実はてんやわんやだった運営さん達
「ぶ、部長! バーサーカー君の苦痛レベルがまた想定限界値突破してます!」
ゲーム運営に携わり、ゲームを監視している社員の一人、山田君が部署中に響く声を上げた。
彼の頭には――、いや、部署中にいる20名ほどの社員全員が、特殊なヘッドセットを装着している。
「またかよ!! 今度は何!? またヘッドショットされた上に頭打った挙句骨砕いた果てに狙撃でもされたか!?」
答えるのは呼ばれた部長ではなく、山田君の先輩である鈴木君だ。
「麻痺レベル8及び、胸部二箇所、腹部一箇所、背中二箇所への刀傷です! その上無理やり動こうとしてるから……!」
「な、何をどうしたらそんなことになるんですか!? 拷問でもされてるんですか!?」
女性社員である山本さんが顔を青ざめさせて山田君の席へと駆ける。
「プレイヤーからの攻撃です。ガーディアン使用で仲間全員分の傷を受けています!」
「いやー頑丈な子だねー。動くだけでも皮膚が切れる麻痺レベル8で動こうとしてるだなんて。おまけにガーディアンまで使ってるとは恐れ入る。普通の神経してたらとっくに精神持たなくて、救済措置の強制ログアウト状態になってるだろうに」
報告を受ける当の部長は緑茶片手に落ち着いたものだ。
「茶ぁすすってる場合ですか部長おお!!」
バンバン机を叩いてテンション高く抗議する田中君に、部長は落ち着いたまま答えた。
「彼等のお陰で問題点が一気に浮上したんだから、モニターとしては最上じゃないか」
報告されるまでもなく、部長、木下もチーム花沢を監視していた。
次から次にトラブルを巻き起こす――いや、トラブルに巻き込まれる彼等は、今回、ゲームの問題点を浮上させることにおおいに役立ってくれていた。
「苦痛に関しては救済措置をとっていたけど、今のお姫様みたいに精神的なパニック状態への措置がなかったからね。大急ぎで改良しなきゃならないし、掲示板の運営もしなきゃならない。できたら外部からの書き込みができず、強制的に書き込み主の氏名が表示される設定にしてね」
「高校生モニターに望んでいたのは仮想世界におけるコミュニケーションツールとしてのあり方の模索及び情操教育に使用できるか判断するためのテストケースでしたよね!? 発狂レベルの苦痛やパニック状態に陥らせる事態を招くなんて!! しかもよりによって、超可愛い子のいるチームでとか!!」
「容姿での差別的発言は男女関わらずセクハラですよ! でも姫ちゃんレベルまで可愛かったら許すしかありませんけどね」
「左本さん、そんなこと言ってる場合じゃありませんよ! 確かに姫超可愛いですけどお持ちかえりしたいですけど!」
左本さんに山本さんが反論するが、反論の半分が左本さんへの賛成意見になってしまっている。
レアクラスプレイヤー「姫」が登場したことに、この部署だけではなく、会社中が喜びと驚きに湧いた。
もっとも出現するのが難しいキャラクターで、この先何十年とゲームが続こうとも出現することは無いんじゃ無いかと危ぶまれていたから。
姫の傍にバーサーカーがいたことは必然だが、パーティー内に同じくレアクラスプレイヤーである勇者までも出現して、理想のパーティーだと一気に注目の的になっていたのだ。
しかも姫に選ばれた子の容姿が圧倒されるほどに素晴らしかった。
姫の服装は客寄せの見せ着だ。
あの服装が似合うタレントに着せて、第三段目のCMで披露される予定だった。
ひょっとしたらレアクラスプレイヤー、「姫」に選ばれるかもしれないという女心を擽る要素として。
だから姫の服は思いっきり派手なデザインにしていたのに、全くもって服に着られていない。
脳内に居た姫より、CM起用候補として考えていたタレントより、数倍も数十倍も美しい姫が出現した。
チームメイトであるファイターと勇者はモデルも顔負けの美形だし、バーサーカーもまたイメージどおりに逞しく長身だ。プリーストは癒し系の美人で、シーフは子供っぽさが残ってはいるものの充分に整っている。
チーム花沢がそろい踏みすると同時に、広告事業部の連中が色めきたった。
美しい姫と姫を守る勇者達。普段は学生で、友人である彼等だからこそ、日常が非日常に変わるこのゲームのコンセプトを表現できるのではないか、と。
それぞれの部署がそれぞれの思惑を持っては居た。
が、チーム花沢が冒険を続け、綺麗な姫が女神として育つまで見届けるのが楽しみでしかたなかったというのに、
彼等はゲームと全然関係ない部分で次々に妨害されていた。
余談ではあるが、実は、姫の会話音声はスピーカーを通してこの部署内にBGMのように流されていた。
顔に似合わぬ男言葉ではあるが、笑い、泣き、はしゃぎ、時には仲間と喧嘩して、高校生らしいやり取りと、姫の澄んだ耳に心地よい声に男女関わらず部署全員が癒されていた。とんだプライバシーの侵害だ。
基本的に、姫が話をしないと反応しないので、今、スピーカーは沈黙していたのだが、沈黙している間にこんな急展開が起ころうとは。
ずっと無反応だったスピーカーが音声を流した。
『りゅう――『ころして』』
絶望に深く沈んだ姫の声が部署内に響く。
全員が、ひ、と息を呑むほど悲しい声だった。鷹揚に構えていた部長さえ立ち上がり、指示をした。
「チーム花沢強制ログアウト!」
「ははは、はい! わかりました! えーとえーとえーと」
「早く!!」
「わわわわ」
避難訓練でもテンパって経路を間違う宇野崎君がわたわたとキーボードに指を置く。慌てすぎて、FとJの上に人差し指を置くといった、通常状態なら無意識にとれるはずのポジションさえ取れてない。
「どいてください、私がやるから――――」
左本さんが割り込んでキーボードを打つ。
「バーサーカー君、痛みに負けるんだ! そうすれば強制ログアウトになれるから!」
「姫ちゃんも撤回して! 死ぬほどのことじゃないから! キスぐらいで死んでたら将来持たないわよ!」
聞こえないとわかっていつつも画面に向かって口々に叫んでしまうのだが――――。
「――――――」
「……バーサーカー君お姫様殺しちゃいました……」
強制ログアウトは間に合わず、バーサーカーが剣を投げてしまった。
「うわぁ……」
「これ、確実にバーサーカー君のトラウマ決定じゃないですか……。まだ高校一年生だってのに気の毒に……」
「俺がガキの頃だったら絶対耐えられないぞこの展開は……。無理やり動かされてあんな可愛い子殺すとか、確実に精神病む」
「ひ、姫が……、これ、他部署の連中に、なんて説明すりゃいいんだよ……」
「……可哀相に……」
「プレイヤー間の攻撃も全面禁止にしないと駄目みたいだねえ。攻撃用道具、魔法、武器、全部使用不可にしないと。さ、皆忙しくなるぞ。席に戻れ」
「はい……」




