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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

悪者共から姫を救え!(悪者ではありません友人です)

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十七話 <挿絵有り>

 百合は溜息を吐いた。
 未来が他者のヒロイズムを刺激するとは知っていたのだがこれはひどい。

 このメンバーで一番人当たりの良い竜神と美穂子に対応を任せるが、まぁ無理だろう。
 どうやら事は最悪の方向に流れそうだ。

 声を掛けてきた連中にとって、未来は完全に「可哀想な被害者」だ。
 彼女がどれだけ「チーム花沢」の連中を信頼してると伝えようとも、ストックホルム症候群に侵されているようにしか見えないに違いない。

 逃げるように戻ってきて、一番遠くにいた達樹の後ろに隠れた未来は完全に怯えていた。
「こ、こわ、こ、ここ、こ」
「落ち着け未来」
 まともに声さえ出せない未来に、百合が声を掛ける。

「ほ、ほほほんっきで怖かった……。お、俺、知らない人だと女の子相手でも触られるの駄目だったんだ。新発見!」

挿絵(By みてみん)
<<呉作様よりいただきました!ありがとうございますありがとうございます>> 

 服越しならまだ大丈夫だったかもしれないが、今の未来の服はどこもかしこも肌が晒されている。
 直接皮膚に触れる他人の体温が尋常じゃなく恐ろしかった。相手は女の子だとわかっていたのに。

 普段、肌を露出しない未来にとってこの服は裸並みに抵抗がある。それなのに知らない男に至近距離で注目されたストレスも尋常ではなかった。

 話しかけてきたチームには四人も男が居た。先頭に立った男に胸を見られているのに気がついて、思わず全員を見上げると、四人が四人とも足や胸をガン見していて、怖くて声さえまともに出なくなった。時折声が引き釣ってしまったとは言えども、逃げ出さずに受け答えできたのはビビリの未来にとっては奇跡に近い。

「落ち着いて未来、もう大丈夫だから」
 完全にテンションがおかしくなった未来を浅見が宥める。
 未来はちらりと上目遣いに浅見を見てから視線を下げた。
「お前は良い奴だよなー浅見」
「え?」

 会ったときも今も、未来の胸をガン見するような真似をしてこない。
 達樹は容赦なく見るバカだが、それでも、浅見と竜神がストッパーになってくれてがっつり守ってくれるし、達樹自身、竜神にも浅見にも懐いているようだから、本気で二人を敵に回すような行為はしないとわかるので安心できる。

 身長が一気に縮んだせいで、巨人に見える男共からヤラシイ目で見られるだけでも精神的にきつい臆病者の未来にとって、このチームは唯一の安心できる場所だ。改めて痛感する。

「うぜーっすねーあいつら。全然信じてませんよアンタのこと。それに……どいつもこいつも先輩の胸だの足だのガン見しやがって。男連れてる女の体ガン見するとか頭おかしいんじゃねーの?」
 達樹はこちらを伺うチームを攻撃的に睨み付けていた。浅見が顔を押さえつけ逸らさせる。
「睨んだら駄目だって言われただろう」
「……すんません……」
 達樹は素直に視線を逸らして未来の手を引いて歩き出した。


「面倒なことになったな」

 百合は珍しくも弱音のようにぼやいた。
「まぁしょうがねえ。未来はどうしたって目立つからな。いつかは同じようなことになったさ」
 誰かに拾って欲しくて呟いた言葉ではなかったのだが、竜神からの返事があった。
「お前も完全に悪役だな。連中の目を見ろ。お前が諸悪の根源とでも言わんばかりだ」

「慣れてる」
 風貌がヤクザな竜神が悪役になれて居ないはずがなかった。なんだか妙に笑えてしまって百合は口元を押さえたのだった。


 一行は気を取り直し、武器と防具を売っている店に入って、各々好きに装備を整えはじめた。


「バーサーカー様が装備できる品はこちらになっております」
 店長が両手を横に差し出した途端、巨大な黒い鉄の鎧が現れた。
「おおおおすげー! フルプレートアーマー!!」
「お、重たそう! これ着れるの?」
 達樹と未来が騒ぐ。
 竜神は鎧に触りウインドウを表示させ装備にチェックを入れた。
 顔まで鎧に包まれて、目元さえ出ておらず、全く誰だか判らない。

「重たくないんスか?」
「重さは全く感じねえな。視界も変わらないし鎧を装備してる実感がねえ。普通の服みたいだ」
「そうなんスかー、へー……でもなんか……こえー……」
「こ、こんなの嫌だ……」
 怪談に出て来る動く鎧のようで、未来も達樹も一歩引いて嫌がってしまう。ただでさえ威圧感のある体が壁のようなのだ。

「えーと、グラフィックはデフォルトのままにすりゃいいのか?」
 全身鎧姿だった竜神が、この世界で見慣れた黒のコートの姿に変化する。
「グラフィックがデフォルトのままにもできるのか。こっちがいいよ!」


「シーフ様が装備できるのはこちらです」

 達樹の格好はハーフパンツとシャツ、ブーツ、丈の短いアウターだった。
 一番攻撃力の高いダガーを購入して、残りは素早さ重視で揃えて行く。

「バーサーカーもファイターも勇者もパワータイプみたいっすからね。一人ぐらいはスピード主体のプレイヤーが居たがいいだろうし」
「いいなー。俺もシーフやりたかったなー。ダガー投げてみたかったなー」
「まだ言ってたんですかあんた……」
 剣を投げる真似をする未来に、達樹はちょっとだけ悲しくなった。


「銃が欲しい! 片手で撃てる銃はないか!?」
「ございます。ハンドガンと拳銃」
「一番強くて命中率が高いのをた」
「百合さんはそれより鎧買わないと! さっきの戦いでも何回もお腹を切られてただろう!?」
「あの混戦の中、良く見ていたな。そういえばしょっちゅうヒールも飛んできてたんだった。礼を言い忘れていた。ありがとう浅見」

 竜神を回復に向かった浅見はファイターやモンク、ナイトといった接近戦タイプのプレーヤーに足止めされ、後退させられてしまい、結局竜神の元へ駆けつけることはできなかった。せめてもと、魔法の届く範囲に居た百合へと回復魔法を掛け続けていたのだ。

「それはいいから、鎧! 銃じゃなくて盾でもいいんじゃない? ファイターは盾装備できるだろう?」
「お前、私が防御するような人間に見えるのか? 盾があっても盾で押しつぶしに行くだけだ。ならば武器を装備した方がましだろう」
「……!」
 浅見が絶句している間に百合はさっさと銃を吟味してしまう。

 それでも浅見に鎧鎧と連呼され、結局竜神と同じような顔まで隠れるフルプレートアーマーを購入したのだった。見た目は百合もデフォルトのままで、腰に装備した新しい剣と拳銃だけ新装備として表示させる。


「あ、これ、可愛いー! 着てみていいですか?」
 プリーストの装備は多種類存在していて、美穂子はまずウインドウで選んでいた。
 店主が笑顔で頷いたのを確認してから装備を選択する。
「わ、美穂子、かっこいいなそれ」
「でしょ!? こういうの着てみたかったのー! 現実世界じゃまず無理だもんね!」
 美穂子が選択したのはシスターの修道服のような、だが紺一色ではなく前身ごろが白の装備品だった。
 完全に現実世界の修道服が再現されているのではなく、顔をすっぽり包んで髪を隠すはずの白い布が形を崩して首元を包んでいる。頭に被るウインプルは帽子になっているように見える。足元はミニスカートでニーハイとブーツだ。
「美穂子! 素晴らしい可愛いぞ!」
「ありがとう百合ちゃん~」


「うーん、姫とプリーストがいるからなあ。僕は盾キャラになろうかなー。攻撃は百合さんと竜神君と達樹君だけでも十分だろうし……」
 防御力を徹底的に上げて、少女二人を攻撃から庇うだけのプレイスタイルだ。死ぬほど地味だし面白味の無い役どころである。

「盾キャラ!? いいなーなんかかっこいいなー。俺もやりたいな……」
「未来が盾? 何の?」

 美穂子と浅見に声を揃えられ、未来は座りこんでいじけてしまう。
 防具屋の中を行ったり来たりしている、ゲームのマスコットキャラクター、ポヨコ(ひよこっぽい不細工なキャラクター。体長50センチ、体重3キロぐらい)を突いて「俺だって、ゲーム始める前はちょっと期待してたんだよな。戦士系は絶対無理だけど、でも魔法使いにはなれるだろうって思ってたのにな。なんだよ姫とか。なんも面白くない」と不満を漏らしてしまう。
 姫が装備出来る品は80000ゴールドもするケープしかないから、楽しそうに買い物している連中を見ているしかないのがまた切ない。

「うぉ、あぶねっ! お前ただでさえ小さいんだから変なとこに座りこむなよ。踏み潰すだろうが」
「――」

 さして広くない店内でごちゃごちゃ入り混じっているので、身長の高い竜神の視界には入らなかったようだ。
 未来は自分が悪いとは知りながらも竜神を見上げる視線に敵意を込めてしまう。
 完全に八つ当たりだ。
 戦闘が出来て装備が出来て買い物が出来る竜神をやっかんでるに過ぎない。

 ポヨコを抱いて移動して、部屋の端に座りこんで恨みがましく竜神を睨んでしまう。
「な、なんだよ……?」
「なんでもないです」
(あ、鏡、ある)
 そういや、背中の傷どんななんだろうか。
 何気なく後ろを向いて、「うわ」悲鳴を上げてしまった。

 予想以上に酷い傷だ。生々しくはないのだけど、皮膚が引きつれ肉がへこんでいて、くっきりと十字に裂かれている。
(こりゃ、怒るなぁ……)
 入り口で話しかけてきた連中の、痛々しそうな視線も当然だった。
「反省してますかー?」
「……してます……」
 美穂子に問われて力無く答える。


『山本 大悟さんからの着信です』


 美穂子のブレスが光り、機械音声が流れる。
 光るブレスに触りウインドウを表示させた美穂子が映像付き通話で起動する。
 人のよさそうな壮年の男性がウインドウに表示された。

「はい、美穂子です」
『美穂子ちゃん』
「どうしたの? 山本さん?」
『さっきの今なのにごめんね。君達の噂が回ってきたから心配になって』
「噂?」
『うん。君達のチームが姫に乱暴を働いてるって。噂。美穂子ちゃんがそんなことするわけないって僕等はわかってるからって伝えたくて』
「なに? それ」
 山本の隣から、山本と同じぐらいの年頃の女性が顔を覗かせた。山本の妻だ。

『結構えげつない噂だから。覚悟しておきなさいね』
『君のチームの男の子たち、キツそうな子ばっかりだったでしょ? だから余計なんだろうね』

「そんな」
 美穂子が悲しそうに顔を曇らせた。

『皆本 ミコさんからの着信です』
 今度は浅見への着信だ。浅見もすぐに映像付きで通話を繋げる。
『……虎太郎くん』
 先ほど浅見と話していた小柄な少女だった。

「どうしたの? ミコさん」
『あのね……、虎太郎くんがお姫様を苛めてるって噂を聞いたの。体に傷をつけたりとか。でも、その、気にしちゃ駄目だよ! 私達、信じて無いからね!』
 通話にもう一人、同じくらい小柄な女の子が割り込んでくる。
『うん、ちょっと話しただけだけど、虎太郎くんがそんな真似するなんて思えなかったし!』
『私達、ちゃんと否定してるから。負けないでね。ゲーム、楽しもうね!』
「……ありがとう。うん。気にしないようにするよ」

 美穂子も浅見も通話を切る。
 未来は呆然と立ち尽くしていた。

『大津 恭平さんからの着信です』
 今度は達樹への着信だった。
 達樹はウインドウを表示させ、しばし迷ってから通話のみで繋げた。
 先ほどの髭男1だ。
『よー達樹』
「どもー!」
『今一人か?』
「はい」
 移動するのが面倒くさくて答える。こちらを伺う仲間達に唇の前に指を立てて沈黙を頼む。

『お前等さー、姫、輪姦まわしてるってまじで?』

「はぁ!? 何それ!? ちげーっすよ。根も葉もない噂です! んなことしたら先輩に殺されっし!」
『なぁ、今週末、桜花駅にあの女連れてこいよ』
「嫌っすよ! なんでそうなるんスか!」
『学校に噂、流されてもいいってのかぁ? お前等桜丘高校なんだろ』
「――――――」
『おい、聞いてんのかぁ?』
「……」
『返事しろコラァ!』
「いいっすよ。おれ、そういう噂慣れてますからお好きにどうぞ」
『あぁ!?』

「聞こえなかったのかよ。構わねぇっつってんだろーが」
 牙を剥く様な表情になった達樹の頭に掌が乗った。竜神だった。

「先輩」達樹の頭を押しとどめたまま、竜神が恭平に呼びかける。
『…………竜神か』
 達樹に騙されたのだと気が付いて、男はち、と舌打ちをした。

「はい。最初に言いましたよね。オレら高校のモニターだって。行動は全部、監視されてるんですよ。脅迫してくるなんて、ヤベーのはアンタらの方っすよ」

『あぁ? 誰が脅迫だってぇ? 俺等は善意で学校に通報してやるっつってんだよ。可哀想な女の子のためにな』
「その女の子を連れて来いって言いましたよね」
『空耳じゃねーの?』
「誤魔化してえなら、保護の為だったってぐらい言えよ」
『てめぇ、面覚えてるから殺してやるから覚悟し』

 通信が唐突に切れて、機械音声が応答した。
『通信相手は未成年に対して不適切な行動を取った為、強制退会措置となりました』

「あれ? まじで監視されてんのか?」
「え? はったりだったんスか?」
「行動のログを取ってるだろうなってぐらいは思ってたけどよ」

「あまり挑発するなよ竜神」
 百合が呆れたように、だけどどこか楽しそうに言った。
「挑発なんかしてねえよ。穏便に済ませようとしてただろ」
「お前の穏便の基準が判らんな。それはそうと……早速高校まで漏れているな。ひょっとして誰か話したか?」
「ごめん……私が話しちゃった」
 美穂子が手を上げる。竜神は美穂子を見下ろして言った。

「謝る必要はねーよ。高校ぐらい雑談のついでに話すだろうしな――おい、未来、大丈夫か」
 未来は真っ青になってスカートを掴んで震えていた。
「気にするな。レアキャラだとどうしても目立つから、こういうのは防げないもんだ」
「そうだぞ未来。有名税だと思って開き直れ」
 竜神と百合が言うものの、未来はうな垂れたまま顔を上げる事もできなかった。

「……ごめん……!」
 背中に付けた『姫の傷』
 軽い気持ちだった。良かれと思ったに過ぎなかった。
 ゲーム内の描写でしかないこの傷が、ここまで竜神や浅見、達樹を侮辱する事態を巻き起こすなんて。美穂子や百合まで、暴力を振るう女だと思わせてしまったなんて。
 後悔が過ぎると泣くこともできなくなると生まれて初めて知った。
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