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理の使役者  作者: ひさし
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「ねぇ、その子、拘束とかしなくていいの?」


あの後、何とか話がまとまり、ようやく部屋へと戻ってきた私達。


でも、シオンはあの子を運んできただけで、特に何をするわけでもなく、寝かせている。


正直、起きた瞬間にまた暴れ出すんじゃないかという不安がというか、殺されかけたこともあって、同じ部屋に置かれている状況は結構怖いのよ。


「お前、やっぱり、師匠のところに行った方がいいんじゃないか?

師匠なら喜んで縛られてくれるぞ?」


「私はそんな異常な性癖持ってないわよ!」


っていうかそれはあんたでしょうが!


「そもそも、こいつを縛り付けても意味がない」


「そりゃ、並大抵の拘束じゃすぐに抜け出されるだろうけど、あんたなら魔法でなんとでもできるでしょ?」


「相変わらず、飾りじゃないかと疑ってしまうような頭だな。

そんな必要があるなら、最初からやっているに決まってるだろう?

もう、こいつに戦える力どころか、まともに歩くことさえできない」


最初の暴言はスルー、いちいち気にしてなんていられないしね。


「それ、どういうことよ?」


「こいつは俺に殺されるためにここに派遣されたんだろう。

そもそも、あんな回りくどい事をした割に、今回は単純すぎる。

なにより、師匠が裏に居てこの程度で俺を倒せるなんて思っていないはずだ」


「なによ……それ、まるで……」


使い捨ての道具みたいじゃない……


こんな、子供をそんな扱いするなんて、どこまで腐ってるのよ!


「どうにかできないの?」


「少なくとも俺には無理だな。

俺が使える魔法は攻撃系統に特化してる。

そもそも、こいつを助けてどうするつもりだ?

助けたところで、こいつは命令に従って再びお前を殺そうとするだけだ」


そう……よね……、シオンはそれが分かっていて、最初から殺してしまった方がこの子のためだって。


「この子どうするの?」


「この船を下りたら、人気のないところで殺す。

結界は張るが、流石に爆発は目立つだろうからな」


「───そう」


悔しいわね……、私はこんな子を救うために『デュナミス』に加入したっていうのに……


「娘、その童を助けたいか?」


「黙って、寝てろ」


あ、いままで、何もしゃべらなかったと思たら寝てたのね。


よく考えたら、精霊って存在してるだけでいいんだし、寝てる時間が多いのかしらね?


「って、どうにかできるの!?」


「それは娘、お主次第じゃな」


「止めとけ、聞いたところで答えは決まっている、

悩むだけ無駄だ」


「お主には聞いておらぬ。

さて、どうするか、娘よ」


「───聞かせて」


「よかろう、童の体は酷使しすぎてもう満足に動くこともできまい。

じゃが、妾が童の体に宿り、無理矢理に体を再生させるのじゃ」


「そんなこと……できるの?」


「お前だって知ってはずだ、人には生まれたときから魔力の波長が決まっている。

それ以外の魔力を与えたら、神経に異常をきたし、何らかの障害を残す、最悪死ぬ」


魔導師じゃなくても、誰もが知っている常識。


だから、魔導師になれるのは生まれついた才能が大きく作用する。


それも、人ですらない精霊を宿らせるなんて、死んでしまうに決まってる。


「確かに、普通ならば死は免れまい。

じゃが、娘よ、お主には『スラント』があろう?」


「そりゃ、これを王都に還すために旅してるわけだし、あるけど、私はこれの使い方どころか、どんな力を持っているかすら知らないわよ」


「『スラント』の秘められた力、それは『変換』じゃ」


王国の秘宝っていう割にはなんだか地味ね……?


「お前がそいつから殺されかけたとき、斬撃の軌道が逸れたな?

それは、『スラント』で軌道を変えた結果だ。

そいつの力はそんなものじゃない、同質量、同エネルギーなら、あらゆる法則を無視できるなんて、とんでもない代物だ」


え~と、結局、何ができるの?


それって1からは1のもしかできないってことでしょ?


私の時みたいに、逃げることに関しては使えるけど、それだけでしょ?


「お前の頭の悪さは知っていたつもりだったが、まだ俺が甘かったな。

いいか? そいつの力があれば、そこらの石ころでさえも金塊に変えられる。

それを魔導師が持ってみろ、星の魔力を己の魔力に変換、文字通り、無限の魔力だ。

剣戟も衝撃の方向を変えてやればダメージはすべて反射、魔法で攻撃しても魔法を魔力に変換して吸収することだってできるんだ」


────これって、そんなに凄いものだったのね……


これをシオンが持ってれば『終の魔女』だって倒せるんじゃないの?


「もう、分かったじゃろう。

妾が憑依した際に、その娘の魔力と妾の魔力を同一のものに『変換』するのじゃ」


「概要は分かったんだけど、さっきも言った通り、これって私の意思で使える物じゃないわよ」


「それは分かっておる、故に、この童に『スラント』を持たせるのじゃ。

さすれば、妾が使ってやろう。

童も、妾が内から抑えてやる故、襲い掛かることもない」


流石、伊達に長生きしてないわね……


でも、これなら、この子を救うことが


「お前は、こんな死にかけの子供の為にお前の仲間が死ぬ気で守ってきたものを手放すのか?」


「なによ、ちょっと、貸してあげるくらいいいじゃない」


「魔力は少しづつであるが自己回復する。

それは人であろうと精霊であろうと同じだ。

つまり、こいつが憑りついた時だけ使えばいいという話じゃない」


「そういうことじゃ、娘、お主が童を救いたければ『スラント』を手放すしかないわけじゃ」


そ、そんなこと、出来るわけがない。


せっかく、目と鼻の先に王都があるっていうのに、やっと、皆の苦労が報われるのに


「だから、聞くなと言っんだ。

聞かなければ、お前はただ悼み、見送るだけだったが、聞いてしまった以上、お前は切り捨てることになるんだからな」


シオンの言うとおり、答えは決まってる。


多くの人が死ぬ戦争と、放っておけば死んでしまう少女なんて天秤にすらかけられない。


でも、私が選んだことには変わりない……


「これでお前の罪悪感が減るか知らないが、教えておいてやる。

こいつはお前のことどころか、こいつのことを思っているわけじゃない。

『スラント』を持ったこいつが、俺に対抗できる戦力になるからだ」


確かに、シオンが言う程の力を『スラント』が秘めているなら、この子が持てばシオンでもさっきみたいに圧倒できるわけじゃない。


それどころか、負ける可能性すらある。


「───ごめんね、私はあなたを助けることはできない」


「残念じゃな、では、妾はまた眠ることにしよう。

娘よ、気が変わったらいつでも呼ぶがよい」


「─────少し、外の空気吸ってくる」


「もう、安全だとは思うが、一応これを持っていけ。

範囲は狭いが、この船の上なら俺のところに転移できる」


「ありとがと」











「暗殺失敗」


「狸寝入りで俺が騙せると思っていたのか?」


「貴方は隙がない」


「普通にしゃべれるんだな」


「何故、あの人は私を?」


「馬鹿だからだ」


「納得」


「お前はこれからどうなるか分かっているか?」


「任務失敗は処分」


「だろうな」


記憶も弄られていて、こいつの過去はなにも分からない。


ただ命令を聞くように刷り込まれ、道具のように使われているだけの存在。


やはり、死ぬことでしか救われないだろう。


「ありがとう」


「────お前、名前は?」


「呼称は『キュクロープス』」


「長いな……、キュロでいいか。

キュロ、お前は俺が殺しやる。

悪いが、もうしばらく、我慢してくれ」


「了解」


まったく、本当にあの魔女は趣味が悪い。


こいつを差し向けたのは、『スラント』を奪い返す為でも、王都から遠ざけるだけでもなく、俺に戦う理由を与える為か。


もっとも、これは誰にも教えていないだろうけどな。


今度は完膚なきまでに叩き潰してやる。


そして、こいつを利用した『エリクシル』も潰す。


必ず、後悔させてやる

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