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理の使役者  作者: ひさし
33/40

契約

「カスミ、私だ、入るぞ」


ベットに横たわる痩せ細った儚げな少女。


本当にちょっとしたきっかけで死んでしまいそう。


兄も美形なだけあって、妹も美形ね。


美人薄命がここまで当てはまる人なんてこの子位でしょう。


「この時間に来るだなんて珍しいですね――――っ、エルナさん?」


「覚えててくれたんだ」


これは酷い……病原が内臓と半ば融合してる。


内臓だけじゃなく、神経、筋肉も衰弱して、逆に生きていることが不思議なくらいだわ……


「―――あの、そちらの方は……?」


「医者だ、とりあえず、これを飲め、そんな状態では話すことすら辛いはずだ」


すぐに治療に入らないところを見ると、シオンでも治すことはできない。


『スラント』があれば、可能かもしれないけど、いくら公爵家とはいえ、いまの状況で『スラント』を持ち出せるとは思えないわね。


「凄いです……ここまで調子がいいのはいつ振りでしょうか」


「治るのか!?」


「一時的に体力を回復させただけだ。

はっきり言って、ここまで症状が進んでしまえば投薬治療では不可能だ。

治療法はあるが、それに耐えきるだけの体力がない」


「シオン! 本人がいる前でそんなこと!」


「――やはり、私は長く生きられないんですね」


―――そうよね、シオンがそれくらい考慮に入れなはずがない……


この娘だって悟ってるんだ、自分の命が長くないことを。


何度経験しても、目の前の命を助けられないのは悔しいわね……


「あんた、生きたいか?」


「―――このまま、この家に迷惑をかけ続けるくらいなら……」


病気が治らない限り、この子はずっと、この家に迷惑をかけ続ける。


例え、それを家族全員が否定しても、それは事実としてこの子を苛む。


この子の境遇に立ったこともない私が何を言っても綺麗事、むしろ、殺してあげる方がこのこの為かもしれないわ。


「聞き方を変える、あんたは生きて、この家に恩返しをしたいか?」


「―――こんな、私にできる事があるんですか?」


「確証はないがな」


一端、話を切ると後ろに控えていた脳筋はいい加減失礼だから……騎士様に向かい合う。


「取引だ、俺はあんたの妹を助ける術を持っている。

だが、病気が治った後は間違いなくこの家に戻ることはできない、あんたの妹は死んだことにしてもらう」


「――――カスミにいったい何をやらせるつもりだ?」


「知らん、俺は条件に見合う女を連れて来いと言われただけだ」


「ちょっと、それって身売りしろってこと!?

あんた、いくら、手がないからってこんな子になんてこと要求してんのよ!?」


シオンが悪い奴じゃないことは知ってるけど、それと同時に目的の為ならどんな手でも使う合理主義者だってことも知ってる。


手がないことは分かってるけど、気に入らないことは気にいらない。


勝手だけど、シオンの為にもキュロの為にも、非人道的な行為は止めさせてもらうわよ。


「――――そのお話を受ければ、この家に恩を返せますか?」


「それは、あんた次第だろうな」


「カスミが自分が負担だと思う気持ちは分かるが、私たちの為に無理はしなくてもいい」


「そうよ、カスミちゃんは女の子なんだから、そんなこと気にしなくていいのよ!}


「兄様、エルナさん、ありがとうございます。

――――でも、足手まといはもう嫌なんです。」


こんなことを言われてしまえば、私たちは黙るしかない。


足手まといが嫌だという気持ちは私も騎士様も嫌と言う程分かっているからこそ。


「確認だが、二度とここには戻ってこれなくてもいいか?」


「はい」


「あんたはここで死ぬことになる、いくら、あんたがこの家を助けることをしたとしても誰もあんただとは気付かない、それでもか?」


「はい」


「事と次第によってはここで死んだ方が幸せだったと思うかもしれないぞ」


「何の恩返しもできないまま死ぬことが幸せだとは思いません」


「契約成立だ、雇い主のところへ連れて行く。

お前らも来たければ好きにしろ」


勿論行くわよ、そして、変奴だったら殺してでも止めるわよ。














「いやはや、まさか、即日で見つけてくるとは、流石の僕も予想外だったよ。

君は神様にでも愛されているのかと疑ってしまうね。

いや、この世界の支配者が神だと言うのなら彼女に愛されている君は、確かに神に愛されていることになるのか。

もっとも、彼女に愛されるなんて僕はごめんだけどね。

僕だけじゃなく、君以外を除いた、全生物は丁重にお断りするだろう」


「ねぇ、シオン、もしかしあの子供が?」


「あんななりだが、あれは師匠並みの化物だ」


『終の魔女』と、同等の存在……


どうでもいいけど、どうして両方とも幼いのかしら?


成長が止まったとかいう理由じゃないわよね?


「それは簡単な理由だ、この姿の方が燃費がいい。

僕だけじゃなく、シオン君を除いた同類は存在するだけで世界に目をつけられるからね。

それを誤魔化す為さ、いちいち虫を掃うのは面倒だろう?

やりすぎれば、星が衰退して住みにくくなるんて迷惑な連中だよ」


どいつもこいつも、プライベートって言う概念はないのかしらね……


「さて、まずは自己紹介をしてもらうか。

僕の名前はアベル、後ろのメイドはシズクだ。

君の名前を教えてもらえるかな?」


「カスミです」


「いい名前だ、どうやら、僕の出した条件はクリアしているようだね。

いろいろと聞きたい事もあるだろうし、僕だって聞きたいことはある。

だけど、その体では辛いだろう、シオン君治してあげてくれ」


――はぁ!? あんた治せないって言ってなかった!?


「あんたがやればいいだろう」


「僕が治してしまえば、いまのカスミはいなくなる。

幼いころから部屋に縛り付けてきた病気が無くなったカスミが、部屋に閉じ込められてここまで素直に育つはずがない。

僕の力は万能ではあるけど、全能ではないからね。

無理なものは無理なのさ、それにこの城は彼女の森と同じ効果を持っているから安心して使ってくれて構わないよ」


あ、そういうことね……


そういえば、シオンのあれは使ったら最期、抑止力から延々と追われ続ける羽目になる。


そりゃ、今日会った娘に使えって方が無理な話ね。


「―――治ったぞ。

半ば同化していた腫瘍は良薬に変化させた、弱っていた内臓や神経もこれで回復に向かう筈だ。

流石に、寝たきりで衰えた筋肉はこれからリハビリするしかないがな」


「御苦労さま、ついでにこの城の浮遊石も頼むよ。

この辺り一帯を浮かせているだけあって、そろそろ寿命なんだ。

寿命は僕の力じゃどうしようもない事だからね、何とか延命してきたけど流石に限界のようなんだ。

もちろん、対価は払わせてもらうよ。

君だって、そこの彼女と小さな女の子の安全は確保したいだろう?」


「いくぞ」


「―――え? なんで私も――――って引っ張らないでよ!」
















「本当に治ったんですか……?」


「ああ、それは僕が保障しよう。

その病気の厄介なところは、普通に治療しても弱った部分はどうしようもなく、よほど早めに治療を始めない限り、一生弱ったままと言うところだ。

しかし、彼の力ならその心配もない、リハビリだってシズクが面倒を見てくれる。

すぐに、君は自身の力で立って、歩くことができるよ」


「――――っあ、あり……がとう……ございます……」


雇い主の前で遠慮でもしているのかな?


僕はそんなことは気にしないし、泣きたい時には泣けばいいと思うよ。


まぁ、女の子は笑顔が一番だけどね、美少女なら猶更、この娘なら恥ずかしげにはにかむ姿は、さぞ美しいだろうね。


「15年間、よく1人で耐えてきたね。

だけど、君を苦しめるものはもういない、これは頑張ってきた君へのご褒美だ」


耐えていた涙腺が決壊し涙があふれる。


僕は退散した方がいいみたいだね。


「シズク、後は頼むよ。

君はカスミの兄君だね、落ち着くまで僕たちは離れていようか」















「妹を救ってくれて感謝する」


「気にする必要はないよ、僕のもとで働くためにも健康体でいてくれなければ困る。

世の中、ギブ&テイクだ、それでも気にするというのなら、この場所は誰にも言わないと約束してくれれば助かるね。

もっとも、この場所へ来ることができる人なんて、極少数だろうけど」


「私の家紋に誓って約束しよう。

――――一つ聞きたい、カスミに何をやらせるつもりだ?」


「彼は何も言わなかったのかな?

まったく、人が悪いと言うか、彼女と同じですぐに人を試すんだから、困ったものだ。

安心して構わないよ、なにも娼婦になれと言うわけじゃない、彼女にはメイドとして、働いてもらいだけだ。

もちろん、住み込みだけど生活に不便がない程度には、生活環境も整えているつもりだ。

その代り、自分のことは自分でやってもらうことになるけどね」


「――――言っておくが、カスミは寝たきりの生活が長く、女中の真似事なんてできないぞ」


「むしろ、出来てもらっては困る、僕は彼女が失敗して、涙ぐむところが見たいんだ」


「―――は?」


ふむ、どうやら理解されなかったらしい。


よろしい、理解できるまで話してやろう、純情ドジっ娘の魅力を!





( ゜д゜)ポカーン(´ー`*)フッ

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