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理の使役者  作者: ひさし
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運命の出会い

「ご苦労様だ、本当に君はよくやってくれた。

さて、君の願いを叶えるが、同類には記憶が上書きされないみたいでね、そこは口裏を合わせれば、誰も過去が変わったなんて思いはしない。

君があの研究所に入ってから、出るまで、抑止力を押さえつけておくよ。

では、また会おう、次は彼女と一緒に来てくれ」


にこやかに話すアベルと、目が虚ろで訳の分からないことを呟いている脳筋。


なにがあったか、知らない方がいいだろう。


ともかく、これで一番の問題が解消できた。


今度はこっちが攻める番だ、さっさと叩き潰してフィーネを炙り出してやる。















――――イルミス島・研究所跡


以前来た時と変わらず、吹雪に見舞われている永久凍土の島。


再び、その島に足を踏み入れ、倒壊し、雪に埋もれかけている廃墟へと足を進める。


ここに来る前に人払いは頼んでいる為、ここにはシオン1人。


死体の山は片付いておらず、死体がそこらじゅうに転がる中、奥へと進む。


ここにいたころは、死体を見るたびに泣いたり嘔吐したりしたが、いまはそんな繊細な心など、捨ててきた。


全てはフィーネを殺す為、その目的を果たす為に、立ち止まっている暇なんてない。


足を止める、そこは倒壊した建物にしては不自然な程、以前の形そのままだ。


あいつの力をもってすれば、この程度造作もない事だろうが。


本当なら、ここを徹底的に調べてもらうつもりだったが、サービスのつもりか、この装置の使用法が手に取るように解る。


装置を起動させると、大気中の魔力を掻き集め俺へと送ってくる。


「―――ぐっ……」


走る激痛に苦悶を漏らす。


それも当然、自分以外の魔力は毒でしかないことは、あの馬鹿女ですら知っていることだ。


それを、『クレリフ』で薬に変換することで、毒によって穢されていた部分を修復していく。


その繰り返し、その度に魔力が増加していくのを感じる。


勿論、俺自身が許容できる魔力量はある、だが、それまで、この激痛に耐える必要がある。


膝を付き、極寒の地だと言うのにもかかわらず、脂汗が額を伝い、意識が霞んでくる。


予想外の激痛に、霞む意識の中で急ごしらえの結界を張ると、そのまま意識を手放した。
















「――――はぁ……はぁ……はぁ……」


倒しても倒しても、次なる刺客が現れ休む暇もなく、ただひたすらに走る。


研究所を抜け出し、既に1月以上、戦いに次ぐ戦い、勝てない相手ではないが、それでも、敵は抑止力、生半可な強さじゃない。


戦闘が終わるたび、『疲れ切った体』を『元気な体』に反転し、疲労を無くす。


食事を取らなくても『空腹』を『満腹』に反転し無理矢理体を生かしてきた。


だが、それも限界、終わりのない戦いは身体は健全でも精神が摩耗していく。


もう、奴らに殺されてしまった方が楽じゃないかとすら思える、逃避の中、再び襲いかかる抑止力。


抑止力と言っても姿形はそれぞれであり、前回は龍、その前は大蛇、主に幻想に生きる生物が多い。


そして、今回は銀狼、人に比べると確かに巨大だが、龍や大蛇に比べると小柄で俊敏、もっとも苦手とするタイプ。


戦闘経験なんてあるわけもなく、多大な魔力のごり押しでここまで勝ち残ってきた為、力任せの攻撃が当たらない相手とは相性が悪すぎる。


繰り出す攻撃は当たらず、徐々に銀狼は近づいてくる。


―――こうなったら、こっちから近づき0距離で魔法を当てる!


脚に力を入れ踏み出そうと瞬間に銀狼が吠えた―――――


「ガアアアアアアアア!!!」


耳を劈く咆哮が辺り一面を威嚇し、その威嚇の対象であるシオンが思わず足が止めてしまったのは仕方のない事だろう。


疲弊した心、自信の何倍もある巨体、大の大人でさえ泣いて腰を抜かす迫力。


そして、無情にもその隙を逃す程、銀狼は甘くない。


その巨体と俊敏を生かした、体当たりは人を殺めるには十全すぎる、人外と呼べるほどの魔力を持ち、咄嗟に障壁を張ろうとも、体は宙に舞い、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされて、意識は途切れた。












――――生きてるのか……


生きているとは言っても、骨は砕け、その破片で内臓に傷がつき、傍から見れば風前のともしびのような命だが―――――――――


『クレリフ』


どんなに助からない状態であろうとも、このの力があれば一瞬で全快する。


服に付いた泥を掃い、辺りを見回すが、銀狼はいない。


おかしい、あれほど絶好のチャンスだと言うのに、見逃した?


それとも、あの一撃で俺が死んだと思い込んだか……?


あれ程しつこい奴らが、そんな甘い考えもつわけがない……だとすれば、あの場で俺を殺せない理由が―――――――っ、これは!?


先程、見回した時には気付かなかった、『クレリフ』の鑑定眼をもってしても見ようと思わなければ見えない程、高度な結界。


この森そのものが、抑止力と同じ力を発している。


確かにここなら、俺の存在が隠蔽されても不思議じゃないが―――――なぜ、こんなものが存在しているんだ?


こんなものを作るくらいだ、俺と同じく世界から追われる身ということか?


考えていても仕方がない、もしかすると、ここなら静かに暮らせるかもしれないな。


この森にある気は全て精気が感じられず、枯れ果て、不気味な雰囲気が漂うなか、当てもなく歩き続ける。


とてもじゃないが、人が住めるような環境じゃない、それに、明らかに殺傷を目的とした罠がそこらじゅうに張り巡らされている。


それらを全て、無力化しながら先を行くと、そこには不自然な広間、そしてその中心には歳幾はも行かないような少女がいた。


真っ白な髪に、視る者を飲み込むような漆黒の眼、口元は愉悦に歪み、俺が来るのを今か今かと待ち構えている。


「あんたが、この森の主か?」


「そうだけど、そんな事も知らなかったの?

――――う~ん、外に抑止力が来てたみたいだし、てっきり同類が私を殺しに来たのかと思ったんだけど……」


殺し合いを楽しみにしていたのか、一転、困惑した表情でああでもない、こうでもないと、一人で唸っている。


「―――まぁ、いっか、どんな目的であっても結局は殺すんだしね」


残虐な笑みを浮かべ、明確な敵意が向けられる。


少女が足を鳴らすと、足元が盛り上がり、マグマが噴き出す。


「あははは、手加減はしてあげるからすぐに壊れないでね」


すぐにその場から離れようとするが、枯れ木が絡みつき動きを封じる。


抜け出そうとしている間に、障壁は溶解され、未だ抜け出せない身にマグマが迫る。


「ぁぁああああああっ!!!?」


「もう、終わりかぁ、あの罠を抜けてくるくらいだから少しは楽しめると思ったのに」


飽きて背中を向けた瞬間、『クレリフ』で枯れ木の制御を無効化し、拘束から抜け出す。


「へぇ~、まだ生きてたんだ」


少し驚いた顔をすると、嬉々とした表情を浮かべる。


だが、すでに勝敗は決していた、視るだけで人を殺すことができるこの力は、確実に少女の命を捕えた。


「―――――ぇ?」


なにがおきたのか理解できないといった顔で、その場に倒れ込み息絶える。


本当に死んでいるのか確認を取る必要はない、『クレリフ』は強力な力だが手加減が一切効かない。


生を反転してしまえば、待っているのは死だけだ。


「―――すまない」


殺されかけた相手を殺したことに対しては謝る必要なんてない、だが、それでも俺がここに来なければ死ぬことはなかったことは事実だ。


殺した相手の住居をそのまま、使うのは気が引けるが、この結界の中じゃなければ生きていけない、それに、この結界を使えるようになれば、行動範囲も広がる。


黙祷を捧げ、その場を後にしようとした時―――――――――


「あははははははははははははは―――――ねぇ、私死んだの!?

この私が!? ははははははは! すごい、すごいよ、この私をこんなに簡単に殺せるなんて、あははははははははは!」


確かに殺したはずの少女が、寝そべったままで狂ったように笑い続ける。


この力で死ななかっただと!?


この力を対人に使ったことは初めてとはいえ、どんなものでさえ、反転させてきたこの力が通じなかった!?


「あはははははははは……あ゛~……ねぇ、君、名前は?」


笑い声が止むとゆっくりと立ち上がり、未だ愉悦を隠そうともしない目で訪ねてくる。


「―――あぁ、もう殺そうとしないから安心していいよ。

私も、もう殺されたくないしね。

この体は分体だったから、本体の私は生きているけど、感じたことは本体にフィードバックされるから、この体が死んだときは私も死んじゃうかと思ったよ、うふふふふふふ……」


いったい、何が面白いのか、再び笑い出す。


狂人相手に警戒するなという方が無理な話だが、戦わずに済むのならそれに越したことはない。


「名前はない」


「う~ん、それじゃあ、今日から君の名前はシオン。

それから、シオンは今日から私の弟子ね」


「勝手な事を言うな、あんたが生きているなら俺はここを出る」


こんな得体の知れない、危険人物と一緒にいるくらいなら外の方がまだ安心だ。


それに、希望的観測だが、世界はここには行った俺を見逃している。


いま外に出ても抑止力が働かない可能性だってある。


「ふ~ん、シオンは殺しちゃった女の子を放っていくんだ?」


「――――最初に殺しにかかったのはあんただろう、正当防衛だ」


「む、それを言われちゃうと痛いなぁ……でも、逃がさないからね」


指を鳴らすと森が蠢き形を変えていく。


先程とおってきた道は枯れ木が密集して通れない、それどころか、この広間を枯れ木が囲っていて、木を薙ぎ倒していかない限り通れそうにない。


「こんなことをしたところで、時間稼ぎにしかならないぞ」


「私がシオンに勝てない前提ならね、殺せるなら殺していいよ。

それから、ゆっくりこの森を出ればいいでしょ?」


どういうつもりか分からないが、この眼はあの女の命を捕えている。


分体をいくら倒そうと意味がないが、あれほど精巧なものはそういくつも出せるものじゃないだろう。


力を使い、生を反転させる、これで、終わり――――――――――のはずだった。


「うふふふふふ、残念だったね。

その力はもう私には通用しない、でも、シオンが私に弟子入りして、腕を磨けば私を殺せるかもね?」


―――力が封じられたわけじゃない、いまもあの女の命は見えているが殺せない。


唯一の勝機が無くなって時点で俺に勝ち目はないか……


「これからよろしくね、シオン。

私を殺した責任は重いから覚悟してね」


( ゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

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