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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

街に到着

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七話

 このゲームには、レアクラスに位置づけられる職業が複数存在していた。

 レア種を出現させるために何度もキャラクター設定操作に挑戦しているプレイヤーも珍しくはない。実際に聞かれる質問は二十問程度なのだが、質問の総数は十万種類と多く、ログインのたびにどの質問が表示されるのかは完全にランダムとなっているので成功したなんて話はなかった。

『皆様、ご注目ください! レアクラスプレイヤー、『姫』のいるチームです!』

 響いた放送に、街に居合わせた百人以上のプレイヤー達が一斉に色めき立った。
 姫を一目見ようと、入り口に向かって駆け出す者までいる。

「姫!?」
「姫ってあのチートキャラか」
「なんだあいつら早速PKしてんじゃねーか」
「姫ってどんなキャラだっけ?」

 あっという間に入り口には人だかりが出来て、口々に話が飛びかっていた。

「え? まじ? キスでレベル50もあがんの?」
「どれどれ? あの子か? やべー超可愛いじゃん」

 誰かがからかう様な口笛を拭くと、白のドレスを着た姫が怯えたように肩を揺らした。
 顔を見られたく無いのか、髪を触るような仕草で片手を上げて顔を伏せてしまっているが、細い腕から覗く顔のパーツだけでも息を呑むぐらいの美少女だ。

 細い腕、細い肩、細い首、柔らかく揺れる髪、白くて形のいい綺麗な足。ガラスの靴のせいで隠すことなく晒された小さくて形のいい素足。何より、どこもかしこも細くて華奢なのに胸が大きいのがいい。抱き寄せたらどんな顔をするのだろうか。見ているだけでも想像力を描き立てられる良い女だ。凝視していたのだが、ずい、と姫の前に茶髪の男が立って邪魔をしてくる。


 未来を体で隠しながら、視線とさざめく言葉の多さに達樹が肩を竦める。
「なーんかやな感じっスねー」
「ほんとだね。街に来るの、早かったのかな」
「そうかもしれんな。せめてもっとレベルを上げてからくるべきだった」
 無駄とはわかりながらも、未来を他の連中の視線から隠すように円陣を組んでしまう。

「!」

 五人の周りにウインドウがいくつも浮かび上がった。
 顔写真のついたウインドウに、職業と特技、魔法、HP、MP、ゲームのキャラクターとしてのステータスが全て表示されている。
 どうやら解析されているようだ。

「うえぇ、なんだこれ、気分わりー」
 自分の顔写真と、「シーフ、レベル6」と書かれたウインドウを見て達樹が眉根を寄せる。
 未来のウインドウなど、ざっと見るだけでも20以上もあった。前から、横から、斜めから、様々な角度から解析されている。

 今の五人の中で一番レベルが高いのは達樹だが、それでもたったのレベル6。この街の連中の平均レベルがどれほどかは知らないが、少なくとも、先ほど会った女達同様、20前後の者が多いと見て良い。これだけのレベル差があればステータスなど裸も同然だ。

 百合が苛立たしげに舌を打つ。
 そんな百合の心情など気にもせず、周囲からは好奇の声がきりも無く上がり続けた。

「あいつら超雑魚じゃねーか」
「レベル2とか。それでよくここまで辿りつけたな」
「へー、バーサーカーって初めて見た。こんな職業もあんのか。レベル2のくせHPも攻撃力も防御力もたっけぇな」
「お姫様ってまじ姫っぽい特技ばっかじゃねーか。いいねー。可愛いし」
「めずらし、勇者もいるじゃん」
「オッドアイの勇者とかかっこいーね」
「姫、よっわ。あれなら簡単に」
 さらえるじゃん。

 笑い声と嘲弄の声。

 竜神は一歩下がって未来の腕を握った。
「絶対オレ達から離れるなよ頼むからな」
「う、うん……気をつける」
 竜神の言葉に未来は素直に頷く。未来自身、自分が他の連中の手に落ちるなど考えたくなかった。下手にさらわれたらこのメンバーと敵対させられかねない。そんなのは絶対に嫌だった。

『チームの代表者は名乗りを上げてください』
「花沢百合だ」
『チーム 花沢様。あなた方のクリア目標は、姫を守り続けて女神に育てる事! 姫が死亡した時点でゲームオーバーとなりますのでご注意ください! 健闘を祈ります!』

「なんだそれ……」
 未来が心の底から嫌そうな声を出した。
「魔王を倒すよりはやりがいがあるな。女神になったらどうなるのか楽しみだ」
 百合が嬉しそうに瞳を細める。だがすぐに顔を引き締めた。
「美穂子はこの街に来て無いんだろうか」
「街中に放送されてるっぽいから、居たら出てきたと思いますよ。まさか美穂子ちゃん、どっかでやられちゃったんじゃねーすよね?」
「無事ならいいけど……」
 他プレーヤーから放たれる厭な視線と仲間が見つからない焦燥に達樹と浅見は溜息をつく。

「さっさと移動するぞ」
「うん」
 歩き出した竜神の手を借りて未来も歩き出す。
「まず装備を整えよう。買えるようなら消耗品も手に入れたい」

 百合の言葉に案内板を確認して、早速防具屋に入る。女達の装備や所持品を売った金額は30000ゴールドを越えた。戦士組、四人分の装備がそこそこ整うだけの金額だったのだが――――。

「姫様が装備できる服で、当店で取り扱っている品はこちらになります」

 店主が持ってきたのは透けたピンクのケープだ。露になってる胸や背中を隠したいのになんの意味もなさない。
「お値段は80000ゴールドになっております」
「たけええ! む、無理。やっぱいりません!」
 未来がぶんぶんと手と首を振る。

「靴はねーのか?」
 竜神が聞くと、店主が持つケープが消えて、ベルベットの台に乗せられたパンプスのような靴が掌に乗る。

「姫様が装備できる靴で、当店で取り扱っているのはこの品だけでございます」

「未来、履いてみろ」
「え、でも、これ、いくらだよ……どうせ高いんだろ?」

 店主が未来の前に腰を下ろし、そっと履き返させてくれる。この店主の頭上にはNPCの文字が浮いている。機械仕掛けのキャラクターなのに、未来は恐縮して頭を下げてしまう。

「わ、履きやすい!」
 ガラスの靴が動きにくかったせいもあるが、足に羽根が生えたみたいに軽く感じる。こころなしか、現実世界よりもジャンプ力も上がったようだ。

「いいじゃないか。店主、これはいくらだ?」
 横で様子を見ていた百合が尋ねると店主は頭を下げて言った。

「40000ゴールドになります」

 未来は息を呑んだ。わざわざ履かせてくれたところ悪いが、とても買える品ではない。
「全部売れば買えるだろ」
 回復や補助系の使い切りアイテムは売らずに残していた。
 竜神は紙の束をまとめて店主に渡してしまう。

「いいよ竜神! 俺の装備よりお前達のを先に整えようよ」
「けど、まともに歩くこともできなかっただろ? また靴擦れしてるし」
「そっスよ。未来先輩がいればレベル簡単に上がって金はいくらでも稼げるから、まずは先輩が動ける事が最優先っス」
「僕もそう思うよ」

 口々に意見されて、未来はいささか躊躇しながらも靴を購入した。因みにガラスの靴は売る事ができなくて、紙にしてアイテムとして持つ。
 最終的に、手元に残った金は600ゴールドだった。
 そろそろ日が沈む。
 事前に調べておいた宿屋への宿泊料金は一人100ゴールド。
 これ以上使っては休めないので買い物は未来の靴だけで終了だ。

「ご、ごめんみんな……金、全部使っちゃって……」
「金が手に入ったのもお前のお陰なんだからそう落ち込むな」
「そうだよ。必要経費だよ」

「しっかし先輩ってほんと姫なんですねえ。こんな序盤だってのに、一人だけ装備品の桁が二つもちげーって」
「姫ならこの格好なんとかしてほしいんだけどな。なんで姫が肌出しまくってんだよ……」
 むき出しの背中を自分で触ってうな垂れる。姫様ってもっと貞淑な格好をしているものではないだろうか。

 二軒先の宿屋へ入り、カウンターに棒立ちしている男に百合が声を掛ける。
「部屋を貸してくれ」
「ただいま、六人部屋しかありませんがよろしいでしょうか?」

「え?」

「ただいま、六人部屋」
「他に空き部屋はないのか?」
 同じ事を繰り返そうとした男を遮って百合が詰め寄る。

「ございません」
「この街に他の宿屋は?」
「街の逆側に高級ホテルがあります。宿泊料は一人1000ゴールドです」
「――まるで足りないな……」

 男女の混合チームで同室。
 それでなくとも男嫌いの百合は顔を顰めてしまう。
「まいったな。野宿なんて絶対無理だしな」
 竜神も顔を苦くした。
「絶対襲撃されますよ。モンスターじゃなくてプレーヤーに」
「しょうがない。その部屋で頼む」
 百合は大きく溜息をついて、金を払った。

 鍵を受け取って階段を上がる。

「……先に部屋を取って置くべきだったな……」
 部屋数に上限があろうとは思って無かった。変な所がリアルだ。所持金が完全に0になってしまったのも地味に痛い。

 さすがにゲームなのでシャワーも食事も部屋着もない。将来的には実装されるらしいとの噂はあったが、とにかく、宿屋は安全に眠るだけの場所だった。
 ベッドは部屋に一列に並んでいた。この並びなら場所の決定は簡単だ。
 入り口に一番近いベッドに竜神、その隣に達樹、窓辺のベッドに浅見、その隣に百合、そして未来。
 万一、攻め入られた場合に未来を守るための布陣だ。

「おおお! おれ、魔法が増えてました! 『魅了』! どんななるんだろ」
 ベッドに座ってウインドウを確認していた達樹が嬉しそうに言った。
「へー、さすがシーフ。FFの『ハートを盗む』的な魔法かな」
 二つ隣のベッドに座る未来が感心したように答える。

 達樹がいたずらっ子のような顔をして、空きのベッドに乗って未来に距離を詰めてくる。

「なんだよ」
「えーい『魅了』!」

「な……!」

 まさか味方に使ってくるとは思わなかった。未来は身を硬くした。

 達樹は未来に向かって使ったはずだったのだが、そこにいたのは未来ではなく百合だった。
 ベッドに座る未来の上、百合が寄りかかるように倒れていた。
 未来に掛けたはずの魅了の魔法は、百合に向かって発動されていた。

 沈黙のなか、百合の頭上にハートのエフェクトが舞い踊り――――miss! の文字が浮かぶ。魅了は失敗だ。

「竜神……!!」
 達樹が魅了を発動させたのを見て、竜神が百合を未来の前に付き飛ばしていたのだ。
 百合がこめかみに血管を浮かせてゆらりと立ち上がる。

「悪かった。つい」
 考える前に体が動いていた。未来に魅了の魔法が発動されたのを見て、盾にするため反射的に百合を突き飛ばしていた。

 百合は無言で剣を抜いて、思いっきり竜神に振りかぶった。
「悪かったって」
「悪かったで済んだら警察はいらんわ!!」
 竜神は鞘に入れたままの大剣で百合の太刀を受けながら後退する。

「邪魔が無くなったし、もいっぺん――み」

 力を使おうとした達樹の首元に剣が押し当てられた。こちらも鞘から抜かれてはいないが剣は剣だ。達樹が笑顔のまま硬直した。

 未来の後ろから剣を向けているのは浅見だった。

「達樹君」
「調子乗ってました二度としませんすんません浅見さん!」

 何を言われるわけでもなかったが両手を上げて剣から逃げる。
 浅見は一つ頷いて自分のベッドへと戻った。

(浅見さんまじコエー!あの人キレたら静かになるんすね)
(バカ達樹!俺まで怖かっただろうが!綺麗な顔の奴が怒ると迫力あるなああ)

 間違っても浅見に聞こえないよう小声で達樹と未来が騒ぐ。

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