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愚者の目指したアーカディア  作者: 鷲野高山
1章 新大陸の守護者
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21話 契約武装

「さて、この話は終わりだ。伊塚」


 佐々木の声色が、元の鋭いものへと戻った。

 蓮也は俯かせていた顔を、ハッと上げる。


「本来ならお前には退避場所に行ってもらうのだが……まあ、来てしまったのはしょうがない。暴走体が撃破されるまで、ここにいても構わん」

「はぁ……あの、撃破って?」


 佐々木の言葉の中に気になるワードがあったので、おずおずと質問する。


「ああ、ここ最近は暴走など起きていないから知らないのも無理はない、か。……では、簡潔に説明する。一番左端のモニターを見てみろ」


 蓮也は、佐々木に言われた通り、左に目を向けた。

 

「見れば分かると思うが、このモニターはレラシオネスの各エリア、および付近の海上を映したものだ。そして、今画面に映っているこの黒い靄」


 佐々木はそこで言葉を切ると、一つの画面を指さした。

 確かにそのモニターは、なにやら黒い靄に包まれたものが海上を漂っているのを捉えている。


「これこそが、暴走したラール。つまりは、暴走体だ。」


 そう言うと佐々木は、自身の腕のフレットを操作し、声を上げた。


『西浦、南エリア海上だ』

『了解』


 西浦の声が、部屋に響き渡る。

 そして次の瞬間、深緑色のグリフォンで空を駆ける西浦の姿がモニターに現れ、暴走体に接触したかと思うと、瞬く間に黒い靄が消滅した。


「あ……」

「しかし一口に暴走体といっても、実際に暴走して危害を加えるタイプと、ただ彷徨っているだけのタイプがある。この二つに共通する点は、反応者との繋がりが切れ、黒い靄に包まれていることだ」

「でも、それだったら後者は放っておいてもいいんじゃ――」

「まあ、それを聞いたほとんどの者がそう言う」


 しかし、と続けて、佐々木は蓮也を見据えた。


「今後一切の危害を加えないと、そう断言できるか?」

「……それは……」


 断言など、できるはずもなかった。

 でも、と蓮也は反論の声を上げる。


「それなら、暴走していないラールだって一緒のことなんじゃないですか?」

「いや、それはあり得ない。契約していないから知らないのだろうが、反応者との繋がりのあるラールは、性格が落ち着いているものが多い。少しばかり気性が荒くとも、繋がりのある反応者の不利益になるような行動はとらないだろうさ。ラールが現世に留まっていられるのは、反応者がいるからだからな」


 ……そうなのか。

 佐々木の言葉に悪意がないのは分かっている。

 が、やはり『契約していない』という言葉は少なからず蓮也の心を抉った。 


「しかし、一度暴走してしまったラールは、二度と元には戻らない(・・・・・・・)。そうなれば、我々にできることは、一つ。……それが、上の判断だ」


 モニターへと視線を戻すと、佐々木は口を閉じた。

 蓮也もつられて、再びモニターへと目を向ける。


 モニターが映すのは、グリフォンの背に跨り、自在に空を動き回る西浦の姿。

 それを見ているのが嫌であり、また同時に、羨ましくもあり、蓮也は無理矢理別のモニターへと視線を移動させた。


「……っ!!」


 そして、ある一つのモニターの映像が目に入った瞬間、蓮也は思わず息を呑んだ。

 なぜなら、そこに映っていたのは――。


「……舞?」


 全身が白銀に輝く、巨大な鳥のような生物。そして、その背に乗って空を飛ぶ、白銀の髪を持つ少女の姿。

 見紛うことはない。あれは、舞だ。


「そうだ。あれはつい最近契約に成功した、宮月舞と、そのラールだ」

「……舞の乗っているラールは、鳥……ですか?」

「まあ、鳥、といえば鳥なんだろうが。……彼女のラールは、<サンダーバード>……となっている」


 サンダーバード。

 数々の神話に登場する、雷の精霊。その姿は大きな鷲で、自在に雷を操ることができる、だったか。

 しかし――。


「なっている……とは?」

「うむ、宮月はそう主張しているが、確証が持てんのだ。雷を操れれば認められるかもしれないが、宮月はそれができないでいる。特徴で特定するのも難しい。しかし彼女のフレットは、<サンダーバード>だと判別している。なので、上からの判断待ちだ」


 舞が嘘をつくとは思えない。が、それを言っても仕方がない。

 ここは素直に舞を見守ろう――。


 ……ん?


「って! なんで舞が暴走体と戦っているんですか!?」


 その事実を認識した瞬間、蓮也は思わず佐々木に詰め寄っていた。

 しかしその口から放たれたのは、またしても蓮也の知らない言葉。


「それは、宮月が契約武装の持ち主だからだ」

「……契約武装?」

「そうだ。ラールと契約した際に発現する武装。それが、契約武装だ。モニターをよく見てみろ」


 モニターを注視する。

 舞の契約武装。それは舞の髪同様、白銀の光を放ち、彼女の手に収まっていた。


「……扇?」


 確証が持てず、首を捻る。

 しかしそれは当たらずと雖も遠からずだったようで、蓮也のその呟きに、佐々木が僅かな訂正を加えた。


「正確には、鉄扇だな」

「鉄、扇? ……なんだって舞はそんな武器を?」

「こればっかりは仕方がない。現れる契約武装はランダムだからな」

「……大丈夫なんですか?」

「本来は実戦訓練を積むのだが、運の悪い事に、彼女はこれが初の実戦だ。念のため、暴走体の少ない中央エリアに専念するよう指示し、すぐ側に兄の夕真を着けている。心苦しいが、暴走体のラールに対抗するにはラールしかないのだ」


 そう言う佐々木の顔は、本当に申し訳なさそうなものだった。

 しかし、普段の様子から見るに、舞は決してそういうのに向いていない気がする。


「……夕真も……戦っているのは三人だけですか? もっと人は?」

「これが発現する者は、そう多くない。他にも戦闘可能な反応者はいるのだが……間の悪いことに、戦闘不可状態であったり、別の新大陸に行っていたりする。そもそも、飛行能力を持つラールがそう多くないのだ」


 新大陸が現れたのは、なにも日本付近だけの話ではない。海外でも、多数の新大陸が確認されている。

 やはりそういった場所との交流もあるのだろう。


「そもそも、暴走自体が、滅多に起こらないのだが、なぜだか今回は複数体が同時に暴走状態になっている。今のところは順調だが……」


 佐々木のその物言いが、蓮也の不安を加速させる。

 蓮也にはなにもできず、ただただこの場から見守っていることしかできない。

 ならばせめて、無事に帰還することを祈ろう。

 そう思った蓮也は、ズボンのポケットに手を伸ばした。

 ポケットの中には、そんじょそこらのお守りよりも、よっぽど蓮也が信頼しているお守りがある。

 召喚儀典の朝以来、ずっとポケットに入れている。

 亡き父の遺品である、金色に輝くロケットが――。


「……あれ?」


 鏡を見ずとも、顔が真っ青になっていくのが分かる。


「ない……ないっ!」


 無意味にポケットの中を弄るが、指先はただただ空を切るのみ。

 今日の朝までは、確かにあった……はず。

 いつ落とした?

 候補は、いくつも思い当る。


「先生! 上に行くには――」


 しかし、真っ先に思い浮かんだのは、屋上だった。

 疑問にも思わず、なぜかそこにある、と確信が持てた。


「ん? 上に行くのは、そこの階段からだが……暴走体がいなくなってからにしろ。命の保証はできんぞ?」


 その言葉を聞き終える前に、すでに蓮也は動いていた。

 階段を駆け上がり、扉に手をかける。


「待て! 伊塚!」


 幼い頃から、幾度となく蓮也を助け、心の支えになっていたお守り(ロケット)。きっと、夕真と舞のことも救ってくれる。

 そう信じた蓮也は、佐々木の静止の声も聞かず、扉を押し開けた。


「ごめんなさい! すぐ戻ります!」


 最後にチラリ、と振り返った時。蓮也に向けられていた視線は、佐々木のものだけではなかった。

 いつの間に戻ってきたのか、こちらに顔を向けている琴葉。

 その両目はいつものように閉じられているというのに、その下に存在する眼が、蓮也をじっと見つめているような、そんな錯覚を蓮也は幻視した。

ちなみに、最後の方に登場したロケット(写真を入れるやつです)に関しては、いきなり出てきたわけではなく『5話 始まりの朝』で描写しています。

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