平和
――――体が重いわ……
原因? そんなもの、私の上で寝ている小さな暴君に決まってるでしょ。
世界の運命を賭けた戦いから一年が過ぎた。
シオンが去って行き、身寄りのないキュロは私が引き取るしかないわけで、1人暮らしだった私の生活はキュロと2人の生活になった。
気の知れているキュロとの生活はさほど苦ではないし、お金だってシオンがたんまり残していったからむしろ、私が養ってもらってる感じ?
いや、私も働いて給料は貰ってるから養ってもらっているって言い方はおかしいけど、キュロの膨大な食費はそっちから出すようにしている。
それから、キュロも正式に『デュナミス』に加入し、私の補佐といった感じで公私共に仲良くやっている――――――けど、毎回これだけは少し遠慮してほしい。
貯め込んだキュロを暴走させたら酷い目に合うことは過去に何度か例があるから、少なくとも3日に一度、多いときは毎日といった爛れた生活。
それだけ、頻繁に発散させても翌日に疲労が残るまでやるもんだから、どうしたものかといつも頭を悩ませている。
「エルナさん、起きてますか?」
「起きてるわよ、キュロはまだだけどね」
「―――羨ましいです……」
「お願いだから、他の人に、出来れば男の人に興味を持ってね」
どうして、こうなったと頭を抱えたくなる。
この子は私とキュロが幾度となく戦った三人の生き残りの魔法使い。
名前はカルラって言うんだけど、仲間だった2人は無残に殺され、セツナも死んだ。
元々、戦うことに向いていない性格で、セツナに絆されて戦っていたらしい。
本来なら、この子は重大な罰を負うべきなんだろうけど、そこは口利きで何とかしてもらった。
もう、この子に戦う力も残っていないし、基本的に人畜無害ないい子だしね。
でも、意外な問題が発生したのよ……
実はこの子、同性愛者で、しかも、惚れられてしまった。
セツナに絆されたのも、中性的で男に見えにくいからという理由、しかし、それも裏切られ完全に異性には反応しなくなった。
そして、想いを告げられあたふたしている私は、襲い掛かかられ、押し倒され、辱められた。
でも、仕方なくない? それまでに、散々キュロとやっちゃってるわけだから、性別の壁は薄れてるわけだし、この子可愛いし、ちょっとだけいいなと思っちゃったのよ。
そこで、キュロが登場、嫉妬に駆られたキュロとカルラ、2人に滅茶苦茶にされ、あの時ばかりは本当に死ぬかと思ったわ。
結局、私はキュロのモノということを言い聞かせ、何とか納得……はしてないものの、襲われることはなくなった。
だけど、諦めきれないカルラは私の家に転がりこみ、家政婦みたいな事をやっている。
何気に優秀なので、追い出すに追い出せなくなっている。
「そんなの無理です、それより、いいんですか?
今日は大切な日だと言ってましたけど?」
「ああ、そうだった!
キュロ、キュロ、起きなさい!」
寝坊なんてしたら、なんて言われるか分かったもんじゃないわ!
確か、約束の時間は―――――――
「あら、随分ギリギリなのね。
両手に花の生活はよほど楽しいようね?」
優雅にお茶を飲みながら皮肉を飛ばしてくる、英雄様。
毎回どうやって抜け出しているのか、付き人の心労が窺えるわ。
「ええ、楽しくやってるわよ。
あんたこそ、自由勝手にできて羨ましい限りだわ。
少しは周りの迷惑を考えたことある?」
「そんなのあるわけないでしょう。
なにせ、私は世界を救ったんだからこれくらいの我儘は許されるのよ」
なにをいけしゃあしゃあと……
真実を知っている私としては、この女は世界を救うどころか滅ぼそうとした1人だ。
なにより、この女は気に入らない、ええ、気に入らないわよ!
人が必死になって掴み取った平和を、何の苦労もなく掠め取ったんだから当然でしょ。
「それにしても退屈ね、『デュナミス』が内部分裂でもしてくれないかしら?」
「笑えない冗談言わないでくれる」
表面上は平和になった世界、裏ではこそこそしている者もいるけど、その数も少ない。
敵がいなくなった組織程危うい、平和ボケするならまだしも、利権を求め内部分裂が始まれば組織は崩壊する。
そして、この女はそれを平気な顔で促進させようとするから笑えないのよね。
「お待たせ、待ったかな?」
「気にしなくていいわよ、女を待たせる男の方が悪いのだから」
「待ち合わせの時間には間に合っているはずだ」
「待たせること自体が問題なのよ」
現れたのは、以前と変わらず美形なシオンと、それに付き添う青い少女・フィーネ。
「まぁまぁ、後でシオンを貸してあげるから、ね?」
「正妻から許可も得たことだし、久しぶりに楽しませてもらえるのよね?」
苦虫を潰したような顔をするシオン。
この女、世界を救った英雄で一国の王女という立場の癖に、シオンの愛人で、シオンが止めなければ国を捨てるとまで言ったのよ?
本当に信じられないわ……
「キュロも久しぶり、どう、上手くやってる?」
「――ん」
「よしよし、また男になりたかったらいつでも言ってね」
「ちょっと待ちなさい! それは絶対にダメって言ったでしょ!」
忘れもしない悪夢、フィーネのよく分からない力で、キュロを性転換させたあの日。
あの日は偶然安全日で、命中しなかったからよかったものの、今度はどうなるか分からない。
というか、キュロは私を孕ませる気満々だし、流石にこの歳で子持ちにはなりたくないのよ!
「え~、エルナだってノリノリだったよね?
あぁ、エルナって無理矢理されるのが好きなの?」
「んなわけないでしょうが!
それに、あの時は、あんたが変な薬飲ませからでしょが!」
「あはは、エルナは反応がいいなぁ。
ホントにからかいがあるね」
「――――っ、シオン、あんたちゃんと手綱握っときなさいよね!」
「黙れ、馬鹿女。
お前が、キュロの手綱を握れないからそうなってるんだろうが」
――――うぐっ……相変わらず鋭い突っ込み。
それを言われると弱い……
「それにしても、もう一年も経つんだねぇ」
しみじみと語るフィーネ、確かに、フィーネを連れて戻ってきたシオンを見た時にはそれは驚いたわよ。
でも、理由を聞いたら納得できる理由だったと言えば納得できた。
世界の敵だった『終の魔女』とこうやって話せている事も、あの時は考えられなかったわね。
あの時、シオンから聞いた事の顛末は――――――――――
「――――あれ……?
どうして、私生きてるの?」
「俺が生き返らせたからだ、とりあえず世界を元に戻せ」
「―――え、あ、うん……」
天変地異が起き、俺が両断した星が瞬く間に元の形に戻っていく。
俺が言うのもなんだが、本当に規格外すぎる力だな。
枯れ木の広間へと戻ってくると、フィーネは不思議そうな顔で再び尋ねてきた。
「ねぇ、シオン、私を殺したよね?」
「あぁ、殺したな」
「じゃあ、どうして、私は生きてるの?」
「俺が生き返らせたからに決まっているだろ」
死者の蘇生というにはあまりにも稚拙なものだがな。
体が綺麗な状態で残っていなければ、生き返らせてもすぐに死んでしまう。
俺の力で殺した後すぐに生き返らせる位しかできない限定的な蘇生法だ。
「どうして? シオンは私を殺したいんじゃなかったの?」
「それはだな―――――――」
「それは、そうでもしないと君が信じないと思ったからだよ」
言葉を遮り、現れたアベルが物知り顔で語り始めた。
「君がシオン君を愛しているように、シオン君もまた君を愛していたんだよ。
だけど、それをシオン君の口から聞いて君は信じることができたかい?
無理だろうね、きっと、騙そうとしているとしか考えなかっただろう。
だから、嘘ではないと証明するために一度殺す必要があったんだよ」
ギロリと睨みつけるが、どこ吹く風でまったく気にしない。
確かに、これは第三者から説明した方が説得力はあるがこうもしたり顔で言われると腹が立つ。
「そもそも、このお人好しで合理的なシオン君がなぜ君を殺そうとするんだい?
結果的にとはいえ、命の恩人である君を殺す理由はないし、君を愛していないのなら、適当に従っているフリでもしていたさ。
それをしなかったのは、君を凝り固まった考えから抜け出させるためだ。
まったく、一途過ぎる、趣味の悪い君にはもったいないくらいいい子だ。
さて、後は2人にしてあげよう、シズクとアスカは返してもらうよ」
言いたい事だけ言うと、空へと帰って行ったおしゃべりな妖精王。
「―――今のホントなの?」
「あぁ、俺はフィーネを殺すことだけを考えていた。
だが、そこに恨みも憎しみもない、俺はフィーネを殺した。
その責任を取る為、付き従うつもりだったが―――――いつしか、本当に愛していた」
口元を抑えぽろぽろと涙を零すフィーネ。
そんな彼女の手を取り、引き寄せる。
「フィーネ、俺と共に生きてくれるか?」
「―――うん……シオン、大好き……」
幾度となく躰を重ねてきたが、こうやって、キスを交すのは初めてだったな。
よくよく、考えてみると、お互い愛し合ってすれ違っていた2人が想いを伝えあうために世界は巻き込まれたのよね。
正直言うとふざけるなって言いたいところだけど、まぁ、そのおかけで結果的には平和になったことだし、同じ女として少し羨ましいと思ったりする。
ここまで一途に思ってくれる彼氏かぁ……
私が男と寄り添っていたら――――――――キュロにひどい目にあわされるわね……
もし、そんなことになれば、間違いなく妊娠させられるわ。
「よし、それじゃあ、アベルのところに行こうか。
今日はどんな方法がいいかな?」
「普通でいいわよ!」
この前みたいに、ぐるぐる回転しながら行くのは嫌よ!
「ええ~、それじゃつまんないよね?」
「まったくね、刺激がない日々ほどつまらないものはないわ」
「あんたは、少し御淑やかにしてなさいよ!」
「フィーネ、はしゃぎたい気持ちはわかるが少し落ち着け」
「は~い……」
相変わらずシオンの言うことだけは素直に聞くわけね……
――――――『終の魔女』が残した傷跡は深いし、これから大変だろうけど、私たちくらいは応援してあげますか。
今日も世界は平和だ!
『理の使役者』完結ですっ!
シオンとフィーネが愛し合っての完結は最初から決めていたことで、ここまでもっていくのが大変でした><
そして、書いてて思ったんですがバトルモノは難しい……
やっぱり、ほのぼのしたものを書いている方が性に合っているようです。
もう片方の作品をのんびり投稿しつつ、新しいものも考案中なのでぼちぼちやって行こうと思います。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします☆⌒(*^-゜)ノ~♪see you again♪~ヾ(゜-^*)⌒☆




