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十話

「こうなればこちらのものだな」

 百合が昏倒した未来に駆け寄り頬に唇を当てさせる。

「達樹! 未来は頼んだぞ! 死んでも守れよ!!」

「了解っス!」

 百合もまた竜神の援護をするため戦場へと走りこむ。

「未来先輩」

 達樹は頬にキスをさせるついでに唇にもキスをした。


 未来の白い体は傷だらけだった。


 落下の際に木に引っ掛けた膝の裏は切り裂いたようにずたずただし、爆発を浴びた体はあちこち切れて血を滲ませている。

 自分よりずっと細い腕に走る無数の傷は、余計に痛そうに見える。

 キスをした唇からも血が滲んでいて、達樹は自分の唇に付いた未来の血を舐めた。


「ひでえよなあ……」


 何も悪い事してないのに、一方的に攻撃されて。

 竜神は頭を撃たれ、未来は全身を裂かれて。


 達樹は人の気配を感じ、立ち上がって振り返った。

 二人の女が嫌な笑顔でこちらに歩いてきていた。年齢は高校二年生程度だろうか。片方は和装で日本刀、もう片方は巨大な両手剣を持っている。

「その女の子、私達に頂戴?」


「無理っス。この子おれ達のお姫様だから勘弁してください先輩――『魅了』!!」


 女達の上でハートのエフェクトが煌いた。

 ハートは消えずに、女達の頭上で大きくなったり小さくなったりを繰り返す。

「好き!」「仲間にしてェ!」

 かかった。達樹はにいと笑う。いつか未来が評した、「顔は悪くないのにガキのような雑な表情」で。


「んじゃ、あっちで戦ってるおれの仲間の援護をお願いします。特に、隠れてる遠距離攻撃連中を始末してください」

 せいぜい同士討ちさせてやる。このチームに手を出してきたことを、竜神と未来を傷つけたことを後悔させてやる。




 達樹はどこから攻撃されても盾になれるように、未来の前に座りこんで片手を木について戦況をうかがっていた。正面左手に浅見。正面奥に百合。そして、一番街に近い正面右手で竜神が戦っている。


「つか敵、異常に多くねえか!? 全員囲まれてんじゃん!」

 浅見も、百合も、竜神も全方位を敵に囲まれ攻撃を受けていた。あまりの事態に腰を浮かす。

 三人とも強い。竜神などほぼ一撃で敵をウインドウ状態に変えているが、倒しても倒しても敵が沸いている。


「うわ、これ混戦じゃねーか。おれも行ったほうがいいっスよね!?」

 ついつい失神した未来に聞いてしまうが、未来を放置していけるはずはない。


「あ、そだ、確か」


 初期装備に薬草があったはずだ。ポケットを探ると草の絵が描かれた紙が出てきた。

 手に取るとウインドウが表示された。仲間の名前から未来を選び、使用する。


「――――」

 30ポイントしか回復しない薬草だが、未来はそもそもHPが少ない。すぐに昏倒状態から目が覚めた。深かった傷が少しだけ塞がっている。


「先輩」

 達樹がほっと息をつく。


「竜神は!?」

 目を覚ますや否や未来は身を乗り出すように言った。

「暴走状態になって戦ってます」

「回復は」

「追い付いてねえっス。浅見先輩も囲まれてるから回復する暇ねーし」

「止めないと……!」

 制止する暇も無く未来が戦場に走り出す。

「先輩、近寄っちゃ駄目っスよ! あんたレベル0だろ!」

 慌てて達樹も後を追った。


 竜神は全身を血で真っ赤に濡らし、竜神以上に大柄なファイター相手に戦っていた。

 コートは既に穴だらけで竜神が剣を振るうたびに彼自身の血が飛び散っている。


「なんだあいつ、つええ!」

 達樹が悲鳴のように叫んだ。チート能力でレベルを跳ね上げている竜神相手にまともに戦っている。思わず達樹はサーチを発動させた。敵レベル83――(83!!?)息を呑む。最初にうけた重力を操る魔法攻撃といい、もともとレベルの高い連中だったのだ。


 未来の祝福のキスはチート能力といえども上がるレベルは50。先にプレイしている連中がレベル50より高くても何も不思議はない。


 いや、全員が全員高いわけではないはずだ。女二人に達樹の魅了が一発でかかったのだから。飛び抜けてハイレベルな人間が混じっているのだろうが、この強さでは一人二人いるだけでも充分な脅威だ。


 竜神のHPは既に一桁まで下がっていた。

「クソが!」

 達樹がダガーを投げて援護する。二本、三本、纏めて投げるが間に合わない。


「もういい、竜神、」

 逃げろ!! 未来が言葉を発する前に、竜神の姿は掻き消えた。


「竜神!!」「竜神先輩!!」悲鳴に近く呼ぶがもう遅い。竜神は絶命して、カウントダウンが始まっていた。


「うわぁあああ!!」

 達樹がファイターに飛びかかって直接ダガーを付きたてる。それが致命傷になって敵も倒せはしたが、敵を倒したところで竜神が蘇るわけではなかった。

 呆然とカウントダウンを見ていることしかできなかった。



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