表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者の目指したアーカディア  作者: 鷲野高山
1章 新大陸の守護者
2/26

2話 碧髪の特待者

 固有名詞が出てきますので、文中でも解説しておりますが、ここでも解説させていただきます。


 <レラシオネス> 場所の名前と捉えて頂ければ問題ありません。要するに、島です。


 <ラール> 犬、とか猫、とかそういう生物の名前ではなく、その総称です。生物のこと、と捉えて頂ければ問題ありません。

 聞き慣れない呼称に、蓮也の頭は疑問に埋め尽くされた。


「……ボ、ス?」


 少女の言葉を反芻するように、蓮也はボソリと呟く。


「そう、ボス。……この子がそう言ってる」


 少女はコクンと頷いて背中に手を回すと、ごそごそと身じろぎをしはじめた。

 そして、やがて動きを止めると、蓮也へと手を差し出す。その両手にちょこんと収まっていたのは――碧く輝く鱗を持つ西洋竜(ドラゴン)の幼体。


 口から出かかっていた、なんで、という疑問の声をぐっと飲み込みながら、蓮也は瞠目した。

 碧い髪を見た時から予想はしていたが、それを確定づける、碧い西洋竜のラール。それが示すのはつまり――。


「……特待者……」


 口から無意識にこぼれでた単語が、木立の静寂を破った。


 ここ、<レラシオネス>という島で生活している者のほとんどは、ラールと呼ばれる生物と契約している。それが、一般的に反応者と呼ばれる人々。


 蓮也も反応者ではあるが、この場所に昔から住んでいるわけではない。むしろどちらかといえば、入島したのはごく最近のこと。そのため、今はまだラールとは契約していない、ただの一般生徒だ。


 対して、目の前の少女のように特待者と呼ばれるのは、50万人以上の人間が住む、といわれるレラシオネスで、1割にも満たない天才。つまりは、反応者よりも上位の存在だ。


 蓮也は視線を上にずらして、少女の髪を盗み見る。視界いっぱいに広がる、日本人離れした碧。有力な説では、契約しているラールが強力すぎるゆえに、影響を受けて変色しているのでは、とされている。眼前の少女は、まさしくその通りであった。

 

 そして――だ。

 蓮也は、小さくとも存在感のある幼竜をまじまじと見つめ、ゴクリと喉を鳴らす。


 レラシオネスでは、ラールという特殊な存在を、珍しさ、実用性、力の観点からクラス付けしている。

 竜が分類されるのは、その最上位である、レジェンド(伝説)クラス()。普通じゃないこの場所(レラシオネス)でも、滅多にお目に掛かれない存在なのだ。


 蓮也が幼竜に圧倒されていたまさにその時。少女が、幼竜の乗る両手を蓮也へと差し出した。


「……撫でてほしいって」

「え……俺に?」


 不意に放たれた言葉に戸惑いながら、蓮也は視線を下ろした。少女の掌の上で、つぶらな瞳をパチパチさせて、蓮也を見上げる幼竜。

 言葉がないまま、目が合うこと数秒。蓮也は内心びくびくしながらも、その頭目がけてそろそろと手を伸ばした。

 ゆっくりと、それでいて着実に縮まっていく距離。やがて、蓮也の左手が幼竜の頭に触れた――刹那。


 バチィィィィイイイイ!! 


 と、蓮也の体を何か得体のしれない感覚が駆け巡った。

 うわっ、と声を上げてのけぞり、蓮也は幼竜をまじまじと見つめる。


 しかし幼竜は小首を傾げて蓮也の奇行を見ているだけ。自身の左手を見てみても、別段変わった様子はない。

 どういうことか。答えは出ないまま、ぐるぐると思考が渦巻く。


 気のせいだったのか? いや、そんなわけはない。あの形容し難い何かを自分は確かに感じた。――ではなんだというのか。

 考えに耽っていた蓮也の意識を現実へと戻したのは、ぐりぐりとこすりつけられるような、右手の感触だった。


「…………」


 やはり気のせいだったようだ。

 自らの小さい体を蓮也の右手に押し付け、気持ちよさそうに目を瞑っている幼竜を見て、蓮也は思う。

 やがて少女は満足気に頷くと、幼竜を頭に乗せた。


「ん。この子も喜んでる……ありがとう、ボス」


 幼竜の体を撫で、無邪気な笑みを見せる少女。それを見た蓮也は、ポリポリと頬を掻きながら、ばつが悪そうに告げた。


「あのさ……そのボスってのやめてほしいんだけど……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ