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サッカージャンキー  作者: 宮澤ハルキ
第一章 少年サッカー編
29/48

第28節 やっちゃうよ

レッズ天皇杯負けたああああああん

※今回は登場人物FILEはお休みさせて頂きます

 全国大会二日目が始まった。遼たちは二日目は第一試合で、相手は関西の雄・サンフレッチェ広島FCJr.だ。

 広島は昨日SC多賀に2対0で危なげ無く勝利してきている。偵察に行っていた松本コーチ曰く、昨日のFC金沢に比べれば選手一人ひとりの能力の水準は高く戦術もしっかりしているので、今日の試合は割りと厳しいものになるだろうとのことだった。

 しかし下馬評は圧倒的に川越有利となっているので、川越の選手たちが昨日のパフォーマンスを落とさなければまず負けるとこはないだろうとも松本コーチは言っていた。


 松本コーチの言ってることは少し矛盾しているような気もするが、遼もそれに同感で、試合前にそこまで気負いすることはなかった。寧ろ昨日竹下監督と話した後から今日のプレーのイメージをしまくっていて、そのイメージを早く実行したいというのが本音だった。

 自身の体のキレ・コンディションは相変わらず好調で、そう簡単に止められるとは思っていない。


「海」

「ん、何だ?」


 遼は円陣を終え、キックオフのためにセンターサークルへ向かっている時、並んで歩いているスキンヘッドの巨人に話しかけた。


「今日のキックオフさ、いつもより少し前にボール出してくんね?」

「おうわかった。でもそれだとバックパスしにくくないか?」


 海が眉をひそめ怪訝そうな顔でそう言った時、遼は悪戯っぽい笑みを浮かべて海の顔を見上げた。


「バックパスはしないよ。……一人で行ってみたいんだ」

「マジかよ遼正気か?!」


 海の顔が驚きに変わる。目を見開き、アップを終えた段階ですでにねっとりとした汗をスキンヘッドにかいている海の顔は暑苦しさ満点だ。

 ってか一番「正気か?!」って言われたくないやつに言われちまったよ。そ、そんなにおかしいこと言ったか俺?


「はぁー……まあいいんじゃね? 面白そうじゃん」

「だろ?」


 流石海、やっぱ解ってくれたか。これが優磨や光だったら絶対止められてしまうからな。爽太だったら「俺もやる」とか言って口論になり、結局俺が譲る羽目になってしまう。


「せめてペナまでは行ってくれよな」


 遼がそこて止められて、自分がそのこぼれ球を拾って決める。海はそう言いたいのだろう。その意図を察した遼は、ソールでボールをいじりながら言った。


「残念、ゴールまで行って帰ってくるから」


 小刻みにジャンプしながらホイッスルが鳴るのを待つ。

 遼はジャンプしながら敵の陣形をざっと見た。

 広島はオーソドックスなボックス型の4-4-2。右サイドハーフの奴は顔見知りだ。柏原圭、こいつはナショナルトレセンでセンターハーフを務めている。豊富な運動量と確かな足元の技術を併せ持っていて、ディフェンスとオフェンスの繋ぎ役を器用にこなす選手である。こいつは要チェックや。

 後は特に知っている奴はいない。Jクラブの下部組織だけあって確かに強そうだが、別に自分たちよりも格上とは思えない。


 ――行ける。

 遼はそう思った。キックオフのホイッスルが、俺のスタートダッシュの合図だ。ゴールまで一気に駆け抜けてやる!


「ピィッ!!」


 レフリーが笛を鳴らした。それとほぼ同時に海は軽くボールを押し出し、遼は左足のインサイドで自分の1メートルほど前にボールをコントロールして一気に加速した。


「あれ? 何してんの遼?!」


 本来遼からバックパスを受けるはずの優磨が戸惑ったような声をあげた。戸惑ったのは他の川越の選手や広島の選手も同様で、ピッチでは遼と海以外の選手たちが一瞬フリーズしたようにも見えた。

 だが広島のダブルボランチは立て直し、遼の突進に対して迅速に対応する。足元にボールを入れたまま細かく早いタッチでドリブルをする遼に対し、ダブルボランチは二人がかりで挟もうとしてきた。

 だが遼はスピードを緩めない。それどころかさらに加速して、密集地帯へと飛び込んでいく。そしてドリブルの流れそのままのタッチで、遼から見て左を切ってきたボランチの股間を抜き、強引に体を入れて二人のギャップを通り抜けた。


「遼出せ!」


 右サイドから中へダイアゴナル気味に走り込んで来る爽太が視界の端に見えた。遼は視線を一瞬上げ、左足のインサイドで爽太に出す――と見せかけて内側に跨いで切り返す。

 遼を止めようと立ちはだかってきた相手のセンターバックは、そのフェイントにつられてしまいあっさりと逆を取られてしまった。

 遼の前にシュートコースが開けた。遼は正確を期してインサイドでファーサイドのサイドネットを射ぬこうとする。だがもう一人のセンターバックが、ここで打たせまいと派手なスライディングを敢行してきた。


(あっぶね!)


 遼は完全にシュートを打つ気満々だったが、相手の予備動作が大きかったので咄嗟にヒールチョップに切り替えることができた。

 今度こそシュート!!

 だが流石にここはキーパーも飛び出して来ていて、突然のヒールチョップのせいで体勢を崩してしまった遼は、体勢を立て直せないまま右足の爪先を伸ばして慌ててシュートを打った。そのシュートは、ポストに当たるか当たらないかという際どい球筋を描きながら、綺麗に整備された芝生の上を転がっていく。


(入れ入れ入れ入れ!!)


 遼は必死に祈った。だが直後「カァン」という乾いた金属音が響き、遼は芝に座り込んだまま顔を覆って落胆した。自ら作り出した絶好の得点チャンスを不意にしてしまった。あともう少しでハーフェーラインからのドリブル独走ゴールができたのに…………。


「おお!! やったぞ爽太ァ!!」


 だが直後、優磨の甲高い声がグラウンドに響いた。


(なに?!)


 遼はバッと起き上がり、急いで声の聞こえた方を見る。するとセンターサークル付近で、優磨が爽太に抱きついているのが見えた。そしてその周りには、爽太を祝福している青いユニフォームの集団と、集団から少し離れて一人渋い表情をしている海の姿があった。

 その状況から察すると、今の得点は爽太が遼のシュートのこぼれ球を詰めて決めたのだろう……海よりも先に。


「爽太ナイッシュ」


 遼も芝から立ち上がってその輪加わり、苦笑いを浮かべながら爽太の肩を叩いた。すると爽太は振り返り、やれやれと言った表情を浮かべながら遼を見た。


「遼……あそこまで行ったんなら決めろよ」

「そ、それを言うなって…………」


 爽太に突っ込まれた遼は頭を掻くしかなかった。するとそれに続いて、チームメートたちが待ってましたとばかりに遼に捲し立ててきた。


「ほんっとーだよお前! バックパス来なかったからすげーびっくりしたんだからな!」

「いやでも遼ちゃん凄かったよ! わたしあんなのプロでも見たことない! ね、大樹!」

「確かに凄かったけど……いやーでもあそこまで言ったんなら決めなきゃ駄目だよ遼くん。俺ならあそこまで行ってれば決めれたぜ」


 言い返したいが言い返せない。何だろう、この妙な敗北感は。


(ちきしよーお前ら、ここぞとばかりに色々言いやがって……ってかちょい待て大樹、あそこまで行くのがすげー大変なんだぞおい)


 遼はなんだがやるせない思いのまま、相手のキックオフに備えてポジションを取った。続いてもう一人やるせない思いを抱いた少年も帰陣して、眉間にしわを寄せたままセンターサークルの真ん中にあるボールを凝視している。

 遼はキックオフ直前、ボールを見たまま海に話しかけた。


「海」

「あん?」

「次こそ俺らで点取ろーぜ」

「あたりめーだ」


 火の着くような強い声で海は答えてきた。

 海よ、その闘志は凄く良いと思うけど空回りして自滅だけはすんなよ……。

 

 広島はキックオフのボールを柏原に下げた。海はスライディングで取りに行ったがキックフェイントであっさりかわされ、逆サイドの裏へロングボールを放り込まれた。


「ディフェンス軽っ!」


 優磨が手厳しく突っ込む。ベンチから松本コーチの「そこは一発でいくなあああ」という怒鳴り声も聞こえてきた。


 そのロングボールを、外に流れた相手のフォワードがコントロールし、緩急をつけたフェイントで山川をいなすと直ぐ様センタリングを上げた。


「キーパー!!」


 利樹が吠えながら空中に飛び上がり、両手のパンチングで弾き出した。遼はできればキャッチして欲しかったが、ゴールエリアの外にきた割と速いボールで、敵もギリギリまで来ていたから利樹はセーフティを選択した。まあそれはしょうがない。下手なことをして失点するよりはましだ。


 望月はこぼれ球をヘディングで競り合い、その更にこぼれたボールを下がってきた海が体を入れて収めた。

 敵のディフェンスに背後からぶつかられるも、海は微動だにしない。そしてその堅牢なポストからボールを受けた優磨は、ダイレクトで左サイドへ展開した。


 完璧なカウンター。遼は敵の右サイドバックを引き連れながらも抜け出し、左足のインサイドでボールを縦にコントロールする。

 遼は顔を上げて中を見た。爽太がディフェンスを二枚連れながらニアへ走り込んでくる。遼は早めに上げることを選択し、インフロント気味のグラウンダーのクロスを爽太の進行方向に上げ――ないでクライフターンで切り返した。

 振り切ったか? いや、ディフェンスはさっきのドリブルを目に焼き付けられているため、フェイントにはかかったもののそれを最小限に抑え再び遼に食らいついてきた。

 しかし遼は無情にも、今度は向かってくるディフェンスの勢いを利用して、チョンっと嘲笑うかのような股抜きを決めてかわした。

 遼はこのままドリブルで切れ込みシュートを打とうかと思ったが、柏原の接近を感じたのでシンプルに中へとはたいた。

 そこにはボランチの光が走り込んで来ており、遼の横パスを渾身の力を込めてダイレクトで撃ち抜いた。抑えの効いた良いシュートだったが、キーパーの正面だったので胸元でキャッチされてしまった。


「あーもう!」


 光は小さな眉間にしわを寄せながら己への呪詛の言葉を吐く。だが直後遼に「どんまい。悪くなかったぜ」と言われながら肩を叩かれ、顔が赤くなったのを悟られないように下を向きながら自陣へと帰って行った。


「おーし良い流れだぞ! この流れのうちにもう1点取ってこい!」


 竹下監督がベンチから選手たちを鼓舞する。全国大会も2日目、明らかに初戦よりも動きは良い。やはり県大会からの強さは本物だと竹下監督は思った。

 選手たちは「おう!」とそれに答え、広島のキーパーからのパントキックに備えた。

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