表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理の使役者  作者: ひさし
16/40

余暇

サンスクリットからダラスまでの航海を何事もなく終え、無事ダラスに到着。


とはいえ、襲撃があったとしてもそれは明日からだろうと予測されるため、特に思うこともない。


奴らが王国と帝国、それぞれの秘宝を欲しているのは間違いないが、それに加え、両国間の戦争を望んでいる節がある。


あの馬鹿女は当然のように王国が帝国を疑っていると言ったがこれはおかしい。


結局のところ、『スラント』を盗み出せる技量があれば、犯行は誰でも可能なんだ。


それが、帝国側の犯行だと言う根拠なんて欠片もない。


現在、冷戦状態とはいえ、疑いの矛先が帝国に集中するのはいくらなんでも早すぎる。


むしろ、冷戦状態だからこそ、そのあたりは慎重になるはずだ。


だが、実際には、王国は帝国を糾弾しそうになっている、これが示すのは、内部からの情報操作。


これほど、短期間でそれが可能ということは、宰相を含め、権力者の中に複数の協力者でもいるんだろう。


そして、明日には親善大使が帝国領に入る。


そこで、親善大使が殺されるようなことがあれば、両国間には埋めようのない亀裂が入る。


だが、逆にこいつが無事役割を果たしてしまえば、そう簡単に手出しはできなくなる。


奴らも万全の策を持ってくるだろうが、こっちとしても、奴らの尻尾を掴む最大のチャンス。


「シオン、喉が渇いたわ」


「だから、どうした」


「気が利かないわね、こういうものは私が言い出す前に用意しておくものよ」


「俺はあんたの執事になった覚えはない」


「その若さで痴呆とは将来が心配ね。

だけど、安心しなさい、痴呆だろうがロリコンの変態だろうが使えるようであれば使ってあげるわ」


「あんたが、この場の主賓じゃなければ殴り飛ばしたいくらいだ」


「それなら、この貴重な機会を無駄にしてはいけないわね」


問題はこれだ、狙わている身だと知っているんだから、黙っていればいいもののやけに俺に突っかかってくる。


奴らが何処で、どんなふうに仕掛けてくるか詰めておきたいというのに、このじゃじゃ馬の相手をしている所為で、まとまるものもまとまらない。


「ところで、ロリコンは否定しないのかしら?

キュロちゃん位の歳で、王位継承権を持っている子もいないわけじゃないわよ」


「俺が否定して、あんたは納得するか?」


「しないわね」


「無駄な努力は控えるべきだといったのはあんただったな」


「あら、嬉しい、覚えていたのね。

それは、私への服従の証かしら」


「あんたに皮肉は通じないみたいだな」


「これでも、私はあなたを評価しているのよ。

この私に、不遜な口を叩けるのはあなた位ですもの。

最初は媚び諂う輩も滑稽で面白いものだけど、いい加減飽きたわ」


こいつは幼少期から性格がねじ曲がっていたらしいな……


もしかすると、親からの遺伝かもしれないな。


そう考えると、猶更、こいつに仕えると言う選択肢はあり得ないな。


1人でも面倒だと言うのに、2、3人なんて冗談じゃない。


「なんだかんだ言いながら、用意してくれるのはいいのだけれど、毎回、言い合いをするのは不毛ね」


「───まったくだな。

そう思うなら、俺に頼むな」


「私のお眼鏡に適う人なんて滅多にいないのよ、光栄に思いなさい」


「呪われて喜ぶ趣味を持つ奴なんてこの世にいるのか?」


「私でも傷つくことはあるのよ?」


「鬼の目にも涙とはよく言ったものだ」


「そこで謝罪や慰めの言葉が出てこないなんて、帽子をかぶっていたら思わず脱帽していたわ」


つまり、さほど驚きはないと言うことか。


そもそも、こいつがあの程度、傷つくとも思ってないがな。


「さて、そろそろ行きましょうか」


「あんたは狙われの身ということを理解してるか?」


「ええ、少なくともサンスクリット領で狙われることはない事位理解しているわ」


「気付いてたのか」


あの馬鹿女は馬鹿女で理解が遅く、説明が面倒だったが、適当にはぐらかして操作することもできたが、この女は逆の意味で面倒だな。


「当然ね、ここで私を殺して、いったい何の利益になるというの?

殺人を犯すくらいなら、それに見合うメリットがないと釣り合わないわ」


「あんたなら、無意味に殺人くらいやりそうだけどな」


「失礼ね、何の価値もない命なんて興味すらないわ。

私が殺す価値なんてないじゃない」


─────本当に面倒くさい奴だな。















「流石に、賑わってるわね。

人が多すぎて鬱陶しいわ、半分くらい死んでくれないかしら」


「あんた、さっき言ったことと矛盾してるぞ」


「矛盾なんてしてないわ、私が手を下さず、死んでくれないかと思っただけよ」


「少なくとも国を治める者のセリフじゃないな」


「その私が、もっとも王に近いのだからこの世界は間違っているわよね」


「そう、思うのなら、態度を改めることだな」


「それは無理な相談ね、そもそも、王が民に気を使うこと自体間違ってるのよ。

王は誰にも理解されない孤高の存在、王は自らを疑わず、他人の意見如きに己を曲げることがあってはいけないのよ。

そんな事すらできない、軟弱な王は死ぬべきだわ」


───これが、王のあるべき姿なのかもしれないな。


とはいえ、こんな暴君が王になった暁にはどうなるか分かったもんじゃない。


その在り方には共感できるものがあるが、こいつが王になるべきではないことは確かだ。


「御尤もな意見だが、あんたが王に向いていないのは確かだな」


「それは真理ね」


いくら、孤高の存在だろうが、民あっての王だ。


他人を一切顧みない、こいつが王になっていいはずがない。


「───案外、貴方のような人が王になるべきなのかもしれないわね」


「何か言ったか?」


「いえ、何でもないわ、それより、キュロちゃんは何処かしら?」


船で我慢させていた分、街に出て、好きに食べていいと、先に散策させている。


結構な金額を持たせたから、先に金が尽きるはずはないが、キュロの食欲を鑑みると不安がないわけではない。


「───いたわ、けど、何をやっているのかしら?」










一件の店を囲むように、出来ている人だかり。


その輪の中心にあるテーブルで、身長が2mを超えるような大男と、明らかに成人すらしていない小柄な少女が手を組み、力をせめぎ合う異様な光景。


大男の方は顔を真っ赤にし、渾身の力を込めているというのに、少女の方は涼しい顔をして、大男の体ごと、テーブルに叩きつけ、歓声が沸きあがる


「いやぁ、強いね嬢ちゃん!」


「ん」


「さぁさぁ、誰か腕っぷしに自信がる男はいないか!

この嬢ちゃんに勝てたら、うちの店で食い放題だよ!」


この気配は確かにキュロだが、よくこんな人だかりの中を見つけられたな……


「お前は何をやってるんだ」


「ご飯くれるって」


「お、嬢ちゃんの兄さんかい?

嬢ちゃんをここで働かせ見ないか、給料は弾むよ」


「悪いが、明日にはここを発つんだ」


「そうかい、残念だ。

それじゃ、ここで食っていかないかい?

あの嬢ちゃんには随分もうけさせてもらったからサービスするよ」


「だそうだが?」


俺は別にかまわないが、舌が肥えているこいつが、満足してくれるかが問題だ。


キュロは……あのまま放っておいてもいいか。


勝てば、食べ物が貰えるんだ、好きにやらせておこう。


「そうね、安っぽい素材だけど、あなたが調理するのなら我慢してあげるわ」


「こいつは箱入りだから世間のことを分かっていないんだ。

口が悪いのは我慢してくれ」


「あ、ああ……」


「調理場と食材は使わせてもらうぞ」













「なかなかね」


「こりゃ、たまげた、兄さん、どこかで勤めてるのかい?」


「そんなところだ」


「兄さんと嬢ちゃんがいてくれればうちも繁盛間違いなしだ、どうだい、住み込みで働ないかい」


「明日にはここを発つと言ったはずだが」


「そいつは、残念だ、うちあるものは適当に使っていいから今日くらいゆっくりしていいてくれ」


適当な……、よくこれで経営が成り立つものだ。


「美味しい!」


目をキラキラさせながら、テーブルに並べられている料理を片っ端から食い尽くしていく。


俺たちが来るまで、食べ続けたはずだというのに、こいつの胃は本当に底なしのようだな。


「まだまだ、作ってやるから、そんなに急いで食うな」


───聞いちゃいないな……


「あんたはもういいのか?」


「ええ、私は小食なの、後はお茶でも飲みながら、キュロちゃんを鑑賞しておくわ」


さて、俺も調理に戻るとするか。


「店員さーん、注文おねがーい」


フロアを見渡すが、店員らしきものはだれ一人いない。


おい、貸切じゃないのか


「あの子が食べてるものと同じのお願い」


あれは俺が作ったもので、もちろん、この店のメニューには載っていない。


仕込みそのものはキュロが食べるであろう量を考え、かなり多めに仕込んでいるから、料理そのものには問題ない。


だが、勝手に出していいものか……?


聞こうにも店主はおらず、厨房に1人いるくらいだ。


「ちょっと待っててくれ」








「あんた、店主がどこに行ったか知らないか?」


「え、わ、私ですか、て、店長なら、お昼を食べてくると言ったまま、帰ってきてませんけど……」


あの、おっさんは売上金を盗まれるといった危機感がないのか?


しかし、いよいよ、まずいな、俺は料理はできるが、食材の相場なんてものは全く知らない。


あの客には悪いが今日は帰ってもらうしか……


「あ、あの、何かお困りですか?」


「客が俺の料理を注文してきたんだが、いくら取れば良いのかわからないんだ」


「あ、それなら、私が決めましょうか?」


「──いいのか?」


「店長からは一任されてますので……」


それでいいのか……


「それじゃあ、頼んだ。

───あんた、料理できるか?」


「一応、厨房を任せられてますけど……」


「よし、それじゃあ、少し手伝ってくれ。

俺1人じゃ手が回らない」


「え、えぇぇぇぇええ!!」
















「おいおい、うちはいつからこんなに繁盛したんだ?」


「戻ってきたらさっさと仕事しろ。

あんたが適当なせいで、こっちは大忙しなんだ」


「注文追加」


如何せん、人手が足りなすぎる。


キュロも食べ終わり、手伝ってもらっても、まだ、手が足りない。


「やっぱり、キュロちゃんは白が似合うわね」


何処から取り出したのか、キュロにエプロンドレスを着せ、働くキュロを鑑賞し続けてるやつに手伝いなんてさせられるはずもない。


「店長、会計お願いします!」


「兄さん、やっぱり、うちで働かないか?」


「さっさと働け」





こうして、過去最大の売り上げを記録し、多くの給料をふんだくり1日が終わった。


余談だが、シオンが残したレシピを活用し、その店は毎日のように行列ができる程、繁盛したらしい……

~~且o(・・*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ