再戦
「ガアアアアアアアアアアア」
異形の化物の剛腕が振り下ろされるたび、クレーターができ、建物は破壊されていく。
圧倒的な暴力が嵐の如く、見境なしに襲い掛かってくる。
その膂力も厄介だが、何より厄介なのは―――――
「ムダダ、コノミニマホウハツウジナイ!」
どんな魔法を使っても、吸収されさらに強力になっていく。
勿論、あんな急激な変化に後遺症がないわけがない。
あれは遠くない未来に死ぬか、自我が失せる事だろう。
そんな心配をしているうちにも、大気中に存在している魔力を吸収し、巨大化して、すでにシオンの何倍もの大きさとなっていた。
――――っち、このまま時間を取られて残りの連中を逃がすわけにはいかない。
この糞爺は殺せるが、それだけは目的の半分しか達成できない。
仕方がない、あの電波野郎用に取っておきたかったんだが使ってやる。
「私は貴女を忘れない、美しく、醜く、清く、濁った、この世界で生きた貴女を忘れない―――――」
攻撃を躱しながら、術の補助となる陣を描く。
そして、世界に響かせる、詩を紡いでいく。
「貴女に供物を捧げよう、目を抉り、私が見た風景を、耳を削ぎ、私が聞いた音を、鼻を潰し、私が嗅いだ匂いを、舌を引き抜き、私が食した味を、全身の皮を剥ぎ、私が感じた全てを捧げよう―――――」
魔力を吸収する異形の化物、だが、どんなものにも限界は存在する。
これは俺のとっておきだ、あの魔女を殺すために組み上げた俺の持つ術の中で最強クラスの破壊力を持つ詩。
「悲しみを怒りを憎しみを絶望を世界にまき散らし、嘆きを憤怒を憎悪を怨嗟の声をこ世界に轟かせ、神のもとで眠りし貴女への鎮魂歌を奏でよう――――――――」
詩は陣と共鳴し、形をなし、貪欲に魔力を吸い込み始める。
世界が歪み、異形の化物の足が止まる。
あまりの収束に世界が耐えられず、一つの異空間となり果て、最後の一節を経てその姿を現す。
「思い出せ、理を支配した彼女の姿を、忘れるな、世界を辱めた彼女の姿を!
『メフィストの黙示』」
紡がれた詩は、陣を躍らせ、形のない魔力を収束させはっきりと視覚出来る黒き門となる。
開かれた門より、顕現した欲望の肯定者、俺の望みを叶えるため、異形の化物を冥府へといざなう。
「グオオオオオオオオオオ!
マケヌ! ワレワレハ、コトワリカラトキハナタレルノダ!
顕現した悪魔を拒絶し、形成する魔力を吸収するが、それも限界。
魔の手がその身に迫り冥府へと引きずり込む。
「ナゼダ! ナゼ、キサマラハ、ワレワレノジャマヲスル!」
「くだらない戯言を抜かすな、俺はお前らを赦さない、それだけだ」
「ウオオオオオオオオ! ジンルイニエイコウヲ―――――――」
冥府へと誘われ、闇へ沈んでいくその瞬間、刀がその身を貫いた
「実に醜い、そうは思わないかい?
どう言い繕おおとも、ファウストはメフィストに騙されただけの愚者だ。
満たされぬ欲望? そんなものは己の真の願いを知らないだけだ」
あれだけの魔力を吸った後だというのに一撃とは……
「だが、それすらも救済してみせよう、世界の王たる僕にはそれができる。
そして、僕が王になる為に君の力が必要だ」
「戯言を、その狂人に必要なものは救済ではなく罪を裁く業火だけだ」
返り血の一滴も浴びてはいないが、研究所のいた奴らはもう死んでいるか……
いやなタイミングで現れてくれたものだ。
「君は強い、だが、人類すべてがそうというわけではないんだよ。
強きものは弱きものを護り、導く義務がある。
君もその義務に殉ずるべきだ」
「イカレタ思想を他人に押し付けるな、電波野郎」
「やはり、分かってはもらえないか」
「宗教の勧誘なら他所でやれ、耳障りだ」
「強がらなくてもいい、君では僕に勝てない」
「強く殴りぎて記憶でもとんだか?」
「ああ、だからこそ、今度は油断しないよ」
変化は一瞬、刀が鞘に収まる音がした時、研究所が真っ二つに割れ、崩壊した。
「また、お会いしましたわね」
「――――っ、こいつらは!」
「今日は負けません!」
「後退」
間違いない、キュロの描いた似顔絵の3人だ。
ということは、シオンのところにはあの電波が―――――
――――――――――ドオオオオオオオオオオオン
研究所が!? やっぱり、あの電波とシオンが戦ってる。
シオンが言うにはあの電波はシオンより強い、そしてこの3人も得体の知れない武器を使ってくる。
キュロも一度は勝てたけど、次は勝てるかどうか……
こうなったら『トマラクス』で……!
「駄目」
「でも……」
「殺すのは駄目」
――――そうね、殺すのはまずい。
これは人の命云々の話じゃなく、この3人はあの電波の囲いだ。
殺したらどんな報復を受けるか分かったもんじゃないわ。
だからこそ、前回キュロは殺さず見逃した。
そして、『トマラクス』は一切加減がきかない、武器だけでもと言いたいけど、視界に納めないと発動することができないから、1つ分解したら、確実に対策を取られる。
とはいえ、使わないとは言わない、ここぞというタイミングで使用して確実に3人を撃退しなきゃいけない。
「参る!」
―――っ、あの3人雪の上を走ってる!?
いくら、キュロとはいっても、多少は雪に足を取られる。
そして、ガード負荷の斬撃だからこそ避ける以外、身を守るすべはない。
さらに言えば、今回は前回とはまた違う武器、どんな能力を秘めているかも――――――分からないはずのに……?
「キュロ、閃上は駄目!」
「――――ん!」
間一髪、大剣を巧みに操り閃上の範囲から逃れる。
キュロがいた場所は雪が溶け、大地が焼き焦げていた。
今度は、カード不可に加え斬撃まで飛んでくるタイプってわけね。
「貴女何者ですの?」
言うと同時に矢が放たれる。
解る、あれは追尾効果そして、貫通の効果を持ってる。
キュロが防ごうとそのまま身を貫く。
「キュロ、弓の先端に触れないように落として」
あっちの杖は魔力強化にいろいろな魔法が込められている。
前は固定の防壁だったけど、今回はそれぞれに堅牢な防壁が張られている。
解る、見ただけなのにその構造が、仕組みが、理が頭に叩き込まれていく。
これが『トマラクス』の力、いや、『スラント』だって同じはずよね。
一見、問答無用に干渉しているように見えて、本当は対象を完全に解析鑑定分析して、世の理を乱さぬよう理に適って干渉している。
だから、今日は絶好調だったんだ、こんなに視ることができるなら解るに決まってる。
「――――ん」
でも、キュロのこれは『トマラクス』の力じゃないのよね。
あ、シオンが驚いてたのは私が『トマラクス』の力を使いこなしてると思ったからね。
キュロの表情で何を考えているか読み取れる、私が読み取った情報を渡して、勝つための論理を組み立てると。
「キュロ、勝って、シオンのとこ行くわよ」
「――ん!」
(*゜ー^)/'`*:;,。・★悪魔召還☆・:.,;*(ΦwΦ;)Ψ




