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顔はヤクザだけど将来の夢はお巡りさんです

「あんたらいい加減にしろよな!! ゲーム内でも妨害プレイしかけてきた挙句に現実世界でまで暴力に訴えてくるなんて迷惑すぎるにも程があるだろが!! そのキリって奴が無理やり抱き上げたりキスしようとしたせいで、先輩、いまだに思い出すだけでも怖がるんだぞ!!」


 達樹が息継ぎもなく一息にチームテンプルナイトに言い放つ。


 美穂子に肩を抱かれた未来は、顔色を真っ青に染めていた。

 キリの顔を見た途端、ゲーム内での恐怖が蘇っていた。

 知らない男に抱え上げられ、心臓が破裂するぐらい鳴って脳溢血を起こしそうなぐらい頭が熱くなって。

 不鮮明なラジオみたいに会話が掠れ、仲間達の姿さえ見ることができない真っ暗闇の中で、ただ、あの知らない男の顔だけが鮮明に視界に映っていた。至近距離で大声を上げられ、内容はわからないのにただただ怖くて。

 足元さえ不確かにガクガクと震えが止まらない。美穂子が手を離せばバランスを崩して倒れこんでしまうだろう。


「ごめん、美穂子、ほんとなさけなくてごめん……。こんなことで震えるなんて……!」

 未来の澄んだ声は、本当に悔しそうで悲しそうで無力な自分に絶望していた。

「しょうがないよ。怖いものは怖いんだから。竜神君、お願い、」


「未来」

 美穂子から未来を受け取って、抱え込み、安心させるように背中を叩く。未来は倒れこむように竜神の体にしがみついた。


「大丈夫だから」

「ごめん……」

「部屋に戻るか?」

「……皆いるし、平気」


 震える姫を抱えるバーサーカー。その様子は他人から見ると完全に信頼し合った恋人同士で。

 周りの連中がどよめいた。


 ……あれ? 姫って、パーティーに苛められてたんじゃなかったの?

 輪姦されてるとかいう噂はどこいった?

 ちょっと待てよ、あいつら普通に仲良いの?

 ってかバーサーカーとお姫様って付き合ってんの?

 恋人同士にしか見えないんだけどどういうこと?

 そういや、苛められてるって誰が見たんだっけ?

 掲示板に書き込みあっただろ。

 でも、あの書き込みが本当だったら、姫がバーサーカーにくっつくのおかしくね?

 え? ってことは、姫、苛められてないってことにならない?


 え?


 苛められてないなら、仲がいいなら、何のためにチーム南星高校とチームテンプルナイトはあいつらと戦ったんだ?

 姫を助け出すために戦ったんだよな?


「…………あのシーフ、言ってたよな。妨害プレイがどうとか」

「い、言ってたね」

「ひひひひょっとして、連中、仲間をさらわれないため戦ってただけなんじゃ」


「えっ」

「えっ」


「だって逆から考えるとそうだよな。友達とゲームしてるのに、いきなり知らないプレイヤーに攻撃仕掛けられて……、一緒にゲームしてる友達の女の子、さらわれそうになるって……」


「――――――――――――」


 達樹の一言のお陰で流れが向いてきた。

 もう面倒くさいから一息に片付けてしまおう。静観していた百合が声を張り上げた。


「それだけじゃないぞ。そこのバカ共に麻痺レベル8を掛けられて激痛で動けなくさせられた挙句、私達がなぶり殺しにされそうになったから、ゲームオーバーにするために、姫はバーサーカーに自分を殺させたんだ。バーサーカーは姫の命令を断れない。姫の命令があれば、ゲームシステムで強制的に動かされる。お前等はどうせ、その程度のことも知らなかったんだろう?」


 え? そうなの?

 バーサーカーが姫を殺したとは聞いてたけど……、姫が殺させたんだったの!?


「見ての通り、ウチの姫とバーサーカーは鬱陶しいぐらいのバカップルだ。なのに恋人に命令されて殺す羽目になってしまったこいつのショックが想像できるか? ちなみにバーサーカーのゲーム内での最後の言葉は姫を殺す寸前に発した『早くオレを殺してくれ』、だ」


 竜神と未来が付き合っていると言う事実はない。しかし、傍から見れば恋人同士にしか見えないだろう。百合は躊躇無く嘘を吐く。


 ええええええ!?

 「姫を助ける正義感に燃えていた高校生」たちが息を呑んだ。


「姫を殺すぐらいなら自分が死にたかったんだろう。私でも普通に嫌だ。あんな華奢で小さくて可愛い女の子を殺すなんて耐えられないからな」


(――――――!!!!)

 確かに嫌過ぎる。

 ゲーム内とは言えども、あんな綺麗で壊れやすそうな子を殺すなんて無理だ。しかも――――それが、恋人だったとしたら。

 

「そもそも私達はゲームを始めたばかりだったからな。システムさえほとんど把握してなかったんだ。なのにいきなり攻撃されて、なにもわからないまま麻痺をかけられて……。当時の私達は平均レベル15程度だった。それなのにいきなり平均レベル70超えの連中に意味不明に襲われたんだぞ。その恐怖を想像してみろ」


 だだだだだだって、お前等、人相悪かったんだもん。姫を助けたかったんだもん!

 平均レベル15だって、姫のチート能力を使えば平均レベル65に一気に跳ね上がる。

 おまけに、攻守のバランスが取れている勇者や接近戦に強いバーサーカーといった特殊なプレイヤーさえ居た。

 到底適わない強豪チームだとしか思えなかった。


 むしろ、レベル5程度の差で戦いに望めるチームテンプルナイトの勇気を称えたかったぐらいだ。

 大体、掲示板に書き込みが――――。


「ああそうだ、掲示板の噂は全て『大津恭平』というAV業者の書き込みだ。ウチの姫を裏ビデオに出演させようと目を付けてきたが、シーフとバーサーカーに阻まれて逆恨みしてきたんだ。掲示板の書き込み自体はもう消えているかもしれないが、「暴行を見たと証言した二人の女」「チーム花沢と同じ高校だという男子生徒からの書き込み」「ゲームからログアウトしてきたという男からの書き込み」とにかく、私達の名前を出していた書き込みは全部、大津恭平一人のものだ。六台の携帯とパソコンから書き込んでいたんだ。興味があるなら裁判所に行け。事件記録の閲覧ができるからな。事件番号は××××××××だ」


 えッ。


「うちの姫は見ての通り小心者だからな。友達を攻撃された挙句に知らない男に抱きかかえられパニックを起こして虚脱状態になってしまったというのに……それをいいことに無理やりキスまでさせられそうになって、いまだにショック状態から抜けられていないんだ。小心者でなくても、恋人の前で他の男にキスされそうになるというのはトラウマものではあるがな。いくらなんでもセクハラが過ぎる。謝れとは言わないから、二度と私達に寄るな。以上だ」


 これでもう絡まれることは無いだろう。

 百合はふ、と一息ついてから未来を抱く竜神の背中を拳で殴った。


「バカが! 何のためにチームポセイドンこいつらを盾にしたと思っているんだ。いちいち暴力の矢面に立つんじゃない!」

「いくらなんでも先輩達に怪我させたら目覚め悪いだろうが」

「こいつらが仲間割れして怪我をしようが停学になろうが退学になろうが自業自得だろうが!」


 (この女、ほんっきで鬼だな!!!)


 百合の容赦の無さに翔太は足元をふらつかせてしまった。確かに自業自得でしかないので文句を言うわけにもいかないのが悔しいやら悲しいやら。

 前門の百合、後門のキリに挟まれた自分を想像して改めて、バーサーカー君のまともさを痛感してしまう。人相だけで悪人だと決め付けた自分が恥ずかしい。


「や、やめてよ百合。竜神があんな場面で見過ごせるはずないよ。竜神、将来警察官目指してるんだから」

「だからこそだ! 将来の為にも余計なトラブルに首を突っ込むなと言っているんだ!」


 (警察官!!?)

 周りの連中が驚愕にざわめいた。


 あのバーサーカー、将来警察官めざしてんの!? あの顔で!?

 ヤクザの跡取りか何かじゃなかったの!?


「やっぱー! ほら、あたしの言ったとおりでしょー!」


 甲高い女の声がフロア中に響いた。チームテンプルナイトの三月(みつき)だった。


「あたしら普通に弱い者いじめしてただけだったんだよ! ごめんねバーサーカー君! あんたたちの顔が怖かったから悪人だと思っちゃって。警察官目指してるって勇者君も言ってたのに、信じなくてごめん! でも勇者君も顔怖かったからさー。いまの格好もなんかチンピラみたいだし」

 三月が浅見を指差しながら言う。


「み、三月いいい! あんた、謝ってんのそれとも煽ってんの!? ご、ごめんね、こいつに悪気はないのよ。一言多いだけだから聞き流してくれないかな! 勘違いで襲ったのもごめんね、謝って許されるとも思えないけど――――」

 チームテンプルナイトのもう一人の女、二葉(ふたば)が三月の頭を押さえつけて浅見と竜神に頭を下げてくる。


「え? でもほんと顔怖いし。バーサーカー君だってヤクザみたいじゃない?」

「おお、お前、いくらなんでもひどいだろ!!」

 小柄な男子、一樹(いちき)も三月を止めようとする。

「なんで一樹が怒るのー? ねえ、バーサーカー君名前なんていうの? あたし愛原三月っていうの。ゲームの中でキリから庇ってくれてありがとうね。腕、半分ぐらい切れちゃってたし超痛かったでしょ? うちの男子、根性無しばっかだから、キリから庇ってくれたの初めてだったから感動しちゃったよー。さっきも一撃でキリ気絶させたのかっこよかったよ! 喧嘩強いんだねー。やっぱヤクザだから? あ、ヤクザじゃなかったんだっけ」


 怒涛のごとき暴言の嵐に未来は呆気に取られてしまった。

 竜神を庇うように立って、三月を睨み付ける。


「ヤクザヤクザいわないでください! 竜神はヤクザじゃないし、普通の人よりずっとずっと優しいんですから!」


 三月はびっくりしたように目を大きく開いて、未来を凝視した。そして、緩みきった笑顔になった。

「やっぱお姫様可愛いねー! ゲームでもありえないぐらい可愛かったけど、現実世界で見ると可愛さ倍増って感じ。胸もおっきー」


 未来の胸を鷲掴みにしようとした腕を、竜神が寸前で止める。

「なななな、なにするですか!?」

 未来はゲームで襲ってきた連中の前では男言葉を使うまいと必死になっていた。先ほど百合に言った台詞も「やめろよ百合! 竜神があんな場面で見過ごせるはずないだろ!」と切り出しかけて、慌てて女の子っぽく言い直していた。


 目上の人に対する女言葉は難しいので敬語に逃げていたのだが、いきなり手を伸ばされたせいでおかしな片言になって竜神の後ろに隠れた。

 まさかいきなり胸を揉もうとしてくるとは想像さえしてなかった。

 キリはいきなりキスしようとしてくるし、三月と名乗った女は胸を揉もうとしてくるし、なんてチームだ!


「先輩、未来は女も男も怖いってゲームの中で言いましたよね? 触ろうとしないでくださいよ」

「あ、そだっけー? 女同士だからよくない?」

「駄目です。未来、浅見の所に行ってろ」


 未来は一目散に一番端にいる浅見の後ろに隠れた。

(あ、あいつ、胸揉もうとしてきやがった! あの連中男も女も最悪すぎるじゃねーかぁああもうやだやだやだ)

 小声の涙声で浅見に愚痴る。

(参るよね……。僕もチンピラチンピラ言われるからチンピラがゲシュタルト崩壊してきたよ。罵倒も繰り返されると慣れるって生まれて初めて知った)

(だ、大丈夫浅見!? お前もほんと良い奴だからな。気をしっかり持てよ!)

(……ありがとう、未来)


「ねー、バーサーカー君お姫様とほんとに付き合ってんの? バーサーカー君かっこいいけどヤクザっぽいし、お姫様、可愛すぎるから似合わないよ。アンバランスだもん。だから姫を苛めてるって皆に誤解されたんだよー。あたしにしとかない? あ、無理なら愛人でもいいよー」


「ムカツクからそれ以上口開くんじゃねーよバカ女」

 未来の変わりに三月の前に立ったのは達樹だった。

「うっわ、なにこのクソガキ」


「達樹、やめろ」

「なんでっすか! あんたも浅見さんもなんで黙って文句言われっぱになってんスか! あんたらが低く見られたら一緒にいる未来先輩だっておれ等だって低く見られるって判ってるっしょ!?」


「判ってるけど言っても駄目なタイプだろこれ」

「う、そ、それはおれも思いますけど! でもムカツクから反論してくださいよ!!」


 面倒くさいのが増えた。竜神は眉間に力を入れる。三月だけでも面倒だったのに達樹まで増えるとさすがに鬱陶しい。

 三月は躊躇い無く暴言を吐いてくるが、悪意は全く感じられなかった。こういう性格の女なのだろう。

 相手に悪意が無いのだから注意しても無駄だなと、竜神は三月の言葉を聞き流していたのだけど、暴言に慣れていない浅見や短気な達樹のことを考えていなかった。これ以上聞かせると彼等の精神衛生上良くない。場所を移すためにチームテンプルナイトを促そうとしたが、それより早く、竜神に勝るとも劣らないぐらいの体格の男、十夜(とおや)が三月の口を塞いで引っ張った。


「わ、悪かった。ゲームで襲ったこともだけど、こいつの暴言も許してくれ!」

「ごめん、まじごめん!」

 がばりと一樹も頭を下げ、うー。と呻く三月を引っ張って離れていく。彼等の背中を睨みながら威嚇する犬のように歯を食いしばっている達樹を引っ張って、竜神もようやく仲間の元へと戻ったのだった。


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