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理の使役者  作者: ひさし
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雪原の戦い

難産でした……

勝つとは言ったものの、私にできる事は驚くべきほど少ない。


私にできる事は視て教えることができるだけ。


結局はキュロに大部分を任せることになってしまう。


適材適所があるとはいえ、やっぱり、ちょっと悔しいわね。


曲芸師のように大剣を投げては、それに飛び移り、攻撃を躱し続けている。


あの杖には高威力の魔法が込められているが、あの矢のように狙った先に確実に命中させるような魔法はない。


だから、キュロは危険ながらも剣戟と矢の中に身を投じている。


私を狙ってこないのは、私は情報源として生かして捕えた方が有益だからだろう。


それに、以前1対3ながらも勝って見せたキュロの方に目が行ってしまうのは仕方ないけど、これは手札の1枚となる。


後は、キュロがこの戦況を打開できる戦略を導き出せるか……


冷や冷やしながら戦いを見守り、10分ほど経過した時、キュロが強引に騎士の懐に潜り込んだ。


そんな無理な突貫が通用するような相手ではなく、見事にカウンターを貰い、大きく飛ばされてしまう。


「―――っ、キュロ、大丈夫!?」


「耳」


「――――え?」


「見つけた」


そういうことね、でも、こんな方法でこっちまで来なくてもいいと思うけど、それも必要な事なんでしょ―――――私にはわからないけど……


そうして、聞かされた内容は正気かと疑ってしまう程、綱渡りで、私じゃ到底考えもつかない内容だった。










キュロが大剣を展開する、その光景に気を引き締める3人。


一度は完敗している相手だけに油断はない。


だが、状況は明らかに3人が有利、多勢に無勢という点もあるが、雪が積もっているこの地で雪の上に立てる自分たち、さらに、前回と同じ轍を踏まぬよう武器はそれぞれ専用化され、持ち主以外は創造主たるセツナ以外には持つことすらできない。


あの少女が全力を出して攻撃したとしても結界を破ることができないことは前回の戦いで理解している。


破る手段があるとすれば前回盗られた剣だけだが、それさえ警戒しておけば負ける要素は一つもない。


それに、いざとなれば、情報源となり得るだろうエルナを攻撃すればキュロは守らざるを得ない。


だが、それこそが何よりの油断だった。


最初から、エルナを狙い、キュロに無理な戦いを強いなかった甘さが、2度目の敗北を招くことになるとは、数分後の未来が訪れるまで理解することはなかった。






「いつでもいいわよ」


「必勝」


キュロが力の限り、大剣を雪原へと振り下ろす。


その膂力で振り下ろされた大剣はその質量と共に雪を蹴散らし、爆発したように雪を舞上がらせる。


「それで、目隠しのつもりですの?」


追尾の能力を持った矢が粉塵をものともせず、正確にキュロへと向かう。


その矢の向かう先に騎士は追従し、キュロへと切りかかろうとしたとき、キュロが投げた大剣に乗ったエルナが粉塵から飛び出し、後ろにいる魔法使いへと一直線に飛んでいく。


「――――っ、やらせませんわ!」


すぐさま弓を番えエルナへと向けるが、エルナと魔法使いの位置を一直線。


貫通の能力を有する矢では魔法使いの少女ごと貫いてしまう、その事実に気づき手が止まってしまう。


「大丈夫です!

2人は、そっちの方をお願いします!」


いくら、近づかれようとも、防御壁を突破することはできない。


さらに、この位置ならあの2人を巻き込むことなく、魔法で撃ち落とすことができる。


残り30m、何の力も持たないエルナを跡形もなく消し去るには十分すぎる魔弾がエルナを向かい討つ―――――――はずだった。


勝利を確信させる、身を覆う程の魔弾は、その予想に反し、2つに切り裂かれ、掻き消された。


「――――――っ、まさか!?」


エルナの手には神々しい光を放つ剣、その剣の威力は仲間である魔法使いはよく知っている。


その逡巡で残り10m、ここまで来てしまえば2人の援護は期待できないが、あの剣を持ってくるだろうことは予想できていた。


前回はあの剣に防御壁を破られてしまったが今回はあの剣では破られない程、強固な防御壁を纏っている。


防御壁が剣を受け止めた時が最期、あの剣を持っていたとしても躱しようがない魔法を0距離で撃ち、今度こそ倒す。


だが、またしても予想を反する結果が紡がれた。


防御壁で受け止めるはずの剣は、その手前に振り下ろされ、降り積もった雪を昇華させ蒸気が2人を覆う。


――――――――視える!


『トマラクス』によってもたらされた眼は、目の前の少女の全てを分析し頭へと叩き込む。


神の力により、防御壁は魔力の塊へと分解され大気へと還る。


「――――――っあ!?」


そして、専用化されていた杖、その専用化だけを分解し、杖を奪い取る。


杖を奪い取れれば、後は何の力も持たないただの少女、1人目を無力化し、次へと目を向ける。


蒸気により何が起きたのか理解できないが、身を覆う防御壁が無くなったことから、無力化されたことを悟った。


その間、戦闘開始から10秒足らず、信じられないと我を失っている間に、キュロは次なる手を打っていた。


「――――っ、雪の中から!?」


放たれた矢を全て処理した後、キュロはすぐに雪の中へと潜り、アーチャーの足元へと移動し、防御壁が無くなったアーチャーから弓を弾き飛ばし、雪原へと叩きつけ2人目を倒す。


「おのれ!」


雪原の上を駆け、キュロと再び打ち合い始める。


既に2人が倒されているとはいえ、防御不可の剣、それに伴う斬撃があれば勝てる。


確かに、それは真理だったが、それはあくまでも1対1の場合。


そう思った、騎士に突如走る衝撃、その先には専用化され持ち主以外には持てないはずの杖を構えたエルナが杖を構え、魔法を放っている姿。


それを、視野に収めた時にはすでに遅く、接近したキュロに気付くことさえできず、剣は弾き飛ばされ、勝敗は決した。
















「言っただろう? 君じゃ僕には勝てない」


優劣は火を見るより明らかだった、片方は傷一つついておらず、片方はぼろぼろになり肩で息をしている。


「あの時の手加減した僕に一発入れただけで勝てるつもりでいたのなら思い上がりも甚だしい。

君は賢いと思っていたんだけど、どうやら僕の過大評価だったのかな?」


「ぺらぺらとよくしゃべる奴だ……だらか、口を滑らせるんだ、間抜けが……」


「まだ、減らず口を叩ける元気があるなんてね、だが、そろそろ終わりだ。

君は僕の下に付くつもりがないのなら洗脳でもして無理矢理従わせることにする」


―――――っち、この電波野郎、実力だけは本物か……


『クトレリフ』なしで勝てるような相手じゃないが、こいつを殺すほどの力を使えば間違いなく世界に殺される。


だが、このまま、こいつの思惑通りになるのなら……


「さぁ、共に世界を救おうじゃないか」


―――――やるしかないか……!


「シオン、伏せて!」


声が聞こえた瞬間、爆炎が巻き起こり、小柄な影がセツナへと向かう。


―――――――ガキィィィン


全てを焼切る剣は簡単に受け止められ、鍔迫り合いで吹き飛ばされる。


「――――まさか、彼女たちが負けるなんてね」


「退きなさい! さもないとあんたの大事なあの娘たちがどうなっても知らないわよ!」


「成程、『トマラクス』を使ってこないと思ったら君たちが持っていたか。

―――――まぁいい、今回は退こう。

だが、彼女たちを傷つけた君たちに次はない」


濃厚な殺気を受け、エルナは勿論、キュロでさえ、体を竦ませる。


「それじゃあ、また、その時には考えを改めてくれていると嬉しいよ」


風が舞い雪が舞う、そして、視界が晴れた時にはセツナの姿はそこにはなく、それを確認した後、崩れ落ちるように脱力した。














「オ…ォォオオ……マダシナヌ……ジンルイノシンカヲ……」


セツナによって貫かれた胸の傷は癒えることはなかったが、その体の構造は既に人とは違う。


心臓を貫かれたダメージは大きいがそれが致死にはつながることはなく、満身創痍の体を引き摺り、僅かに残っている自我が生を繋いでいた。


「まったく、シオンもまだまだだなぁ」


「―――キ、キサマハ……!」


行く手を遮る、少女、を目の当たりにし驚愕をあらわにする。


「まぁ、これはこれで面白いからいいんだけどね」


残酷な笑みを浮かべた少女の髪と瞳は澄んだ青空のようだった。




( ̄ー ̄)ニヤリ Σ(゜Д゜;)

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