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理の使役者  作者: ひさし
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『光の勇者』

サンスクリット領とテーヴァ領の間にある、バルト海域。


そこで、いくつもの戦艦、魔獣に乗った騎士、両軍ともに開戦の合図を待ち、一線で見合っている。


合図さえ上がれば、戦争が始まり、ここにいる多くの人が命を落とし、海へと沈んでいくだろう。


そして、その陰でほくそえんでいる奴らの計画が進んでしまう。


未だ、尻尾さえつかめない、いったい奴らが何を企んでいるのか、何処まで進行しているのか。


間違いないことは戦争止められるとまずいということだ。


「準備はいいか、キュロ?」


「ん」


飛翔の魔法を使うことができないキュロには、『デュナミス』から魔獣を借りている。


圧倒的な力を魅せつけることが目的とする今回の戦闘で、自力で空を飛べないというのは見栄えしないが、キュロはあくまで補佐だ。


それに、戦場まで行ってしまえば、空軍が乗っている魔獣に跳び移りながら戦うだけの身体能力は秘めている。


「そろそろ、開戦だ、行くぞ!」


両軍の間に目立つように飛翔し、両軍を見据え、いかにも派手に印象づけることができるだろう魔法、以前、ユグ山で屠ったイグニスが好んで使っていた魔法『イグニッションプレス』。


山の凹凸をも変えかねない、隕石を落とす魔法。


それを、両軍に落とそうとしたが、それは失敗に終わった。


正確には、2つの巨大な隕石は跡形もなく分解された。


「───何者だ?」


「僕はセツナ、『光の勇者』だ。

君を連れてくるように言われているんだ、大人しく来てもらおうか」


『光の勇者』? お伽噺に出てくるあれのことか?


内容としてはありきたり、世界が魔王に支配されようとしたとき、異世界から光の勇者が現れ、世界に救いをもたらす。


だが、この世界に魔王なんてふざけた存在はいない。


だが、あの魔法を分解したあの力は『トマラクス』


「勇者なら勇者らしく、戦争止めるように両国に頼みに言ったらどうだ?

お前のような電波野郎に付き合っている暇はない」


「この戦争を止めるなんて、そんな馬鹿げたことはしないさ。

この戦争は世界に救いをもたらすための聖戦だ」


恍惚とした表情で語る姿は見方によってはたいそう色がありそうだが、シオンが見るとただの電波野郎だった。


「戯言はそこまだ、邪魔をするなら排除するぞ」


「君では僕に勝てないよ、君が『終の魔女』に届かないのならなおのことね」


「師匠に勝ったような口ぶりだな?」


「ああ、『終の魔女』は僕が殺した、流石に手強かったけどね」


「寝言は寝て言え!」


宙に浮いているセツナの全方向を囲む、雷刃を一斉に殺到させる。


「成程、攻撃のパターンが『終の魔女』と同じだ。

やっぱり、師弟ということかな」


シオンの目にギリギリ留まるような神速で刀を振るい、全て捌き、シオンへと肉薄していく。


───速い!


横薙ぎに振るわれた刀を上に飛び、回避する。


音を置き去りにした斬撃は、鞘にしまわれた後、後方で爆音を放つ。


閃状に居たら、余波に巻き込まれる。


明らかにキュロ以上の力と速度、これほどの力を持った手駒はいなかったはずだが……


「考え事をしている暇なんてあるのかい?」


「三下如きに心配されるとは俺も落ちたものだな」


軽口を叩いてはいるが、戦闘能力は明らかにセツナが上回っている。


それに加えて、『トマラクス』まで所持しているんだ、状況はこっちが不利。


そして、戦闘を行っている間にも開戦の合図は鳴り響き、戦争は始まってしまう。


砲撃を放ち被弾した戦艦が爆音を立て、沈んでいき、空では流れ弾に被弾し、槍に貫かれた騎士が海へと突き落とされていく。


だが、いまはそれが好都合!


「一つ聞いておく、お前が倒したと言っている『終の魔女』ってのはどんな容姿だった?」


「人形のように可愛らしい、白い髪と黒い目を持った女の子だったよ。

これで、僕の言った事が正しいと分かってくれたかい?」


「ああ、お前のような馬鹿が師匠を倒せるはずがないってことがな!」















シオンとセツナが戦闘を繰り広げている中、あの中に割り込むことはできないと悟ると、すぐに戦場へと赴き、目的を果たそうとしていた。


船へと乗り移り、両断して沈めようと剣を振り上げた時、光り輝く剣がキュロへと迫る。


咄嗟に剣を受け止めるために構えるが


────ゾクリ


直感で受けるのはまずいと感じ、大剣を投げ、その場から逃避を図る。


そして投げられた大剣はいとも容易く焼切られていた。


「セツナの邪魔はさせん」


剣を両手で構えた鎧を纏っている女性、セツナというのはシオンと闘っていたあの男。


「あら、私たちの事も見てくださらない」


言うと同時に矢が放たれるが、キュロとて人外の身体能力の持ち主であり、矢を避けるなど簡単な事だった。


だが、その矢はまるで生きたように、キュロへと方向を変え、キュロを貫かんと迫る。


再び大剣を作りだし、受け止めようとするが、細い矢からは考えられない衝撃が伝わり、小柄なキュロは吹き飛ばされてしまう。


キュロもやられるだけではなく、もう片方の腕で、大剣を投げつけるが、後方にいたもう1人が作り出した強力な防御壁に阻まれる。


「させません!」


気を張った声で、杖を振りかざしていた。


3対1、いくらでも作り出すことができるとはいえ、大剣を焼切る防御不可の剣戟を放ってくる騎士、必中の弓を使い、矢とは思えない衝撃を与えてくるアーチャー、本気とは言えずとも渾身の力で投げた大剣を防いでしまう魔法使い。


それでも、キュロの眼には諦めの色はない。


命を救ってくれたシオンとエルナ、2人に報いるためにも生きて帰らなければならない。


特に先日、ようやく落としたばかりの恋人を早々独り身にさせるわけにはいかない。


なにより、不本意ながらも人外の力を与えられ、この体は戦闘に特化している。


それは何も、身体能力に限った話ではない、瞬時に仮想戦闘を脳内で展開。


今の、一連の流れを細かく分析し、弱点を見出す。


高速で戦闘論理を組み上げる頭脳、この点においてはシオンすら凌駕する。


そして、一点、先ほどの行動で感じた疑惑から勝ちを拾い取る論理を組み上げた。


「『キュクロープス』制限解除」


六つの剣が宙に浮き、その中の一本を手に取る。


これ以上、剣を作り出す必要はない、全魔力を身体強化へと注ぎ、最速の一歩を踏み出した。

















「大口をたたいた割には逃げるばかりかい?」


「罠にかかったことすら気づかないとは、そんな間抜けが師匠を殺せるはずがないな」


戦場から離れていたところでぶつかり合っていたシオンとセツナは、いまや戦場のど真ん中で戦いを繰り広げていた。


「人ごみに紛れたところで、僕が狙いを外すと思っているものか」


「はっ、俺の目的はお前を倒すことじゃないんだよ。

お前のような間抜けがいてくれるおかげで、俺は何もせずとも目的を果たすことできる」


セツナの攻撃は確かに強力だ、俺が本気で防御に専念しなければ受けることも難しい。


だが、俺の目的はセツナを倒すことではなく、戦争を止める事。


はずした攻撃は幾重もの犠牲を生み、両軍にダメージを与えていく。


俺がもともとやるはずだったことを、勝手にやってくれる。


「────っく!?」


そして、これも予想通り、真実を叩きつけられた瞬間に攻撃の手がやむ。


そこで、わざと一泊遅らせ、肉薄する。


「血迷ったのかい!?

この距離で僕の斬撃が防げるとでも!?」


「お前の目的は俺を連れて行くことだろ?」


俺は唇を吊り上げ、セツナは愕然とし、咄嗟に攻撃を逸らす。


こいつは俺を殺すわけにはいかない、あのタイミングでは迎撃することはできても手加減することは難しい、故に無理にでも攻撃を逸らすしかない。


その結果、大きな隙ができたとしても


「こいつは返してもらうぞ、ついでに一発貰っとけ!」


『トマラクス』を奪い、手加減無用の拳を顔面に叩きつけ海へと叩き落とす。


「さて、終戦の鐘だ、轟け雷、鳴り響け轟雷、『雷神の鉄槌トールハンマー』」


これだけ、被害が出ている今、これ以上被害を増加させる必要もない。


それでも、演出は大事だ、極大の雷柱は海を割り、戦争中断させ、こちらに注目集めるには十分すぎる爆音を鳴らした。


「これ以上戦争を続けるようなら200年前の悲劇が再来することになるぞ!

俺の名はシオン! 『終の魔女』の意思を継ぐものだ!」
















大きく踏み込んだ先には、大剣を焼切る光の剣を構え、同じく踏込み、迎撃しようとする騎士。


剣を合わせようと、大剣ごと焼切られてしまうことは目に見えている。


剣が交差する瞬間、キュロは剣から手を離し、小柄な体を駆使し、騎士を抜け後方にいる2人へと駆ける。


予想通り、弓を構え必中の矢を放とうしているアーチャーに今度こそ本気で大剣を投げつける。


これまた予想通りに、壁に阻まれ宙を舞うが大剣と壁の衝突により大きな音を立て、アーチャーは驚き、目を見張る。


その一瞬で、あと一歩で踏み込める位置まで辿り着いた。


ここにきてキュロが感じていた疑惑は確信に変わる。


疑惑、それは、キュロが無茶な姿勢で投げた大剣を本気で防いできた事。


この3人は動きも悪くなければ、強力な武器も使いこなしているよう見える。


それは熟練の戦士だからこそできる芸当、それなのに、無意味に力を使った。


それから導き出された答え、あれはあの武器に使われているんのではないかということ。


洗礼された動きはできるが、キュロのように人外の動きを見せる相手との戦闘を知らない。


強力な武器、洗礼された技術、だがそれに見合う心構えがない、故に、力加減を誤り、先ほども防いだというのに動きが止まってしまう。


背後にある残り4本の大剣の内2本を手に取り、最大の力を持って壁に守られているアーチャーへと振り下ろす。


「────っん!」


すさまじい音を立てるが、それでも壁は破れない。


ほっと、安息の息を付き、今度こそキュロを射抜かんと弓を構える。


そして後ろからは、追いついた騎士がキュロを焼切らんと剣を振り下ろす。


放たれた弓は壁を貫通し、キュロへと迫る。


それを待っていたと言わんばかりに、大剣で受け、その衝撃を持って加速し、騎士へと突撃する。


剣は危険を予知し、騎士に迎撃を促す、衝撃を利用し、弾丸の如き速度のキュロへと反応するが


「───っ何処だ!?」


4本の大剣はキュロの姿を完全に隠し、騎士に躊躇いを与え、交差する。


迷いを振り切り、横へと並んだ大剣を横薙ぎに焼切る。


そして、視界が晴れたそこには投げられ宙を舞った大剣を掴みとり、甲板に突き刺し動きを止めていたキュロ。


4本の大剣を焼切る為に大振りになった騎士は隙だらけ、その隙を逃さず苦労させられた剣を奪い取り、ついで蹴り飛ばす、1人目を撃退。


振り返ると同時に大剣を投げ、矢に当て、次の矢をつがえている最中に壁ごと弓を焼切る。


最早、倒す必要もないと、次の標的へと目を向け、剣が促すまま流れるような動作で杖を焼切り、2人目、3人目を同時に撃退し、ここに勝敗は決した。



( ー`дー´)キリッ・・・┐( ̄ヘ ̄)┌ ヤレヤレ・・・

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