虚構の真実
『無理よ、うちにも内通者はいるけど、あれだけ燃え広がったら手の打ちようがないわ。
穏健派だった人も、陛下が暗殺されたとあれば流石に意見を出しづらいみたい』
動きが速い、このまま時間が過ぎればすぐにでも戦争が始まる。
奴らの狙いが何であれ、戦争はまずい。
戦力の大半を戦わせるんだ、取り戻した『スラント』と『トマラクス』が奪われやすくなる。
そこまで状況が進んでしまえば俺一人が何をやろうと無駄だ。
『こうなったら、戦場に介入して少しでも犠牲者を減らすしか……』
「いや、まだ手はある、確認しておくが陛下は穏健派だったんだよな?」
『ええ、だから、過激派から命を狙われる理由はそれで十分にあるけど、それだけで、あんたたちがやってないって証明するなんて無理よ』
「そんなことは分かってる、もう1つ、穏健派の代表的存在は誰だ?」
『ええっと……、マクウェル氏ね。
穏健派を引っ張っている方で、陛下とも親しかったみたいよ』
「そいつの部屋は分かるか?」
『分かるけど、あんたたち軟禁されてるんでしょ?
どうやって動くつもりよ?』
「俺も転移くらい使える。
誰にも気づかれず、辿り着くことは難しい事じゃない」
『絶対に下手を打たないでよ』
「待ってたぞ、マクウェル氏で間違いないな?」
「君たちは軟禁されているはずだ。
これ以上、過激派を刺激することは止めてくれないか」
「その点については問題ない、俺はまだ部屋にいると部屋の前にいる見張りが証言してくれる」
「では、何の用だ、君たちが余計な事をしてくれたおかげで忙しいんだ」
「俺たちはやっていない、そんなことはあんただって分かってるだろ?」
「だが、それをどうやって証明する?
例え、君が嘘をついていないとしても、多くの重役たちは君たちの仕業と思い込んでいる。
今更、何をやろうと無駄だ」
「いや、諦めるにはまだ早い、あんたが俺についてくれるというなら俺たちの無罪を証明できる」
「それを信じろと?」
「信じる信じないはあんたの勝手だが、あんたが乗らないというなら、あんたを殺す。
俺はそっちでも構わないんだ」
「私を殺すことで、過激派の犯行を印象付けるということか」
「ああ、そして俺たちは部屋に軟禁されていて、犯行は不可能だ。
あれだけ、大々的に軟禁を公表したんだ、隠ぺいは難しいし、穏健派の代表2人が殺されていて、まだ俺たちに疑いを掛けられるか?」
尤も、誰も目撃されていないという理由だけで、犯人に仕立て上げられたんだから、効果はいまいちだがな。
「────この命一つで戦争が止められるというなら、くれてやると言いたいが、まだ、私にはやるべきことがある。
陛下の遺志を継ぐためにも、私はここで死ぬわけにはいかない」
「交渉成立だな」
「私は何をやればいい?」
「俺たちに発言の場を与えてくれ、建前は処罰を言い渡す為とか適当でな。
後は、ここぞというタイミングで俺たちについてくれればそれでいい」
「いいだろう、だが、これで失敗したら後はないぞ」
「任せろ、必ず戦争は阻止してみせる」
「処罰を言い渡す、我々『テーヴァ』は陛下暗殺を公表し、姫君の処刑し、『サンスクリット』に宣戦布告を言い渡す」
世界を揺るがしかねない事態だけに、謁見の間には重役が勢ぞろい。
尤も、その椅子には誰にも座っていない。
「穏健派だって陛下が草葉の陰で泣いてるわよ」
「陛下も仲を取り持とうとしていた王国から裏切られたのだ。
我等は陛下の無念を果たす為、王国を打倒する」
「どうやら、説得は無駄のようね」
「貴様らが行って所業がそれ程残忍だったということだ」
「私たちの所業ね……、あなた達は本当にそう思っているのかしら?」
「今更言い逃れとは、王族としての誇りも失ったか」
「面白い事を言うわね、王族としての誇り?
そんなもの、最初から持っていた覚えはないわ。
私は私を貶めようとする輩を許さないだけよ」
処刑を宣告されても、微塵の揺らぎもない。
王国の為でなく、己の為だけに戦争を否定した女。
「連れていけ」
「話を聞いてからでも遅くはないんじゃないか?」
連れて行こうとした兵士を壁際まで吹き飛ばす。
何事も演出は大事だ、とくに、これから話す内容に拍車をかける為にもこれくらいのインパクトは必要だ。
「黙って聞きなさい、貴方たちが手を出さなければ私も手を出さないわ。
ただ、私たちは無実を証明したいだけよ」
返答はない、下手に反論してしまえばどうなるか分からせる為に、態々派手に散ってもらったのだから。
今頃、応援が駆け付けているだろうが、この部屋には侵入妨害の手を打っている。
これで、舞台は完成した。
「まず、陛下は穏健派だったということは誰もが知っているわよね。
それが故に、陛下は過激派から命を狙われていたことも」
「それが言いたい事か?
確かにその事実は認めよう、だが、陛下は背中から刺されていたんだ。
過激派の者が陛下を訪れたとき背を向けるはずがない」
「御尤もな意見ね、私もこれで説き伏せられると思っていないわ。
では、2つ目、果たして本当に陛下は殺されていたのかしら?」
「なにを、ふざけた戯言を!」
「ふざけてなんかいないわ、私たちは陛下の遺体を見ていない。
帝国が戦争を行う口実を作る為に、全員で私たちを嵌めたという可能性をどうやって否定してくれるのかしら?」
「そんなもの陛下のご遺体を見れば……」
「私たちは陛下の顔を知らないわ、棺に入っている遺体が偽物だとしたら、やはり、私たちは嵌められていたことになるわね」
そう、俺たちの無罪を証明するために真犯人を見つけ出す必要はない。
こじつけでもなんでも、可能性さえ提示してしまえば、それを否定するしかない。
そして、否定できなければ、それを否定するために再調査が行われ、そして、そこで真犯人を炙り出せばいい。
「これは代々陛下となるお方がお付けになる指輪でございます。
それがここにある、それでは陛下が亡くなった証明にはなりませぬか?」
「権力の証を外すとは考えづらいわね、いいわ、認めましょう」
安堵の息を漏らす一同、だが、これまでの回答は全て前準備。
1つ目は、過激派を挑発し舞台に引っ張り上げる。
2つ目で、ここにいる全員を犯人に仕立て上げることで、穏健派も引っ張り上げた。
そして、最後の3つ目、ここまで来て、勢いを保てるか?
「これが最後よ、3つめ、果たして本当に陛下は殺されていたのかしら?」
「それは先ほど、姫君も納得したばかりだろう!」
「落ち着きなさい、だから、意味を取り間違えるのよ。
私が言いたいのは陛下は殺されたわけではなく、自殺だったのではないかということよ」
「い、いい加減にしろ!
陛下は背中から刺されていたんだぞ!
さらに、陛下が自殺する理由なんてどこにもない!」
「本当かしら? 子供でも使える浮遊の魔法と鏡さえあれば背中を自分で刺すことだって可能だわ。
それに、それができなかったとしても、誰かに頼んで刺してもらえばいい事よね。
そして、陛下に自殺の動機がない?
いいえ、陛下には立派な理由があるわ」
全員が固唾を、次の言葉へと耳を傾ける。
そして、全ての前提を覆す、虚構の真実を口にする。
「戦争を起こす為、その為に陛下は自ら死を選んだのよ」
「へ、陛下は穏健派なんだぞ……!」
「陛下が本当に穏健派だということを証明できるかしら?
実は過激派で、穏健派を内から懐柔しようとしていたと考えられないかしら?
そして、それが中々うまくいかない、そこで、親善大使を犯人に仕立て上げ、戦争を起こしてしまおうと考えた」
場は完全に沈黙した、どれだけ突拍子がないこととはいえ辻褄はあってしまう。
そして、それは疑念を生み、二の足を踏ませる。
「そう考えれば、陛下が無抵抗で背中を刺されていたことも辻褄は合うわね。
元から、死ぬつもりなのだから抵抗なんてするはずがないわ」
「だ、だが、陛下がそこまでして戦争を起こそうとする理由が……」
「動機なんていくらでも考えられるわ。
つい、200年前まで戦争を続けていて、それも中途半端な形で終戦。
今でも、その禍根は残ったまま、帝国として王国を恨んでいたかもしれない、それとも、個人的な理由で恨んでいた可能性だってあるわ。
それこそ、私たちが誰にも姿を見られずに、陛下を暗殺できた可能性よりは高いと思うわよ」
先程から反論をしていた者も完全に意気消沈した。
なにせ、否定する材料がない、ここで無理矢理に俺たちの犯行と決めつけるのは、事実を隠蔽しているようにしか見えない。
「私は陛下は王国との仲を取り持とうとしていたことを信じている」
そしてここで、マクウェル氏の出番だ。
ここからは茶番同前だけどな。
「信じているからと言って現実がその通りになるとは限らないわよ」
「分かっている、だからこそ、再調査を行い、此度の件の真実を暴こうと思う」
「そう、だったら、王国の調査団も派遣した方がいいかしら?
何事も客観的な視点は大事よ、だから私たちが犯人だなんて間違いを主張してしまうのだから。
でも、間違いは誰にもあることよね、早く真犯人を私の前に跪かせるのなら許してあげるわ」
「寛大な処置に感謝する」
王国の調査まで入れば、今度こそ逃げ道はない。
今度こそ、逃がしはしないぞ。
(;・∀・) ナン! (; ∀・)・ デス!! (; ∀ )・・ トー!!!




