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トリスタトラップ2

ーーーーーーー


一人称の俺の正体

ここでは基本的にめんどくさがりなナレコ君です。


ーーーーーーー

さて、教室に着いた。

うん、着いたのは着いたんだ。それに文句など無い。

例え、悶絶するくらい痛いあれを食らったとしてもだ。

だから大丈夫。…大丈夫だよな?

周りの空気が微妙な気がするのを全力で無視し、俺は席に着く。

トリスタの罠は教室にある二つの扉に仕掛けた、黒板消し落とし(黒板消しを扉に挟み、引いたと同時に黒板消しが落ちる定番のあれ)と輪ゴムパッチン(輪ゴムを扉の近くに仕掛けて扉にかける手を狙う罠)のダブルだけが仕掛けてあった。…………あの悪戯王にしてはやけに間に合わせ感のあるちゃちな仕掛けだな?何か裏でもあるのか?


不自然に思ったのは俺だけではない。他の皆もそう思ったらしい。

確かにトリスタの入学式に仕掛けた罠は相変わらず凄かった。

いつも通りの派手な演出と細かい仕掛け、どちらも罠を張る者としては凄いものだとは思う。

だが、あの程度で打ち止めになるなんてちょっとおかしい。

あいつはあそこまでやっても何処から用意したのかって問い詰めたくなるほどたくさんの罠を持っているのだ。

それなのにこのちゃちい仕掛けはなんなんのか?


…………しばらく考えたが、答えなど出るはずがない。

俺は早々に考えることを諦めた。どうせ、頭の悪い俺に分かるはずなんてない。推理なんて出来っこないに決まってる。


そんな風にふて腐れて机に突っ伏していると目の前で何やら楽しそうに話をしている奴らが見えた。


「ねえ、新入生って誰だか知ってる?」


「? なにか知ってるの?」


「分からないかな。ケイちゃん教えて」


「いいよー」



黒髪の剣士風の少年、黒いハチマキを頭に巻いた武道家の少女、スカーフがトレードマークの魔法使いの少女。


この少年の名前はチーク。危険人物ではないが、この学校ではかなり有名な人物だ。戦闘センスがピカイチなんだそうだ。

彼は、男のロマン、勇者を目指しているらしい。顔は童顔。背はちっこくて、130センチ程度しかない。いつも小魚と牛乳を飲んでいるのに身長が伸びない!とかぼやいていたのを知っている。性格は天然。天然過ぎてやれんこともあるがどこの誰やらさんと比べれば、基本的に優しくて、いいやつだ…………と聞く。


黒いハチマキをした少女は、このクラスの委員長だ。

名前はケイト。しっかりものの茶髪の少女だ。恐らくクラスの中ではかなりまともな部類に入る少女だ。いつも突っ込みを入れている苦労人として知られている。一応言っておくが眼鏡はしていない。

顔はたぶん…………美人なんじゃないか?あんまり、よー分からんが。

あと、怒らせると怖い。あの委員長の拳骨はマジで痛いとクラスでよく知られている。


最後にスカーフを巻いた魔法使いは、スカーフィ。

名前の由来がこれほど分かりやすい奴なんてそういないと思う。彼女が得意としているのは光と闇の魔法だそうだ。大人しそうな感じがある気がするのが雰囲気で何となく分かる。清楚な感じがにじみ出る大人しめの美人!…………とか男連中は言ってたな。


…………なんだよ。

あ?俺がなんでこんなずさんな紹介するかって?

んなもん決まってる。興味無いからだ。

俺のことなんざどーでもいいだろ。めんどくさ。


そんな風にこの世のすべてがめんどくさいとでも言うような眼で、窓に眼を向ける。

…………今日も全く変わらない、青さだな。

ぞんざいで適当な感想を抱いていると、誰かが近寄ってくる気配がした。


「相変わらずゾンビみたいな眼をしているな、お前」

どうも俺に声をかけてくる奴がいるようだ。

…俺は内心溜め息を漏らした。

はっきり言って、こいつとは関わりたくないのだ。だから、話し掛けてくんなと拒絶している。それでも毎日毎日、しつこく声をかけてくる。

俺の話なんざ特に面白味も無いだろうに…。なんでそうも前向きなんだよ…。

俺は億劫そうに声をかけてきたクラスメートの方へと振り替える。


「…………今日は何のようだ?トリスタ」

「本当にお前は変わらないな。ナレコ」


そこには、少し調子の悪い件の悪戯王が苦笑いしていた。




俺が悪戯王ことトリスタと出会ったのは、去年の夏の暑い日。

俺がいつものようにめんどくさそうな顔をして運搬依頼を受けている時だった。

「今日もだりぃなー」といつもの死んだ魚が干物になったような眼でいつも見ている村の景観などを眺めながら荷車を押していると、そのバカはいた。

川の対岸にトリスタはいた。

トリスタはその時ちょうど新作花火の実験をしていたらしい。…心底どうでもいいがな。

で、俺が「なんかやってるなー…………あー暑いなー」といつものように三秒で相手の興味を失っていると、耳元でクソうっさい音がした。

ふと見れば、ロケット花火のようなものがこちらに向かってくるではないか。…まあ、花火程度で驚くわけじゃないが。

俺は億劫そうに灼熱の暑い地面に倒れてその花火を難なく避ける。

「あちぃー…………」

あの日は特に暑かった。もう溶けそうになるくらいだった。

額の汗は拭っても拭っても吹き出るし、身体中の汗は気持ち悪いしで、色々めんどくさかった。いっそ川のなかにでも飛び込めたらさぞかし涼だろーなー。そんなことを思っていた気もする。


今なら分かる気がする。はっきり言ってあの日の俺はどうかしてた。

俺がふらりと地面に倒れて、とりあえず立つかーとめんどくさそうに立ち上がろうとした時だ。

ひじょーにうっせーあいつの甲高い悲鳴が聞こえた。

なんだよと思いながら対岸にいたそのクソうっさいバカを見る。

するとあの阿呆は、こちらに向かって、川の中に入って渡ってくるではないか。

バカか?俺は反射的に思った。

しかし、こちらに渡ってくるには橋が遠い。何せあの地点から近い橋までは1キロメートルもあるのだ。すぐに渡るには直接川に入って渡った方が遥かに速い。

例え、川底が1メートルもあり、こちらに渡ってくるまでには全身ずぶ濡れは確定しているとしてもだ。


俺はそのバカがこっちにやって来るのをうへぇ…と思って見ていた。

だって、めんどくさいじゃないか。どうせテンプレ通りの「大丈夫ですか!?」「怪我はない?」とかだろう?

いちいち付き合うのがめんどくさい。

こっちは早くこの仕事を終わらせて家で睡眠を貪りたいのだ。

こっちにくんな。

そう思ったから、ふら~と立ち上がってはあはあ言いながら、また荷車を押すことにしたのだ。

だが、奴はそんなことお構いなしだった。


「おい!大丈夫か!?倒れたみたいだったが!?」

暑苦しいハイテンションでうっとしそうな顔をしているはずの俺に顔をブルーベリーのように青くしたトリスタが俺のことを心配してくる。

俺は手をひらひらさせて、「見たら分かるだろ~」と適当に返事をした。トリスタは、気だるげに歩く俺を見て、大丈夫かどうかを診ていた。


「…怪我をしているじゃないか」

「んなのどーでもいい」


どうせ大した怪我じゃないだろう。今の俺はどっちかというと痛いというより暑いだしな。

しかし、奴はそうは思わなかったらしい。


「それはダメだ!ちゃんと傷口の汚れを洗って治せ!」

ぎゃんぎゃんわめくなよ。うるさいな…。

俺は無視して仕事をしようとすると、いきなりあいつは俺の体を横に抱いて日陰に入った。

「ーー?」

いきなりのことだったが、あのときの俺はどうにも反応が悪く、どーでもいいやとしか思ってなかったため特に驚かなかった。


「じっとしてろよ」


トリスタは、真面目な顔をして俺にそう言ってくる。

だがその時に頭の中で思っていたことは、「日陰サイコー…………」という自分勝手な想いだけだった。


あの後治療されたらしい。治療代は払わないからなとだけ言っておき、また荷車を押しはじめて、俺とあいつの最初の邂逅が終わった。

あの日を境に何故かあいつは俺に絡んでくるようになった。

嫌がらせか?最初はそう思っていた。

だが今は違う。

今は…………クソめんどくさい、だ。


だってそうだろう?一人がめんどくさくなくてサイコーだというのに勝手に構ってくるんだぜ?

お前友だち何人もいるだろう?そいつらの相手してろよ。

何回この言葉を言ったか…。

それでも相手をしてくる。

何故だ…………。



そして、現在。

俺とこいつは腐れ縁みたいなことになっていた。…………めんどくせぇ。

こいつの悪戯には、何十回も引っ掛かっている。

だが、怒りは覚えないし、そんなやる気もない。

そんな俺を見かねて、あいつは聞きたくもない世間話とやらを話してきた。


「なあ、ナレコ。転校生って知ってるか?」

…お前…………俺にそれを聞くか?

俺は憮然とした顔で睨む。

「あー、そうだったな~。人のことに全く興味を示さないお前が知ってるわけないもんな?」


…………うぜぇ。喧嘩ならめんどくさいから買わないぜ?

俺の顔を見て、「はいはい…………」といいながら苦笑するこいつ。

なんなんだよ…………。

「お前は本当に変わらないな。いっつも退屈そうに暇そうにしてるよなー」

「なんだよ……喧嘩なら売らないし買わないぞ」

「…………本当に変わらないよな。お前は」

めんどくさいからな。


「…………お前、さ。女作れよ」

いきなりこの阿呆は、そんなことを言った。

「やだね」

しかし、特にリアクションもせずに即答する俺。


「おいおい、いきなり否定かよ」

「否定しちゃ悪いかよ」

「いや、悪くないけどよ」


なんだよ歯切れ悪いな…。


「いやな。お前さんを見てると心配になるんだよ」

…………オーケー、お前の将来は世話好きオヤジだ。確定だろ。


「何て言うか…………お前、女っ毛無いからさ…………」

「んなの…………俺の勝手だろう。それに俺は」

「興味ない…か?」


分かってるなら聞くなよ。


「いや、分かってるだけどな。お前のことはさ」

まるで疲れたお父さんみたいなくっさいセリフを吐いてきた。

何処と無く、めんどくささが辺りから漂ってくる気がする。…………いつものことだが。


「…………なあ、お前は楽しいって思ったことはないのか?」

こいつはいつも唐突に質問してくる。

俺からすれば何がしたいのかよくわからん奴だ。

でもまあ…………。


「一応ある…」

「それは例えばどんな?」

いちいちめんどくさいな…………。

しかし、お前が期待しているような答えなんてないぞ?

「………寝ることだ」


そう答えると、これまた微妙な顔をしたそいつがいた。

お前、何を考えてるのか知らんが…………。俺に悪戯だけはするなよ。

迷惑だから。


「………そうか」

たったそれだけを返してきた。

「じゃ、またな」

そして、風紀委員の気配を察知したのか瞬く間に気配を消して何処かへ去った。






あいつは、人と会話するのを嫌ってる。

だけど、教室から出ようとはしない。決してだ。

理由は…………きっと面倒だからだ。あいつらしいな。


他のみんなはかなり様変わりしたというのに、アイツだけは全く変わらない。ここまで変わらない奴はこのクラスでもあいつだけだ。

本来なら、このクラスの雰囲気に呑まれてかなりテンションの高い人間が量産されるのだが…………アイツだけは違う。アイツは、誰ともしゃべろうとしないからこのクラスの影響をほとんど受けないのだ。

究極のマイペース人間。それがあいつなのだろう。


というか、このクラスにはエルフとか獣人とかいるのにアイツだけは本当に全く興味を示さんな。あまりの冷めように、驚きだよ。


たぶん、魔物とかクラスに入れても気付かないんだろうな…………。

さすがにそこまではないと思いたいがアイツだからな…………。

しかも、襲ってきたとしても、平然となんか対処しそうなんだよな…。


と言っても所詮、他人事なのだが。

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