなんだ。
…………おいそこ、俺がただ単にめんどくさがりやなだけだとか思うな。
俺だってちょっとくらい考えてるんだ。
どうすれば、面倒事を避けられるかとかをな。
おいそこ、やっぱりじゃないかとか思うな。
このくらい普通だろ?違うのか?ああ?
「さて、次。そこの灰色の眼をした男子1名!起立!」
ちなみに言っておくが俺の瞳は、黒だ。間違っても灰色などではない。
溜め息を吐きながら、あれからほどなくして教室にやって来た先生に適当な自己紹介をした。
「…………ナレコ」
さて、終わった終わったすーわーろーっと。
「…得意な武器は?」
おい、質問が来たぞ。これまでの生徒にはなかったパターンだ。
「…ない」
「素手が得意か」
俺は別に素手が得意とか言ってないぞ。
これはあれか?いじめか?いじめなのか?
もしくは、普段めんどくさがってる俺への嫌がらせか?
「好きなことは?」
「寝ること」
「好きな食べ物は?」
「干し肉」
「好きな人は?」
「いない」
「好きな女性のタイプは?」
「俺の邪魔しないならまだまし」
「…女の子は好きか?」
「どうでもいい」
「…………男が好きなのか?」
「どちらかと言えば嫌い」
何故か溜め息を吐かれた。
「お前が友達があれしかいない理由が分かった」
「あいつは友達でもなんでもない。ただの知り合いだ」
先生はそんな俺を見る。普通の奴ならこの視線に耐えられないのだろうが…………あいにく俺は慣れている。だから問題ない。
だが、先生は俺の急所を突いてきた。
「…ナレコ…………前のクラスメートの名前、全員言えるか?」
「ぐっ…………」
くっ、卑怯な!そんなの言えるわけが無いじゃないか!
「…………まさかあいつ以外誰も覚えてない、とかはないよな?」
さすがにそれはない。…………それはないのだが…。
言えるのはあと三人だけだ。
…………他は知らん。
そのことを伝えると、先生は驚いた。ついでに周りの奴らからも驚きの声が上がった。
なんだよ。
「…………ナレコ」
俺の名前を言う先生の空気がなんか重い。
なんか嫌な予感がするが…………どうせ手遅れだ。聞くだけ聞いておこう。
「なんですか?」
「一人くらい友達作れ」
「嫌です」
「はあ…」
何故、先生が頭を抱えるんだよ…………。
頭を抱えたいのはある意味こっちだよ。
「それと…………。とりあえず、三大災厄人の三人と恋天さんと村雨さんくらいは最低限覚えておきなさい」
誰だよそれ…………。それと三大災厄人って…………誰だ?
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アンド先生
俺達のクラスの担任の女の先生。生徒には最低限の気遣いを見せる普通の先生。
イレギュラークラスの大方のことは目を瞑ってくれる、ある意味いい先生。ケイトは、この先生がいるおかげで色々助かってるそうだ。
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ま、どうだっていいよな。さて、と。昼飯、どうするか。
うわー…………マジかよ。
三大災厄人は、知っておかなきゃ駄目だろ…。
元凶のあの三人は、この学校でかなり有名なんだぞ?
それにアイドルの恋天ちゃんも知らないとかどんだけ…………。
村雨さんに至っては風紀委員代表の俺らの天敵だぞ!あれだけ注意とかもらってるはずなのに何故覚えてないんだ!
どんだけ興味ないんだよ!