再会
「貴方って本当に底ぬけのお人好しね」
そんなこと自分でもわかってる……
最初の客の時点で断ればそれでよかったはずなんだが……、だが、あの魔女の元で何年も暮らしていたんだ、その結末は反面教師として、人助けをしてしまうか、あの魔女と同じく、狂ってしまうかどちらかだ。
俺は言わずもがな反面教師として、見てきたわけだが、やりすぎるところは、どうにかしないといけないな。
「やはり、貴方は私に仕えるべきね。
私なら、貴方を上手く操作できる、私は便利な執事ができる、利害は一致してるわね」
「メリットとデメリットが釣り合ってないな」
「そうかしら? 私のものになるというなら、私は抱かれてあげてもいいと言っているのよ。
貴方が望むなら、踏んであげてもいいわ」
相変わらずの、女王様体質だこと、将来、本当の女王になりそうだから恐ろしい。
被虐嗜好の奴は、堪らないんだろう。
「一生台無しにする選択をするほど、俺は女に飢えてないんだ、他を当たってくれ」
「ロリコンのあなたには魅力的な提案じゃなかったわね。
条件を変えるわ、あなた好みの幼い少女を紹介してあげる」
「あんたも、しつこいな、どんな条件を提示されようと、俺はあんたに仕える気はない」
ダラスからテーヴァまで丸一日、またこいつの相手をするのかと思うと気がめいる。
かといって、キュロを差し出しせば、その日にでも腕や足の一本は飛んでいるだろう。
だれか、代わりにこいつの相手をしてくれる奴はいないのか……
「ん」
シオンの袖をくいくいと引っ張り、指をさす。
その先には
「──げ……」
自称美少女こと、馬鹿女、エルナ・ファミルネがいた。
船はテーヴァに向け無事に出発し、天候も良く、乗客は何処までも続く海原を眺めるため甲板に出たり、食堂で食事を取ったりしている中、シオン達一行の部屋ではエルナが正座で、シオンに詰問されていた。
「あいつも人を見る目がないな」
「あははは……、ところで、いつになったら私は解放されるのよ!?
っていうか、なんで、私捕まってるの!?」
「黙る」
「───はい」
シオンが親善大使の同行者という情報をうけ、シオンの動向を知っておきたい『デュナミス』は、私を指名した。
理由はシオンの知己であり、最悪、殺されることはないだろうと言う理由……
まぁ、確かに、シオンは口は悪いし性格は根っから歪んでるし、女子にも容赦なく暴力を振るうけど、敵意を向けなければ殺されることはない……はず。
それより、私この子に何かした?
初対面の時からなんだか、遠慮というものが一切感じられない。
そして、さらになぜか、後ろから抱きつかれている。
これが何の害もない子供ならじゃれついてるだけで、ほほえましい気分になれるんだけど、あいにく、一度は殺されたかけた身、正直、首に回された腕に絞め殺されそうで気が気じゃない。
──もう一つ、綺麗な金髪を靡かせ、釣り目で気が強そうな綺麗な女の人。
この人が、親善大使であるライラ・サンスクリットなんだろうけど、すっごい睨まれてる。
それはもう、視線だけで穴が開きそうなほどに。
あれ、私何かしましたか……?
「大方、俺を見張る為に派遣されたんだろう?
俺はお前以外で『デュナミス』に知っている顔はいないからな。
少なくとも、初対面の奴よりは友好的に進められてるとでも踏んだんだろう」
さ、流石、まさか、会っただけでそこまで読めるなんて……
でも、だから、気になる。
私がここにいる理由を察したなら、シオンが私を近くに置くのはなぜ?
今のシオンが、私を守る理由なんてないわけで、シオンにとって『デュナミス』は疑惑の対象、むしろ、遠ざけるくらいが真っ当な気がするんだけど。
「ん」
私の方に頭を置き、目の前にお菓子を差し出した。
「くれるの?」
無表情すぎて、何を考えているのか全く分からないし、どんな感情をしているのか微塵も読めないけど、首を縦に振ったということは当っているみたい。
とりあえず、食べよう、シオンの手前、毒が入ってることはないでしょ。
「美味しい、これ何処で買ったの?」
「ん」
指をさした先には、シオン。
そういえば、シオンって料理上手だったのよね、納得の味だわ。
「シオン、ちょっと表に出なさい」
「───はぁ、キュロ、そいつのことを頼んだぞ」
「あれはどういうことかしら?」
まぁ、そうだよな、俺だって、キュロの懐き方には驚いた。
まさか、キュロが食べ物を他人に渡すことがあるとはな
「本人に直接聞け」
「キュロちゃんの言葉は端的すぎて、そこから背景を読み取ることなんて不可能よ。
そして、あの女は、いかにも頭が悪そうだわ。
キュロちゃんが懐いているなんて羨ましい状況だと言うのに、気が狂ってるのか怯えてる。
頭が悪いのね、なぜ、あんな非常識な状況になっているのか理解できてないわ」
確かにあいつは馬鹿だと言うことは認めるが、2回も言うとは、遠慮なしだな。
そして、驚きはしたが、あれは非常識と言う程ではないな、キュロがこの女に懐いている光景と比べると、十分にあり得る光景だ。
「早く答えなさい、勢い余って殺しちゃいそうだわ」
「俺にキュロの詳しい心情の変化なんて分からないが────────────ということがあったんだ」
「少なくとも、私には理解できない行動ね。
殺されかけた相手の為に泣くなんて」
「俺にも理解しがたいが、それがキュロに何かを思わせるところがあったんだろう」
「困ったわね……、シオン、あの女を殺しなさい」
「断る」
「あーん」
「ん」
私の膝の上にすっぽりと収まっているキュロ。
餌をねだる雛みたいに口を開けて待っているところが、年相応の子供っぽくてなんとも可愛らしい。
なぜ、こうなったのかというと、シオン達が出て行ったからもずっと、お菓子を貰い続けたわけだけど、子供から貰いつづけるというのもなんだか悪いと思ったのよ。
そこで、貰ったお菓子を、食べさせた上げたら、いつの間にかこうなったのよね。
どうやら、嫌われてはいないみたいで一安心。
「シオン、殺りなさい」
「あんたは、少し落ち着け」
シオン、あんたお姫様になんて言葉遣いを……
まさかとは思うけど、王に刃を向けたとかいう噂って本当じゃないわよね……
いや、シオンならそれくらいやりそうだけど……
「あなた、今すぐにキュロちゃんから離れなさい」
「は、はぁ……」
お姫様だから美人だからか睨まれるとすごい迫力がある。
それはもう、理不尽な事を言われても頷いてしまう程に。
まぁ、今回は理不尽という程じゃないけど、大人しく従っておこう。
「ん、ちゅ」
───────え?
「──れろ」
───────え?
「………ふっ…れろ、ちゅ……んぅ………はぁ……」
───────え?
「───ちゅ、御馳走様」
「キュロ、気持ちは分かるがあまり人前ではやるなよ」
「ん」
驚きのあまり呆然とするライラ、手のかかる妹にやっと彼氏ができ、祝福するような優しい声で常識を教えるシオン、これは自分の物だと言わんばかりに、胸に顔をうずめ擦り付けるキュロ。
そして、幼女ともいえる幼い少女にファーストキスを奪われ、しかも舌を入れられ口内を味わい尽くすようなディープキスをお見舞いされ、魂が抜けた私。
「離しなさい! 私のキュロちゃんの唇をよくも!」
「諦めろ、キュロはあれにご執心なんだ。
嫉妬は見苦しいぞ」
一番早く、正気に戻ったお姫様がブチ切れ、私とキュロを引きはがそうとするが、妹想いのシオンがそれを阻む。
キュロは相変わらず、私の胸に顔をうずめ、べったり。
そして、正気に戻った私───────いやあああああああああああああああ!!?
なんで!? どうして!? 誰か説明しなさいよ!?
私にはイケメンで優しくてお金持ちな"男"がいいのよ!
私はノーマルなの! 例え、どんなに可愛くても綺麗でもお金持ちでも優しくても"女"は違うわよ!
それなのに……それなのに、どうして私はミトスといいキュロといい、美幼女にばかり求愛されるのよ!?
言っとくけど、私はキスさえ済ませてない純潔乙女だったのよ!
うぅ……それなのに、いきなりあんなキスを……ちょっと気持ちよかったけど……
逃げたいけど、私が振り払えるはずないし、むしろ、ここから出てしまったら、純潔さえ奪われてしまいそうだし……
誰か、私を助けなさいよ!!
(///∇//)