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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました  作者: イヌスキ
悪者共から姫を救え!(悪者ではありません友人です)
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十五話

 ――――――――レアクラスプレイヤー、姫。


 この「リアの街」へ踏み込んだ彼女を見た時、海原翔太(かいばら しょうた)呼吸は止まるぐらいに驚いた。

 翔太は高校二年生17歳、麦沢高校から高校生モニターとして選ばれ、二週間前からこのゲームに参戦している。


 白のドレスに身を包んだ姫は、綺麗で、透明で、小さくて、華奢で。


 好奇の視線に晒され怯える彼女は本当に、絵本から飛び出してきた姫としか思えなかった。

 このゲームはグラフィックの変更ができない。実在する人間の姿でしかプレイできない。

 大根底の前提だ。それを忘れて、美しいキャラクターMODでも入れたのかと思うぐらいに現実感のない綺麗な少女だった。


 姫の美しさを下種に喜ぶプレイヤーの影で、声も無く驚いていた人数は少なくなかったのだ。

 あの少女が居れば、それだけで英雄になれる気がする。

 姫にチート能力がなくてもいい。ただ座って応援してくれるだけで、指揮が上がる。強くなれる。本物の勇者になれる気がする。そう、衝撃を受けた人数は少なくなかった。


 翔太もまたその一人だった。


 パーティーを組んでいる仲間の名前は内海結衣(うちみ ゆい) 成海りく(なるみ りく) 海瀬奈緒(うみせ なお) 海村愛翔(うみむら まなと) 渡海 魁人(わたみ かいと)の五人。

 選抜時、教師は「海」の付く苗字から選び出したのだろう。

 全員二年生でありながら、クラスは別々、殆ど面識もないチームでこのゲームを始めた。今では親友と呼べる大切な仲間だ。


「うわぁ、あんな綺麗な子始めて見た……!」

 呟いたのは奈緒だ。


「いや、一般人じゃないでしょ。モデルだろあれ。製作側が宣伝に入れたんじゃねーの?」

「モデルなら隠れるわけ無いじゃん。ってか怖がってるでしょ」

 姫のチームの周りには無数にウインドウが開いては閉じている。こうやって見ているだけでも誰が何の職業なのか丸判りだ。


 ゲームのステータスだろうと、人から自身の情報を勝手に閲覧されるのは不愉快でもあるし、恐ろしいことでもある。

「あんだけ解析されりゃ怖いだろうな。可哀想に。つかあいつら何やってんだよ。『解析阻止』の魔法ぐらいかけりゃいいのに――って! レベル2ィ!? なんじゃそりゃ」

「よっわ! あ、そっか、姫ってキスでレベル50上げれるんだっけ。ならレベルなんて関係ねえか」

「解析ぐらいで怖がる子がキスなんてできんの?」

 ふと結衣が呟いた。


「え」


「だって、周りの男、超怖い子ばっかじゃん。PKしてる奴だっているし」

 言われて見ればその通りだ。

 PKの190越えてそうなバーサーカーは男から見てもぎょっとするぐらい人相が悪いし、勇者も整った顔をしているが目つきが鋭い。シーフに至っては後姿だけでもヤンキーにしか見えない。


 振り返ったバーサーカーに腕を握られた姫が、怯えたように何か答える。


 体積が二倍は違うだろう男に引っ張られ、よろけながら歩く姫は、姫というよりも、まるで―――

「なんか、あの子、奴隷みてえ」

 魁人が悲しそうに言った。



 翌朝なんか、もっと酷かった。


 姫はぐったりとバーサーカーに抱かれて疲れた様子で眠っていた。いや、眠っていたのだろうか。気を失っていたのかもしれない。


「な、なぁ、この世界ってさ、エロイこと、できねーよな?」

 愛翔の言葉に五人は目を剥いた。

「ま、まさか、ゆうべはおたのしみでしたねとかいうあれ? たしかにあいつら同じ部屋に泊まってたらしいけど! そ、そりゃねーだろ!」

「で、できるわけねーよ! ここゲームだし!」

「でもチートキャラもそうなの?」

「しらねーけど、そうだろ普通!?」

「おおお女もいるじゃん、あの黒髪」


 だけど、その黒髪のファイターは美人ではあるが、長身で、酷くキツイ見た目をしていた。小さな姫が頭が上がる相手だとはとても思えない。ぶっちゃけ、女の陰湿さ丸出しで苛めている光景が目に浮かぶ。

 俯いて体の前で掌を合わせる姫に蹴りを入れていたりとか、怯える姫の髪を掴んで上向かせたりとか。


「服、脱ぐことはできなくても体に触るぐらいならできるよね」

 冷や汗を浮かべた結衣の言葉に全員が沈黙した。

「あ、あの子助けたほうがいいんじゃねーの!? 連中まだレベル低いから、戦うなら今のうちじゃね!?」

 翔太が身を乗り出して叫んでしまう。

「でもチート能力使ってくるに決まってんじゃん! 俺等まだ平均35だぞ。逆に瞬殺されるだろ」

「あいつらより先にレベルアップしなきゃ」


 ぎりぎりでもいい。敵の強いエリアに行こう。そう話していると、後ろから声を掛けられた。

「よー」

「お! なんか久しぶりじゃね」

 南星高校の連中だった。保護者が開発者だという生徒が複数人いるそうで、総勢34人でプレイしている、もっとも最多の人数を誇るチームだ。ゲーム好きな人間と嫌いな人間が入り混じっていたのでレベル差は最高60とチグハグだったけど、それをネタにしている。

 一クラス全員がこのゲームに参加してて、今時珍しい、仲の良いクラスだ。


「俺達、今からPKしてくるわ。俺の手が黒くなっても引かないでくれよ」

「はぁ!? PKなんてどうして……!?」


「姫のチームの男達ぶっ殺すんだよ。見ただろ、あのやくざみたいな連中」

「まじか! 俺等もレベル上げて、やろうって話してたところだったぞ」

「やっぱり? そうじゃないかと思ってた。お前達ずっと姫様見てたもんな」

「だってあの子可哀想すぎるだろ。お前等なら絶対勝てるから頑張れよ」

「おう! 行ってくる」


 連中が行くなら大丈夫だろう。だけど、念のため、俺達もレベルアップしよう。せっかく予定立てたし。そう話がまとまって、六人はリアの街を出た。

 モンスターと戦っている最中に、その放送は流れた。葬送曲と共に。『チーム南星高校、34名全滅です!』


 信じられなかった。


 慌てて街に戻る。程なくチーム花沢も帰還してきた。姫の背中に巨大な十字の傷を付けて。


 南星高校の連中があんな傷つけるわけない。

 絶対に姫には攻撃しないはずだ。

 なら、誰が傷を? モンスターとの戦闘で?

 そのはずは無い。モンスター戦の傷は回復魔法で完全に癒える。痕なんか残るはずが無い。


「なにあの傷……!? あの子……さっき見た時、傷なんて無かったよね」

 高校生プレイヤーが息を呑む。見覚えがあった。確か、女の子ばかりのチームだった。話したことはないけど。

「うん、無かったよ! どうして、」

「まさか、仲間からの傷じゃないよね?」

「――――――!!」

「消えない傷なんて、初めて見るし、まさかとは思うけど、」

「まさか? あいつらならやりかねなさそうじゃん……」


 姫が可哀想で、気の毒で、直視できなくて眩暈さえした。



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