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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

離れるなんて許さない

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もしも、日向未来が、友達を、作ったら。

「もー、未来先輩が信じられねーっすよー」
 達樹が席に座ると同時に怒りを滲ませながら言う。

「あんたさー、体触られるの怖い癖、なんで触ろうとしてきた奴のとこに行くの? 触られたいの? 実は触られたいの?」
「触られたいはずねーだろ。飯残したら勿体無いし、貧血なるって聞いたら心配になるだろ。あんなんでも」
「それで付いてって、体触られたらまた動けなくなるくせに。おれ、今、麻痺とか掛けられてないから、あんたが触られて駄目になったら本気で殴りますよ。相手女でもさー」
「だ、駄目だぞ。どんな状況だろうと女殴ったらお前のこと軽蔑するからな」
「だったら自衛してくださいよ。先輩に軽蔑されても別に全然平気だし」

「な……!」

 絶句する未来に構わず、達樹は中断していた食事を再開させる。


「写真撮りますー」

 カメラを構えた女性スタッフ(営業部所属 北原さん)が回ってくる。これで何回目だろうか。
 二桁はとっくに超えているはずだ。最初のころはポーズをとっていた達樹も美穂子もすっかり無反応になってしまっている。
 とうとう百合が切れてテーブルに箸を叩きつけた。

「何回周ってくるつもりだ! 飯ぐらい落ち着いて食わせろ!!」
「きゃああ。ごめんなさーい」

 さすが年の功といったところか、北原さんは悲鳴は上げるものの全く動じてない笑顔で写真を撮っている。

 未来はバカだし周りからの視線が目障りだしスタッフは鬱陶しいし、ぎりぎりしながら食事をしていた百合だったが、

『各高校から代表の方一人、順番に壇上に上がって一言どうぞ-。そちらの右端のテーブルからお願いしますー!』
 壇上に立った男性スタッフの言葉に、纏っていた怒りのオーラを緩和させた。

 テーブルにずい、と乗り出して百合は五人に聞く。

「恨み言がある奴はいるか? 思いっきり罵倒するチャンスだぞ」
「恨み言オンリーなんすね……。おれはいいっすよ。さっき百合先輩が言ってくれたし」
「竜神はどうだ」
「特になんもねーな。お前が行くの面倒なら行くけど」
「なら私が行かせて貰おう」

「お前達がいると心強いなぁ……。俺、こんな大勢の前で壇上に上がるとか絶対無理だよ……」

 未来が百合と竜神を尊敬の眼差しで見る。
 周りのテーブルからは「ええええ!?」「だ、誰が行く!?」「お前行けよーチームリーダーだろー」「いや、それはちょっと……!」と動揺の声が上がっていた。
 未来も彼等と同じ気持ちだった。
 事前に言われていれば心構えが出来ていただろうが、突然言われて突然挨拶するなんて、無茶振りにも程がある。
 ここにいるのは百五十人にも及ぶ高校生と十数人のスタッフだ。
 緊張でがくがくして何も喋らず終わってしまう自信がある。
 動揺もなく壇上に上がってくれる二人がとても心強い。

 壇上にあがる代表者達が、ゲーム内での思い出やアースソリューションへの感謝の言葉、または「ありがとうございました!」といった極短い手抜きの挨拶を述べていく。チーム花沢の番が回ってきた。
 促してくるスタッフに、百合は手を上げて「一番最後に回して欲しい」と要望を出した。
 要望はあっさり認められて次のテーブル――チーム鳳凰の代表者が壇上に上がる。
 ほどなく代表者の挨拶が一周して、百合が壇上へと上がった。

『先にお詫びをさせてもらう。トリを奪ってすまなかったなチーム碧き焔雷殿』

 順繰りに行けば一番最後だったはずのテーブルに挨拶をしてから、百合はマイク片手に話始めた。

『先ほど大広間で、ウチのバーサーカーが姫の命令で姫を殺す羽目になったと説明したが――。折角このような場をいただいたので、その時のバーサーカーと私達の心情を教えてやろう』

 百合は一息置いて、酷く悲しそうな顔をして続けた。

『ゲームオーバー後にバーサーカーが言っていたのだが、姫を剣で切り殺す絶望は、まるで、生まれて間も無い小さくて可愛らしいふっかふかの子猫を掌の上でゆっくりと××××して××××××で××××して×××××するようなトラウマを残したそうだ。ただ見ていることしか出来なかった私達も、綺麗な目をして見上げてくる純真無垢な子犬を目の前で×××××されているのに手出しもできずに××××――――」

「ぎゃああああ!!」
「やああああああ!!!」
「やめろおおおおお!!」
「マイク切ってええええ!」
「飯時になんて発言してんだチーム花沢ああああ!!」

 罵詈雑言を浴びせかけられても百合は平然として答える。
「私達のトラウマのお裾分けだ。ありがたく受け取れ」
「いりませんごめんなさいもう許してください!!!」

 食事の席を地獄絵図に叩き落した百合が満足して席に戻ってくる。
 そんな彼女に竜神が「あそこまで言ってねえけど」と苦言を呈するのだが、百合はしれっと「多少の演出は人生のスパイスだろうが」と返す。

「もう大丈夫だぞ美穂子、達樹、浅見、未来」竜神が四人の肩を叩く。
 百合が壇上に立った途端、急激な嫌な予感に襲われて、四人は耳を押さえて蹲り、あーだのうーだの呻いていた。百合の言葉を一言も聞かないように。
 見事なまでの危機回避能力だ。

 百合に続いて壇上に立つのはアースソリューションの男性スタッフだった。ぺこりと一礼してからマイクに向かって話しだす。

『始めまして皆様。わたくし、ゲーム監視の担当をさせていただいております、安全対策部の山本と申します。えー、バーサーカー君がお姫様から自身の殺害を命令されたその節は、われわれスタッフも、強制ログアウトが間に合わず大変申し訳ございませんでした。実は、裏でも結構阿鼻叫喚だったんですよ。バーサーカー君の苦痛が限界想定値とっくに突破してるのに全然ログアウトしてくれないし、お姫様はパニック状態に陥っているしで』

 申し訳無さそうに言う山本の後から女性スタッフが続ける。

『始めまして。私も安全対策部に所属しております田中と申します。まさか高校生モニターの皆様の中から、レアクラスキャラクターが出現するとは思っていませんでしたので驚きました。皆様に誤解があったようですから、ここで、公式より『姫』と『バーサーカー』の設定のネタバレをさせていただきます。それに加え、お詫びと御礼を兼ねまして、お姫様のキャラクターの出現条件を、ここにいらっしゃる方だけにこっそりとお教え致します』

 おおおお!!? 一気に会場が沸いた。それもそうだろう。姫はチートキャラだ。その出現方法なんて貴重な情報である。
 山本がもったいつけるようにゆっくりと話出した。

『物語が進めば足を踏み入れることがあると思いますが、マップの最西端にある、土地も民衆も痩せ荒れ果てた国「トランドレット」。この国最後の王族がレアクラスキャラクター「姫」です。トランドレット国は元々は善政が敷かれ豊かな国でした。ですが、宰相の謀反に合い、姫以外の王族は惨殺され、国を乗っ取られて、高い税と飢えに傾いてしまい、今は王宮ばかりが煌びやかになっているのです。
 ――――――謀反が起こった際にお姫様を庇い、呪いを受けながらも姫を守り通した騎士長、それが姫に付き従うバーサーカーの前身となります』

『出現条件は、同一IPから男女がゲームを始めること。そして、質問内容が、見事シンクロすること。この二つだけとなります。意外と簡単でしょう? でも、これが結構難しい。皆様もご存知のとおり、当ゲームのログイン時、キャラクター設定の選択肢は一問に付き10、多い時は20以上ありますからね。しかも完全に同じでは駄目なんです。人間、相性がありますから。ログイン時の質問で、深い信頼関係で結ばれた男女だと判断された場合にのみ出現します。皆様も是非また挑戦してください』

 説明を聞いていた未来が、嬉しそうに身を乗り出して竜神の腕を掴んだ。

「そっか、じゃあ、俺が姫になったのって半分お前のせいだったんだな! よかったああ! 非力で役立たずだから姫なんて雑魚キャラになったとばっかり思ってたよ。お前が居たからだったんだな」

 横で聞いていた男性スタッフ(販売部 綾崎君)が思わず突っ込みを入れそうになってしまう。
(お姫様。我々スタッフ一同、レアクラスキャラクターって言いましたよね? 言うにかいて雑魚キャラってなんですか雑魚キャラって)

 ゲーム設定上の『姫』にも、超可愛くて人気者だったのに非業の死を遂げてしまった目の前の『姫』にも思い入れがあるだけに少々悲しい。

『では最後に、我々スタッフからの挨拶をさせていただきます。皆様、今回はこのゲームシステムの発展にご協力いただき、深く感謝を申し上げます。皆様の――――』


 いろいろありながらもつつがなく(?)食事は終わり、時間は八時。
 無料出店の準備が完了したのだという。


「じゃあ浅見、俺、人に話しかけて回るから、約束どおり付いてきてくれよ」
「え! 本気でここでやるつもり!?」
「当たり前だろ」

「えええ!? じ、じゃあ私も行っていいかな? 浅見君いるなら安心だし!」
「……、そっか、そだね。一緒に行こう美穂子」
「うん!」
「美穂子が行くなら私も……」
「百合は駄目だ! というか、人数多くなったら俺、喋らなくなるから駄目だ。嫌でも喋らざるを得ない背水の陣で行かないと」
「たかだか人と話すだけなのに死地にでも赴くつもりか」
「それぐらいの覚悟がないと話せる気がしないんだよ……!」

「ひょっとしておれまでのけ者っすか!?」
「うん。のけ者」
 あっさりと切り捨てられて「ひでえええ!」と達樹が騒ぐ。

「あーあ、せっかくのお祭りだってのに未来先輩と別行動かー。先輩ら、どうします?」
 同じく未来に切り捨てられた百合と竜神に聞く。

「部屋に戻る」
「私もだ」
 百合は少々落胆してしまう。未来と美穂子と出店を回ろうと思っていたのだが、お払い箱ではしょうがない。竜神や達樹と屋台を見て回るなんて気持ちの悪い真似はしたくは無いから残る選択肢は部屋に戻る一択となる。

「じゃあ、おれ、使いっぱしてきますよ。先輩ら食いたいものあります?」
「タコヤキとお好み焼き、ヤキソバ。焼き鳥」
「イカヤキとリンゴ飴と杏飴と焼きもろこし」
「了解っす」

 一人で回るにはしんどい量になりそうだが、無邪気に外に走る達樹を見送って、百合と竜神は部屋へと戻るのだった。
 会話も無く二人はそれぞれ藤の間と桜の間へ入り、それぞれ部屋で寛ぐ。

 百合はテラスに出た。
 広いテラスからは屋台の並ぶ景色が一望できる。未来はすぐに見つかった。

 見覚えのある顔がちらほらといる一団と話をしていた。
(南星のバカ共と接触してるのか……)

 達樹よりも明るい色に髪を染めた三人のヤンキーが笑顔で未来に何か話しかけている。
 浅見と美穂子に挟まれた未来はあたふたと体を動かして相対していた。

 百合は先ほど「軽蔑されても平気だし」といった達樹の顔を思い出した。

 友人で、先輩で、類稀なる美女である未来。
 そんな彼女に達樹は平気で暴言を放ち、何度も怒らせている。
 未来に軽蔑されても全く意に介さないのは達樹が女を下に見ているからだ。

 ゲームの後、百合は大津恭平を調べる片手間に、王鳥達樹の素性も調べ上げていた。
 達樹の家族は父と二人の兄だ。母は五年前に浮気で家を出てとっくに離婚している。
 兄は社会人と大学生でそれぞれ一人暮らしをしていて、達樹は父と二人で生活していた。
 彼が夜遊びしているのは家に人が居ないせいでもあった。

 小学校四年生の頃に達樹は母親の浮気現場を目撃していた。女を下に見る原因はそこにあるようだ。
 女など裏切る生き物だからまともに相手をするものじゃない。そう心に擦り込まれているのだろう。

(未来があのまま連中について部屋まで行ったらどうなることやら)
 浅見と美穂子がいる。それに、未来本人が怖がりだ。男に付いていくはずも無いが、つい夢想してしまう。

 以前は好きだ好きだと態度に出していた達樹。
 あの男がおとなしくなったのは、達樹自身が竜神に負けを認めてしまったからだ。
 一緒に行動している間に、力でも器でも竜神には叶わないと、未来には竜神が相応しいと認めてしまったからだ。
 未来と竜神が入り込む余地がないほどに信頼しあっているのも大きい。

(もしも、未来が――――自ら、竜神の元から離れることがあれば――。新しいコミュニティを作り、そちらへと意識が向いてしまったら)

 未来はチーム花沢の五人以外に友人が居ない。
 正確に言うなら、日向未来には佐野良太という親友がいた。だが、佐野は彼女である美羽の気持ちを最優先にして、未来との付き合いの一切を拒絶している。教室で話しかけられるのも嫌がり、休み時間ごとに彼女である美羽のクラスへと足を運ぶぐらいの徹底的な避けようだ。


 だけど、あれだけ美しく、他人に「ほっとけない」と思わせる性格をした女だ。
 大広間で話した時も思ったことではあるが、その気になればいくらだって友人や味方を作れる。
 物怖じせず他者と接触を計れるようになれば、未来のコミュニティはどんどん広がっていく。

(未来に大勢の新しい友人が出来て、私達がお役御免になったらあいつらはどう出るんだろうな)

 未来が「人と話す」と宣言した途端、すぐさま、一緒に行くと言い出した美穂子。そんな美穂子が断られそうになった途端に自分が付いていくと切り出した浅見。

 チーム花沢の六人は一緒に居られるのが不思議なぐらいに性格にばらつきがある。そのお陰で、一人が駄目でも他の誰かがフォローできる状態だ。「護衛」の名目の元に常に傍に竜神がいるのも大きい。未来は他に友人を作る必要が無い。――――未来が友人を作る前に、傍にいる誰かが阻止できる。

 だけどこんな事がいつまでも続くはずはない。きっと、いつか、未来は人と話すことに緊張もしなくなり、怯えることも無くなり、五人とは別に友人を作ってしまうだろう。

 万が一にも、未来が他の男の隣に行ったらどうなるのだろうか。

 私達の誘いを断り、新しい友人達との付き合いを優先させるようになったらどうなるのだろうか。

(達樹は荒れるだろうな)
 達樹は、竜神を誰よりも高く評価している。力があり喧嘩に強く下に対して面倒見が良い竜神を兄のように慕っている節もある。
 そんな竜神が献身的に未来に仕えているのを、達樹はずっと傍で見てきた。

 未来が他に男を作るということは、竜神を利用するだけ利用して、男に慣れた後に他の男に乗り換える「裏切り行為」だ。

 達樹がもっとも嫌う行為に違いない。
 王鳥達樹は女を評価しない。女の隣に立つ男の価値で女の価値を計っている。
 未来が自ら竜神の庇護を離れた途端、達樹は未来に「価値無し」の烙印を押す。
 普通の女が相手なら、そこで付き合いの一切を拒絶して終わるのだろうが、未来は常軌を逸しているぐらいに美しい女だ。無条件で付き合いを終了させるには惜しい。女を下に見て、目的の為なら暴力も厭わないあの男は一体どう出るのだろうか。


「せんぱーい! 言ってた食いモン、貰って来ましたよー」
 丁度良く、達樹が廊下から呼びかけてきた。

「入っていいぞ」
「お邪魔しマース。はい、これ、どうぞ。冷たいお茶とラムネもついでに貰ってきましたから」
「ありがとう――――なぁ、達樹、もし、未来がお前の知らない男と付き合い始めたらどうする?」

「な、なんスかいきなり」
「例えばだ。別にありえない話ではないだろう?」

「そんなんありえねーっスよ。おれよりもまず竜神先輩が許さないでしょ。あんだけ色々面倒見させといて、今更、他の男選ぶとか。それに、竜神先輩とくっつかないなら、次はおれか浅見さんっしょー? 先輩の壁になったりフォローしたりしてんのに、知らん男に横から捕られるとか最悪すぎっすよ」

 達樹は机の上に百合から頼まれた品を並べながら続ける。

「浅見さんだってマジギレすんじゃねーの? あの人、フツーのおとなしそうな人だってしか思ってなかったけど、結構平気で人殺してたし。一番敵に回したくないのは竜神先輩みたいなガチでつえー人ですけど、その次ぐらいにキレても冷静な奴が面倒くさいでしょ?」

「浅見か……」
 百合先輩も超面倒臭そうだしさー。という言葉は聞き流してやりながら、百合は再び思考に沈む。

 大広間での会話が耳の奥に蘇る。

『誤解は解けたからもう大丈夫だと思うけど……』
『いや、いいですごめんなさい。俺、一人で頑張るから』
『未来――コミュ力上げるの頑張るときは、僕を連れてってくれないかな。僕も知らない人苦手だから、未来と一緒に頑張るから』
『あ、それいいな! うん、一緒に頑張ろうな!』


 未来が美穂子のフォローを断り、一人で頑張ると宣言した途端にすかさず名乗り出た浅見。
 あれは計算でやっているようには見えなかった。

(「まだ」無意識なんだろうな)

 間違っても他の人間の手に渡らないように、未来の見張りに立っている。が、まだ無自覚のようだった。

(計算するようになれば――多分あいつが一番厄介な相手になるんだろうな)

 いつかは浅見も気が付くだろう。未来が自分達のコミュニティから離れるかもしれないと。
 浅見はただでさえ人見知りでコミュニケーション不全の自覚を持っている。
 未来が知らない相手と遊ぶようになってしまえば、未来が遠くなる。手出しが出来なくなる。

 激怒しても激昂もせずに、冷静に、静かに状況を見ていた浅見虎太郎。彼が計算することを覚えてしまえば、冷静に、沈着に、効率的に、――静かに、未来を追い詰めていくだろう。逃げ場を塞いで。

 浅見の性格がちぐはぐに見える理由はすぐに判った。このメンバーの中でのびしろが一番大きいからだ。
 建物で例えるなら、まだ基礎工事が完成した程度で、上に立つ建物は建設途中――といった所か。
 最終的に建設されるのは機能的な高層ビルか、煌びやかな王宮か。

 浅見は見た目が良く知識も高い男だ。今後の経験次第でどうとでも変わっていく。

 未来の言葉に後押しをされ、浅見は分厚い眼鏡を捨て、黒く染めていた髪を地毛の色に戻した。
 未来同様に、浅見もまた、自分の容姿に対する周りの評価の変化に戸惑っている。

「僕なんか」と自分を卑下するネガティブな性格だから見目がいいとの自覚も薄い。
 左右の色が違う瞳にコンプレックスがあるらしく、色を隠そうとして目を細めるせいで、目付きが異常に悪く見えるのもマイナス点だ。

「未来先輩心配っすよねー。たまにすげー無防備だしバカな事すっし。なんかあったら、ちゃんと百合先輩か竜神先輩に相談してくれればいいんですけど」
「あぁ……」

「でも……、万一、あの人がおれの知らない男と付き合いなんか始めたら、おれ、本気で何するかわかんねーかも。相手の男にも、未来先輩にも」

 達樹は無表情で不穏な言葉を残して――――「んじゃ、お邪魔しましたー」といつものバカ面で笑って部屋を出て行った。

(まぁ、そうだろうな)

 達樹や浅見だけでなく、竜神だって本気で何するかわからない。

 竜神も浅見も達樹も未来にとっての「特別」だ。

 達樹は普通のガキだけど、竜神と浅見は同じ年頃の男と比べれば格段に温厚で優しい性格をしている。
 とはいえどもまだ十六かそこらだ。
 未来が他の男を特別にしようものなら、どう変化するか判らない。

 竜神が、姫のために献身的に仕え、しかし根本的には狂っているバーサーカーになったというのも、随分と意味深だ。

 未来は竜神を信頼して、竜神の体温しか受け付けないほどに依存している。
 おまけに、未来を安眠させてやれるのは、竜神だけだ。

 例えば、だ。
 万一、竜神以上に未来を安眠させられる男が現れ「用済み」のレッテルが貼られたら、あいつは、どう出るのだろうか。

 アホのように無邪気に無防備に懐いてくる未来が他に安心できる先を見つけ、竜神と他の男達を同列に扱うようになったら、あいつは、一体――――。


 百合は想像を打ち切った。百合は竜神ではない。考えたって妄想の域を出ない。



(私はどうするか――それを考えたほうが建設的だな)

 もし未来が知らない男に取られそうになったら。

 答えは一つだ。相手の男を社会的に追い詰めて抹殺してやる。それだけだ。

 学生であれ社会人であれ、スネに傷一つ無い人間なんているはずはない。PCの閲覧履歴一つとっても人に知られたくないURLの一つや二つあるだろう。盾に取って脅して未来から手を引かせればいい。
 未来は竜神と一緒に居るのが一番いい。竜神に飽きれば、次は浅見か達樹。もしくは美穂子か自分だ。それ以外は認めない。手放してやるつもりなど毛頭無かった。

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