唯一の存在
戦況は防戦一方、その一言に尽きた。
なにせ、この世界全てがフィーネの支配下、下手に魔法を使おうものならそれすら牙をむく。
『アブソリュートスペル』、その対象外は俺と『フェイル』のみ。
それ以外、大地も大気も空間も時間も全てが敵。
「あははははは! すごいよシオン、本気の私とこんなに長く戦えるのはシオンだけだよ!
もっと、私を楽しませて!」
一部の隙すらなく、完全に視界を覆う魔弾、それに加え酸素濃度が変化し呼吸すらままならない。
『クレリフ』で支配を解き、魔弾を『フェイル』で掻き消すが、手が足りない。
「―――っち、また外れか……」
「ざ~んねん、そう簡単に私には届かないよ」
フィーネを視界にとらえ『クレリフ』で殺そうとするがそれも通用しない。
俺の力は『スラント』や『トマラクス』と同じく、対象の情報を読み取ってから発動させるもの。
本来なら抵抗のしようもないが、フィーネはその力で偽物の情報を掴ませる。
見るたびに変化していくフィーネの情報、本物のフィーネに辿り着けるか俺が倒れるか勝敗はそれで決まる。
「楽しいなぁ、命を懸けて戦うなんて初めてだよ。
本当にシオンは私を殺す為に生まれた存在だよね」
「―――それを分かっていて、なぜ、俺を生かした?
死にたいというのなら大人しく俺に殺されろ」
「や~だよ、シオンに殺されちゃったら今度こそ戻れないもん。
シオンはこの世界に存在しないはずの存在、だから、私の力が届かない唯一の存在。
そして、シオンは唯一、私と対等の存在でもあるんだよ」
「同類なら、アベルがいるだろう」
「うん、確かにアベルは強いよ、私が本気で殺しにかかっても1年位掛かるかもね。
でも、アベルは私を殺すことなんてできない、アベルでさえも私の支配から完全に抜け出せないもん。
そんな、存在を対等なんて言える?」
言葉を交わしている今この瞬間でさえ、お互いを殺しあう俺たち。
フィーネを殺す方法は『クレリフ』だけではなく『フェイル』もある。
これはそもそも、フィーネを殺す為に作ったものだ。
いくらフィーネといえどこれに裂かれれば死は免れない。
対する、フィーネも世界全てを使い俺を殺そうとする。
重力が俺を押し潰し、大地が牙をむき串刺しにしようとする。
ほんの30mの距離、この距離が詰められない。
「だからね、シオンが私を殺す為の存在だとしても私は愛するしかないんだよ。
シオンに会うまで寂しいなんて思ったこともなかったのにね。
神なんてものがシオンを作ったのなら、なんていやらしい手を使うんだろうね。
乙女の恋心を利用するなんて最低だよ」
「―――――それでも、俺はお前を殺す。
俺はその為に、これまで生きてきた」
「―――うん、だから、私がシオンを解き放ってあげる。
だから、死んで」
その瞬間、天と地が逆転した。
星そのものが俺を押し潰さんと迫ってくる。
「シオンがいない世界なんていらない。
こんな世界、一度滅ぼしてあげる。
そして、新しい世界で一緒に暮らそう?」
フィーネの支配はすでに解いたが、落ちてくる星を止めることはできない。
星のベクトルを反転させようものなら、その瞬間、俺は宇宙空間に放り出される。
だが、何もしなくても結果は同じ、天と地が逆転した今、俺は宇宙空間へと落ちている状況だ。
飛翔の魔法でそれを防いでも、次は星という超重量の塊が迫る。
そもそも、星には引力があるからこそ、人は地に縛り付けられているというのに、最早一切の常識は通用しない。
重力だろうと引力だろうと、目に見えない力すらもフィーネの支配下だ。
星の向こう側にいるフィーネ、おそらくこれで終わりだと思っているだろう。
事実、俺には有効な手がない―――――――――が、有効ではないが手がないわけではない。
手に持つ『フェイル』に力を込める。
星を両断し、フィーネの元へ辿り着く。
もちろん、辿り着ける保証はない、『フェイル』に触れる場所こそ消滅していくがそれ以外は防ぎようがない。
だが、それくらいのことをやらなければ、そもそもフィーネには届かない。
「―――無茶は今更か……まったく、厄介な女だ」
迫りくる星に『フェイル』を振り下した。
星は何の抵抗もなく消滅していくが、消滅していない部分は容赦なく体に落ちてくる。
その度、損傷していく体を『クレリフ』で無理矢理治療していく。
だが、『クレリフ』を発動するまもなく、死んでしまうか、『フェイル』を持つ両腕が無くなれば、俺は死ぬ。
分の悪すぎる賭け、だが、そんな分の悪い戦いでも、エルナやキュロは戦い抜いてきた。
そして、世界を救った、その世界を簡単にくれてやるわけにはいかないな。
体を苛む激痛、時には体に穴が開き、足が吹き飛ぶこともある。
それでも、たった一つ俺が望んだものを手に入れるために戦い続ける。
「フィーネえええええええええ!」
「――――う……そ……」
俺の手には『フェイル』はない。
星を渡る際、腕を失った際に星の落下に巻き込まれたが、残りの岩盤は素手で砕いた。
そして、ここは何もない宇宙空間、フィーネにはもう手が残っていない。
「――――そっかぁ……私の負けだね。
まさか、星を渡ってくるとは思わなかったよ」
「だろうな、正直俺も超えられると思っていなかった」
「あはは……でも、私を殺す為の存在なんだから、目的の為ならそれくらい出来ちゃうのかもね……」
「ああ、そして、これで終わりだ」
「―――うん、シオンになら殺されてもいいや。
最後の最後まで楽しかったよ、ばいばい、シオン」
笑いながら涙を流すフィーネを今度こそ確実に掴んだ。
「終わりだ、『クレリフ』」
そして、始めってあったあの時と同じように、その命を反転させた。
今まで適当に済ませてきました、後書きですが……
次回完結です!
本日中には投稿しますのでお楽しみに




