一話 <挿絵有り>
イラストは呉作様よりいただきました!未来、美穂子、百合、浅見の四枚あります。ありがとうございますありがとうございます!!
「君達六人に是非、このバーチャルRPGゲーム「ラスタナル戦記」のモニターになって欲しいんだ」
「はぁ……?」
日向未来(ひゅうが みき)、竜神強志(りゅうじん つよし)、浅見虎太郎(あさみ こたろう)、王鳥達樹(おおとり たつき)、熊谷美穂子(くまがい みほこ)、花沢百合(はなざわ ゆり)は気の抜けたような返事をした。
実際、抜けていた。意味が判らなかった。
ホームルームが終わると同時に担任の教師にグラウンドに連れ出された。
そして校舎脇に止まっていたトレーラーに押し込まれた途端、この第一声である。混乱するのも当然だろう。
バーチャルRPGゲーム「ラスタナル戦記」は知っていた。
世界で始めてのバーチャルゲームだとかで、日本だけでなく全世界からも注目されているゲームだ。
先行販売は始まっているものの、購入するのも困難で、このゲームを開発した会社、「アースソリューション」の地元であるこの土地に在住している人間しか購入権利さえない。
情操教育の一環に使える可能性があるとされ、県内の15歳以上の学生がモニターとしてランダムに選出されているとは噂に聞いていた。この学校もモニターに選ばれたのだろう。
だけど。
「……なぜ僕達なんですか?」
茶色と青色のオッドアイの少年が首を傾げる。浅見虎太郎だ。
白人とのクオーターである彼は、目に顕著な特徴が出ていた。髪の色も栗色で、肌も同世代の少年達より随分白い。
人の視線を集める端正な顔をしているのに、目付きだけはやたらと鋭くて、一見すると他者を威圧する印象を与える。
だが彼の喋り方と声は非常に柔らかく、ギャップに打ちのめされる女は多かった。
特に下級生――中等部の女生徒に人気が高い。
「二年生、三年生は進学に向けて忙しいからね。一年生であるボクのクラスから選抜したんだよ。君は学年一位の成績を入学当初からキープしている秀才だしね」
「え? おれ三年っすよ」
このメンバーの中で唯一の中学生、王鳥達樹が手を上げる。
金髪に近く染めた髪が揺れる。
しょっちゅう繁華街での夜遊びで補導される問題児だ。しかし馬鹿で元気で、どこか憎めない性格をしている。高等部に頻繁に出入りしているのに上級生に目を付けられることも無く、逆に可愛がられている節がある。先輩に好かれるタイプの中学生だ。
そんな達樹はゲームに参加したくないのだろう。教師相手に単刀直入に「おれ今年受験ですから」的ニュアンスで切り込むものの、
「君はどうせこの学校の高等部に入学するんだろう? 入試なんて無いも同然じゃないか」
あっさりと否定されて沈黙してしまった。
「私は是非やってみたい」
初めて乗り気で答えたのは花沢百合だ。
女子なのに170cmも身長があり、モデルのように整った中性的な容貌をしている。喋り方もどこか男性的だ。
日本探偵事務所という全国展開している探偵屋の社長令嬢で、幾人かの教師の弱みを握ってるらしいとまことしやかに囁かれている。
腰まで届く長い黒髪。膝長けのスカート。真っ直ぐ伸びた姿勢。見た目からは普通の真面目で美人な生徒にしか見えないのがまた厄介だ。
本人が公言していることではあるが、本気で女しか愛せないガチなレズで名前で呼ばれることを嫌がっている。嫌がっているというよりは「百合が百合なんて面白くも何とも無い。お前達が駄洒落が好きなら百合と呼ばれることもやぶさかでないが」となんとも表現しがたい反応を返してくる。
大抵の人間はその話をされるだけで、心がくじけて苗字で呼んでしまうのだけど、ここに揃ってる五人は躊躇なく「百合」と読んでいた。
彼女がレズだろうが変な女だろうが、友人として普通に接している稀有な人間ばかりだ。
「オレ、RPG苦手なんすけど」
面倒くさそうに肩を竦めるのは、教師よりも逞しい体格をした竜神強志だ。
まだ高校一年生だというのにどこからどう見てもヤクザである。しかもでかい。身長は190センチを越えていて、どこに行っても「やくざみたいで怖い」と怖がられている。
そんな容姿とは裏腹に、温厚で何が起こっても声を荒げることさえ無く、上級生や女教師からの人気が高い。
しょっちゅう授業をサボるのに、気難しい老年の教師達にも、用務員からの評価までも非常に高く、どんな事態に陥ろうと、大人達から「あの子がいれば大丈夫だ」と太鼓判を押されている。
見た目はやくざなのに、父親が警察官なので将来の夢はお巡りさんというなんとも微妙なギャップがあった。
「君に抜けられたら困るな。戦士枠を期待しているんだ。このメンバーで力のあるのは君しかいないんだし。それに、また今日も授業をサボっただろ? この実験に参加しないなら留年してもらうよ」
「それ、本気で言ってるんですか?」
「そりゃそうだ。でなけりゃ、ここに呼んでない」
あっさりと教師に肯定され、竜神は片手で自分の顔を覆った。
「竜神が参加するなら、俺もやろっかなー」
日向未来が笑って答えた。
竜神の胸までしかない小さな女子だ。
まだたった十五歳だというのに、動くたびに光が煌くような、老若男女問わず視線を集める絶世の美女だ。時代が時代なら傾国の美女と評されただろう。
どんな男でも女でも、視線を奪う少女が無防備な笑顔を振りまいている。
「これ、テレビでやってましたよね。自分のステータスが反映されるシステムになってるんでしょ? 俺、運動神経悪いから弱いキャラになりそうでやりたく無かったんですけど……、でも、竜神がいるなら、助けてくれるだろうし」
ふわふわ笑う美少女なのに、一人称は「俺」。違和感があることこの上無いが、この美少女は脳死していて、少年の脳が移植されていた。
脳死した少女の名前は「上田早苗」そして脳移植された少年の名前は「日向未来」。
「竜神強志」の親戚が「日向未来」を乗用車で轢いてしまい、「上田早苗」の体に脳移植される原因を作ってしまったから、「竜神強志」は「日向未来」の護衛をしていた。
日向未来は、ひ弱な少女の体に脳移植され、いろいろとトラブルに巻き込まれてしまったせいか、怒っている男、もしくは性的な目で見てくる男に腕を掴まれただけで抵抗できなくなってしまうという、かなり深刻な男性恐怖症を患ってしまっている。
体に触れられても怖くないのは、いつも傍にいる竜神だけという有様だ。
それでも、とにかく、乱暴に扱われたり、性的な目を向けてくる相手に急に触られたりしなければ大丈夫なので日常生活ではさして支障はない。何かあれば常に傍にいる竜神がフォローしているお陰でもある。
だからこそ、今回も、竜神が行くなら、と安易に考えていた。
「うん! 私もやってみたいなあ! これ、バーチャル空間で、自分が動いてるみたいにプレイできるんですよね? 皆で遊べるなんて、すごい楽しそうだよね!」
茶色のふわふわとした髪の毛を揺らして、このメンバーの唯一の癒しともいえる熊谷美穂子が笑う。
一般人が「あー、あの子かわいいなー。俺も頑張ったらお付き合いできるかなー」という癒されるラインの女子。それが熊谷美穂子だ。
ただしグロ小物やグロデコメを心の底から愛しているので、一度仲良くなってしまうと容赦のない血糊塗れのメールを送りつけてくるようになる。彼女が使用している小物も、一つ残らず目玉やら指やら髑髏やらといった恐ろしげな品ばかりだ。
怖がりの未来など、美穂子の机から落ちた小物を拾おうとして、それがリアルな目玉のケシゴムだったので、授業中に悲鳴を上げてひっくり返ったこともあるぐらいだ。
何はともあれ、六人はそれぞれ席に付いて、ヘルメットのような装置を頭から被って、RPGゲームを起動したのだった。
「君達みたいに選抜された他校の生徒達や一般人が先にプレイしてるから、仲間になって助けて貰うといいよ」
「はい」
六人が同時に返事をする。
それぞれ、キャラクター設定の質問に答えて――――。
やがて、ゲームの世界へと取り込まれた。
「さて、様子を見守るか」
教師――山口は、六人のプレイを見守るために、モニター前に座り、六人と同じような装置を身につけたのだった。
日向未来(脳移植者)
可愛い。なにしろ可愛い。動くとキラキラ幻覚が見えそうな勢いで可愛い。 細い髪がフアフワして触りたくなる。胸ポヨンポヨン。
髪型はその日の母親の気分によって変わる。自分では結べないから下ろしている。
襲われたり浚われそうになった経験があり、結構深刻な男性恐怖症を患っている。竜神だけは平気。達樹と浅見もまあまあ平気。ビビリで怖がり。
竜神 強志
顔怖い。割と礼儀正しい。黒髪短髪。身長190cm。
外見はやくざだがお巡りさんを目指してる。メンタルオリハルコン。
浅見 虎太郎
青と茶のオッドアイ。目付きは悪いけど大人しく温和で赤面症。頭はいい。
耳が半分隠れる程度のちょっと長めの茶髪。
王鳥 達樹
チャラ男。うるさい。やかましい。金髪に近い茶髪で短髪。逃げ足は速い。
中学のサッカー部(廃部寸前)のキャプテン。
熊谷 美穂子
正統派可愛い子。やや垂れ目。クラスで目立つほうにいるけどごくごく普通の子。
茶色のウェーブかかった髪をしている。グロ小物好き。グロデコメ好き。
花沢 百合
女子にしてはでかい。170越え。男からも女からも嫌われる性格。怖い。
男言葉だがモデルのような美人。奇人。メンタル鋼鉄。腰まで伸ばした黒髪が特徴。
美穂子と未来が大好きなレズ。