ゲームオーバーになったけど、とりあえずお腹空いたんで
ゲームから開放された浅見、達樹、美穂子、百合、竜神の五人は、装置を体から外し、それぞれ姿勢を崩した。
美穂子はがくりとうな垂れ前の座席の背もたれに腕を付き、浅見は瞳を閉じて首を逸らし背もたれに頭を乗せ、百合はきつく瞳を閉じて、達樹は歯を食いしばって唇を引き結んだ。――そして竜神は、自分の両手を見詰めて、うな垂れた。
未来を殺した。
たとえバーチャルの世界でも。未来を、殺した。
「りゅう、『ころして』」
それが姫からバーサーカーに下された命令だった。
「せ、せんぱい……」
「竜神君……」
達樹と美穂子は何かを言おうと言葉を探して、
「…………」
浅見と百合は竜神を見る事もできずに視線を背けていた。
『早くオレを殺してくれ!』
そう竜神は叫んだ。
あれは竜神の意思ではなく、ゲームシステムで無理やり動かされた行為だったのだろう。
もし自分だったら未来を殺せただろうか。
四人は想像する。
絶対に嫌だ。
無理ではなくて、ただただ純粋に嫌だ。絶対に嫌だ。脅されようと嫌だ。やりたくない。
竜神だって嫌だったのだ。自分が死んだほうがましなぐらいに。
誰も何も声が掛けられない中、
「う……」
体力の少ない未来がようやく目を覚ました。
状況の把握ができなかったのか、左を見て右を見てからはっと肩を揺らして――――。
竜神に飛びついた。
「りゅううううありがとうな!! お前が居てほんっとによかった!」
「――――!?」
「キスさせられたりとかされて気持ち悪かったあぁぁ! ぎゃー! か、考えたくねえええ!! 思いっきり触られたし!! 怖かったし、まじ怖かったし!! 気持ち悪くて死ぬかと思った!! 超怖かった死ぬかと思った気持ち悪かった!!」
日本語さえ覚束ない様子でぎゃーぎゃーと竜神に向かって騒いでから、未来は教師に向き直った。
「先生ええ!! このゲーム絶対欠陥ありますって! せめてPK禁止! もっと言えば、他プレーヤーに対する攻撃の全面禁止にしてからじゃないと高校生にやらせちゃ駄目なゲームですよ! 俺絶対二度とやんねー!! それに俺の格好だって露出プレイみたいな服で――――」
未来がぎょ、と片足を後ろに下げた。
一緒にプレイした五人が、未来を驚愕の顔で見ていたから。
「ど、どうしたんだよ」
「いや、元気で驚いたというか」
百合が言うと、今度は百合に食って掛かってきた。
「元気? 全然元気じゃねーよ! お前だって知らない男にキスなんかしたくないだろ!? 絶対やだろ!? なんでゲームでそんなトラウマ作らなきゃなんねーんだよ!! 竜神が殺してくれなかったらどうなったか……!」
ん?
未来は首を傾げて、あ!と声を上げた。
「あ、そっか、ご、ごめんな竜神! 俺のせいでお前に変なトラウマ作らせて……! 嫌だったよな、ゲームとは言え友達殺すなんて! ご、ごめん! まじごめん! 夢屋のカフェのバーガーとホットドックセット驕るから許してくれ!」
竜神の座る椅子の横にしゃがんで、下から竜神を覗き込む。
竜神はゆっくりと息を吐いて、体中に入れていた力を抜いてから答えた。
「――――いや、オレが驕る。なんでも好きなもの言え」
「なんで? 嫌な思いしたのお前じゃん」
「いいから」
「駄目だって、俺が驕るから」
言い合う二人に達樹が割って入った。
「んじゃ二人ともおれに驕ってくださいっす」
「なんで」
「最後痛くて死ぬかと思ったんですよー。おれ、あんないってー思いしたの生まれて始めてですよー! 労って暮れてもいいじゃねーっすかー! あ、そーだ、むしろ先生が驕ってください!」
達樹もようやくいつもの調子を取り戻して、矛先を教師に向けて騒ぎ始めた。
「私も。あんな痛い思いしたの初めてだよー」
「僕も……」
美穂子と浅見が揃って顔を伏せる。
「そうだ……、随分長い間プレイしていた気がするが、今何時だ?」
百合が腕時計を確認した。
「ゲームを始めてから三時間しか経ってないのか。一日以上プレイしてたのに」
「へー。面白い仕組みだねー。……私もお腹減っちゃったな。皆で行こうか、夢屋のカフェ」
「そうだね」
美穂子に聞かれ、浅見が頷く。
結局、達樹だけでなく百合にまで驕れと詰め寄られた山口だったが「特定の生徒にだけ贔屓はできないからー。それに校長先生にモニターの報告もしなきゃいけないしなー」とのらくら逃げてしまった。
達樹だけでなく、百合も無念がっていた。あんなゲームオーバーをしてしまい、せめて教師にぐらいペナルティを与えなければ気がすまなかったのだろう。
因みに、俺が驕る、いやオレがと言い合っていた未来と竜神だが、見事驕ることに成功したのは未来だった。
怒涛のごとき押しで竜神を黙らせ、ハンバーガーとホットドックのセットを押し付けたのだ。竜神も負けずに、次回、此処に来た時、驕る約束を取り付けたのだったが。