最終決戦
「シオン君、先方が君と会いたいと言っています。
一緒に来てください」
「交渉は上手くいったんじゃなかったのか?」
「はい、後は両国の王の捺印が押されれば停戦協定は結ばれます。
ですが、その前に戦略会議を君を踏まえて行いたいそうです」
「―――分かった」
襲撃はなし、最初はサンスクリット、テーヴァを戦わせ弱ったところを叩くつもりだと思っていたが、どうやら、目的は戦争そのものか。
『スラント』と『トマラクス』、そして俺の『クレリフ』、理からの解放。
読めてきだぞ、お前らの目的が。
部屋を通された先にいたのは、既知の人物だった。
「久しぶりと言っておこうか、まさか、君があの『終の魔女』に携わるものだとは思わなかった」
「だが、我等は貴様を信じることに決めた、共に戦おう」
テーヴァの陛下暗殺の際に交渉を持ちかけたマクウェル、なにかと縁があるサンスクリットのハーヴェスト公爵。
まさか、この2人が使者に来てるとは……
「停戦協定を結んだとはいえ、つい先日まで争っていた両国です。
どちらかが指揮を取れば、統率が乱れるでしょうから、指揮は我等『デュナミス』が執ることになりました。
シオン君、いまの君ならあの男を倒せますか?」
「愚問だな、そんな事より、奴らの目的が分かった。
奴らの目的は――――――――――――だ。
その為の戦争であり、その為にあの電波野郎は必要とされた」
「―――――そんなことが可能なのか?」
「理論上は可能だが、そんな事を許してしまえば世界は滅ぶ。
事実上、不可能だ」
「だが、それが本当だとしたら、我々は戦うことすらできないぞ」
「とはいえ、こんな突拍子もない話を頭から信用しろという方に無理がある。
いくら、『デュナミス』が言ったところで、これでは停戦協定そのものが疑われてしまうぞ」
「――――両国は3日後、ダラスに向かって進軍、その3日が勝負です。
シオン君、君があの男を倒し、『エリクシル』の目的を瓦解させることができれば我らの勝利です」
「―――それが今できる最善策だろうな。
了解した、俺が全てを終わらせやる」
「あっ、シオン! どうだった!?」
「停戦協定は結ばれた、これでよほどのことがない限り、両国間の戦争はないだろう。
溝が埋まるまでは時間が掛かりそうだがな」
「よ、よかったぁ……それじゃあ、後はあの電波をぶっ飛ばすだけね」
「明日、ダラスに攻め込む、俺が電波野郎の相手をしている間に、エルント支部であった奴は覚えているな?
あいつを見つけ出して殺せ。
おそらく、あいつが師匠と繋がっていた黒幕だ」
初めて殺されると思ったあの優男ね、あの時の仕返しを百倍にして返してやるわ。
「『トマラクス』はお前に預ける、キュロはこいつを何が何でも守りきれ」
「了承」
「これが最後だ、キュロ、エルナ、絶対に死ぬな。
お前たちが望んだ世界をその目で見届けろ」
し、シオンが私の名前を―――――――やばい、シオンの極まれにある飴は威力が高すぎるわ。
前も思ったけど、私Мじゃないわよね?
いや、でも、キュロにあれだけ犯されてもけろっとしてるし……
ああもう、そんなことはどうでもいいわ! シオンが私のことを認めてくれた!
それだけ分かればいいのよ、ここまで言われたら、期待に応えないわけにはいかないでしょ!
「――――来たようだね」
元々、ダラスには存在しないはずの王城。
ダラスを一望できるテラスに、その主である奴はいた。
「最後の忠告だ、このまま降伏するというのであれば君もあの2人も丁重に迎えよう」
「御託はいい、本物と偽物の格の違いを見せてやる」
「――――いいだろう、僕が君達『理の使役者』を超越した種であることを、いま、ここで証明してみせる」
膨れがる闘気、白刃の刃が抜かれ俺へと向けられる。
操り人形とはいえ戦闘能力だけ見れば、確かにあいつは最強クラス。
本来ならフィーネ用に取っておいたこいつは隠しておきたかったが魅せてやろう。
次元の歪から取り出したすべてが黒に染められた鎌。
俺と同じくこの世界に存在しないはずの存在。
これに理の束縛はなく、あらゆる概念も適応されない、命を狩り採るだけに存在している凶器。
「俺たちは理不尽な存在だからこそ超越種なんだ、力だけでは超えらえない壁を見せてやる」
これ以上の言葉はいらない、同時に必殺を胸に踏み込んだ。
大気を震わせる濃密な闘気がぶつかり合い、世界の命運をかけた戦いが始まった。
「ぐぁああああ……」
断末魔が上がり、また一匹と魔獣が命を散らしていく。
持ち手の数倍はある大剣に叩き斬られ、押し潰され、薙ぎ払われ、通路を塞いでいる魔獣は瞬く間に死骸の山と化した。
「人を殺さなくてもいいのは楽でいいけど、こうも魔獣が多いなんて、ホントに総力戦ね。
キュロ、大丈夫」
「ん」
『デュナミス』のスパイからは、すでに屋敷からは引き払われ、突如現れたこの城に入って行ったと聞いているけど、それ以上のことは分からない。
こんなに魔獣がひしめいているんじゃ、隠密行動も何もない。
地道に手あたりしだい当たっていくしかないわけだけど……
そうやって、歩いているうちに、天井が突き抜けた吹き抜けのエントランスに出た。
そして、次の瞬間には視界を覆い尽くす光柱が私たちを押し潰さんと、落ちてきた。
すぐさま、解析し分解、凌いだと安堵したけど、その油断を付くように掻き消された光柱の後ろから防御不可の剣が迫る。
キュロがすぐさまフォローに入ろうとしたけど、降り注ぐ矢が行く手を阻む。
絶体絶命―――――だけど、その剣が私を両断することはなかった。
私と騎士の間を間欠泉のように水が吹き上がり、騎士を押し上げた。
「戯けめ、いったい何をやっておる」
「あはは……助かりました」
ユグ山でシオンが助けた精霊、その他にも多くの精霊が私たちを援護してくれている。
「王の命令でお主らに怪我一つ負わせる訳にはいかぬ。
妾らの力にも限度があるのじゃ、最低限は己で身を護れ」
精霊は基本無干渉を貫く、だから、付いてきてくれると聞いた時は驚いたわ。
勿論理由は尋ねたけど、まさか、こんなところであの娘を紹介した恩が帰ってくるとはね。
精霊王・アベル、あの空中宮殿に住まう怪物は全ての精霊に対する絶対命令権を持っているらしい。
もっとも、その権利が行使されたのは実に500年ぶりらしい。
しかもその命令は、あのメイドさんを喜ばせるために芸をやらせたとか、しかも、それが初の命令。
メイドフェチの精霊王ってどうなのよ?
ともあれ、これなら物量で押し切れると言いたいところだけど、上級の精霊でもあいつらの相手は務まりそうにない。
さっきは、不意打ちだったから効いたけど、魔法だろうがなんだろうが切ってくるし、斬撃を飛ばされたら私がどうにかするしかない。
でも、私の眼は確実にあの3人の命を捕えてる。
なにか、引っかかるところはあるけど、後はその命を分解してしまえば私たちの勝ちだ。
「―――はぁああああああ!」
再び距離を詰めてくる騎士――――速いけど、見きれない速さじゃない。
心臓に狙いを定め『トマラクス』を発動、3度目の戦いでようやく因縁の騎士は絶命。
その後を辿るように、数えきれないほどの矢が降り注ぎ、再び光柱が落ちてくる。
それに対応し、キュロが矢を捌き、精霊が寄り添い光柱を押し返す。
視界が開けた先には、絶望に染まった顔でテラスから落ちてくるミール・エル・ヴァリアス嬢。
味わったことのある、いやな感覚が身を覆う。
その心当たりはすぐについた、こんな感覚は人生でそう何度も味わうことなんてない。
それは、走馬灯、死の直前に1秒がやけに引き伸ばされて感じる。
「―――っ、エルナ!」
誰よりも先に動いたのはキュロ、大剣を最大展開し私を押し倒す。
その間から見えたのは人の形をした爆弾。
そして、彼女がいたテラスにいたのは、私が殺すあの男と、サンスクリットの姫君、ライラ・ブリア・サンスクリット
「皆伏せて!」
私が叫ぶと同時に、彼女の体は爆発し、エントランスは爆音と爆炎に包まれた。
Σ(゜д゜;)




