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サッカージャンキー  作者: 宮澤ハルキ
第一章 少年サッカー編
42/48

第41節 ゴールハンター

確か俺らの代の優勝はマリノスプライマリーだったと思います。そして準優勝がFC浦和だったとも思います。


マリノスのジュニアチームはプライマリーだと思いますが、ここでは他のチームと同様普通に〜Jr.と言っちゃってます笑


ご理解の方よろしくお願いします!笑

 川越のユニフォームは、今日はいつもの青ではなくセカンドの白のユニフォームである。相手のマリノスがファーストのユニフォームを取ったので、セカンドを着ることになったのだ。


「勝つぞ」

「おう。もちろんだぜ爽太」


 試合前のミーティングで、怖いぐらいのオーラを発しながら爽太は言った。チームメートたちはゴクッと唾を飲み込む。しかし海はいつも通り爽太に言葉を返した。


「トシも頼むぜ! キャプテン、頑張れよ!」


 次いで海は後ろを向いて、利樹に拳を突き上げる。利樹は少し固い表情のまま、同じように拳を突き上げた。今日は遼がいないため、副キャプテンの利樹がキャプテンを務めるのである。


「よし、タイトルだぞお前ら」


 竹下監督が笑顔で言った。


「お前らが勝ったら、我らFC川越は2回目の全国制覇を果たすことになる!」


 ちなみに1回目とは竹下監督の代のことである。竹下監督はチームの中心選手として、優勝まで登り詰めた。


「俺らはすげー緊張したな。俺らん時は前評判そんなに高くなくて、決勝も当たって砕けろ的な感じだったけど、勝っちゃったんだよな」


 竹下監督は少し目を細めて笑う。みんなもつられて笑った。


「でも今回はそれほど緊張してないみたいだね」


 松本コーチが言った。エース不在という状況の中、固くなっている者も何人かいるが、全体的な雰囲気は良い。マリノスは強敵だが、決して勝てない相手ではない。今までの試合が、彼らに自信を植え付けたのだ。


「英、瀧澤は任せたぞ」

「了解です」


 松本コーチに言われ、英は強く頷く。彼は埼スタで滝澤と対戦した時、チームは勝ったものの2失点を喫してしまったという悔しあ思い出があるのだ。利樹も同様にやられてしまったので、この2人は今日かなり燃えているのである。


「よし、円陣組むぞ!」


 竹下監督が手を叩く。遼も松葉杖を置き、片足立ちで輪に加わった。


「んじゃ遼、バシッとキメてくれ」

「うす」


 遼は光と海の肩に腕を回した後、一呼吸置いて言葉を発した。


「えっと……まあ、俺この試合出れないんだけど、みんななら勝てると思う! ってか絶対勝てる! マジで勝って欲しい! 勝てば優勝だし、俺もMVPたぶん貰えるし!」


 その言葉に笑いが起こる。


「あと英たちが滝澤を無得点に抑えれば、得点王も貰えるから! 頼むぜ!」

「おう、任せとけ!」


 英が爆笑しながら答えた。


「そんな訳で今日は俺のために勝って下さい!」


 あちこちから突っ込みが起こる。


「よっし、んじゃ行くぜ……声出してー!!」

「オウ!!!」

「気合入れてー!!」

「オウッ!!!」

「……絶対勝つぞー!!!」

「オオウッ!!!!」


 爆発するように弾けて、円陣は解けた。海は「っしゃあああ行くぞオラァァァ!!」と言いながら腕を振り回している。英は軽く跳ね、利樹はキーグロを勢いよく叩き、爽太は一つ深呼吸をした。


「頼むぞみんな!」


 遼は松葉杖で立ったまま味方の背に声を送る。受け取った彼らは、拳を突き上げてそれに応えた。




「残念だな遼。勝つのも、そして得点王も俺だ」


 青のユニフォームの9番は、センターサークルの中央で不敵に微笑むとボールをソールで軽くいじった。瀧澤の牙が今、川越ディフェンスに襲いかかろうとしている。



 ◇



 瀧澤がボールを軽く前方に押し出し、遂に決戦は幕を開けた。


「前からプレス! 厳しく行け!!」


 利樹が最後尾から怒鳴る。本日センターフォワードに入った海は、猛ダッシュで下げられたボールを追う。ディフェンスは繋いで海をいなしていくが、スキンヘッドの巨体は怒涛の勢いでプレスを掛け続ける。川越の他の選手も連動してプレスを掛けてくるため、マリノスの右サイドバックは繋ぐのを諦め前線に大きく放り込んだ。


「オッケイ、任せろ!」


 瀧澤が落下点に入る。英も滝澤の背中に張り付き、競り合う構えを見せた。

 瀧澤は飛ぶ前に英に背中で体重を掛けた。更に尻で軽く突き飛ばすような圧力を加える。


「なっ……!」


 予想外のプレーに英は不意を突かれた。そして英が軽くバランスを崩したところで、瀧澤は英よりも速く、そして高く飛んだ。


「クソッ!!」


 英も飛んで体をぶつけるが間に合わなかった。瀧澤は頭頂で器用にボールをそらし、裏のスペースへ出した。

 それ目掛けてダイアゴナル気味に走り込んで来たもう一人のフォワードと、川越センターバック佐藤が競り合う。走力は五分五分だったが、先に触ったのは佐藤だった。佐藤はスライディングをして先にボールを突いたのである。そして下に流れて来たボールは利樹が大きくクリアして、マリノスの攻撃は終わった。


「ドンマイドンマイ! 良い連携だったぞお前ら!」


 マリノスの監督が親指を立てて瀧澤ともう一人のフォワードを褒める。2人は頷き、自陣の方へと戻っていく。


「あの野郎……ただのクリアボールをフツーにチャンスに結びつけやがった」


 遼は唇をとがらせながら滝澤を睨む。現在は川越の攻撃だが、瀧澤はハーフェーラインに張り付いて常にチャンスを伺っている。周りをキョロキョロと見渡しながら、行ったり来たり。油断も隙もない奴である。英と佐藤は、瀧澤のことを神経質にチェックしている。


 右サイドで爽太がボールを持った。ディフェンスは距離を取って爽太と対する。ドリブルを警戒してのことだろう。しかしそれでも爽太は縦に進み始めた。

 ディフェンスも一緒に下がる。ディフェンスがバックステップを踏んだ時に、股が大きく空いた。その瞬間、爽太はドリブルにしては強いボールをそこに通す。


「ナイス爽太!」


 爽太の背後から山川がオーバーラップして来たのだ。山川はディフェンスを振り切って抜け出すと、ダイレクトでセンタリングを上げた。


「キーパーッ!!」


 だがセンタリングは前目に上がり過ぎてしまい、海に合う前にキーパーにキャッチされてしまった。


「ごめん海!」

「おう! 切り換えようぜ!」


 海は山川に親指を立てる。川越もストロングポイントを活かした攻撃ができた。


「いいねぇ竹ちゃん! こっちもいい攻撃できたよ!」

「そうですね。まあ、うちにはいい選手いっぱいいますから!」


(だって俺が育てたんだからな!)


 これは心の中で言った竹下監督であった。


 川越は優磨を中心とした中盤の組み立てと、爽太と海の個人技を活かした攻撃を展開する。対するマリノスは、点取り屋瀧澤を中心に素早い速攻を繰り返す。どちらもゴールには結びついてこそ無いものの、ピッチからはゴールの匂いがプンプンとする。


「ああああ俺も出てえよおおおおお」


 遼は顔をしかめて激しく貧乏ゆすりをする。禁断症状が止まらないのだ。


 優磨がバイタル中央で前を向いてボールを持つ。優磨は海に縦パスを出し、ポストを貰って左サイドウイングの大島にダイレクトで展開した。


「上げろ大島!」


 松本コーチが怒鳴る。大島はダイレクトでセンタリングを上げんと、左足を振りかぶった。だがマリノスのサイドバックがスライディングで阻止しようと襲いかかってきた。


(かかった!)


 しかし大島は、それを読んでいたかのようなキックフェイントでディフェンスの逆を取る。そして右足のアウトサイドでボールの位置を整えた後、海の頭を超えるようなセンタリングを上げた。


「行け爽太ァァァ!!」


 遼は思わず大声を上げた。爽太は空中で体を逆弓状にしならし、強烈なヘディングシュートを見舞おうとしている。

 しかしギリギリのところで戻ってきたマーカーが、ダイビングヘッドでバーの上にクリアした。


「うっわーあぶねぞ今の! オウンゴールになったらどーすんだ! もっと早く体入れて前にクリアしろ!」

「さーせん(すいません)!」


 クリアしたディフェンスがマリノスの監督に怒られている。確かに今のは一歩間違えれば自殺点だった。


 その直後、マリノスのキーパーはフリーになっていたボランチにリスタートのパスを出した。


「あっ、切り換えろディフェンス!! おい中盤戻れ!!」


 利樹が馬鹿でかい声を出す。危機を察知したのだ。


「あっ?!」


 海が素っ頓狂な声を上げる。攻撃に参加していた優磨・光・望月は慌てて帰陣を始めた。


「飛び込むな時間稼げ!」


 松本コーチがディフェンス4人に向かって叫ぶ。マリノスはトップ下とツートップの3人で攻撃を仕掛けに来る。トップ下の選手がボールを持ち、ツートップはディフェンスラインを潜り抜けようとしている。

 トップ下の選手は右のペナルティエリアの角に向かってノールックでパスを出した。英の反応が刹那遅れる。一方瀧澤は既に反応していた。


(やべえ!!)


 英の背に冷や汗が走る。瀧澤は獲物を見つけた猛禽類もうきんるいのような眼でゴールを確認した。だが瀧澤の体勢は良くない。右利きなのにボールはゴールから遠い方に流れていっているからだ。


(いや、間に合う! トラップしてシュート打つところを狙う!)


 英はシュートコースに体を投げ出すようなスライディングをした。


 だが直後、ボールは英の眼前を突き抜け、利樹の指を弾き飛ばしニアの上隅に突き刺さっていた。

 瀧澤は強引に腰を捻り、ダイレクトでシュートをぶっぱなしたのだ。英と利樹は呆気にとられ、芝に座ったままゴール内のボールを見詰めている。


「っしゃあどーだァ!!」


 瀧澤は空中でブンブンと腕を振り回す独特のパフォーマンスを見せる。マリノスの選手たちは瀧澤の元へ祝福に駆け寄りたいのだが、彼の腕の勢いに気圧されて近づくことはできなかった。


「どーだ見たか遼」


 やっと腕を振り回すのを止めた瀧澤は、川越ベンチの側を通り過ぎる時に了解に向かって囁いた。

 ピキッと遼の額に青筋が走る。瀧澤はその反応を楽しむと、センターサークルの方へゆっくりとしたジョグで去っていった。


「コラァ負けんなお前ら! ぜってー勝てよ! 点取れ!!」

「ど、どうしたの遼ちゃん?!」


 突如喚き出した遼を光が心配そうな目で見る。一方瀧澤は、それを更に面白そうな目で見ていた。


「さあ、(単独)得点王が見えてきたぜ」


 瀧澤は炯々(けいけい)とした眼で川越ゴールを睨みつけた。

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