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三話


「おい、起きろ。起きろ竜神!」


 苛立たしげな花沢百合(はなざわ ゆり)の声に起こされ、竜神強志(りゅうじん つよし)は目を覚ました。


 目を開いた途端ドアップに広がった彼女の格好に眉間に力を寄せてしまう。


「…………お前なんつー格好してんだ。変質者かよ……」


 百合は折り返しのついたホットパンツと上着とも言えない胸当てだけだった。くびれたウエストが剥き出しに晒されている。腹は晒されているのに袖は長袖というのもバランスがおかしい。


「お前の服も大概だぞ。見苦しい体を晒すな」

「あぁ? ……なるほどこりゃひでえな」


 自分の体を見下ろして竜神がうんざりとする。

 竜神もまた、腹をさらけ出す格好をしていた。

 腹は何も守るものがないのに胸には鉄の防具があって、やたらと長くフードの付いた黒のコートを着せられている。

 コートに合わせた黒の長ズボンの膝から下だけが頑丈そうな鉄の鎧に守られているのがなんともアンバランスだ。


「しかしすげーな、まるで本物の森にいるみてぇだ」

 竜神が感心して辺りを見回す。緑の匂い、水のせせらぎに似た葉擦れの音、足元から沸き上がってくる土の湿り気。ここがバーチャル空間だなんて信じられない。


 立ち上がると長いコートが靡いて木に引っかかり、鬱陶しくて辟易する。

 歩くのが邪魔にならない程度にボタンを締めるが、コートにはゆとりがなく、鉄の胸当てを付けている部分は止まらなかった。丁度、腹が隠れる程度にボタンを止めた。


「他の連中の姿が見えないんだ。初期位置はバラバラなのか?」


 二人は辺りを見回す。鬱蒼と茂る木々、空を覆うツタ。

 人の気配はまるで無い。


「いでッ」


 百合が突然、竜神の頭に拳骨を落した。

「なにしやがる」

「痛覚も元の体のままなんだな。私の手も普通に痛い。この石頭が」

「殴っておいて文句言ってんじゃねえよ。けどまじで現実世界と同じなんだな」


「さっさと美穂子と未来を探さないと」

 百合にとって浅見や達樹はどうでもいい、ついでに竜神もおまけ以下付属品以下の存在だ。とにかく、女子二人と合流しなければ。

 しかし、全方向鬱蒼と茂る森だ。どちらに歩き出せばいいのだろうか。


「初手を間違えたらそれだけで積みだな。さて、どちらに向かって進むべきか」

「携帯……あるわけねーか」

 竜神が自分の体を探る。

 背中には剣があった。片刃の、未来の身長ほどもある巨大な剣だ。

 引き抜いて試しに振ってみる。長いだけではなく幅も広いがさして重さは感じず、随分と手に馴染む。


「お前は大剣使いか。私とは違うんだな」

 百合の腰には小ぶりな諸刃の剣があった。


 竜神は剣を背中に戻して再び持ち物をチェックする。ポケットから、草の絵が描かれた紙が出てきた。

「なんだこれ?」

 手にとった途端、

「!?」

 紙の上に3D映像のウインドウが現れた。

『薬草 HP30回復 使いきりアイテム』


「うわ!」


 今度は百合の正面にウインドウが表示された。

 手首のブレスが光っている。

 薬草のウィンドウに驚いてブレスに触れてしまった。それで反応したようだ。


「ステータス画面……? おい、竜神、お前も手首のブレスに触れてみろ」


 竜神の正面にもウインドウが表示された。

「オレの職業はバーサーカーだな。レベル1、HP880 MP20」

「私はファイターだ。レベル2、HP590 MP60。しかし意外だな。お前がバーサーカーだなんて」


 このゲームの売りは、プレイヤー本人のステータスがゲーム内に反映されることだ。ログイン時に質問があるのも、考え方や性格から職業が決定されるためである。


 竜神はヤクザのような厳つい見た目と違い、むやみと暴力を振るう真似はしない。

 先ほど百合が殴ったときも反撃してこなかった。そんな竜神が狂戦士だなどとミスマッチもいい所だ。

 むしろ、暴力を振るわれたら子供相手だろうと躊躇無く拳を振るう自分こそ、バーサーカーに相応しいのにと百合は首を傾げた。


 まぁその辺はシステムの甘さなのだろう。ひょっとしたら体格で設定されているのかもしれないなと一人納得して、百合は歩き始めた。

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