終の終わり
「───くすん」
デジャヴだ、思い出したくない記憶が掘り起こされたわ。
思い出さなくても、ちょっと前にまた黒歴史が上書きされたところだけど。
「~~~~~♪」
鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌だ。
そりゃ、そうでしょうよ、思う存分、私を堪能してくれやがったのだから。
うずくまる私の胸の中にすっぽりと収まるキュロの小さな体。
お互いに一糸まとわぬ、素っ裸だけど、汗やらあれやらでべたべたしてる。
それだけ今回は凄かった、いや、酷かったというべきか、取り返しがつかなくなってしまったというか……
これまでの経験から、やられるがままで、私は耐えるなんて無駄な事を早々に諦め、身を焦がす快楽に身を任せていればいいと思っていた。
だけど、今回は違った、そう違ったのよ……!
今回は何かと言わされた、焦らして、責めて、焦らして、責めて、私の心を徹底的にへし折って望む言葉を引き摺り出され、いろいろと約束させられ、素面では絶対に口に出すことを憚れる言葉を大声で叫ばされた。
「エルナ」
「~~~~っ」
終いにはこれよ、私はキュロの……その……恋人というか……彼女……にされてしまったというか……
だって、仕方ないじゃない! この子上手なのよぉぉぉおおおお!
いろいろ言わされて半分くらい折れ掛かったところで、焦らされて焦らされて、無理矢理了承させられて、そして純潔を……捧げてしまった……
その時には、もう抵抗なんてできるはずもなく、恋人同士のような甘いエッチを繰り広げ、見事に落とされてしてまいましたとさ……
そして、いまでは名前を呼ばれだけでときめいてしまう始末。
完全に終わったわ……
「エルナ」
いつも無表情なキュロが魅せた満面の笑みに体中の血が沸騰したような熱が体を支配する。
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
どうするの、どうするのよ、私、こんな小さな子を本気で好きになっちゃうなんてどうかしてるわよ!
そう思ってるのに
「エルナ」
私の乙女脳はただ名前を呼ばれただけだというのにフル回転で、あらぬ想像を頭に思い浮かべてしまい、心臓が高鳴り、顔は赤面、体は愛しき恋人から与えられる蕩けるような快楽を求め疼き始めてしまう。
そんな私の心情を機敏に感じ取ったのか、唇を重ね、ゆっくりと押し倒され、太陽が高く上った中、私は再び甘い悦楽に浸され、抜け出せない泥沼に沈みこんでいったのでした……
『開戦は明日正午、サンスクリットが攻め込み、テーヴァはそれを向かい討つようです。
それぞれ戦力は互角と言っていいでしょう、長引けば長引くほど戦況は泥沼、民への徴兵や税の引き上げ、暴動が起き、世界があれるのも時間の問題です』
「そうさせないためにも、明日は必ず成功させる。
奴らも、俺を相手にできるような手駒はそうそういないはずだ。
いたとしても、今度はそれが抑止力となって戦争を中断せざるを得ない」
『ええ、こちらも、噂を広める準備は万端です。
君が『終の魔女』の名をだし、一時戦争を中断させたとあらば、それを理由にして穏健派を嗾け、一気に終戦へと持ち込みます』
その理由が正当化されるためには、戦っても損害しか出ないことを印象づける必要がある。
その為には、大規模な攻撃を行う必要があるが、それだけでは駄目だ。
その攻撃で犠牲者を出す必要がある。
今更背負う十字架が増えたところで立ち止まるような人生はしてないが、恨むなら存分に恨め。
その憎しみは俺が全て背負う。
『君にはつらい役目をさせてしまうことになる。
謝ることさえできない私を赦してくれとは言わない、どんな叱責も怨嗟も受け入れよう』
「俺は俺の為だけにあんたたちを利用しているだけだ。
同情しているつもりなら、あんたたちはあんたたちの役割を果たせ」
『了解した、作戦が成功した暁には君に教えておきたいことがある』
「期待できる話でいいんだな?」
『ああ、しかし、エルナとあの小さな子供はどうしたんだい?』
「───あいつら、まだやってるのか……
あんたが気にする必要はないが、あの馬鹿女はしばらく貸してもらうぞ」
『構わないよ、存分に使ってあげてくれ。
但し、出来るだけ、生きたまま返してあげてくれ』
「無用な心配だな」
ここまで長引いているということは、まさか、本当に……?
それは、それで喜ぶべきなんだろうが……
「─────っは」
夢……?
そ、そうよね、夢に決まってるわよね。
いくらなんでも、あんな小さい子の彼女にされて喜んでいるなんて夢に決まってるわよね!
ああ、でも、そんなことを夢に見るなんて、一生ものの大恥だわ。
もっと、心を強く持たないと……
隣で健やかな寝息を立てているキュロに毛布を掛けてあげる。
「─────え゛」
その時見えてしまった、シーツに染みている赤い斑点……
明らかに血の跡だった……
「あ、あはははははは……、夢じゃなかったのね……」
まって、まって、待ちなさい私、本気なの?
あんな小さな子に好きなように弄ばれるなんて、せめて立場が逆なら……、いやそれはそれで危ない人だけど……
────はっ、そうよ、私はあくまでもその場しのぎで頷いてしまっただけで、まだ、心までは屈していないはずよ!
そうじゃなきゃ、夢だなんて思うはずいわよね!
うん、間違いないわ!
でも、それも時間の問題かもしれない、一度は屈しているわけだし、ここは一刻も早く彼氏を作らないとまずいわね……
この際、理想から少しハードルを下げてもいい、とにかく、男の彼氏を見つけないと。
「なんだ、寝てただけか、まだやっているようならいい加減止めようか思っていたんだが」
「と、当然じゃない、発情したネコでもそんなに長くないわよ」
言えない、実は一回起きた後、すぐに始めちゃっただなんて。
「そろそろ、キュロ起こしておいてくれ。
開戦は明日、時間は待ってくれないからな」
──明日か……、もし、失敗したら、もう、こんなことで悩んでられないのよね。
「シオン、頑張りなさいよ」
「当然だ」
つい先日、散々な目にあったから落ち込んでいるかと思ったけどいつも通りみたいね。
いつも通り、頼りになる背中、でも、まったく好きになれそうにないのよね……
シオンとキュロ、どちらかを選べと言われたら僅差でキュロに軍配が上がるわ。
『終の魔女』とか関係ないわよ?
なんていうか、シオンは戦友って感じ、一緒に戦ってるわけじゃないけどね。
よし、私もシオンの足を引っ張らないように頑張なくちゃ!
「あはは……、参ったなぁ……」
白い髪が所々赤く染まり、自ら引き裂いた服はさらにぼろぼろに、そして、腕を繋いでいた鎖は千切れていた。
対するは、黒い髪に黒い瞳、中性的で女性と間違われるような美しい青年。
「そろそろ終わりにしよう」
戦闘の影響で、魔の森と呼ばれていた『アインナッシュ』は消え去り、一面荒野と化していた。
だが、その中で、その青年は光輝く刀を鞘に納めたまま、無傷でそこに立っている。
「そうだね、そろそろ終わりにしようか。
あなたが死ぬことでね!」
最強の魔女である『終の魔女』の名に違わぬ、一発が城を崩壊させるには十分の極大の魔弾を数えるのも億劫に成程、作りだし青年へと殺到させる。
その一国すら消し炭にしかねない魔弾の嵐を一閃
目に止まらぬ速度の居合抜きは、魔弾を切り裂き、その斬撃は『終の魔女』へと届く。
「───あ……し…おん……」
人形のように美しい少女は倒れ、2度と起き上がってくることはなかった。
「これで、また一歩、理からの解放に近づいたんだな」
『ええ、ご苦労様です、終わった直後で悪いですが次はバルト海域。
そこで、貴方が倒した『終の魔女』の弟子であるシオンと闘ってください』
「分かった」
『よろしくお願いしますよ、『光の勇者』。
貴方が世界の王になり、美しき世界を取り戻すのです』
「ああ、それまで頼んだぞシュバルト」
バタリ (o_ _)o ~~~ †




