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愚者の目指したアーカディア  作者: 鷲野高山
1章 新大陸の守護者
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1話 瞳を閉ざした少女

どうも。この小説を見ていただいてありがとうございます。

タイトルは、『愚者の目指した理想郷』となりますが、理想郷の部分をアーカディアと読みます。


ではでは、よろしくお願いします。

 伊塚蓮也(いづかれんや)は夕暮れの墓地を彷徨っていた。

 整然と連なる墓石の間を抜けながら、きょろきょろと首を振って周囲に視線を巡らせてみる。目に映るのは、数えるのが億劫になるほどの墓、墓。


 それ以前に、なぜ学園の敷地内に墓地があるのか、というのが疑問ではあったが。

 しかしここは、普通の学園(・・・・・)ではない。少々、というよりかは、かなり特殊な場所。


 ――常識は通じないか。

 溜め息を吐きながらも、そう割り切ることにした蓮也は、その問題について考えることを放棄した。


 墓地の中心には、明かりの灯った街灯がひとつ。それ以外には目印も、行先を示す看板もない。

 目を細めて遠くを見つめるが、周囲の背の高い木々を超え、僅かに見える建物はどれも見覚えのないものばかり。自分がどの方角からこの墓地にやってきたのか、確信が持てない。

 これだけそろえば、蓮也が自身の状況を把握するのにさほど時間はかからなかった。


 ――迷った。


 学園の敷地内だというのに、迷った。これが見知らぬ土地や引っ越ししたての場所ならまだしも、高校生になった蓮也がここに来て、そこそこの日数が経過している。なのに、迷子だ。


 慣れ親しんだ地域で、高校生が迷子。それはどちらかといえば、誇って言えることではなく、むしろ恥ずかしい事柄であろう。

 しかしそれが、普通の――というか一般的な場所である場合だ。

 残念ながらここ(・・)は、普通という枠にカテゴライズされる場所ではない。


「……どうしよ……」


 自分がとった行動が原因なのを棚上げして、この場所のせいにしたりしてみる。だが虚しいかな、それで現状がよくなるわけでもない。


 ぐしゃぐしゃと頭をかきむしり、ひとりごちる。 

 もしかしたら墓石の影に誰かがいるかもしれない、などという僅かな期待は少なからずあった。

 だがしかし、四方を木々に囲まれ、人気(ひとけ)のある場所から隔絶されたような空間を醸し出しているこの墓地には、他の生徒や教師の姿はおろか、誰かがいるような気配や微かな物音さえもない。


 ひっそりとした沈黙の中、蓮也はそのまま歩を進めて、十字路の中心にそびえ立つ街灯の近くで足を止めた。

季節は夏。まだ陽が落ちることはないだろうが、いずれは街灯が闇夜を照らすようになる。

 こうして悩んでいる間にも、夕陽が落ちる時間は刻一刻と迫っているのだ。

 

「……適当に進んでみる、か」


 とうとう意を決して適当に歩き出そうとした、その時。


 ピィィイイ! という笛のような高音が、僅かに蓮也の耳に届いた。

 

 踏み出した右足をそのままに、ピタリと止まる。

 何度も、何度も鳴り響く音。背後の木立だ。すぐさま墓地を抜け、林へと駆け込む。

 進むにつれ、大きくなる<音>。

 間違いない、この音だ。確信した蓮也は足に力を込め、全力で走る。


 ――さっきもこうだった。

 と、蓮也は足を動かすことを止めずに、迷った原因を思い返した。

    

 それは、通常より早く終了した授業のため、普段より僅かに明るい帰路を歩いていた時だった。突如、蓮也の耳に聞こえてきた謎の音。それがなぜだか、無性に気になってしまったのだ。


 結果、音につられて普段足を踏み入れない場所に行ってしまい、帰り道が分からなくなってしまったわけである。とどのつまり、自業自得だ。


「……誰がこんなところに」


 足を止め、側にあった木によりかかる。僅かに乱れた息を整えながら耳をそばだてるも、いつの間にか、音は途絶えていた。

 どうしたものか。諦めるのは簡単だが、ここまできて諦めるのも納得いかない。なにより、その音を奏でる人物に会えば、迷子が解決する……かもしれない。

 木から体を離し、額の汗を拭う。

 ぼろぼろとワイシャツに付着した樹皮を払いのけ、そうして蓮也が再び歩き出そうとした時だった。


「……ふふっ」


 夕暮れの木立に反響する、小さく、か細い笑い声。慌ててあたりを見渡すが、声の主の姿を捉えることができない。

 全身が凍る。さきほどまで墓場にいたためか、嫌な方向にしか考えがいかない。時刻はまさに逢魔が時。


 まさか――。


「こっち……上……だよ」


 続けて響く声。言われるがままに、蓮也はおそるおそる頭上を仰ぎ見る。


 そこには――蓮也の眼前の木の枝に腰掛け、ひらひらと手を振る少女の姿があった。学園指定である白い半袖のシャツと、空色のスカートという夏服を着用している、小柄な少女だ。

 呆気にとられる蓮也を前に、少女は両手でスカートを押さえると――そのまま地面へと飛び降りた。


「え……あ、ちょっ!」


 とっさの出来事に体は動かない。

 しかしそんな心配をよそに、少女はすぐ目の前に軽やかに着地を決めると、蓮也を見上げた。


「あなたが……ボス?」


 肩まである碧色の髪を揺らし、小麦色の肌を持つ少女は、瞳を閉ざしたままにこりと笑みを見せる。

 しかしながらその口から紡がれた言葉の意味を蓮也は理解できなかった。


「……え?」


 蓮也は困惑の表情を隠さず、対面の少女は無垢な笑顔を見せ。

 対極な表情のふたりの間を一陣の風が、さぁっ、と駆け抜けていった。

いかがでしたでしょうか?

興味を持っていただければ幸いです。

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