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サッカージャンキー  作者: 宮澤ハルキ
第一章 少年サッカー編
25/48

第24節 遼ちゃん、モテモテだぞ

ー登場人物FILEー


白井(しらい) (ひかる)

この前遼の家で遼と爽太とラーメンを食べていた時に噎せてしまい、その時に鼻から麺が飛び出て遼に爆笑されたことがトラウマになりラーメンが食べれなくなっなしまった

 2週間前の日曜日にFC川越は県大会を制覇し、遼は得点王とベストイレブンとMVPに輝いた。そして次の日から、遼の周りは途端に騒がしくなった。


 遼は県下でも割りと有名な選手である。だがそれはあくまでも指導者やスカウト、選手間でのことだけであって、サッカーをやっていない学校の人たちは、遼がサッカーが上手くて運動神経が良いということは知っているものの、サッカー選手としての評価は当然の事ながら知る由もなかった。

 だが自分たちの通っている学校をホームとしているチームがプロのクラブの下部組織を抑えて県を制覇し、かつ同じ学校に通っている奴が個人タイトルを総なめにしたのだ。流石にそのことは子どもの間でも、そして保護者の間でも瞬く間に広まっていった。

 更に付け加えて言うならば、県大会の決勝はテレビ埼玉で録画放送されていたのである。自分たちの学校の人が出るということで、その試合を観た人たちもたくさんいるだろう。

 遼は週明け、登校の段階からいつもと周りの扱いが違うということに嫌でも気づかされることになった。



 ◇



 いつも通りの時間に遼の家の前に集合して、遼と光、そして爽太の三人は川越東小学校へ向かってのんびりと歩き始めた。前日にあれだけの試合をしたので体はかなり重く、寝起きは本当にしんどかったが、それを理由に学校を休むことはできなかった。

 今にもくっつきそうな瞼をこすり、筋肉痛に軋む脚を動かしながら眩しいアスファルトの上を歩いていく。三人とも殆ど会話をすることはなく、三人の間には時おり大きな欠伸の音が響くだけだった。



「おはよう!」


 突然、三人の怠そうな雰囲気とは真逆の明るい声が聞こえてきた。顔を上げると、反対側の歩道に同じ学校の女子が数名いた。


「うん? あ、おはよう」


 遼は不意を突かれて間の抜けた声を発してしまった。彼女らとは学校でもほとんど話したことはない。なのにいきなり挨拶をされたので驚いてしまったのだ。


「おはよう」


 顔見知りなのだろうか、光も挨拶を交わしている。爽太は、女子のうち何人かが彼の方をチラチラと見ているのにも関わらず、無反応でスタスタと歩いていく。その爽太を見ていた何人かの女子は少しがっかりした素振りを見せたが、遼と光も爽太に続いて歩いていってしまったので彼女らもまた歩いていった。


 

「あーびっくりした」


 さっきの子たちの姿が見えなくなった後、遼は胸を撫で下ろすように言った。


「俺さ、あいつらと全然話したことないのにいきなりおはよーなんて言ってくるから驚いちゃったよ」

「うん……私もちょっとびっくりした。あの子たちついこの前遼ちゃんや爽ちゃんのこと、『あいつらサッカーのことしか考えてないよねーほんと馬鹿じゃないの』とか陰口言ってたのに」

「嘘、それほんとかよ」


 遼はまたまた驚いた。


「まあ確かに、俺サッカーのことしか考えてないから、サッカー馬鹿って言うのもまあ外れてないよな。

 でもなんで俺にそんなこと言ってた奴らがいきなり……一体何があったんだ?」


 遼は苦笑しながら言った。すると光が、目尻に小さなシワを作りながら些か不機嫌そうな様子で言った。


「遼ちゃんと爽ちゃんと仲良くなりたいのよ……有名なサッカー選手であるあなたたち二人とね」


 爽太は黙ったまま二人の会話を聞いていた。


「いや別に俺らそんな有名じゃなくね? 日本代表どころかプロになってすらないんだぞ?」


 遼は首を傾げる。光はそれを見てため息を吐いた。


「いやあのね、別にプロだとか代表だとかそーいうのじゃなくてね? 何て言うかその……」

「何て言うかその?」

「……ううんやっぱ何でもない」


 遼にいちいち説明するのは時間がかかると思ったのか、光は首を振り会話を打ち消した。そして暫く黙ってから、少し遠くを見るような目で口を開いた。


「女の子は怖いっていうことよ」

「? でも俺光は怖くねーよ。あ、お前もしかしてチ○コ生えてんうわおいてっ!」


 遼がとんでもない下ネタを吐いたところで、光の鉄拳が遼の背中に炸裂した。


「そんなわけないでしょ!」

「ジョーダンだよジョーダン! ちっちゃい頃から居るんだからお前にチ○コが付いてないことくらいわかってるって!」


 背中をさすりながら遼は訴える。光は「もう……」と言ったきり、何も言わずに歩き続けた。


 そしてそのまま歩き続け、三人は昇降口に差し掛かった。


「じゃあ業間休みグラウンドな」

「おう」

「うん。じゃあね」


 遼は6年1組の教室へ、そして二人はその隣の教室へと入って行った。


 教室の扉を開けて、いつもよりも若干元気の無い声で「おはよー」と言った時、教室中の視線が一気に遼へと集中した。遼は学校へ来るのは割りと遅い方だ。そのため教室には35人のクラスメートのほとんどが揃っている。大勢の人に凝視されて遼はたじろいだ。


「お、おう……どうした?」


 その直後だった。クラスメートたちが、集団となって一斉に遼に向かって大移動してきた。


「遼くん昨日は凄かったよ!」

「レッズってあのレッズでしょ? あれに勝ったとかマジでヤバくね?!」

「全国大会は応援行くからね!」


 そして遼を取り囲んだ女子たちがキャーキャー騒ぎ始めた。自分の活躍を称えてくれているのはとてもありがたいが、さっきの光の話を聞いた遼は少し複雑な気持ちだった。


「いやーほんとすげーよな。お前ドリブル上手すぎだって。レッズのディフェンスですら完全に付いていけてねーじゃん」

「そうそう、宇留野も上手かったけど遼のが凄かったな」


 女子のワーワーキャーキャーが落ち着いてきた頃、今度は男子たちからの祝福の言葉が浴びせられた。

 ちなみにクラスの男子の中には、遼以外にも4人FC川越に所属している人がいて、そしてそれ以外にも他のサッカークラブに入っている奴も数人いる。女子たちには申し訳ないが、彼らから浴びせられる祝福の方が遼の胸にはスッと入ってきた。


 その後暫くして担任の先生が教室に入ってきて、六年一組の朝の会が始まった。遼は喧騒の中心から解放されて少しほっとしていたが、FC川越優勝の祝賀ムードは朝の会が始まっても続いた。担任の先生がサッカー好きということもあり、挨拶をして着席した後で先生は真っ先にそのことを話題に出してきたのだ。

 その時遼を含む1組のFC川越の選手たちは起立させられ、クラス全員からまたも祝福の拍手を受けることになった。更に先生は、遼がベストイレブンに選らばれたこと、得点王を獲ったこと、そしてMVPに輝いたことをまるで自分の息子に起きたことのように誇らしげに告げ、それとともに教室のあちこちから「おお~」という声が上がった。


 だが周囲のお祝いムードとは裏腹に、当の本人はかなり困惑していた。


(うーんなんか凄いな……俺こんな風になるなんて思ってなかったよ。まあでも流石にこれで終わりだろ。朝の会が終わったら多少は静かになるよな)


 だがそうは問屋が卸さない。遼は朝の会の後も、廊下で誰か――特に女子にすれ違う度に声を掛けられる羽目になった。

 小学六年生の男の子というのは基本女の子に対してイジワルをするものだが、遼はまったくそのようなことをしなかった。なので元々女子内の遼に対する評価は高く、そして先月行われた運動会のリレーでも大活躍をしたので、学年中の女の子から羨望の的となっていたのだ。加えて県でナンバーワンのサッカー選手となった今、女子からの『遼くんかっこいいですポイント』はかつてないほどの急上昇を見せていたのである。

 要するに遼くんモテ期到来って訳なのだ。

 ただ当の本人はまったくそんなことに興味がないので、ただキャーキャーとはやし立てる女子たちの声が時に鬱陶しく感じる程である。


「…………早く帰りてぇ」


 遼は学校が大好きな、健全で元気一杯の小学六年生だ。だがそんな彼でもそうぼやいてしまった。遼は生まれて初めて、心の底からそう思った。



 ◇



 本日のすべての授業が終わり、放課になった。帰りの会の最後の挨拶が終わると、遼はランドセルを引っ付かんで真っ先に教室を飛び出し、バタバタと階段をかけ降りて下駄箱へ向かう。そして脱いだ上履きを乱暴にぶちこむと、アディダスのトレシューを取り出して(かかとを踏まないように気をつけながら)急いで履いた。そしてその勢いのまま昇降口を突き抜け、最後に校門も突破しようとした。


 今日は月曜日だから夜練はない。夜練のない日はいつも放課後の空いているグラウンドで、みんなで集まってサッカーをするのがお決まりになっているのだ。何故こんなに急いでいるのかというと、もちろん早くサッカーがしたいというのもあるが、ゴールの場所取りをしなければならないからである。一組の担任の先生はいつも帰りの会をさっさと切り上げてくれるので、遼がいつも場所取り係を受け持っているのだ。

 しかしトップスピードで校門を突破しようとした時、思わぬディフェンスが立ちはだかってきた。


「遼くーん! ちょっと待って!」


  背後から遼を呼び止める声がした。遼は振り返り、声の主を見る。するとそこには、今朝遼に挨拶をしてきた女子たちのうちの一人がいた。


「ハァハァ……遼くん帰るの早いよ」


 息を切らせながらその子は言った。遼は早く用件を言って欲しかったが、呼吸が乱れててうまく喋れそうもなかったので、軽く貧乏揺すりをしながら息が整うのを待っていた。

 そしてその子の呼吸が直ろうかと言う頃、昇降口から今朝の女子グループがズラッと出てきて遼たちの方に向かってきた。


(ゲッ……!)


 不味い。

 遼はそう直感した。遼はフェイントなんて掛けないでスピードで千切ろうと考えたが時すでに遅かった。スピードに乗る前にディフェンスに囲まれ、完全に進路を寸断されてしまったのだ。


「遼くん、ちょっと話があるんだけど……いい?」


 息を切らしていた少女が微笑みながら言った。彼女は精一杯愛想よく笑っているつもりなのだろうが、有無を言わせぬオーラがビンビンに出ていた。


 身を硬くし、周囲を見る。すると遼を取り囲んでいる少女たちからも同じようなオーラが発せられていた。


(断ったら殺られる!!)


「ちょっ、ちょっとだけなら大丈夫だよ」


 遼は自分が怯えていることが悟られぬよう、できるだけ陽気な声をだして答えた。

書きたいという意欲もあり、テロップも完璧とは言わないまでもきちんとしたものがある。しかし時間が、時間が無いんですよね……せめて1日でいいから書き溜めするためのOFFが欲しいっす笑

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