表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/38

慰安旅行、当日。

 今回の旅行は送迎付きだった。

 が、他校の生徒と狭いバスの中すし詰めにされるのを嫌がった百合が、自家用車のリムジンを出すこととなった。


 当然ながら五人全員が便乗し目的地の旅館まで送って貰う。


 もうすでに旅館にはバスが何台も駐車していた。六時半開催で、ただいまの時間は六時。遅刻したわけではないが、他チームと比べればぎりぎりだったというところか。


 旅館に到着すると同時に、『アースソリューション』の腕章を付けたスタッフに囲まれた。


「こんにちはー! お待ちしてました、チーム花沢様!」


 十人近いスタッフに一気に囲まれて、未来と浅見が尻込みしてしまう。

 百合は平然として辺りを伺い、竜神と美穂子と達樹は普通に挨拶を返す。


「あら、皆制服できたのね。私服でも構わなかったのに! でも制服も可愛いですねー」

「は、はぁ……、アリガトゴザイマス」

 女性スタッフ(総務部 南原さん)に詰め寄られ、びくびくと未来が竜神の後ろに隠れる。


「記念に写真を撮らせていただきますねー。はい、こっち向いてくださいー。チーズ、サンドイッチ!」


 ぱしゃ。


「お姫様、バーサーカー君の後ろに隠れちゃ駄目ですよ、ほら、もう一枚行きましょう。勇者君もファイターさんも困った顔をしないで。記念写真だから、笑ってくださいね」

「うぅ……」

 慣れない名称で呼ばれて写真栄えするように並ばされて困惑しつつも笑顔を浮かべる。


 ぱしゃ。


「今度はばっちり撮れましたよ!」

 男性スタッフ(開発技術部 稲本君)が映像を確認してチーム花沢に向けてきた。

「現像して、帰り際にお渡ししますので楽しみにしててくださいね」

 なるほど、記念写真とはそういうことか。変に困惑してしまい失礼をしてしまったと反省する。

 勿論この写真は六人に渡される分どころではない枚数が現像されることになって、アースソリューションのスタッフに配られるのだが知る由はない。


「さぁ、お部屋に案内致しますね。こちらへどうぞ」


 南原さんに先導されて、六人は旅館に入っていく。

 玄関は広く、赤い絨毯が敷き詰められたロビーには、高そうな調度品がゆったりとしたスペースを持って置かれている。


「へー、良い旅館じゃねっすかー」

「広いねー」

 達樹と美穂子が感心したように呟く。


 靴からスリッパに履き替え、案内されるままに進んでいく。

「六時半からお夕食が始まりますので、大広間へと集合してくださいね。そこから宴会場へとご案内しますので」

「食事は各部屋で取るんじゃないんですか?」

 浅見がいささか困惑しつつ聞いてしまう。

「ここに来てくれたモニターの皆さんは、同じゲームで遊んだ、いわば仲間のようなものじゃありませんか。是非皆とも親睦を深めてください。あ、ここが皆様のお部屋です。男子は藤の間を、女子は桜の間をご利用ください」


「そして……」


 男性スタッフ(広告事業部 鵜野君)が抱えていた袋から、女性スタッフ(営業部 木藤さん)がビニールに入った服を取り出し、それぞれに手渡していく。


「この浴衣に着替えてから、広間に来てください」

「浴衣……?」


 どう見ても旅館専用の浴衣ではない。竜神には黒、浅見には紺、達樹に渡されたのは浴衣ではなく濃い空色の甚平で、未来に渡された浴衣は可愛らしい小花柄のピンク、百合には派手な赤、美穂子には華やかな黄色だ。


「……制服のままで居たいんですけど」

 竜神が言うが、木藤さんは不思議そうに言葉を返した。


「どうして? 汚してもクリーニング代の請求なんてしないから、気がねなくお使いください」

「制服のまま集合しても構いませんよね」

「駄目ですよ。着替えてから来てくださいね」

 竜神の要望は流れるようにあっさりと却下されてしまった。


「さぁ、どうぞお部屋にお入りください」


 南原さんに促されて、男子チームはがらりと引き戸を開いて室内へ入った。個室もまた、予想していたより広かった。新しい畳の匂いが鼻をくすぐり、窓際は障子で仕切られたフローリングの床になっていて大きなソファが二つ向かい合わせに置いてある。大きな窓からは緑広がる景色が一望できた。


「おおお、開放感すげー!」

「いい部屋だねぇ。実費で泊まったら結構しただろうねここ……」


 はしゃぐ達樹と浅見を他所に、竜神は畳にスポーツバッグと浴衣を放り出したまま窓際のソファに座ってうな垂れた。


「どうしたんスか竜神先輩。さっさと着替えて大広間に行きましょうよ。飯食いそこねますよ」

「着替えたくねー」

「なんで?」


 甚平を羽織ながら質問してくる達樹に、竜神はうな垂れたまま答える。


「…………益々ヤクザっぽくなるから嫌なんだよ」

「あー(納得)」

「一人だけ違う格好してると余計悪目立ちするよ。竜神君はただでさえ目立つんだから、周りに合わせた格好をしてたほうが無難だと思うけどな」


 浅見が帯を回しながら竜神に言う。


「そっすよー。浅見さんだって見ての通りチンピラっぽいんだし、気にする必要ないですって」

「ち……!!?」

 浅見は慌てて姿身に自分を写し、そこに立つ浴衣姿の目つきの悪い男に青ざめ、その場に座りこんで落ち込んだ。

 達樹の言うように完全にチンピラだ。ここまで浴衣が似合わないとは思ってなかった。柄の悪さばかりが増量されている。


「す、すんません浅見さん! ほら、おれだって益々ヤンキーっぽいですし、バランス取れてますっておれ等」

 まさかここまで落ち込ませるとは思ってなくて、甚平を着た達樹が慌ててフォローを入れる。


「ヤクザとチンピラとヤンキーでバランス取ってもね……」

「それ、バランス取れてるって言わねーだろ。偏ってるだろ。駄目なほうに」


 自分達だけなら、やくざだろうがチンピラだろうがどうでもいいのだ。

 だが今は美穂子や未来が居る。百合はそこそこ柄の悪い顔をした女だから問題ないが、美穂子と未来は駄目だ。

 傍に立つだけでも威圧しているように見えるだろう。かといって傍に居ないと確実に他校の男に絡まれる。コミュ力の高い美穂子はともかく、怖がりの未来を放置は出来ないし八方塞がりだ。


「顔は変えられないんだから諦めましょーよ。百合先輩の言うよう、女の子の虫除けになるんですから良いじゃねーっすか」

「――――あれ……?」


 達樹の言葉の違和感に、浅見が首を傾げた。

「ひょっとして達樹君……、僕らが襲われた理由に気が付いて無い?」

「え? ゲームで襲われた理由ってことっスか? 未来先輩が超可愛い上チートキャラだからでしょ? それ以外に理由があるんですか?」


 チーム花沢が襲われたのは、「姫に乱暴を働く悪党共の手から、可哀相なお姫様を助け出すため」だ。

「可哀相なお姫様」とは当然未来のことで、「姫に乱暴を働く悪党」とは竜神、浅見、達樹だ。


 もちろん自分達は未来に乱暴を働いたことなどない。

 大津恭平の虚言に騙された連中に誤解で襲われたのだが、当事者だったのに達樹は気が付いてなかったらしい。


 大鷹の呪いと麻痺レベル8の苦痛で、最後のチームテンプルナイト戦の会話をまともに聞けていなかったのだろう。

 浅見は襲われた理由を説明しようと口を開いたのだが、その時、


「失礼するよ! 諸君、浴衣はちゃんと着れたかな?」

 挨拶も無くドアが開いて腕章を付けたポロシャツ姿の中年男性が入ってきた。


「ちわっす。服お借りしてまーす」

 愛想よく挨拶する達樹の横で、浅見はおずおずと切り出した。

「あの……、できたら、他の柄はお借りできませんか?」

 男性は浅見の前に立ち、着物のあわせを調整して帯びの締め具合を確認しながら「どうしてだい?」と笑って答えた。


「この浴衣は気に食わなかったかな? 君はスタッフの人気者でねー、いろんな女子社員が色んな柄を押して、なかなか決まらずに大変だったんだよ。その紺の浴衣が最後まで勝ち抜いて残った浴衣なんだから、是非着てあげてくれないかな。凄く似合ってるしね」

「はあ……?」

 人気とはなんだろうか。勇者が人気ということだろうか。


 姫を中心としたチーム花沢が会社内で話題になっていたと知りもしない浅見は怪訝に眉を寄せてしまうのだが、人のよさそうなこの男が「似合う」というのだから、そこまでチンピラではないのかもしれないと気を取り直した。女性が選んでくれたというのも何となく心強い。



「ほら、君も早く着替えて!」

「はい……」

 まだうな垂れてた竜神だったが、いつまでも座っているわけには行かない。未来の傍についていなくてはならないのだから。

 諦めて服を脱いで着替えを始める。


「おお、やっぱり体格がいいと浴衣が映えるねー。仁侠映画に出てくる俳優みたいだよ」

 この男性に悪気は無い、むしろ褒めているのだと判っているのだけど竜神の額に血管が浮いてしまう。


 男性スタッフは浅見にしたのと同じよう、着こなしの確認をしてから、満面の笑顔で竜神に言った。

「お姫様といつまでも仲良くね! 今時なかなか居ないよ一途に信頼してくれる女の子ってのは!」


 力一杯背中を叩かれ、竜神は「はい……?」と疑問符を飛ばすしかできなかった。


「それでは失礼するよ。何かあったら連絡しておいで。私は金山というんだ」

「ありがとうございました」


 片手を上げ挨拶をしてから金山と名乗ったスタッフは部屋を出て行った。

「えらいテンション高いオッサンでしたね」

「そうだねー」


 胸ポケットにそれぞれ携帯とサイフを入れ、竜神はその二つの他部屋の鍵も持ち部屋を出る。



 脱いで着るだけの自分達とは違い、美穂子、未来、百合は時間が掛かるだろうと大人しく隣の部屋の前で待っていたのだけど、


「りゅーたすけてー」


 微かにだが、未来の悲鳴が聞こえた。


「………………」

「………………」

「………………」


 大勢の女性の楽しそうな声も聞こえて、何が起こっているのか想像付いてしまい竜神の視線が険しくなる。


「竜神先輩、行かなくていいんですか?」

「着替え中に入れるわけねーだろ」


「もう嫌だあああ」


 がらっとドアが開いて、中から浴衣姿の未来が飛び出してきた。

 帯がちゃんと巻けて無くて、生脚と胸が下着まで見えそうになるぐらい開いてしまっている。


「うわああ未来!!」

「せんぱいエロー」

「何してんだお前!!」


 露出具合でいえば、RPG内の格好の方が何倍も露出度が高いはずなのに、何倍もエロイ格好に浅見が叫び達樹が喜び竜神が全力で慌てて体で隠した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ