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九話

 街から出て森に入り、十分も歩いたころ、それは起こった。



「待てよ。その女、俺達にくれよ」


 見るからにヤンキーな二人の男が行く手に立ち塞がった。男達の視線の先には竜神に抱かれる未来の姿があった。


「断る」

 百合が一歩前に出て簡潔に返事をする。

 早く未来を起こしてキスをさせろ。

 そう目配せしようと後ろを向いた瞬間に、


 バシュ!


「!!!!」


 竜神の側頭部が赤く弾けた。


「竜神!?」

「竜神君!!?」

「先輩いい!!? ヘッドショットとかまじかこれえええ!!」

 竜神の頭が銃弾に打ち抜かれていた。

 頭部は急所だ。クリティカル扱いとなって竜神のHPが一気に半分以上減った。


「――――!!」

 衝撃と苦痛と同時に竜神の視界は真っ赤に染まっていた。

 体が揺らぎ、眠る未来を抱える腕から力が抜けそうになって、歯を食いしばって踏み止まる。


「浅見! 早く回復を!!」

「未来!」

 レベル3の回復では間に合わない。浅見は竜神が抱える未来に向かって手を伸ばす。祝福のキスを受けるために。

 浅見の手が未来に届く寸前、突然地面が無くなった。


「うわあああ!?」


 前触れもなく世界が横になった。

 地面だった場所が壁になり、横向きに落ちる。

「どうなってんだよ!?」

 達樹は咄嗟に木に捕まり落下を防いだ。


 話しかけてきた連中の本気で楽しそうな笑い声が聞こえて、木に立ち上がった達樹は頭上にいる彼等を殺意の篭った目で睨んだ。

 男達は普通に地面に立ったままだった。突然重力が変わったのはこいつ等の魔法攻撃か!

 達樹はそう予想し木から木へ飛び降りて未来を追った。


「竜神君!!」


 浅見の声が聞こえる。

 頭を撃ちぬかれた竜神は、朦朧とする意識を必死に掴み取ろうとしていた。


(木を足場にして落下を止めねえと)


 このままではどこまでもどこまでも落ちて、叩き付けられてゲームオーバーだ。

 

 ガンッ!!


 またも頭に衝撃が走る。余りの激痛に意識が明滅した。視界が真っ赤なので判別できないが、木か岩にぶつけてしまったのだろう。

「りゅう――――!」

 未来の声に遠のき掛けていた意識が戻る。

(くそ)

 未来だけはどうにか安全に助けなければ。

 抱き締める腕に力を込めて、次、どんな障害物が来ても自分の体で守れるように抱え込む。

 未来の腕が背中に回る。


「ぐぅっ……!!」

 衝撃があり、がくんと体が揺らいだ。

「未来!?」


 未来の低い悲鳴で、木に足を掛けて無理やり落下を止めたのだと知る。

 だが細い足で自重と竜神の体重に耐えられるはずがない。体が揺れただけで、すぐにまた浮遊感が襲ってくる。

「無茶すんじゃねえよ!」

 くそ、しっかりしなければ。未来が怪我をする。


 竜神は壁になった地面にどうにか靴を接地させ、がりがりと土を削って落下スピードを下げる。

 真っ赤な視界にようやく影が見えた。木だ。

 未来を首の辺りまで高く抱え上げ、地面を蹴り脇腹と肱を使い木を掴んだ。

 木が大きくたわんで葉を揺らす。衝突したあばらや腰の骨がごきりと音を立てた。呼吸ができなくなって息を詰める。


「が、……、う、」

「竜神!」


 なんとか未来だけは無事に木に乗せる事ができた。腕を掴んできた彼女の手を借りて、だけどあまり体重をかけないように気を付けながら竜神も木の上に腰を下ろす。

 まだ視界が真っ赤のままではっきりしない。呼吸がままならない。だが休んでいる場合ではなかった。未来の体を抱え込もうと手を伸ばす。


「待て! 『庇うな!』」

 びくりと竜神の腕が止まった。

「大丈夫だ。これ、モンスターじゃなくてプレーヤーの攻撃だろ? 俺を生きて捕まえたいはずだ。殺されはしないと思う。俺の影に隠れてろ」

 竜神の頬に祝福のキスをしてから竜神と向かい合わせになったまま腕を広げる。


「お前ひでえ怪我じゃねえか……、頭、血、血が」


 パン!


「ぐ……!」

 小柄な未来の体で竜神の体を完全に隠すなんてできない。

 銃声と同時に、竜神の肩に銃弾が刺さって赤く弾けた。


「ひっ――!」


 未来の頬に、肩に、竜神の血が飛んだ。人が狙撃されるのを目の当たりにして息を呑む。


「――や――やめてよ! もう撃たないで! ――あんた達と一緒にいくから!!」


 撃たれた部分を覆うように隠し、狙撃手がいるだろう方向に叫ぶ。声はほとんど泣き声になっていた。

 竜神の命が削り取られていくのが怖かった。

「未来――、ぐ、ぅ」

 急ぎすぎて足を滑らせたか、浅見が上の木に落ちる。

「浅見ィ!!」

 ようやく手の届く場所に来てくれた浅見に飛びついて頬にキスをする。その時、三人のいた場所が爆発した。


「――――――」

 未来のHPが一気に赤ゲージまで減って、言葉も無く崩れ落ちる。


「未来!!」


 木から落ち掛けた小さな体を、浅見が寸前で腕を取って引っ張り戻した。HPの低い未来とは違い、浅見は爆発の直撃を食らっても昏倒するまでには陥ってなかった。

 だが、とうとう竜神のHPが四分の一以下まで減ってしまった。

 暴走状態に陥ってしまい、咆哮を上げて木を蹴って飛ぶ。

「竜神君!!」

 浅見は片手に未来を吊り下げたまま回復魔法をかけるのだが、全快するより早く暴走状態の彼は魔法の範囲外に出てしまった。


 竜神が飛んだ先には白のローブを着た、見るからに魔法使い然とした男が居た。

 二十メートルも離れていた相手に、竜神は一回のジャンプだけで肉薄した。踏み台にした木がへし折れるほどのとんでもない脚力だ。

「なああぁ!?」

 重力を横にする魔法を使っていたのに、身体能力だけで距離を詰められるなんて考えてもおらず、魔法使いは悲鳴を上げた。


 街に入った時、『姫』の存在だけが強調され、レアクラスプレイヤーとして街中に紹介されていたが、『バーサーカー』もまた初めて姿を見せたレアクラスプレイヤーだった。


 『狂乱』という暴走状態があるのは解析で判っていたとはいえ、暴走状態時の異常な身体能力の高さは誰も知るはずも無い。

 今の竜神のレベルの高さも相まって、剣の一振りで防御力の低い魔法使いの体が真っ二つになって消える。途端に重力が正常な状態に戻った。


 浅見の回復魔法に範囲があるように、攻撃魔法にも効果範囲があった。できるだけチーム花沢に近寄る必要があったのだが、重力使いは近寄りすぎていた。いや、通常なら二十メートルも離れれば遠距離攻撃を当てる事だって難しいはずだ。それこそ狙撃手や弓使いでなければ。


 チーム花沢は主戦力が近接攻撃だから、充分な距離だったはずなのだ。


 浅見は未来を木に持たせ掛けて、竜神の元へ走った。回復呪文を掛けなければすぐにでも殺されてしまう。

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