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愚者の目指したアーカディア  作者: 鷲野高山
1章 新大陸の守護者
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5話 始まりの朝

 召喚儀典を迎える日の朝、といっても何が変わるわけでもない。


 目覚ましの音で起床。簡単に身支度を整え、軽めの朝食をすませてから寮を出る。それが蓮也の朝のサイクル。

 だからこの日もいつも通りの朝を迎える。……はずだった。

 しかしながら蓮也の目を覚まさせたのは、けたたましいアラームの音でも、窓より差し込む眩い陽射しでもなく。


 左腕にあたる――ゴツゴツとした感触。フレットではない。


 蓮也の体を押し上げる、ふかふか、とはいえないもののそれなりに柔らかい敷布団。全身に感じるのは、肌触りにこだわって選んだブランケットだ。サラサラとした薄い生地は、夏の暑さにはちょうどよく、心地よい。

 その中にあっては、左腕の違和感というものを強く意識してしまうもので。

 うがぁー、と意味不明なうめき声をあげながら、蓮也は起き上がった。寝ぼけ眼を右手でこすり、原因を探して左手を動かす。


 触れたのは、長いチェーンのようなもの。掴んで、眼前へ持ち上げる。

 視線の先には、銀色の鎖に繋がれた、金色の円型ロケット。それが違和感の正体であった。


「……なんでここに?」


 ベッドの傍らのサイドボードへと目をやる。本来そこには、教科書とロケットを置いていたのだが。やはりそこにロケットの姿はなく。教科書の山も崩れて広がっていた。

 寝ぼけてベッドに落としてしまったのだろうか。そう考えながら、蓮也は持ち上げたロケットをそっと開ける。

 レラシオネスに向かう日の朝、母親におまもりとして渡されたこのロケットは、今は亡き父のものだった。中には、父と母、そしてその腕に抱かれた幼い日の蓮也が写った写真がはめられている。


 確かにこうして見ると、母親譲りの顔立ちなんだな、と思う。近所の人によく言われた言葉。小さい頃は女の子と間違われたことも少なくない。

 それが嫌というわけではないが、もうちょっとこう父親に似て、男らしい顔立ちがよかったと写真を見るたびに思ったりする。


 小さく息をついて、壁に掛けられた時計を見る。針が示す時刻は、6時。もちろん午前6時だ。

 まだ1時間も早いじゃないか、と心の中で愚痴をもらす。いつもの起床時間は7時。まだ充分に時間がある。

 蓮也は手に持ったロケットをサイドボードの上に戻すと、再び体を横たえて目を閉じた。


 チッ、チッという秒針の音が、静まり返った部屋に、小さく響く。

 その音を何回聞いた時だろうか。


「……ああぁぁああ!!」


 ぐしゃぐしゃ、と頭をかきむしりながら、蓮也はガバッと体を起こした。

 どうやらロケットのおかげで完璧に目が覚めてしまったようで、まったく寝れない。


 ……いや、ロケットのせいじゃない。頭がはっきりしたおかげで、蓮也は今日が何かを思い出したのだ。


 ――召喚儀典。

 一般生が待ち望み、同時に不安する、ラールと契約するための行事。


 蓮也はぶるぶる、と頭を振ると、ベッドから立ち上がった。両手を高く突き上げながら目をつむり、思い切りのびをする。


 さて起きるか、と顔を元に戻したところで、目に入るのはサイドボード上に散乱した数多の本。どれだけ寝ぼけていたんだろうか、と苦笑しながら拾い集める。

 顔を洗い、着替えをすませ、持ち物の確認。時計を見るも、時刻はまだ6時45分。


 いつもよりかなり早いが、下に行くか。

 そう思い、忘れ物がないか確認するために部屋をぐるりと見回す。


 ふと、金色の輝きが目に入った。母からのおまもりにして、目覚めの要因である金のロケット。それが、窓から差し込む陽射しに反射して煌めいていた。


 蓮也はおもむろにサイドボードに近づくと、ロケットを手にとった。その黄金の光はまるで、蓮也の行先を照らしてくれているような気がして。

 瞬きもせずにそれを見つめていた蓮也は、ロケットをズボンの左ポケットに入れると、部屋の扉へと手をかけた。

 よしっ、と頷いて、ノブを開ける。やはりまだ時間は早いようで、他の生徒の姿は見受けられない。

 

 いつもは、このフロアの生徒で混雑する廊下。今はその姿がないことに少しの優越感を覚え、蓮也は軽やかな足取りで階下へと歩き始めた。


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